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第59話〜王〜

化ける、化かす、そんな言葉が似合う生物と言えば?・・・その答えは人によっていくつか分かれるのではないだろうか。俺も大陸に伝わる伝説やそれらの話に基づいた印象としてはいくつかの生物が思い浮かぶ。例えば狐、狸、鼬、最近知ったのは竜・・・といったところか。実際に目の当たりにしたことも数は少ないがあるし、ちょっと意味合いは違うかもしれないが獣らしき姿から人の姿に戻った、という奴も見たことがある。(もっとも、そいつは既に亡くなっていたが) そんな今までの経験から考えて、驚かなかったと言えば嘘になるが、別段驚愕して腰を抜かしたというほどでもない。どっちかと言えば呆気に取られた、という表現が一番近いと思う。もちろん俺の今の心境だ。それは何故かというと、


「イヅナ?お前は岩に変化できるのか?」


人に化ける人以外の生物を見たことは会っても、まさか岩のような無機物にまで変化できる生物が居るとは思いもしなかったからだ。


「ばれた・・・どうしよう・・・」


しかし俺が声をかけるも目の前の奴には俺の言葉は届いていない様子だった。


「こ、こうなったら!」


と、何かを決心したのか目の前の獣は急に此方を向いた。俺はその姿を見ながら、こいつ・・・犬ほどじゃないが意外と毛深いな、とその身体を何とはなしに見て思っていた。


「逃げる!」


「おい、待て」


くるりと踵を返して何処かに行こうとしたイヅナの首根っこをひっ掴んだ。


「お前、説明してもらうぞ?此処で何をしてたか。それに魔力があるのに魔物じゃないとか。どういう事なんだ?」


俺が睨みを効かせてそう言うと、ようやく観念したのかイヅナは渋々といった感じで俺の質問に答え始めた。・・・どうでもいいが、どうも最近自分中心な行動を取る奴ばかりに会うような気がするが・・・気のせいか?というかよく考えてみればそんな奴ばかりが昔から俺の周りに居るな・・・

俺は目の前の我儘そうな獣の顔を見ながら、何故か自然と溜息を吐いた。



▽▽▽




イカヅチ、雷光、稲妻・・・またの名を神の裁き、という。太古の昔から突如何処からともなく現れ頭上に輝くその光を人は得体の知れないものとして畏怖していたらしい。人だけではなく地上に住む獣や魔物などの生物も勿論そうだ。今よりもかなり前の時代には、神の裁き、という別称が好んで使われていたらしいのだが当時我が物顔で地上に生きる多数の生物、つまり人間にとって一種の警告のような役目を果たしていたという理由からその呼び名が流行したとか。しかしとある場所、というか大陸では裁きという呼び方はされていなかったらしい。其処ではどちらかというとその輝きを待ち望むことから叡智の輝き、というふうに呼ばれ他のところとは逆に持てはやされていたと。それは何故か?俺からしてみればあんなものは直撃を喰らえば身体が焼け焦げるかどうかして下手をすれば死んでしまうという、ちっとも救いになるものではないのだが。しかし、とある大陸・・・光の大陸ではそれを運良く受けることができれば神の祝福を受けて英雄扱いになっていたそうだ。それを聞いたときは、いや死ぬだろと思わずイヅナに突っ込んだ。しかしこいつはこいつでその光を浴びることが正しいとでも思っているのか、何言ってるのこいつみたいな目をしてきた。・・・それはいいとして、祝福とは具体的には何かということを尋ねてみると、それはどうも強力な魔力を扱えることができるようになることらしい。実例があるそうだ。それを聞いたとき俺はこのイヅナも以前にその光を浴びたことがあるのではないか、と思ったがどうやらちがうらしい。こいつが魔力を持つに至った経緯は、なんか長生きしてたら自然に特殊能力や魔力が身に付いたということだった。まあそう言われてみれば確かにこいつが持つ魔力というのはあまり大したことがないように感じるから不思議だ。実際に前に出会った何人かの魔力を持っている奴らに比べたらまるでプレッシャーを感じないし、話を聞くとこいつが魔力を使ってできることは主に変化をする魔法ぐらいしかないらしい。あとは光を集束させることだとか。

それで、そんなこいつがこんな海底で何をしていたかと言えば・・・



△△△



「わからないって、お前?」


自分でも何をしてるのか良く分からない、というこの獣の言葉を聞き俺は目を剥いた。


「何をしてるかわからないっていうか、あたしが此処に連れて来られた理由がよく分からない」


「?・・・・・・えーっと、イヅナ?つまりお前は自分の意思じゃなく此処に居るってことか?」


「そうだよ。あいつらときたら無理やりあたしをひもで縛って此処に連れてきたんだっ!王がどうのこうのとか言ってっ!」


何やら憤慨しているが。それに王?

