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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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魔法検証

 カナメ、クインティナ、エイミィの3人は街と魔の森の間に広がる草原に来ていた。パーティーを組んだわけではない。エイミィの魔法について検証を行うためだ。



 3日前、カナメはクインティナに魔法の相談をした。


「エイミィの魔法についてです。」


 真剣な口調で語られたカナメの言葉に、クインティナは怪訝な表情を浮かべる。槍を使う者が魔法を使う。そのような事が無いわけではない。しかし、槍に関しては初心者であると先程聞いている。そうなると元から魔法が使えると考えるのが自然なのだが、以前会った時にそのような話は聞いていない。どういうことなのか。


「エイミィの魔法?エイミィは魔法が使えるの?」

「私は魔力を硬くすることも、物を作る魔法も使えないです。でも、魔力を浮かべられます。」

「どういうこと?魔力なら魔法で物を作る時に空中に浮くじゃない。」

「クインさん、そうじゃなくて、魔力が浮くだけです。何にも変化しません。」

「何言ってるの?魔力は体に纏う以外に動かせないのよ。魔法を使う時以外で魔力が体から離れることなんて無いんだから。」

「いや、それができてるから相談なんですよ。」

「⋯⋯⋯⋯はぁあ!?」

「クインさん、声が大きいです。周りの人に迷惑です。地味にケントも驚いてます。」

「あ、ごめんなさい。いや、でも、ありえないでしょそんなの!聞いたことないわよ!」

「やっぱりそうですよね。ちゃんと教会で教わったクインさんなら何か知ってるかと思ったのですが。」

「知らないわね。私も研究者じゃないから一般的な話しか知らないけど。調べないと分からないけど、実際にそんなことができるか見てないから調べようがないわ。」

「なるほど。じゃあ3日後、一緒に討伐へ行きましょう。そこでエイミィに実演してもらいます。」

「今じゃだめなの?」

「はい。槍を持ってる奴がよく分からない魔法を使ってるのを見られたら変な噂が立つかもしれません。だから、当面は内密にお願いします。」

「それもそうね。分かったわ。⋯⋯ギルドには言わなくていいの?」

「悩んでます。現状、攻撃能力は無いので報告する必要は無い気がしてますが、伸びしろを考えた時にイアンさんには相談した方がいいかなと思ってます。」

「イアンって?」

「人事担当の方です。僕が登録した時の面談者でした。最近、あの人が人材育成で有名な傭兵だったということを知りました。だから、あの人になら相談できるかなと思いまして。ただ、相談するにしても色々試したあとにしたいんです。」

「そういうことね。まぁそれは任せるわ。最後に、この話、ケントも聞いてるけど大丈夫?」

「大丈夫です。ケントならこの店を出る頃には忘れてますから。」

「それもそうね。」

「おい、俺の扱い悪ぅねぇかぁ?そこまれ頭悪くねぇど。エイミィも言ってやってくれよぉ。」

「私がですか?でもケントさん、凄くお酒臭いです。本当に忘れそうなので否定しにくいです。」


 ケントを放置してクインティナと話している間に、気がついたらケントが泥酔していた。意識はハッキリしているようだが、もはや呂律が回っていない。これは立てないのではないかと心配になる。


「なぁ⋯⋯。ケントは1人で帰れると思うか?」



 あの後、結局帰れなかった。クインティナとエイミィと別れて、泥酔してまともに歩けなくなったケントを宿屋まで連れていくことになってしまった。昼間から泥酔するとかどういう神経しているのだろうか。

