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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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初めての夜営

 カナメは目を開けると薄暗い空間にいた。天井はゴツゴツとした岩のようだ。揺らめく温かみのある明かりに照らされ、影が揺れている。パチパチと乾いた音が空間内に響き、煙の匂いがする。ほのかに生臭い臭いも漂う。


(⋯⋯暗い。焚き火の火が燃えている。ここはどこだ?)


 体を起こして起き上がろうとする。その瞬間、背中に鈍痛が走る。


「痛っ!⋯⋯なんだこれ。背中めちゃくちゃ痛い。⋯⋯ってなんで服着てないんだ?」


 上体を起こしたところで上着を着ていないことに気がついた。どういう状況なのか理解ができない。背中を殴られて追い剥ぎにでもあったか?

 すると、少し離れた場所から聞きなれた声が聞こえてきた。


「あ!カナメさん!起きたんですね!体、大丈夫ですか?」


 声のする方を見ると、植物のツルを利用して間仕切りのように吊り下げられている布がある。その向こう側の焚き火前にエイミィはいるようだ。


「エイミィか。今、どんな状況なんだ?」

「そうですね。ここは夜営に適してそうな洞穴の中です。アクアリザードと戦った場所の近くにありました。」

「なるほど。あの近くにこんな場所が⋯⋯。」


 ここまで言ってアクアリザードと戦って逃げられたことを思い出した。3人がかりで戦って勝てなかった相手だ。報復のために襲ってくるかもしれない。危険すぎる。


「ってそんなところで夜営なんて危険だろ!あいつがまた襲ってきたらどうするんだ!今すぐここを出ないと!」

「大丈夫ですよ。アクアリザードは倒しました。もう襲われる心配はありません。」

「え⋯⋯?倒した?そんなわけないだろ。逃げられたじゃないか。」

「えぇ、たしかに逃げられました。でも、その後に戻ってきたんですよ。戻ってきてすぐにカナメさんの背中にあの水の魔法を当てたんです。それでカナメさんは気絶してしまったんです。」

「気絶してたのか。俺は。どのくらい気絶してた?」

「話している途中で突然倒れたので、一瞬死んだかと思いました。気絶していたのは3時間くらいじゃないでしょうか。」

「そんなに経っていたのか。面倒かけて悪いな。それで、どうやって倒したんだ?」

「私が魔法でドカンと。」

「エイミィの魔法で?ごめん。全く想像ができない。どういうことだ?」


 エイミィの魔法のことならよく知っている。魔力を可視化させたうえで宙に浮かせて灯りとする魔法。殺傷能力こそないが生活上は非常に便利な魔法。そういえば今はなぜそれを使わないんだ?絶好のタイミングだろうに。


「その辺の詳しい話は私も聞きたいわ。」


 洞穴の入口の方からクインティナの声が聞こえた。


「あ、クインさん。おかえりなさい。大丈夫でしたか?」

「まぁね。さっきの爆発でこの周辺の生物が逃げ出したみたい。生物の気配を感じなかったわ。」


 焚き火の方に歩いてきたクインティナは大きな革袋を持っている。その袋からは水の音が聞こえる。川まで水を汲みに行ってきたようだ。

 焚き火の前に座った際に初めてクインティナの全身が見えた。いつものローブを着ていない。妙に薄着だ。初めてローブを着ていないクインティナを見たが、想像していた以上にスタイルがいい。見惚れそうになってしまうが、平静を装う。


「クインさん、そんな格好で寒くないですか?」

「寒いわよ。でも服が濡れちゃったから仕方ないの。幸い、ローブがあったおかげでこの程度で済んでるけど。あ、エイミィちゃんは見ないであげてね。」

「え?どうしてですか?」

「さっきまで全身ずぶ濡れだったのよ。ここまで言えば、分かるわよね?」


 なるほど。濡れた服を脱いでいるわけか。たしかに、周りをよく見ると吊り下げられている布はローブや服ばかりだった。

 エイミィがさっきから動かないのも納得だ。普通なら顔を見に来るくらいしてもいいはずなのに焚き火の前から動こうともしない。きっと下着姿だから姿を見せられないのだろう。


「カナメくん。あなた、今何か想像してなかった?」

「いえ、何も。この間仕切りのように干された服と、エイミィが顔を出さないのはそういうことだったのかと思いまして。」

「そう?それなら良かったわ。もし良からぬことを考えていたら、あなたを外に放り出すところだったわ。」

「何言ってるんですかクインさん。そんなこと考えるわけないじゃないですか。あり得ないですよ。」

「カナメくん、それはそれで酷いと思うわよ。」

「カナメさん、さすがに傷つきます。」

「えぇ⋯⋯。なんなんだよ⋯⋯。」


 めんどくせぇ。思わず口をついて出そうになった言葉を飲み込み頭を掻いて誤魔化す。


「まぁいいわ。それで、アクアリザードをエイミィちゃんが魔法で倒したのは本当よ。」

「あの魔法でですか?申し訳ないけど、攻撃手段にはできない魔法じゃないですか。」

「そうなんだけどね。順を追って説明するわ。」

「あ、その前に確認したいことがあるのですが⋯⋯。」

「なに?」

「僕の服ってどこですか?」


 話の腰を折られたクインティナは思わずため息をついてしまった。服のある方向を雑に指差して答える。


「そこよ。着れるとは思えないけど。」

「おぉ!あった!ありがとうございます。」


 カナメの後ろに藍色の服が干してあるのを見つけた。早速着ようと思い手を伸ばして驚愕した。


「臭ぇ!なんで?なんでこんな生臭いの!?」

「それも含めて説明するから、そこに座ってちょうだい。」

「⋯⋯分かりました。」


 服から手に移った臭いに困惑しながらもクインティナの話を聞くことにする。

 焚き火の前に行こうとすると手前で止まるよう指示された。それ以上前に行くとエイミィが見えてしまうからということであった。どうやらこの空間内では男の自分が自由に動ける空間はほとんど無いらしい。