その姿を見た俺はこの怒れる獣を諭してやろうと思った。


「じゃあ、此処から出ればいいんじゃないか?見たところお前を縛ったひもとか枷もなさそうだし自由に動き回れるんじゃないか?」


俺がそう言うとイヅナは悲しそうな目をして、


「それができれば苦労はしないよ・・・あんたが此処に来たのも魔法でしょ?此処から先に進むと道が塞がっていて外に出られやしないんだ」


「道が塞がってた・・・か?・・・ああ」

俺は合点した。


「あのなイヅナ?知らないみたいだから言っとくが、通り道にはもうあの鉄の塊はないぞ」


こいつは一旦は此処から出ようとしたらしいことに思い至った俺はそのことを教えてやった。


「えっ、何であれを知って・・・それほんと?」


「ああ。ほんともなにも俺がぶっ壊したからな、これで」


持っている槍を見せながらイヅナへ言った。


「じ、じゃあ外に出れるの!」


「?そりゃそうだろ。俺は外から来たからな。それにしても・・・」


妙にはしゃぎだしたイヅナをほおっておいて俺は考えてみた。このイヅナを此処へ連れ込み閉じ込めていた奴らについて。こいつを態々此処に閉じ込めて何の得があるのだろうか?お喋りではあるが別に魔物、というわけでもなさそうだし閉じ込めるにしてもこんな辺鄙な、というか来にくい場所にしなくてもと思うが。まあ場所云々はイヅナを連れてきた奴らは話を聞いてみると魔法で移動してきたという話だし。それに自分でも何のために此処に閉じ込められたかも分かっていない様子だし。だが、そんな魔法を使えるような奴らがこの海底?に獣を一匹閉じ込めるという手の込んだことをするにはさすがに何かしら理由があるのだろうとは思うが・・・まあそれはともかく、


「なあ、取り敢えず出ようぜ?」


はしゃぎだし終いには何やら踊り出したイヅナを見かねて声をかけた。


「あ、うん。えへへ、それにしてもあんたはいいやつだね。あたしを閉じ込めた人間達とは大違いだ!」


「ん?お前を此処に閉じ込めた奴ってのは人間なのか?」


それはおかしくないかと思い確認すると、


「へっ?そうだよ。光の大陸のやつらだ」


「光の大陸の?そいつらは人間なのに魔法を使えるのか?」


ミシルや神人のように余程何かしらの偶然や出逢いもしくは機会があり魔力を手に入れた奴らを別にすれば、人間が魔力や魔法を扱うことは普通はまずないはずだと思い俺は尋ねた。それとも光の大陸の奴らってのは魔力を扱えるのが当たり前なのか?


「うん・・・実際に使ってたのは1人だけだったけど。ダイシキョウっていうやつが」


「1人だけ?・・・まあ、それはそれで珍しいとは思うが」


にしてもダイシキョウ?・・・大司教っていうことか?書物で見たことがあるだけだがそれは神官と同じく聖職者みたいなやつじゃなかったか?・・・ますますこいつを此処に閉じ込めた理由が分からんな。普通に考えて聖職者という人種は何かを傷つけるなんて真似はしないだろう。


「さあ行こう、人間!」


俺の手を引きイヅナは外に行こうと俺を促した。

・・・どうでもいいが最初の警戒心はどこへやら、すっかり俺になついたなこいつ。


「ああ、取り敢えずお前と一緒に外に出るか。あとな、イヅナ?確かに俺は人間だけど名前があるぞ」


人間以外の喋る獣という奴はどうも人間ってそのまま呼ぶ傾向があるもんだな、と思い俺は訂正した。


「へ?ああそうだね。あたしのイヅナって名前も元は人間に貰ったものだから名前は大事だよね。あんたの名前なに?」


「そうなのか?人間に貰った名前とはな。あ、俺はトウヤだ。トウヤ・ヒノカ」


遅まきながらイヅナに名乗り、俺達は取り敢えずその広場を後にした。





〜〜〜





「(リーナちゃん、あの大きい家はなに?)」


「(あれは城よロラン)」


「(城?)」


「(ええ。その地域で一番の権力者が住む場所、と言ったら分かりやすいかしら・・・)」


「(ふーん?つまりこのへんの人間の村の村長が住んでるの?)」


「(・・・まあ考え方自体はそれでいいでしょう。ただねロラン、この規模の集落になると村とは言わないの。このあたりだと街、と言うべきでしょうね。あとはこれより規模が小さければ町かしら。それらが合わさって国、という大きな集合体が形成されてさらにその中で一番の権力者、一般的には王と呼ばれる人物があの大きい城に住むことになっているの)」


