第100話〜改変〜
この世ならざる者・・・この世界に生きる総ての者が見ればそう評すのではないか、と思えるほどに奴は異質な雰囲気を放っている。この私の眼を以てしても、この魔神の眼を以てしても・・・・・・
その姿こそは以前とは然程変化してはいないように見える、だがしかし一点のみ以前のものとは・・・というよりも人の姿とは異なる部分がある。
だが、その部分を別にしても奴のこの異なる雰囲気は・・・
「化け物め・・・!!」
「・・・・・・」
私の呟きが聞こえたのか奴は私のほうを向いた。だがその瞳は冷めておりまるで感情というものを窺えない・・・
『・・・彼の血族の血が混めてあるとは・・・それでか・・・』
「むっ?何だアンリ」
何かに合点したような今のアンリの口ぶり。しかしそれはいったいどういう意味なのだろうか?
『・・・あのように変貌する前ですら、奴は我が魔導をはね除けた・・・純粋な人間であるのならばそのような真似、可能な筈はなし・・・!だからこそ奴はあのような・・・』
・・・人ならざる姿へ変貌したのだ、とアンリは言う。
・・・確かにな。単なる獣人というわけではない・・・亜人ですらない奴は、人間である筈のトウヤ・ヒノカのあの姿は・・・
奴のあの姿はいったい・・・
あの輝く翼は・・・
〜〜〜
「ここかっ?」
聞いていた場所・・・それなりに土地勘があったため迷うことなく辿り着いたこの草原は確かに奴のいうとおり殺風景な場所だった。
・・・果たしてこのような変哲のない地に本当に居るのだろうか。
「そうだ・・・が、妙だな」
「・・・?なにがだ、ダークナイト」
「貴様の話ではそのフェンリルなる者は凡ての狼族、魔狼や人狼を統べるという存在らしい。で、あるにしてはこの地における魔力は」
極微量のものしか感じ取れない。
アルカードもそれには気づいていたのか、その端整な顔つきを僅かに歪めている。
「確かに貴様の言うとおりではあるが・・・!もしや場所を間違えたのではないかっ?」
「・・・!!・・・いや、それはないな。此処に来るまでは迷いようもない一本道だった、その上見ろ」
私は草原の向こう側を指した。
「あれは・・・」
「貴様のお仲間ではないのか?」
小さき黒い狼が数頭此方を向いていた。
「魔狼の子か?・・・成る程、此処で子孫を殖やしているというわけか」
「そうだ。だとすれば・・・?」
私はいくつかの可能性を考えた。
1つは魔狼の長はこの地を離れている。旅か、あるいは何かしら理由があるために。
もう1つは魔狼の長は話ほどには強力な魔力を持っていない、そのため他の魔狼との区別がつかずにその存在を探知することができない。
そんな可能性を考えねばならぬほどにこのあたりに魔力を感じられないのだ。
「無駄足だったか・・・」
「待てアルカードよ、早計に決めつけるのは、」
その時、此方を向いていた小さな狼達が遠吠えを上げだした。
「なんだ?」
「・・・・・・成程な。どうやら間違えたわけではなさそうだぞ、ダークナイト」
「なに?」
遠吠えを聞いたアルカードは何かに納得したように頷いている。
「貴様?」
「あれを見ろ」
アルカードは何やら遠くを見ている。その目線を辿っていくと、
「・・・!あれは、」
「私の本能が理解した。あれこそが・・・」
成る程、長と言うに相応しい堂々たる体躯を持った狼が此方へと歩を進めていた。
あの巨大な狼が長、か。
〜〜〜
我が最大の敵は同時にアンリの宿敵とも言える存在と同一の者らしい・・・
それはそうだろう・・・先程からの戦いに於いて甦っていった記憶。また記憶にある様々などの敵も比較にすらならない、圧倒的とも言えるこの威圧感を持った存在等ははっきりいって想像の埒外とも言って良いほどの・・・この異様・・・!
