第10話〜疑問〜
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私は、私という存在を為すものを殆ど全て失った。
あの日から・・・
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あの日・・・ウォルス王国、その王族を護る立場である護衛騎士、その隊長である私ミシェール・オルレアンはいつものように王宮に出向き責務を果たしていた。武官長会議、部隊編成の相談、王家の食事の付き添い、など本当にいつもどおりの1日だった・・・その筈だった。
だが、それは突然起こった。
いや、やって来たというべきか。
夕食も終わり、1日の責務も別の者との交代時間が近づいていた、ということもあり多少私の気が抜けていたということを差し引いても、私の動揺は護衛騎士隊長にあるまじき対応の遅れに表れていた。
王宮内、しかも王の寝室の扉の前にそいつは立っていた。私よりも一回りは小さく見えるその全身を覆う黒いローブを身に纏い、その右手には銀色に輝く杖を持っていた。唯一見ることが出来る肌の部分、両手とフードに隠された顔の下半分は驚くべき白さだった。
如何にしてここに?という疑問、あまりにも唐突すぎる出現、ということもあったが、何よりそいつのあまりにも異様な雰囲気に私は立ち竦んだ。
明らかな害意らしきものを持ってその場所にそいつは立っていた。
だがそれも一瞬のことで、
「何者だっ!貴様っ!」
と、私がそいつへ向かって言うとそいつは
「貴方に用はないわ。邪魔をしないで頂戴。」
と丁寧な口調で言った。
若い、まだ少女と呼んで差し支えない女の声で。
「貴様っ!ここがウォルス王の寝室と知ってのことかっ!」
私はそう言いながら背中に背負ったバスタードソードを抜いた。
「勿論。王を消す為にここに来たのだから。面白いことを言うのね貴方?」
「貴様っ!!」
言うと同時に私は約5m程度の距離を一気に飛んで詰め、剣をふりおろした。
だが、
ギィンッ!
弾かれた。
何も持っていないあの細い左手で。
「な、なに?」
今起こったことが信じられなかった私は、更に剣を振った。何回も。何回も。
ギィンッ!
ガギィッ!
ガィンッ!
しかし、全て左手に弾かれ、防がれる。
何者だ・・・いや、今はそんな場合ではない。
こうなれば、最も強力で速い技を出すしかないと覚った私は、一瞬呼吸を整え・・・
「セイヤァッ!!!」
銅を狙った高速の一呼吸での三連突きを繰り出した。
ギンッ!ギンッ!ギンッ!だが、全て左手に全て弾かれた。
「ハァッ、ハァッ、まさかこんなことが・・・この私がこうも簡単にあしらわれるだと・・・?」
「ふぅん。この国の剣技は中々のものね。消すのは少し勿体無いかしら。」
「き、貴様!消すとはどういうことだっ!?それに何故王の命を狙うっ!?」
「フフ、消すっていうのは分かりづらかったかしら?文字通り消滅させるのよ、この国を。何故?決まっているじゃないの、邪魔だからよ。王も国も。まあ、他の歯ごたえのないのよりは貴方は多少ましだったから残してもいいわね。」
と、少女は言いながら
「まあ、貴方とのお遊びに付き合うのは飽きてきたからそろそろ終わらせるとしましょう。」
そう右言い、手に持った杖を此方へ翳しながら、
「ファング」
そう言った瞬間杖が物凄い勢いで太く長くなり、それが私の銅へ伸び私の身体は杖で壁に押し付けられた。
「ガハァッ!」
私はあまりの衝撃に声をあげながら、口から血を吐いた。
「あら、呆気ないわね。まあ、私の波動に触れながら戦えるだけでも大した腕だけどね」
そう言うと少女は杖を元の大きさに戻し左手を扉に向け、扉を吹き飛ばした。そして無造作に中に入っていった。
途端に中から、
「貴様、何者じゃっ!ミシェールッ!曲者じゃっ!ミシェールッ!」
というウォルス王の声が聞こえてきた。
「ウォルス王っ!
