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第92話〜大事なもの〜


俺は刀を握ってオーラを高めている、のだが、


「声は聞こえないぞ」


「あんたは雑なのよ!貸して」


刀を手渡した。するとニルナはこれ見よがしに大きな声で話し出した。

・・・嫌みか。



『・・・ふむふむ。そういうことならいいんじゃない?私が責任を持って姫に説明しとくから・・・』


端から見れば独り言を言っているようにしか見えないが、あれでも会話が成り立ってるんだろう。


「・・・何故だ」


「そう落ち込むなってガロウ。俺でもできないんだから」


「そうは言うが・・・」


「ニルナはチカラの扱いにかけては誰よりも巧いからああいうことは得意だろうし。だいたいガロウはまだ日が浅いだろ?無理ないって」

ニルナがオニマルという刀を持って話している。その相手は刀の中に意思がある奴だ。そいつは突然話せなくなったのだが、ニルナが色々と試しているうちに会話ができるようになった。その方法と言うのが、


「しかしだなトウヤ君、いくら私がオーラを扱って日が浅いとはいえある程度ならば強弱を調整できるのだぞ?それでさんざん試してみてもうんともすんとも言わないのに何故あの女はいとも容易くできているのだ!」


「いや、だからな・・・」

俺は嘆息しつつガロウを宥めた。オーラにも使い方が色々あってただ強弱をつければ良いというものではない、とか人の性格や顔のようにオーラにも様々な種類があってその波長のようなものが似通っているのは家族や血が繋がっている奴等、とか。オーラの使い方を派生させたものとか。