しかも、
「まだ!増大していくだとっ・・・!」
先程から奴は際限なくオーラと魔力が増えている、あの姿に変貌した時よりもずっと・・・!
『止めろ・・・!!奴をなんとしてでも止めるのだ・・・!!!』
「貴様に言われるまでもない!そんなことは出来得るならば疾うにそうしているっ!!」
魔剣の刃を形成しようとするも、形成しかけたそばから悉く消失していく。これは私の魔力吸収よりも奴の魔力吸収のほうが上だ、ということだろう・・・!
奴には魔力で攻撃できないというのか・・・!?
「貴様も口ではなく手を動かせっ!」
『・・・!分かってはいる。が・・・!』
アンリも先程から両手を前に突き出して何かをやろうとしてはしているものの、成功していない・・・ということは・・・
「見誤ったかっ?」
その強さを。
『・・・い、いやだ・・・私は死にたくない・・・』
「貴様・・・?」
アンリが恐怖するのは何に対してだろうか。私と同じようなものなのか・・・?
いやそもそもこの女はこのように感情を外に表わす者ではなかった・・・
『・・・逆鱗に触れたのだ』
「・・・先程から貴様は知ったふうな口ぶりだな・・・?何を知っているというのだっ!!」
我等と同じく奴を見ている老人はしかし、
『あの者自体については大したことは知らん・・・だが龍の逆鱗に触れる、ということは相応の覚悟が必要だということじゃ・・・』
何処かしら諦めたような口調で呟いた。
「逆鱗、だと・・・?いったいそれは、」
『こ、この威圧・・・?来るぞ・・・!!』
瞬間、ひょう、と風が通り抜けた。
「っ!?や、奴は何処だ!」
と、感じた瞬間奴の姿を見失った。
『・・・ぎゃああああああっ!?』
「なっ!?アンリっ!」
目を離したあの一瞬でアンリの全身が切り刻まれている・・・?
今の一瞬で凄まじい衝撃が襲った、のか?
・・・そしてその僅か後に何かが破裂する音が響いた・・・音が衝撃よりも後に鳴った、だと・・・!
『凄まじき怒り・・・さながらあいつのようじゃな』
「・・・!怒り、か!」
その老人の呟きを聞いて、私は気づいた。奴はあの男の息子、ということはあの男の如く感情によってその力が上がるというのは考えられる・・・!
今の奴の動く影すら捉えられぬ速力、尋常でないほどに上昇したその動きは、そうとでも考えねば説明がつかん!先程とは比較にならんあの速さ・・・!怒りにより奴の力を・・・!
・・・・・・しかし、
『あの天をも裂く光の翼・・・あの者は』
「私はやられんっ!!」
持ちうる全精力を眼に傾け、動きを捉える・・・!
『・・・ば、化け物め・・・以前とはまるで別の牙を以て・・・』
ひゅんひゅん、と飛来してきた何かが私の頬を切り裂いた、しかしそれを気にする暇もなしに私は奴の動く影を、
「捉えたぞっ!!」
「・・・・・・!」
私の眼に捉えられた奴は動じることも無くその場に留まった。その輝く翼をはためかせている、ものの私の視界に収まっている奴は、悔しがる素振りすら見せずにまたもや感情の読めない瞳で私を見てくる・・・?
「何故だ貴様!昂っているのだろう!憤っているのだろう!私を斬りたいのだろうっ!何故強者との戦いで貴様はそのようなっ!」
・・・私には奴の気持ちは分からない。奴は元から強かった、出会った当初からその素質のみならず培った経験も遺憾なく発揮していた。ということを考えると、奴も根から戦闘に狂い、そして強者と見れば戦を楽しまずにはいられないそのような性質・・・その筈だっ!!!
それが、何故・・・?
「そのような瞳をおおおっ!!」
「・・・・・・」
叫びながら私は魔眼に注いだ力を剣へと込めた。
「するなあああああっ!」
絶斬を放つために。
「・・・・・・天・・・・・・」
「っ!!?」
眼に入り込んでくる、この光はっ!?
それに私が剣に注いだ魔力が失われるこの感覚は・・・!?