「(ふーん。何だかややこしいんだね)」


「(・・・まあ、ややこしいというよりは人間が持つ性によるものでしょうけど。他者と競い、比べ、そして優劣をつけたがる人間の・・・)」


「(?リーナちゃんどうしたの?)」


「(・・・いえ何でもないわ。それよりロラン、もう他に気になるとか珍しいものはないでしょうね?)」


「(うん。もう大体分かったから)」


「(そう。じゃあ入るわよ)」


「(分かった)」


私とロランはルーの妹が何処に捕らえられているかを調べるため、それと光の大陸の現在の状況を調べるため光の大陸の首都ラズマにある城中に潜入しようと考えた。今こうして城を前にしてひそひそと話している、(主にロランの質問に答えている)のは城門の前に立つ門番に声を聞かれないためだ。ちなみに私達の姿は不可視魔法、インビジブルで他者からは見えなくなっている。

・・・もっともこの不可視の魔法は姿が見えない、というだけで自身が持っている魔力は感知されるものなので、もし他者の魔力を感知できる者が居ればすぐに私達の存在を察知されるという欠点はある。現在の光の大陸には、ほぼ人間しか居らず魔力自体があまり浸透していないため潜入可能ではないかと思い私はこの方法を採ることにした。


「(それにしてもさあ、)」

と、突入する寸前ロランがまた喋りかけてきた。


「(・・・ロラン、終わってからでいいかしら?)」

私はロランがまた何か珍しいものでも見つけて話しかけてきたのだと思い窘めた。


だが、いざこれから城へ入るという段になってこれ以上何が気になるのだろうか・・・


「(魔法で此処まで移動してきたけど何で城の中に直接入らないの?)」


情報を集めるために此処まで来たが何故わざわざ城の外に転送して移動してきたか、ということをロランは聞きたいのだろう。


「(・・・そうね。説明すると私の転送の魔法は様々な場所に行けるけれど条件、というか制約がある場所には行けない所もあるの。城の中などはそのうちの1つ。あとは転送の魔法が使えないように結界が張ってある場所とかかしらね)」


「(魔法っていうのも何でもかんでもできるわけじゃないってことだね?)」


「(そういうこと。もういいかしら?そろそろ中に突入しましょう)」


「(いいよ)」



それを聞いて私は2人居る門番のうち向かって左側の1人へと音もなく近づきその人間を杖で打ちすえた。


「がっ!?」



槍や甲冑で武装しているとはいえ並の人間らしいその門番は何が起きたかも分かっていない様子でその場に崩れ落ちた。


右側を見るとロランも滞りなく作業を終えていた。つまりは門番の無力化を。別に殺したわけではないがロランにこの潜入方法の概要、多少人間を傷つけるかもしれないということを話した時は特に抵抗はなさそうだったので少し驚いた。しかしそれも無理はないのかもしれない。


「じゃあ入るわよ」


「・・・こいつらは?」


倒れた門番を憎そうに見ながら尋ねてきたロランへ、

「何が起きたかも分かってないでしょうからほっといて行きましょう」


答えた。人間嫌いというよりはこの光の大陸の人間だけが嫌いなのだろうロランへ。かつて自分の先祖がこの大陸の人間に闇の大陸へと追いやられたのがその主な理由だろうが・・・





〜〜〜




人が住まない島、人が住む地。

レヴィアス祈祷師の占いによればトウヤ・ヒノカは其処に居るとのことだ。あたしと同じくミシル・タイナもネクもそれがどの場所や大陸のことを示すのかさっぱり分からなかった。だから聞いたその結果を基に知恵を借りようと連れの者達と膝を突き合わせて相談していた。レヴィアス城内の客間にて。