 カナメが少し後ろに下がって座り直したところで、クインティナが説明を始めた。

 要約すると、カナメが倒れて気絶した後、クインティナが防御に専念してアクアリザードの魔法を防いでいた。途中でエイミィが復帰して相手の魔法の特徴を真似て魔法を投げつけて倒したということだった。

 だが、ここで2つ疑問が浮かんだ。


「質問、いいですか?」

「いいわよ。」

「まず、アクアリザードの魔法の特徴ってなんですか?」

「あいつはね、頭上に水球を浮かせていたんだけど、攻撃前には必ず水球に魔力を送り込んでいたの。その時、魔力を送り込まれた水球は大きくなっていったんだけど、魔力を送り込むのをやめた後は徐々に小さくなっていったの。あれはたぶん、水球の中で魔力を圧縮していたんだと思う。その後、水を打ち出す前に水球の真ん中に凹みが出来ていたわ。水を出すための穴を開けたんでしょうね。だから水球から水が射出されたのよ。」

「なるほど、そんなことができるんですね。1つ勉強になりました。じゃあ次に、エイミィが魔法を投げつけたって言ってましたが、魔法って投げるものでしたっけ?」

「そう言われても、実際に投げつけたのよ。頭上に浮かべた光球に魔力を送り込んだあとに光の球が光る球になって、その球をアクアリザードに向けて投げつけたの。それがすごく速くてビックリしちゃったんだけど、問題はその後よ。水面に球が当たったら大爆発してね。爆風で石は飛んでくるわ水は降ってくるわ魚は降ってくるわで生きた心地がしなかったわよ。」

「ごめんなさい⋯⋯。」

「いいのよ。あれがなかったら倒せなかったわけだし。」

「なるほど。だからエイミィはずぶ濡れだし、僕の服は恐ろしく生臭いわけなんですね。」

「そういうことよ。ちなみに、エイミィちゃんはこの魔法を使ったことで魔力切れになってしばらく気絶していたの。気がついてからも魔力疲労で動けなかったから大変だったのよ。」

「ご迷惑をおかけしました⋯⋯。」

「だからいいって、気にしてないから。」

「それにしても、まさかエイミィの魔法が魔力の爆弾になるなんて考えもしなかったです。」

「本当よね。さて、ここからは私からエイミィちゃんに質問。あの魔法、どうやったの?」

「う〜ん⋯⋯。そうですね。魔力の球に魔力を込める方法があるかもしれないことはクインさんに教えてもらっていたので考えていたんですが、やり方が分からなかったんですよ。でも、目の前でそれをやっていたので、真似してみたんです。魔力の球に魔力を伸ばしてギューッと流し込んで、魔力の球をギュッとさせたら小さくなったんです。ただ、小さい状態のままにするのが難しくて⋯⋯。本当はアクアリザードと同じように魔力を撃ってみたかったんですけどね。そんな操作は難しくてできなかったから、どうしたらいいか分からなくなって投げつけてみたんです。そしたら、爆発しちゃいました。」

「⋯⋯わかった?」

「たぶん、浮かせた魔力に管のように魔力を伸ばして流し込んだんでしょう。ただ、ギュッとさせるっているのが感覚的すぎてよく分からないです。そもそも魔力の伸ばし方自体知りませんが。」

「やっぱりそうよね。肝心なところが分からないのよね。」

「でも、今の話を聞いた限りだと、エイミィの魔法の特徴が少しわかりましたよ。」

「爆発魔法ってこと?」

「いえ、それは副次的なものだと思います。たぶん、光球には薄い膜があったんですよ。だから触るとピリッとくるし、弾けた感じもしたんだと思います。そしてその膜は魔力を硬くする魔法で作られていたんじゃないかなと。そうすれば、魔力の球を持つこともできますよね。膜の中に大量の魔力を詰め込めば、魔力の膜が壊れた瞬間に爆発することになります。」

「なるほど!それは面白い考察ね!説得力あるじゃない!エイミィちゃん、ちょっと魔力の球を出してもらえるかな?」

「え⋯⋯?今は⋯⋯無理です。魔力が回復してません。」

「あ、そっか。魔力切れだったんだ。まだ回復してないよね。」

「なるほど。だから光球を出してなかったのか。まぁ一晩寝れば回復するから、試すのはまた明日だな。」


 ここから先は今は確認できない以上、この話題は終了となった。そして食事を摂ることになったのだが、依然としてカナメに移動許可が降りなかったためクインティナが食事の準備をするのを眺めていた。食材はエイミィの魔法の巻き添えを食らった魚であった。損傷の少ない魚を選んで串焼きにしているとのことだった。とはいえ、野営とは思えないくらい魚が多い。

 意外だったのはクインティナが塩を持ってきていたことだ。高級なのによく持ってきたものだ。いつぞやの塩の無い焼き魚とは違い、塩気があって美味かった。

 全員が食べ終えた頃、カナメは森の狩人捜索に関する方針を相談するのであった。

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