「魔・・・・・・」
「っ!?この、プレッシャーはっ?」
奴が何かを呟いた。天、魔・・・?
いや言葉などはどうでもいい。それよりも奴が何事かを呟いた途端に私の身体が萎縮するようなプレッシャーを感じる。
・・・まだ力が上がるというのか!
「あいつはもう・・・」
「今度はなんだっ!!」
更に寒々しい悪寒を感じる。
どうしたというのだ・・・何故このように頼りない気持ちに私はなっているのだ・・・?
チカラが入らない・・・?魔力もオーラすらも・・・
「動かない・・・・・・・・・」
「あの刃っ!?」
禍々しく雄々しい・・・この世の全てを切り払い呑み込まんとする、そんな名伏し難い形状の刃が奴の手に顕現し・・・!いや、あの形状は・・・龍!チカラで龍を形作っている、のか・・・?
「・・・・・・九天・・・」
「剣の・・・いや龍のチカラ、とでもいうのか・・・!!?」
「・・・破奥義・・・・・・牙龍・・・」
「っ!!?す、凄まじいっ!?」
・・・此方を襲いくるその刃の龍の顎はさながら意思があるかのように我が動きを読んでいるかの如くうねうねと凄まじい速さで逃げ道を塞ぐ。
逃げ・・・?
この、私が逃げる、だと・・・!?
ふざけるなっ!!!
「貴様の思う通りだと思うなよっ!」
刀身無き柄を構え、己に内在する力を振り絞るように、
「セイヤァァァァァっ!」
放出する、それが魔力でなく我が生命力だとしても。
・・・生物の根源たる力、オーラだとしても、如何に奴の一撃が強力だとしても・・・!
我が最強の一撃さえ喰らわせれば・・・!
っ!!?
バキャッ!!
「ばっ!」
馬鹿なっ!?
剣が粉砕したっ!?奴の一撃を受け止めるべく構えた剣の柄ごと・・・!
「俺はお前を許せないっ!!!」
「・・・が、はあっ!!!」
奴の力の奔流・・・その一撃は私の身体を貫いた。
〜〜〜
『・・・オルレアンッ!!!』
尋常ではない一撃・・・火炎の牙が解き放ったそれは我が最強の兵士の強靭な肉体をいとも容易く討ち貫いた・・・!
そして奴はオルレアンに向けていたその視線を此方に移し、
「次はお前、か・・・?」
『・・・くっ、おのれ火炎の牙・・・!!・・・・・・よくも我が愛しき男、を・・・!?』
・・・今我は何を口走った?
眼前を立ち塞ぐ火炎の牙から迸る力への恐怖からか、思考に存在すらしない言葉が口を突いて出た、のか・・・?
「愛し、き・・・?」
『ええい!お前の存在は何時の世も我を脅かす・・・!我が想念を掻き乱す・・・!』
「・・・・・・」
『・・・!?その、瞳?』
我が生命の宿敵にして、因業である火炎の牙・・・
だがこの火炎の牙は以前の者とは何処かが、
この虚ろなる瞳は・・・
「・・・・・・お前もか」
っ!考えている場合ではない。奴のこの凄まじき威圧はまともに喰らうわけにはいかぬ!
今こそ対策を行使するべき!復讐を果たすため、に・・・!
『・・・以前のお前に教えられた・・・・・・想いを込めた業、それが』
我が全エーテル、それと併せてあの地の底にてこの身に受け取っていた、この地に生きそして朽ちていった者どもの負なる想い、
『喰らうがいい・・・!絶望刃ッ!!!』
「・・・・・・俺を」
火炎の牙へ復讐するため編み出した我が切り札、その黒き幕は火炎の牙を包み込んだ。
「・・・俺の家族を、」
『なっ!?』
絶望の刃の霧から奴は現れ、
「傷つけるのはあっ!!!」
『・・・!か、身体・・・態勢が・・・!』
制御できぬ・・・!!
今の我が一撃に対し奴は己の想いを乗せ、て・・・?この力の・・・!