「だからニルナは多分あの刀が発する力に自分のオーラの波長を合わせてるんだろう」


「波長・・・そ、それはどのようにして行うのだ」


「さあなあ・・・こればっかりは感覚を掴まないと」

そういう俺もできないし。ニルナのようにオニマルの力の波長にオーラを合わせれば、デュカ・リーナと会話ができるんだろう。



『・・・分かった。あのおっさんに伝えとくわね』


「ニルナ?話しは終わったのか?」


刀を置いた幼馴染みへと声をかけた。


「うん。あのおっさんに伝えないと」

「おっさん?」


「そう。フェニス・カハラっておっさん。このオニマルの処遇をね」


「どうするんだ?」


「持ち腐れになるから貴女が火の大陸に持ち帰って頂戴、だって」


つまりは鬼族には渡さないと。

ん?なんか忘れてるような・・・


「まあ・・・それが妥当だな。そのような状態になっては我々には荷が重い。というよりも畏れ多いな」


「そうですね。ガトウさんの言う通り人間に持っていて頂きましょう。よろしいですかニルナ?」


この場に居る鬼族の2人が納得したようなので問題はないだろう。



「決まったぞ!」


だから勢い込んで戻ってきたカハラのおっさんにはすぐに了承を取りつけた。


「いいだろう。というか島の総意でもある。ニルナ・カナワ、貴様からあの娘に渡してくれ」


ごねていたフェニスのおっさんを留めてジンがニルナに言った。総意って、フェニスのおっさん以外だろうな。 何やらジンを睨んでるし。



「ガトウ!お前という奴は」


「なんだフェニス、鬼丸があったほうが良いというのは大方貴様の独断だろう?島の他の者達が必要とはしないだろうからな」


「・・・お前の言う通りだ。だが!今は不死鳥も何処に居わすかが分からないのだぞ?最低限の防備のために、」


「あっ」


「・・・なんだ」


会話を聞いていて俺は忘れていたことを思い出した。


「カハラってのはおっさんのことだよな」


「だからおっさんはやめろ!」


「ああ気にしてたんだ?まあいいや。それで思い出したんだけどカハラに伝言があるんだ」


「伝言だと?」


「そうなんだ。なんでも火ノ鳥が、」


それを伝えた途端おっさんは怪訝な表情をした。


「西に・・・?何故だ?」


「さあな?俺はあのおっさんからあんたに伝えてくれと言われただけだから」


「西?」

伝えれば分かると思っていたがカハラはよく分かっていない様子だった。


「っ!?そうか!」


「おっさん?」


だが不意に叫んだカハラに思わず突っ込んだ。


「約束の地か・・・だから不死鳥が・・・」


ぶつぶつとひとりごちながらカハラは再び部屋を出ていった。年の割に忙しないおっさんだな。





〜〜〜





「魔力の痕がないだとっ?」

「そうだ。痕跡すらないな」


驚いたように私へと訊いてくるアルカードは目を丸くして驚いている。

・・・それも無理はないだろう。


「で、ではいったいどのようにしてこのような・・・?」


破壊に晒されている、そんな村の跡を見回しているアルカードを傍目に私は手近にある家を見た。

表札にはカナワ、と書かれている。この家の損壊具合は然程でもないがその隣にあっただろう家は見事と言えるぐらいに全壊していた。


「貴様の疑念も分からないではない。だが魔力こそが力の全て、というわけでもないのだぞ」


家そして村全体を嵐が襲ったかのような有り様だが、その被害の度合いは妙にまちまちだった。まるで被害を被っていないような箇所もあればこの隣の家のように瓦礫の山になっているものもある。妙なのはアルカードが疑問に思ったように魔力を使った痕跡すらないことだろう。

それに、私の記憶によれば・・・


「うちに何か用かな?」


考えていると目の前の扉が開き中から妙齢の女性が出てきた。


「お初にお目にかかる。私は、」


先ずは自己紹介をして素性を話した。

その後アオイ・カナワと名乗ったその女性は挨拶もそこそこに、


「ネクがカグツチにねえ。あの子がちゃんとやってるか心配だったけどクサナギさんみたいな方が目をかけてくれてるなら安心だね」


私が娘ネク・カナワの知り合いだと説明すると、消息を知りたがるアオイ・カナワに何故か妙な信頼を与えていた。(ちなみに私は現在草薙神人と名乗っている。そのほうが色々と好都合だからだ)


「それよりもご婦人、隣家で何があった?」


「トウヤちゃんも・・・お隣さん?それがねえ、」


更にはトウヤ・ヒノカも心配しているようなアオイの言葉を遮り本題に入るべく隣に目を向けた。

やはりと言うべきか、記憶通り隣の倒壊した家は火ノ牙家だった。

しかし、


「消えていた、だと・・・?」


「そうなのよねえ。前の晩には何も変わったことがなかったのに、次の日の朝にはあの状態でしょう?たっちゃんも・・・ああ、お隣の人はタチオ・ヒノカって言って私の幼馴染みなんだけど、たっちゃんの姿も見てないのよ」


とても奇妙な話だった。タチオ・ヒノカ、(おそらくは火ノ牙天雄の末裔でありトウヤの親だろう)が突然居なくなったということもさることながら、家がこのように破壊されているにも関わらず、


「物音1つしなかった、と?」


「そうなのよねえ。嵐も地震も無かったし、家があんな状態になったら嫌でもその音が聞こえるじゃない?でもそんなのは一切なかったから、」


全く気づかなかった、とアオイは言う。

これはもしや・・・


あることに思いつき、私は礼を言ってその場を辞去した。


「ダークナイト・・・?」

「急ぐぞアルカード」


訝しげに私の顔を見てくるアルカードに取り合わず、私は足早に大陸の南を目指した。

あることの確認のために。





〜〜〜



ーーー再び時間は遡り、




「意趣返しというわけか・・・」


「偶々得意技が被ってただけだがな」


同じ地にて2人の男が睨み合っていた。

片やその地で暮らす住民、片や其処を訪れた来訪者。その自身の側の者は何処となく高揚している、かのように見受けられる。


「それも九天とやらの技か・・・?」


「・・・あんたは何処まで知っている?あいつが九天奥義を易々と使ったってことか・・・?」


先程その地の者であるタチオ・ヒノカが繰り出した連続攻撃は直前にオルレアンが繰り出したものに酷似していた。相手の逃げ場を与えまいとするような無数の手数を以て機先を制す、上にその一つ一つの破壊力や速度は並々ならぬものを備えていた。それは自身では決して身につけることが出来ぬような何かをも感じ、