お逃げくださいっ!!」
倒れ伏した私は気力を振り絞ってそう叫んだ。だが・・・
「ぎゃーーーーーーっ!」
という断末魔の悲鳴が聞こえてきた。
「ウォルス王ーーーっ!」
それを聞き私はウォルス王の死を覚った。
少しして、
「ふぅ、お掃除終わり。」
と言いながら少女が部屋から出てきた。
「き、貴様よくも、」
私は倒れた状態で少女を睨み付けながら、そう言った。
「ふふふ。貴方しぶといなだけじゃなく精神力も大したものね。」
何故か嬉しそうに少女が私を見てそう言った。
「殺してやるぞ、貴様ぁ」
「そうね。そのぐらいの気持ちならいつか辿り着けるかもね。貴方なら・・・」
「何を言っ、グハァ!」
よろめきながら立ち上がろうとした私を少女が杖で打ちすえ、私は意識を失った。
「まあ、貴方が生き残るかどうか分からないけど、可能性はあるわね。」
少女は独りごちて、僅かに微笑した。
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目が覚めたとき私は悪い夢を見ているのだと思った。何故なら目の前には、
「すっきりしたでしょう?」
後ろから声がしたが、
「な、なんと・・・い・・・う」
私は振り向かなかった。
何故なら、目の前の光景に目を奪われていたからだ。
「ど、どういうことだ・・・ここは何処だっ!」
私は混乱しながらも、後ろを振り返り少女に怒鳴った
「何処?貴方の祖国でしょう?いえ、正確には元祖国と言ったほうがいいかしら?」
その声を聞き、私はさらに混乱した。
あたり一面火の手が上がり、建物らしきものすらないここが我が国だと?
バカな!
「まあ、信じられないのも無理はないでしょうね。でも、」
と、少女が言いながら自分の真後ろを指した。
そこには、先ほどまで自分が居た城があった。ウォルス城が。
「ウォルス城だ・・・と?」
驚愕に満ちた目で私は城を見た。何故なら、城の周りにあるべきものが何処にもなかったからだ。
「バカなっ!!!これがウォルス城なら他の建物はっ!!町はっ!城下町はっ!私の家はっ!」
「全部燃やしたわ。人々と一緒に。」
「ふざけるなっ!そんな戯れ言をっ!」
「信じられないのも無理はないけどね。こうやったのよ。」
と少女は言うと、城へ向かって杖を翳しながら
「ヘルブレイズ」
と言った。すると凄まじい規模のそれこそ城ぐらいの蒼白い炎が出現し、瞬く間に城を呑み込んだ。
「あ、あ、あ・・・」
「つまりこういう風にしてウォルス王国を燃やしたっていうこと。理解できた?」
私は目の前で起きたあまりに現実感のない出来事にただ呆然とした。
「あらら、分かりやすく説明したつもりだけど、驚かせたかしら?」
「き、き、貴様は、な、何者だ。な、何故こんな残虐非道な真似をするっ!!!」
「何故?先ほども言ったけど、邪魔だからよ。この国が。それに会いたいモノがあるから。私が何者っていうのは知らないほうが良いと思うわ。もし、いつか辿り着いたら自然と分かることだしね。」
「辿り着く?どういう意味だっ!?」
「そうね、可能性がある貴方には辿り着けるヒントぐらいあげましょうか?」
そう言うと少女は少し寂しそうな顔をした。そして、
「まず私は、人間ではないの。そうね、この水の大陸や他の大陸での呼称で言えば亜人とか鬼とかデビルとか呼ばれているわ」
そう言うとおもむろに被っていたフードを捲った。
そこには、長く伸ばした金髪に青い目をした一目見ただけでは人間の少女と変わらない顔があった。
額から出た角を除いて。
「まあ、見た目の違いと言っても角ぐらいだけどね。あと、年齢で言えば貴方の数倍は上ね。」
「貴様・・・何処からやってきた・・・?」
「言ってもいいけど・・・今の貴方には決して辿り着けないわよ。それよりも、」
と、言うと此方へ杖を翳してきた。
「私を殺すつもりか?」
「まさか!折角可能性がある人に会えたもの。ただ今の貴方じゃ駄目ね。もっと強くなってもらわないと」
と、私の周りに光る文字が浮かび上がってきた。
「な、なんだこれは!」
「転送魔方陣よ。今から魔法で貴方を何処かの大陸に飛ばしてあげる。ちなみに貴方を倒したのも、城を燃やしたのも魔法によるものよ。」