・・・何故だ!想いを断ち切ることが・・・!
『・・・か、火炎の牙あああああっ!!』
遥か後方へと我が肉体は吹き飛ばされた。
「俺、俺は・・・・・・」
~~~
その立ち姿を見るに長とやらはどうやら健在らしい。
・・・私は何かしらのチカラを以て意志の疎通を図っていると見える両者を見ていた。
『ーーー。ーーー』
『ーーー。ーーー!』
会話に混ざることはできないものの、私の連れてきた者の表情が喜色に染まっていくところを見れば、
「アルカード、私にも教えろ。何を話しているのだ?貴様の目的は果たせるのか?」
大体のところは察することもできる。だが確認はしておかねば。
『ーーー、』
「おお・・・」
・・・!
しかし奴は私に答えることはなく何やら感嘆の声を上げていた。
そして。
奴と話している、と思われる巨大な狼からは、微量ながら魔力が放出された。
「この感覚!」
「・・・これは!」
アルカードの魔力が増大していく?
「やはり私の考えは間違ってはいなかった・・・!」
そして奴はその姿を変化させ始めた。・・・いや、変化というよりも、
「そうだ!これよこれっ。この体毛無くして人狼とは言えまい!」
「相も変わらず暑苦しい奴だ・・・」
もこもことした体毛が生え揃ったその姿は以前の奴に戻った、と言うべきだろう。
どうやったのかは知らんが大したものだな・・・狼の長とやらは。
「はっ?ーーーいいえ。ですがそれはーーー、そうなのですか?ーーーはあ・・・分かりました。おいっ、ダークナイト!」
その長と何やら話していたアルカードは急に私を呼びつけた。
「なんだ・・・貴様まさかその姿だからといって私に勝てるつもりではあるまいな?」
以前とは違いやけに傲岸な態度を見せるアルカードは自分が優位に立っているとでも思っているのか?
確かに今の私は魔力がないが、それでもアルカード程度ならば、
「ち、違うぞ!長が貴様に用があると、」
私の射抜くような視線に気圧されたわけでもあるまいが、アルカードは焦ったように言い訳した。
「用、だと?その者がいったい私に何の用だ」
私は奴等に近づき、その巨大な狼の瞳を見つめた。どうやら言葉が通じない以上、直接本人へ訊いてみるということもできない。
しかし瞳を見てみるもその真意は探れそうにない・・・だが、この瞳?何か懐かしいものでも見たような・・・
「私が説明してやろう。フェンリル様は貴様に・・・」
・・・・・・成程、それは可能なのだろう。実例が目の前に居ることではあるし、この長が持つ力は強さ云々というよりも何か不思議な技といったほうが当てはまる、か。
「・・・だが解せんな。何故だ、そんなことをやってその者に何の得があるというのだ」
アルカードによれば、先程の狼の長フェンリルの話は私にもアルカードに施したように元の姿にしてやる、というものだったらしい。つまりは魔力が使えるようになる、ということか・・・それはアルカードを見ても分かるように可能なことなのだろうが、(今の奴は以前の姿を取り戻したと同時に魔力も持っている)何故私にもそれをするのか理由が分からない。
「・・・ダークナイト、貴様はこのお方と知り合いではないのか?」
「いや?連れてくる時も言ったように、貴様を此処まで案内したのは単に私がこのあたりの地理に明るいからだ。あとは好奇心、といったところだ」
「そう、なのか・・・?」
アルカードは何故か首を傾げてフェンリルのほうを見た。
「まあいい、折角の厚意だ。やってもらおうか・・・」
言いながら私はフェンリルに近づいた。
そしてアルカードがしていたように目を閉じた。一瞬この状態で襲われたら危険だという考えが頭を過ぎったが、それこそ何の得もないだろうとその考えを振りはらう。
・・・眼を閉じたその前方から暖かな何かが放出されているのを感じる・・・
『ーーーーーー』
・・・この感覚。
最近身体から失っていた・・・魔力が身体を巡るこの感覚、
『ーーーーード』
・・・そしてこの温もり。力が溢れるような。
疑っていたわけでもないが、大したものだ・・・
『ーーーシンド』
・・・それにこの舌。この舌はまるで山の中で迷子になった私を慰めるために舐めた、
・・・!?