「火喰い島のことを指しているようにも思えるな」


「あたしも一瞬思ったけどそれは違うのじゃないかしらジン・ガトウ?」


人ならざる鬼族がそう考えるのも無理はないとは思う。自身が最も馴染みの深い場所ではある所だろう。もっとも人が住まない、という部分のみに着目してみればだが。


「何故だスサノオ?」


羅義神人はジン・ガトウの意見に納得しているのかあたしに聞いてきた。このぶんだとレヴィアスの占いとはどういうものかをまず説明しなければならないだろう・・・どうでもいいけどその呼び方はどうにかならないのだろうか。


「というのはね、」


あたしはガルディア・ソーイに聞いたレヴィアスの占いとはどういったものでこの国に於いてどのような役割を果たしているのかを説明した。かいつまんで言うとこの占いは古来からこの国に存在するもので的中率、信憑性といったものは激高らしい。結果の9割以上は正しいだとか、そんな話を聞くととてもうらやましくなる。それはいいとして、その内容は凡そ正しいということとは別に何を指しているのかは抽象的な表現が多く読み取るには結構な労苦を強いられるのが常だとか。そして現在進行で占いをするが時間の幅があるために、例えば人の所在を占うにはその人が現在居る場所や過去に居た場所も同時に割り出してしまうこともあるのだとか。だから今回の占いでは2つの該当ヵ所が導きだされたのではないか、ということらしい。だからジン・ガトウの意見は現在の居場所に対するもの、というよりは過去の居場所を指していつのではないかと思いあたしは否定した。

・・・それにもう1つ何やら占っていたみたいで祈祷師の人も慌ただしかったし。もっとも、その占いの内容の見当はつくのだが結果は未だに分からない。多分、先程のあたしとセシリー王との話に関係があるとは思うのだが・・・



▽▽▽



「火の大陸に棲む竜、ですか?」


驚きに目を見開いたあと今度は怪訝そうな顔をしてセシリー王は尋ねてきた。

それはまあ無理もないだろうとは思う。


『そうじゃ、我は故あってこやつらと一緒に居る』


この尊大な、見た目はどう見ても少年が竜と名乗ったのだから。


「・・・俄かには信じ難いのですが。シエル殿?」


「ええ、仰ることはもっともだと存じますわセシリー様。ですが事実です」


『我も人化を解いて竜形になって証明すれば話が早いとは思うのだが・・・魔力は温存しときたいので・・・すまぬが』


サラマンドラがそう言うのは初めに会ったときに聞いたことで、竜の姿をしているよりは人の姿、というよりは小さい姿でいるほうが魔力の消費が少ないらしい。今はその姿で減少した魔力の回復に努めていると。さっきも戦闘で火を吹いたりしてたのでまた減ったという理由もあるだろうが。


「貴女が言われるのなら信じましょうシエル殿。それで火の大陸の守護神獣殿を此の場に連れてどのようなお話があるのでしょうか?」


切り替えが早いのかセシリー王はこちらの言に納得した様子を見せて本題を切りだした。


「ええ。こちらの希望としてはレヴィアス国の技術提供というのは先程お話致しました。それで、技術の低いこちらが提供できるものは・・・サラマンドラ、あれを」


『我を顎で使うとは・・・これが火の国の王か・・・まあよい、これを見るがいい』


と少年がレヴィアス王へ向けて腰に差していたモノを抜いて向けた。


「なっ!?」

「貴様!」


王の傍らに控えていた護衛の人達がそれをみていきり立った。


「やめなさい」


しかしセシリー王はそれを制した。話の流れから別にこちらには害意がないということがわかっていたのだろう。そしてサラマンドラが抜いたもの、刀を黙って凝視した。


「・・・・・・・」


『・・・・・・・』


気を使った、というよりは刀に注目させるためだろう、サラマンドラも同じく無言で刀を見ている。



そして、


「・・・シエル殿」


「はい」


セシリー王はあたしに声をかけた。


「確か火の大陸に伝承されるお話がありましたよね?水の大陸に伝わる七つの神のようなお話が」


「ええ。七神剣物語ですね。こちらの言わんとするところをご察し頂けましたか?」


「そうですね、よく分かりました。これは守護神が造られしもの、ということは・・・」


あれがレヴィアタンが造った刀ということが見ただけで分かる、というのもすごい。


『単刀直入に言えば我とあやつ、レヴィアタンは同じ竜の一族。そして我がこの水渇刀を持っていれば奴が何処にいるのか程度は分かる』


「そうですね。その少年が竜の化身ということが真ならばそういうことだと思いました。つまりは水の大陸の守護神の居場所と引き換えに我が国の技術の提供を、ということなのですね」