「魔法だ・・・と?」
「そう。私は太古に失われた筈の魔法を使えるの。
ひょっとしたら貴方も使えるようになるかもね。」
「ま、まて!私を何処へ!」
「さあ?まあ、人が居る大陸だとは思うけど。じゃあ、さよならね。再会を期待しているわ」
そして身体が光ったと思った瞬間、私は意識を失った。
目を覚ましたとき私は山中に居た。
そして人の悲鳴を聞いた。人が居ることと悲鳴の原因が気になりその場所へ行ってみると、1人の男が大きな一頭の熊に襲われていた。
幸いなことにと言うべきか私の騎士の鎧と愛剣は装備したままだったので、すぐさま熊を倒すことができた。
男に事情を聞いてみると、隣村に行商に行く途中に熊に襲われたしい。
現在自分の置かれた状況を把握するためその男と色々な話をした。どうやら、ここは火の大陸という大陸らしい。1日で様々な信じがたいことが起きすぎて頭が麻痺してしまったらしい。疑うこともなく私はその話を信じ、他に当てもないので男と共に行動させてもらうことに頼んでみた。
用心棒が欲しかったらしい男は二つ返事でその申し出を了承した。
男の名はアズト・ミタラと言った。
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3ヶ月程前に自身に起こった出来事をミシェール(今は偽名としてミシル・タイナを名乗っている)は思い出していた。
思い出す契機となったのは先ほどの光景にある。
リシナと名乗った女が見せた技、あれこそあの少女が使っていたような魔法ではないのか?
呼び方は違うみたいだが、共に人智を越えた力という点では似たようなものではないのか?
それに、トウヤとか言ったか。あの少年は今、身体が光り普通では考えられない距離を跳んだが、あれも魔法の一種ではないのか。
この大陸には魔法が伝わっているのか?
当初アズトから鬼の巣窟に行く話を聞いたときはあの少女や魔法に関して何らかの手がかりが得られるかもしれないかと思ったが、思わぬところから手がかりが得られそうな感触があり、ミシェールは密かに唇を歪めた。
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船に飛び降りた途端乗っている奴らが手に持っている筒を俺の方へ向け、何かを飛ばしてきた。火薬の臭いがしたので、おそらく大砲を小さくしたような物だと俺は見当をつけた。
その武器らしき物からはかなりの速さで塊が飛んできた。
だが、オーラで強化している俺の身体には傷一つつかない。
すると、
「何故だっ!何故大砲も銃も効かないっ!!」
と、1人の男が言った。
「と言われてもな。大した威力じゃないしな。全然効かないが。むしろお前らに聞きたいがお前らは何者だ?あと何故俺たちを狙う?」
俺が聞くと、男は
「貴様のような小僧に話すことはないっ!死ねっ!」
と、懲りずに手に持った筒(多分銃というのだろう)を此方に向けて、塊を飛ばしてきた。だが、
「いや、だからその攻撃は効かないって言ってるだろ?そんな無駄なことをするよりも」
と、塊を弾きながら俺は剣を抜きその男を斬った(手加減は一応した)
男は倒れ、他のやつは驚いた顔をしていた。「俺達を攻撃しているつもりなら俺は降参を薦めるぞ。」
と言いつつさらに近くに居た数人を斬った。
「質問に答えないとどんどんお仲間がやられるぞ。」
そう言うとこの中で一番歳上らしき男が答えた。
「俺達は探索者だっ!失われたものを探している。貴様らを襲ったのは先を越されないため排除しようとしただけだ!」
「探索者だと?失われたものとはなんだ?それにお前らの技術だ。この船は何だ?何故大砲がついている?それにこの船はいったい何故あんな速度が出せる?」
俺は気になっていたことをまくし立てた。
「この船はレヴィアス国で最新鋭のモーターと武器を積んでいる。失われたものとは太古の・・・」
男はそこまで言って後ろの男逹と何やら話しだした。
「キャプテン・・・どうやって・・・」
「・・・手持ちの武器だけじゃ・・・」
「逃げるにも・・・」
「・・・いっそのこと・・・」
と話してくる声が聞こえる。俺は、何となく納得できず、