舌っ!?
「・・・フェン、リル?」
舐められる感触に驚いて目を明けると、何故か狼の長が自身の頬をなめまわしていた。
「なっ・・・・・・!!!まさか、お前は・・・」
『久しぶりだ・・・一目見て分かったぞシンド』
幼き頃、共に山を駆け回った相棒が其処には居た。
〜〜〜
暗い・・・
此処は何処だ・・・
私は何故こんな闇の中に・・・
・・・意識が朦朧とする・・・
・・・私のこの身体はいったい・・・
・・・どうなっているのだ・・・
ひゅうひゅう、と寒々しい風が自身の身体を通り抜けている・・・
まるで私の身体の中心部に大きな孔でも開いているような・・・
孔・・・?
私の身体・・・?
・・・そうだ。
私は今あの者に・・・あの者と・・・戦って・・・
そして・・・
敗れ・・・た・・・?
敗北・・・した・・・の、か・・・
この私が・・・
馬鹿・・・な・・・
最強・・・である・・・この・・・私が・・・
私が・・・・・・私は・・・・・・
~~~
ようやく容体が安定してきた方を見届けて私はそっと近づいた。
今の今まで激戦を繰り広げていた知り合いの近くへと。
「リシナ・・・」
「っ!!・・・やるだけやってみます」
その知り合いは泣きそうな顔をしながら私を見た。この方のこのような悲しそうな顔を見たことがない、それにこれ以上見たくはない。
「・・・・・・脈動が」
「・・・何とか、ならないのか・・・」
私はその方の足元に横たわっている女性の手首をとって首を振った・・・横に。
この女性はもう既に・・・
「ニル、ナ・・・」
「トウヤさん・・・」
おそらくは親しい間柄だったのだろう女性の顔を沈痛な面持ちで見つめるトウヤさんの目はとても15歳の少年のものとは思えないほどに暗く虚ろになっている。
「治癒の術を使っても、これではっ」
女性に脈はない、それはそうだろう・・・脳天から身体が両断されているのだから・・・その生命の呼吸すらまるで感じ取ることができない・・・
「だめ、なのか・・・」
「すみません・・・私ではどうすることも・・・」
言いたくは無いがこの女性は既にその生を止めている。如何に退魔術の治癒の技が優れていようとも死者を蘇らせるほどの効力は持っていない。
「・・・お前は・・・」
「・・・?」
と、2人してその女性を見ていると更にもう一人の方が近付いてきた。
『・・・トウヤ、じゃったの』
「じいさん・・・」
その老人はどうやらトウヤさんと知り合いらしい。
「じいさん・・・あんたなら」
『いや儂でも無理じゃな、このような状態になったのなら』
「そう、か・・・」
『じゃがこの者は・・・』
っ!!?
老人が何かを言い淀み、更に口を開こうとしたとき、
「くっついて、いく・・・?」
その女性、(ニルナと言いおそらくは格闘大会の覇者だろう)の離れていた両身はまるで元の位置がここだと言わんばかりにお互いが近付いていく・・・?
いったいこれはっ?
『この状態はっ!!?』
「な、治ってるのか!!」
他の方も目の前で何が起こっているのかよく分かってはいない様子だ。
ただ1つ言えることは、
「心臓の鼓動が・・・!」
始まった。ということは、
「・・・・・・なんて顔してるのトウヤ・・・」
「ニルナッ!!!」
その女性ニルナという方が目を覚ました、その身体も元の通りになり。
「・・・あんたまさか泣いて・・・」
「泣いてないっ!ニルナのばーかっ!」
・・・どうやらトウヤさんも元気を取り戻したようだ。
しかし、今のようなことが起こり得るのだろうか・・・
先程診た限りではこのニルナという女性は確実にその生命を喪っているように見えていた。にも関わらず細胞の一つ一つがまるで意思を持った生き物のようにあるべき場所へと動いていくような・・・
『どうやら怒りも収まったようじゃな・・・』
「ご老人、貴方はいったい」
もしやこの老人が何かをされたのか、と考え訊いてみるも老人はその首を横に振るばかりだった。
では、いったい何故・・・?