「そういうことです。もちろん無理にとは言いませんがこれならばお互いにとって損をするお話ではないでしょう?  ありがとサラマンドラ♪」


私はセシリー王に結論を述べ、傍らの少年へ礼を言った。


「ふう・・・魅力的なお話ですが結論は少しお待ちいただけますか?」


「?ええ。もちろん待たせていただきますが?」


国と国との取引ではセシリー王が最終的な決定権を持っていると考えていたが、何か会議でもするのだろうか。確かに他国よりも先んじている技術を技術の後進しているところへ提供するのは決断しづらいというのは分かるが。レヴィアタン探索団を持っているぐらいだから居場所の情報はそれぐらいの価値があるとは踏んでいるのだけど。


「そうですね。ただお待ちいただくというのも心苦しいのでよろしければ今から先程の件を占っておられてはいかがでしょうか?・・・ガルディア殿、この方達を祈祷師のところへお連れしなさい」



△△△



そしてあたし達は、どう決断されるかを待ちながら祈祷師に占いをしてもらい、その結果の意味がよく分からずにこうして話し合っているのだが。あれは王の詭弁であり時間稼ぎではなかったかとあたしは睨んでいる。つまりこちらの最初の希望を叶えると見せかけて占いを再度行いレヴィアタンの居場所を同時に占うという。そう考えると余程技術提供をしたくないと見えるが・・・ただ祈祷師の言葉を聞いていても直接は居場所を占うという言葉は発していなかったのでそれは疑問に思った。あたしの勘ぐりすぎだろうか?



「ということは、人が住む地というほうに重きを置いて考えたほうが正しいのかもしれませんね」


そのリシナ・トゴウの意見にはあたしも賛成できる。彼女は退魔師という職業上魔物や得体の知れないものなどには詳しいのだろう。占い結果の考え方というものを良く捉えているように見える。


「そうね。今現在のトウヤ・ヒノカの居場所ということになればあたしもそう考えるべきだと思うわ。ただ何処の国でも大陸でも大体人は住んでいるから、そこから先が絞れないのよね・・・」


人が住まない島、人が住む地。

(人が住まない島)、というのはおそらく村のないような小さな場所、それも人外の者や獣ぐらいしか住んでいない場所を指しているのではないかと思う。だからジン・ガトウの言うように人が居らず鬼族だけが住む島、火喰い島でも解釈は合っており、そのあとの(そして人が住む地)というところでは火の大陸が近いのでそこではないかと思ったが、よくよく考えれば今そこ・・・火喰い島にはニルナ・カナワが住んでいる。占いを信ずるなら前提がまず違う。

だからこの世界の何処かにある、火喰い島のように人が住まない場所を前者は指しているのだろうと考え直した。そう考えると、今現在トウヤ・ヒノカが居る場所はいったい何処になるのだろうか?


『・・・僅かに聞こえたけだがあの時にデュカストテレスはこう言っておった。「恨みを持つ者に会わせてやる」と。これで何かが分からぬものか?』


サラマンドラはそう言うがあたしにトウヤ・ヒノカに恨みを持つ者なんて分かるわけがない。


「いや待って下さい!占いの後半はこう解釈できませんか?人が住む地、人がという部分を人だけが、地、という部分を大陸が、というふうにして、(人だけが住んでいる大陸)と?」


「リシナ・トゴウ?たとえそういうふうに解釈したとして何が違って・・・・・・!・・・ああ成程」


あたしはリシナ・トゴウの言いたいことが分かった。というか気付いた。


「つまり、トウヤ・ヒノカは今光の大陸に居るってことね」


あたしの言葉に皆納得したのか、というよりもそこしか当てがないのかとりあえず光の大陸に行ってみようという話でまとまった。あそこなら人外の者、獣や魔物ならともかく人ならば特に危険はないだろうという話だという理由もある。

というわけで探しに行く面子としては、ジン・ガトウ、サラマンドラを除いた者から何名か選出しなければならない。


そう考えたところで、


「す、スサノオ姫様!」


誰かが息を切らせて客間に入ってきた。ガルディア・ソーイだ。


「どうしたのガルディアさん?」


あたしはその剣幕に若干面喰って尋ねた。


「わ、我が王がすぐにいらして下さい、とのことです」


先程の取引に関してようやく結論が出たのだと思いあたしは納得した。だが・・・?