「・・・手解きめいたものを受けた。それ故に一通りは知っている、な」


「なに!・・・どういう関係だったんだ?」


「・・・それをいちいち貴様に説明してやるほど私の気は長くない。それよりもその際に聞いた技とは違う先程の妙技・・・九天とやらにはまだ底があるというのか」


「まあ、な・・・!」


人間からの威圧感がさらに跳ね上がる。


「それは俺が考案したものだから勿論あるさ!音階(おんかい)!」


「・・・っ!オーラが飛来をっ?」


フォンフォンフォンフォンと空を切る音がしオルレアンの鎧が所々破損していく。視認こそできないものではあるがこの威圧感に関わりあるものを利用した攻撃手段なのだろう。


「貴様・・・?オーラを極めているのか」


「別に極めちゃいないさ・・・まあ、九天の技を元に他の奴には出来ないことをしてるからあんたが言うのも別に間違いじゃあないが・・・それよりまだやるか?」


「当然だ!・・・その技量や発想、益々その真髄を見極めたくなった・・・!」


「ありゃ、逆効果だったか・・・」


おそらくあのタチオ・ヒノカという人間は自身の力を見せつけることによって戦意を削ごうとしたのだろう。確かに、並の人間や魔物ならば先程の一合にて重傷を負うかもしくは倒れていた、という可能性もありその力の前に尻尾を巻いて逃げだしたとしておかしくはない。攻撃自体のみならず、それほどにあの人間は圧倒的な圧力を発していた。