『我は不滅うううううううううううううううううっ!』
「お前!」
『災厄っ!しぶといやつじゃっ!』
考えていると彼方へと吹き飛ばされた筈の災厄の王が此方へ舞い戻ってきた。
『・・・よくも!よくも!我が大切な者を・・・!!!』
その瞳に激情を添えて。
「大切な・・・ミシルのことか?」
『・・・オルレアンは我が永き輪廻の生で見つけた唯一並び立つ・・・』
「俺も・・・あいつは仲間だと思ってた」
トウヤさんは何処となくさびしげな表情だ。
『・・・なれば何故・・・!』
「あいつはやっちゃいけないことをしたんだ・・・」
『・・・・・・?』
それでも手に持っていた刀を災厄の王に向け構えた。
『・・・分からないことを・・・矢張り忌まわしき存在・・・!!・・・火炎のおおお・・・!!!』
「牙っ!」
『・・・がっ!!!』
その刃は逸れることなく災厄の王を貫いた。
「お前のその敵意、此処で終わらせてやるっ」
『・・・お、おのれ・・・!またしても・・・またしてもお前は私を・・・・・・!!』
その一撃を受けた災厄の王の身体は燃え始めた。
『だが・・・覚えておくがいい・・・・・・我はふめ・・・・・・!!!?・・・・・・わ、我が想念がっ!!?』
「・・・終わらせる、って言ったよな・・・?牙は相手の全てを噛み砕き斬り裂く技だ。その牙をもろに喰らった奴は・・・」
『莫迦なっ!莫迦なっ!!莫迦なっ!!!・・・・・・我が消滅、する・・・・・・・・・!???不滅のこの我があああああああっ!!!!!』
「それに・・・俺の力は只の、」
『火炎の牙あああああ・・・・・・!!!!!お、おるれあ・・・・・・・・・・!!!!!!!!』
災厄の王はそのまま燃え尽きていった。
~~~
先程、あの人間が再生した理由が分かったような気がする。
あれはこの預言の者に関わり持つ、それ故に事象の理を・・・
「ベヒーモス?どうしたんだ」
『いや、な。そなたは大した者じゃと思うてな』
それは偽らざる己の本心だ。我が友の預言とやらを鵜呑みにし永い間この地にて待ち続けたからこそ出会えたこの者。まさか世界における唯一無二の力を・・・
「あんたが教えてくれたんだろ?俺に流れる血のことを?」
『そうじゃな・・・』
この預言の者に流れる血、否そのチカラ・・・それはこの世界の根幹を揺るがすほどの、
『いやー!大したものだね!』
っ!!?
突然周囲に生暖かい風が吹いた、と同時に見知らぬ人間の青年が目の前に立っていた。
『そなたは・・・』
「お前は・・・デュカストテレス!」
『な!なんじゃとっ!?』
その名は・・・もしやあの、
『やあやあ!久しぶりだねえ!火ノ牙十夜クン!』
「なんでお前が此処に?」
しかもその名を持つ者は預言の者を知っている?
『そうだねえ!強いて言うならば夢のため、かな!』
「夢?」
しかしその闇の国と評される場所における支配者、は意味の分からないことを言う。
『永年の夢さ!永い永い、君達にはとっても想像もつかないほどに永い僕の夢!』
「俺はなんで此処に来たのかって聞いたんだが」
『それよりももったいないね!君の友達・・・ミシルクンだっけ!あの子も中々いい線いってるんだけどなあ!』
「お前・・・」
『まあいいや!具体的に言うとだね!僕が此処に来た理由は!』
そう言うとその青年は此方を向いた。
『それさ!』
そして手に持つ1本の刀を指差した。