「すぐに?」


あの落ち着いたセシリー王がそのように人を急かすのかと不思議に思った。まあ時間をかけてもしょうがないことだし、と考え直しあたしはガルディアさんに連れられて再びセシリー王に会いに行った。




「セシリー様?お決まりになられましたか?」


再び会って早々あたしは切りだした。


「ええ。是非ともお願いします」


ん?えらく簡単に納得されている?何か心境の変化でもあったのだろうかと考えて、と1つ思いあたった。


「それは先程の占いでレヴィアスにとって何か不測の事態でも判明したからでしょうか?」


あたしが自分の気づきからそう言うとセシリー王は沈んだ面持ちで、


「ええ・・・そうですね。そのため、その事態を収拾させるためには是が非でも守護神様の御力をお借りしなければなりません・・・」


「そうですか。もし良ろしければそれはどのようなことかお教え願います。協力国に不利益な事柄ならば私の国、ひいては大陸にも無関係とは言えませんから。事によっては火の大陸を挙げて事に当たらせて頂きます」


「ありがたいお言葉です。・・・・・・もっとも、仮にそのお申し出が無くとも此方からお願いするところでした。それほどの内容だったのです」


そうしてセシリー王はあたしも知っている祈祷師の占いの信憑性やそれにより今まで国の根幹を支えてきた指針となる重要性などをひとしきり語り、先程の占い結果を告げた。


「アパデンさんはじゃあそれで・・・?」


「ええ。あの後寝込みました。あのような結果が出たのはフィール殿の責任ではないのに気に病んで。どちらかと言えばむしろ大手柄とすら呼べる事を成し遂げたのも関わらず」


「そうですか・・・それにしてもそれほど大仰なことになるのでしょうか?」


「・・・今も言いましたが我が国の祈祷師の占いというのは間違った結果は出たことがありません。それは仮に祈祷師の出した結果に誤りがあった場合でも守護神の神託により是正されるから、というのが最も大きな理由ではありますが。そして、先程出た結果というのが、」


「(災厄の王が目覚め地の底より来たる)でしたか。でもそれは抽象的な表現なんですよね?」


災厄の王というのが良く分からないが、先程あの祈祷師のアパデン・フィールが血相を変えていたのは何か良くない結果だろうというのは察しがついた。それでもいまいち意味が良く分からない。そしてその占いを聞いたセシリー王が打って変って変節したのも腑に落ちない点ではある。そこまでの結果なのだろうか?


「確かに説明不足なので分かっては貰えないとは思います。ですが、そのことは我が国・・・というよりも我が水の大陸では古来より伝え聞かされていたことなのです・・・」


「?その災厄の王というものがですか?」


「ええ。聖書によれば水の大陸を守護するレヴィアタン様も含め各大陸に守護神が居わすのはその存在が現れたときに抑え封じ込めるためだと言われています」


「各大陸の竜がその災厄の王とやらを倒す、ということですか?いえ、そもそもそれは例えば地殻変動や天変地異等の人の手ではどうしようもない事象を指しているわけではないのですか?まあそれならそれで早急な対策を練る必要性はありますが・・・」


「・・・そうですね。それは正しくもあり正しくないとも言えます」


「正しくて正しくない・・・?」


あたしはそれを聞いて首を捻った。いったいどういう意味なんだろうと。


「わたくしも伝承でしか知らないので偉そうには言えませんが・・・災厄の王とは考えうる全ての事象を引き起こすことのできる魔の世界に存在する者、というふうに伝え聞いています」


ということはつまり、その者が目覚めるから全ての災厄が起こる可能性がある、ということか。そう聞くと確かにあたしが言ったことは正しいし正しくないとも言える。


「それは、何と言いますか・・・」


神獣の力を借りたいという理由が分かった。自国の技術を他国に提供してまでも。それも急ぎで。

それにそんな話を聞いたらあたしはサラマンドラの力を借りなければならない。・・・?そういえばあの竜は確か、


「セシリー様。それは、その災厄の王はデュカストテレスと呼ばれているのではないですか?」


魔の世界、おそらく魔界に存在し色々なことを引き起こすそんな名前の存在が居るということを言っていた。

だが、あたしのその推測は誤りだと分かった。

セシリー王の次の言葉で。



「いいえ。その者・・・災厄の王の名は伝承ではこう伝え聞いています」



アンリ・マユ、と。







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