「ふん・・・私がたじろぐはずもない。どうやらこの地では何故か闇の力は発揮ができぬようだが、それでも私は・・・!」


そしてまたオルレアンも人間と同じく身体から発する威圧感のようなものを高めた。だが端から見ていると分かる・・・・・・その力のみでは、


「闇の、力?・・・魔力ってやつか」


「そう・・・魔の力、だ・・・!」


その時我が造り出した囲いに異変が生じた。

・・・間に合ったな。



「むっ?なんだ?」


「・・・貴様の仕業か、アンリ」


『そうだオルレアン・・・そのままではその人間には克てぬ・・・』


我が囲い・・・この地を覆う魔を封じる影響力を打ち消すものを発動させて漸く戒めより解放された。



「力が湧いて、くる・・・?」


「なんだこのプレッシャー!?」


・・・限定的な空間ではあるが魔を封じる効果を持つこの一角で魔の力を扱えるようになった。そのためオルレアンの本来・・の力も発揮することができるだろう。



「・・・アンリの掌の上のようで気にはいらんが・・・行くぞタチオ・ヒノカ。我が全力の一撃・・・喰らうがいい!」


我の思惑通り闇の牙を解き放つべくオルレアンは魔力を注ぎ込んでいる。


「魔物・・・いや魔族のような?・・・成程な。オルレアンつまりあんたの力はトウヤと同じ・・・」


「な、に・・・?」


だが人間の呟きに応えるかの如く、オルレアンの魔力の高まりは突如消失した。


「今・・・何と言った?」


それどころかオルレアンは構えを解いて目の前の人間に問うている。


「それは知らなかった。いや、気付かなかったのか?・・・あいつも自分自身知らないことじゃああるだろうが・・・」


「貴様・・・?何を隠し、いや何の話をしているのだ・・・?」


オルレアンの怪訝そうなと問いに対して人間は、


「俺が好きになった奴の宝物の話さ!」


今までにない威圧感を身体から放出し始めた。




~~~






歴史は繰り返す、とでも言えばいいのか。

俺は15年前のあの日のことを考えている・・・



あいつが居なくなってもうそんなに月日が経つのか、という思いもさることながら、どうして俺があの開祖の口伝のような状況に陥るのか、という疑問も覚えた。

ただ、初めて出会ったときにあいつは言っていた。

ーーーいつか別れる時が来る。



それを聞いた俺は一笑に付した。だってそうだろう、俺が長い旅路の中で巡り会ったあいつ、妻は俺にぞっこんだったし俺もあいつと別れるなんて考えもしなかった。要は単なる冗談、かもしくは不安でいっぱいだったのかもしれない。あの曰く付きの大陸から火の大陸へと嫁いでくるんだからそれも考えられる。でも俺は信じてはいなかった・・・


そうして暮らすうちにトウヤが生まれ、あいつが這えるほどに成長した頃、



ーーーあいつが家を出ていった。



ただ開祖の口伝と違うところは書き置きも何も無かったところだ。

俺はあいつを探さなかった。それは、あいつが居なくなる前の日に物置で何やら掃除をしていたからだ。

あいつが居なくなって物置を見てみると棚の上に一冊の書物が置いてあった・・・開祖の物語、というよりも手記が開かれた状態で。あいつはあの大陸、闇の大陸から此処に来た当初から何故か古い文字である火語の読み書きができていた。それはとある屋敷に給仕をして仕えていた際にその屋敷の主人に教わったそうだった。それを聞いた時俺はその主人とやらも火の大陸に縁のある人物なのか?と思ったが詳しくは聞かなかった。聞こうと思えば聞けた、のかもしれないがそれには何というか・・・繊細な問題が関わってくる。さすがは闇の大陸とでも言おうか、それ関係の事情を孕んでいた。



しかし。よくよく考えればあいつが家を出る直接のきっかけは開祖の物語に触れて何かを悟ったのだろうとは思えるが、そもそも別れることを予見していたのならなるべくしてなった結果、とも言える・・・

ちらっと聞いたことがあるだけだったが、あいつの家系は代々そのような、祈祷師みたいな占いめいたことを生業とする家系だったそうな。その家がある日魔物に襲われたためそれまで住んでいた村を追われたらしいが、そのあたりの危険度は火の大陸の比じゃない。


でも、俺はともかくとして息子を、トウヤを置いて何処に行くというのだろう・・・?



・・・せめて俺は、あいつがいつひょっこり家に帰って来ても良いように腰を落ち着けて此処で暮らしている・・・暮らしていた。



でも、わるい・・・

ツ、ミ・・・

俺は此処で待つことはできそうになくなっちまった・・・

お前が残したトウヤ、あいつは成長したぞ・・・まだまだ幼いところもあるが元服も果たしてうちに伝わる技も習得した・・・聞いたら俺の幼馴染みの娘とも仲良く・・・



だから、そう怒った顔をする、な・・・




そん、な空の上で・・・お前は、其処に居たんだ・・・な・・・



トウ、ヤ・・・

・・・俺は、もう・・・





〜〜〜





癪だが。

アンリを伴っていて良かった、と心の底から思った。


『・・・化け物というやつだな・・・お前も・・・その人間も・・・』



アンリが初めて見せるかのような表情をしていた。

驚愕に染まったその顔を見れば多少は溜飲が下がる、というものだ。

そう言えばこの女が感情を露にするところなどあまりない、が珍しいものだ・・・



「ふん・・・確かにな。凄まじい強さだった・・・もしオーラのみの戦いならば」


私はその後の言葉を飲み込んだ。アンリの手柄のようで癪に触る、ということとは別に。敗者に・・・否、死者に対してそのような言葉をかけることは侮辱以外の何物でもないからだ。



「互いに全力を出した結果だ・・・だが凄まじい強さ、いや想いだった」



私は粉々になった家の残骸を見てそう呟いた。



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