「つまりこういうことか。お前らはとあるものを探している探索者で、それを手に入れるため目的の場所つまり鬼ヶ島に行こうとしたところ、先に俺達の船が見えたんで先を越されまいと、この大砲を積んだ船で攻撃してきたというわけか。それにしてもレヴィアス国とは・・・?」
と言った。
「あ、ああそうだ。だが鬼ヶ島だと?あの島は何らかの加護を受けているとはずなのだが?」
「加護?ああ、加護という言い方をするならこの大陸は火の神剣の加護を受けているぞ。」
と俺が言うと、男は
「火の大陸だと!?バカなっ!?そんなはずはっ!?な、なら・・・我らは・・・間違ったというのか・・・」
驚愕に満ちていた。
「ん?火の大陸ならまずいのか?」
不思議に思い聞いてみると
「貴様には関係ない!」
と、焦っていた。その態度に軽くムカついたので、
「そうか。何を間違ったかよく分からんが残念だったな。
ただ、別に心配しなくていいんじゃないか?」
軽く深呼吸し、
「お前らはここで全滅するんだから、なあっ!!!」力を込めてオーラを放ってみた。
結果、
グォォーっという音とともにオーラの奔流がその船の男たちを襲った。
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直接怪我こそしないまでも、その少年から迸るプレッシャーにより我が船の乗組員逹は立つこともままならなくなっていく。
これはなんだ?圧倒的な力を感じるが・・・このままでは目的を果たせないまま・・・それだけはっ
決して目の前の少年に勝てないことを覚った私は、
「まて、まってくれ。君達に服従する!だから助けてくれ!」
命乞いをした。
すると、
「へぇ、判断が早いな。」
プレッシャーが止んだ。
「まあ別に殺す気はなかったけどな♪」
そう言うと少年は無邪気に笑った。
「とにかく、あんたらの存在とか目的とかが分からなさすぎる。服従とかはどうでもいいが、知っていることを全て喋ってもらおうか?」
「あ、ああ。私も知りたいことがあるしな。勿論話そう。」
こうなったら仕方ない。本来他国の人間に言うべきではないが・・・あの島にはあれは存在しない可能性が高いが、命を失うよりはましだ。まあ、殺されなかったかもしれないが・・・
「とりあえず、その手に持ってる物は渡してもらおうか?」
「勿論だ。そもそもこんな物では君に傷一つつけられないしな。おいっ!」
私は、乗組員に銃を渡すように促した。それを袋に入れ少年に全て手渡した。
「俺より遥かに色んな知識を持った奴があっちには居るからあっちで話そう。あっちまで船を寄せて乗ってくれ。あんたに危害は加えないから」
「ああ、分かっている。ただその前に一つ聞かせてくれないか?」
「ん、なんだ?」
「先ほどの君の力、あれはいったい・・・?」
「ああ、あれはオーラだ。一応説明すると、オーラっていうのは人が体内に秘めたエネルギーのことだ。それを体外に出し自分の力として肉体を強化したり、具現化したり、放出したりするなど色んな使い道がある。」
「そうか、あのプレッシャーはそういうことか・・・それで銃も効かなかったのだな。」
「やっぱりあれは銃っていうのか。それはともかく俺もあんたに聞きたいことがある。」
「なんだ?この期に及んで隠し事はしない。」
「先ほど言っていた(失われたもの)とは一体何だ?気になるんでとりあえずそれだけ教えてくれ?」
なるほどと私は頷いて、
「その失われたもの、というのは、つまり太古に存在していたとされるものだ。」
「太古に存在していた?」
「ああ。実物を見たことはないが、私の国レヴィアスでは建国当時よりそれを崇めている」
「崇める?つまり火の大陸で言うところの神剣みたいなものか?」
「神剣?七つの神のことか?
そうか・・・火の大陸では剣として伝承されているのか。まあ、どちらが正しいのかは判断のしようもないが。」
船が少年の船に接した。
「いや、1人で頷いてないで説明しろよ。何を崇めていたっていうんだ?」
「神だよ。ただ火の大陸と違い、剣ではなく獣だがね神獣と呼ばれるものだ」
「神獣?」
「そうだ、神獣レヴィアタン、水を司るとされている伝説の獣だ。」
そこまで話したところで、私は少年と共に少年の船へ移動した。