第8章 真相
「ほっ本当なの先生?」大勢のクラスメイトから一斉に質問が浴びせられた。先生は俯いたまま何も言わない。という事は本当ということなのだろう。阿部は続けた。
「どうやらその白石が一方的に先生を好きになったみたいなんだ。俺が言うのも変だがその白石っつう奴は中々の美人でよ、クラスでもかなりモテる方だったよ。そして告白して、先生は了承したそうだ」
「ちょっと待てよ何でお前がそんなこと知ってるんだ。あと、それと今回のハイジャックとどんな関係があるんだよ」
「順を追って説明するから待ってろ!普通先生と生徒が付き合うなんざ、タブーだ。しかし白石の美貌にこの橋本も惹かれたんだろう、交際を始めたらしいんだ。俺らが何故知っているかって?当然だ。そういうことは、すぐ噂になるんだよ。二人がデートしているところをクラスの女子が目撃したそうだ。すぐ噂になったよ。かなり確信的な噂だったよ。まぁ実際に付き合ってたんだけどな」
クラス皆は唖然とした顔で聞いてる。
「で、話を戻すぜ。タバコを吸った犯人が自分の彼女と分かった先生は、驚愕しただろうな。そしてもちろんこう考えただろう、彼女を停学させるわけにはいかないと」
「つまり、隠蔽したんだよ白石がタバコを吸ったことをな。いや隠蔽どころじゃねぇ。橋本は違うやつを犯人にでっち上げたんだ」
「でっち上げた?どういうことだ?」
「そのままの意味さ。つまり橋本は無実の奴を犯人に仕立て上げたんだ。そのでっち上げられた奴が他でもねー。俺の相方の本田だよ」
「何だって?どういうことだ?」
「当時、本田は何故か知らねーが白石に嫌われてたらしいんだ。本田が白石にちょっかいを出していたとかでもねーのに、嫌われていた。まぁ女子が男子を嫌う理由なんざ色々あるんだろうが」
「阿部、もういい。俺から話そう」ようやく犯人のもう一人、本田が口を開いた。
「白石から嫌われていた理由は何となく分かる。俺は高校一年の時に白石に告白したんだ」
「お前、それ本当かよ?そんなこと俺にも話してなかったじゃねーか」阿部が言った。
阿部の言葉は無視して本田が続けた。
「一年生の時、俺と阿部は違うクラスだったが、俺と白石は同じクラスだったんだ。好きになったきっかけは・・・一目惚れだ。入学式の日に白石を見てかなりの可愛さに一目惚れしちまったんだよ」
警官に押さえつけられながら、自分の恋話を語っている本田は少しシュールに見えた。
「そんで一年生の六月ぐらいか、思い切って告白したんだ。放課後屋上に呼び出すっていうシンプルな告白の仕方をしたよ。そいでお前のことが好きだから付き合ってくれと告白した」
「で、どうだったんだ?」
「断られたぜ。私は今好きな人がいるからお付き合いできませんってな。どうやらその時から白石は橋本のことが好きだったらしい。俺は断られてキッパリ諦めたよ。その後は少し気まずい関係になったが、お互いをあまり意識せずに生活していた。だが、俺の告白がきっかけである事件が起きたんだ」
「今度は何だよ?」
「俺の告白を目撃していた人がいたらしい。一年生の時の俺と同じクラスの誰かだろうが。そしてその目撃者は、白石の言う他の好きな人を突き止めようとしたそうだ。そして白石の尾行等を繰り返し、担任の橋本と付き合っていることを突き止めたそうだ。そしてさっきも言ったが、それは瞬く間にクラス中に広まった。もちろん白石の前で噂話とかはしていないが、そういう雰囲気で分かったんだろうな白石も。自分と先生が付き合っている事がばれてる?とな」
「なっなるほど」
「こうなると白石もこう考えただろうな。誰かがあの告白を見ていて、私の後を追って来たと。そして白石はこうなったのは全部俺のせいだと考えたらしい。俺が告白さえしなければ、自分が先生と付き合っていることがばれることはなかったと。長くなったが、これが俺が白石に嫌われていた理由だ」
「そっそれは分かった。じゃあさっきのでっち上げの話に戻ってくれないか?」クラスの男子が言った。
「ああ、いいだろう。恐らく白石はタバコの事件で橋本にこう言ったんだろう」
「『先生、私を停学にするぐらいなら、あいつを停学にして、本田ってやつを』とでも橋本に言ったんだろうな。しかし橋本は隠蔽はするがそこまではできないと恐らく言ったんだろうな」
「そこで白石は恐らくこう言ったんだ『本田を停学にして!じゃないと別れる』とな」
迷い迷ったあげく、橋本が出した結論は
「橋本は恐らくこう言ったんだろうな。『ああ。分かったそうする。だから別れないでくれ』」
「本当なの先生ねぇ!!」クラス数人が大きな声で橋本先生に聞いた
橋本先生は10秒間ぐらい黙った後、重く口を開いた。
「・・・・・・ああ。本当だ」クラス中が何も言えなくなった。
「ははは。遂にげろったか橋本。まあこんなに証拠そろってて今更言い逃れできねーよな。話を続けるぜ。そして橋本は校長先生に本田がタバコを吸った犯人ですと告発したんだ。彼女と別れたくない一心でな。最悪の教師だろてめぇらどう思う?」
「・・・・・・」誰も答えられるわけもなくただただ黙っていた。
「そして俺は10日間の停学処分になったんだ」犯人の本田が言った。
「ちょっと待て、最初にお前停学じゃなくて退学って言ってなかったか?しかももう一人の犯人の・・・阿部とだっけ?二人で退学になったって言ってなかったか?今の話だと自分一人でしかも停学で済んでいるじゃないか」クラスの山下が聞いた。
「話はまだ続きがあんだよ!停学になったのは確かに俺だけだ。10日後に復帰したよ。だがな、その後普通の高校生活に戻れると思うか?俺が犯人じゃねーのに周りから白い目で見られ、友達も失ったよ。勉強も特別に出来るって訳じゃなかった。10日間の間に授業も結構進んじまって、勉強にもついて行けなくなった。もちろんタバコを吸った罪で部活も退部させられたよ。しつこいようだが俺はすってねーのにな」
ハイジャックはさすがにやりすぎだと思うが、ここまで話されるとこいつらを嘘の罪に着せた高橋先生にも落ち度があるように思える。本田は続けた。
「で、もう何もかもどうでもよくなっちまってよ。高校を退学したよ。自分の意思でな。まぁこれもうさせられたと言ってもいいだろ。高橋のせいで」
「お前一人が退学したのか?阿部ってやつは?」
「ああ最初にも言ったが俺と阿部は野球部でバッテリーを組んでた。俺が部活を辞めさせられてから、阿部も成績が伸び悩むようになってな。レギュラーから落とされた。で、俺が阿部に高校自体を辞めるつもりだと言うと阿部は、お前が辞めるなら俺も辞める。そして高橋に復讐しようぜと言ってくれたんだ。俺たちの友情だよてめぇに分かるかこのクズ先公」
「・・・・・・」高橋先生は何も言わない。自分が過去とは言え女子生徒と付き合っていた事、そしてその子と別れたくないがために違う生徒に罪を着せたことを全生徒に知られてしまい、ぐうの音も出ないと言った様子だ。
「これが俺たちが退学になったという事件の真相だ」本田は洗いざらいすべて話して満足げに言った。