 草原を歩きながら3日前のことを思い出して苛々してしまい索敵が疎かになっていた。横合いの草むらの中から一匹のホーンラビットが姿を現しカナメに突進してきた。


「あ、危ない!」


 エイミィが声を上げた瞬間、カナメが杖を思い切り振り抜いてホーンラビットの頸部を破壊した。


「あーごめん。ちょっとボーっとしてたわ。気をつける。」

「エイミィちゃん、見た?カナメくんってこういうことするのよ。これで武術やってないなんて誰が信じると思う?」

「そうですね。凄すぎます。」

「クインさん、何か言いました?」

「いーえ、特に何もー。」


 白々しい返答がされて納得はいかなかったが、エイミィの様子を見る限り悪い話ではなかったのだろうと考え討伐証明部位の角を折る。


「悪いな、エイミィ。せっかくの槍デビュー戦なのに。」

「いえ、大丈夫です。」


 そう答えるエイミィの手は3日前とは違いかなり荒れていた。掌は見ていないが、恐らくマメが潰れて傷だけだろう。それでも基礎的な訓練は続けていたようだ。


「カナメくん、そろそろ街からも離れてきたし、周りに人もいないからエイミィちゃんの魔法を見せてもらってもいいかしら。」


 クインティナに言われて周囲を見回すと、指摘通り誰もいなかった。街も遠くに小さく見えるくらいである。


「そうですね。ここら辺でいいかもしれませんね。エイミィ、お願いしていいか?」

「分かりました。」


 エイミィは返事をすると瞬時に両手に魔力を可視化した。


「うわ、凄い速いわね。こんなに速い人同世代では見たこと無いわよ。」

「そうなんです。僕もこれには驚きました。僕やクインさんだってこんなに速くできないです。」


 驚いているクインティナを気遣ってかエイミィは動きを止めてこちらをチラリと見てきた。続けてもいいかと言いたげだ。これに対してカナメも無言で頷き返した。

 エイミィは視線を掌に落とすと、掌から大小様々な光球が浮かび上がり始めた。


「な⋯⋯なに⋯⋯これ。」


 クインティナが目を丸くして驚いている。続く言葉が出てこない。


「見ての通り、魔力が浮くんです。でも何にも変化していない魔力なので、特に効果は無いです。しかも触るとすぐ消えます。現状、蝋燭の代わりにしかなりません。」

「エイミィちゃんは⋯⋯どうやってこれができるようになったの?」

「え⋯⋯と、蝋燭を使うのがもったいなくて魔力の光で生活してる時に『魔力が浮いたら便利なのになぁ』と思っていたらできるようになりました。」

「そんな簡単に言うけどねぇ、私たちじゃどうやってもできないのよ。」

「そういうことなんだ、エイミィ。でもクインさん、どうやったらこれを活かせると思います?」

「どうって⋯⋯。分からないわよ、初めて見たんだから。」

「そうですよねぇ。エイミィ、その魔力球って自由に動かせたりするのか?」

「はい。ある程度は。」

「そしたら最大限の速度で俺の手に当ててみてもらえないか?」

「⋯⋯はい。分かりました。」


 エイミィは空中に浮かんでいる光球に目をやり、動かし始めた。ゆっくり、ゆっくりと旋回し始める。旋回に合わせてエイミィの頭も動いているのがなんとも間抜けな光景ではあったが、肝心の光球は徐々に速度を上げていった。


「そろそろ行きます!それっ!」


 掛け声と共に勢い良くエイミィがこちらに頭を振ると、旋回している光球の中から1つだけ飛ばされてきた。ただ、速度は軽く石を投げた時くらいの速度だ。ちょっと遅い。

 この光球を手で受けてみる。「ポンっ!」という破裂音とともに光球は弾けて消える。手には物が当たったような衝撃を受けた。だが、ちょっとビックリする程度で痛くもない。


「う〜ん、大して威力ないんだよなぁ。弱い。」

「え?それ、触れた感覚あるの?」

「はい。物が当たった感じがしましたよ。あとちょっとピリッとします。」

「エイミィちゃん、私にもやってみて。」

「分かりました。」


 エイミィは未だ旋回中の光球から1つだけ飛ばしクインティナの手に当てる。再び軽い破裂音を響かせ光球が消える。


「本当だ。でも、何かが当たったというより()()()感じがするわ。どういうことなのかしら。エイミィちゃんはこの魔力球がどんな構造なのか分かる?」

「ん〜そうですね。ギュッとしてフワって感じがします。」

「そうだった⋯⋯。この子こういう感じの子だった。でも、こういう感覚派の人は魔力を硬くするのが得意と言われてるわ。」

「そういえば、ギンガさんも魔力を硬くする方法が説明できなかったですね。無口なだけかと思ってました。」

「その人が誰かは知らないけど、魔力を硬くする魔法を使う人は言葉で説明するのが苦手な人が多いから私たちみたいな魔法使いには理解できないのよ。」

「なるほど。ということは、エイミィは魔力を硬くする魔法を使っている可能性があるということですか?」

「そういうこと。そうであるなら、さっき魔力球が当たった時の感触も説明がつくの。」

「でも、そうなるとなんで普通に魔力が硬くならないんですかね?」

「それは分からないわ。ただ、魔法の系統が見えただけでも十分よ。図書館で調べてみようかしら。」

「そうですね。僕もお手伝いしますよ。」

「カナメくんはいいわ。エイミィちゃんの指導の方に力を入れて。こんな面白い魔法を使う子なんだからしっかり育てないと。」


 エイミィを見つめるクインティナの目は爛々と輝き、口元にはわずかに笑みが見える。そこには3日前にカナメに説教をしたような姿は無く、好奇心が抑えられないといった様子のクインティナがいた。自分の知的好奇心を満たすための検体は保護しないといけない、という下心が見え隠れする。だが、これはこれでありがたい状況だ。手分けして調べることができるのは願ってもないことである。


「ありがとうございます。それじゃ、クインさんは図書館で似たような事例がないか調べる、僕は引き続き指導しつつ活用法を模索する。そういうことでいいですね。」

「それでいいわ。じゃ、さっさとホーンラビットの討伐を終わらせて帰るわよ!」


 その後、やる気に満ちあふれたクインティナは木の魔法で手当たり次第ホーンラビットを狩っていき、エイミィが槍を使うタイミングが無くなってしまった。それにしても、少し見ない間に木杭が洗練されて細くなっているのには驚いた。もはや杭ではないのではないかと思ったが、本人としてはまだまだ望む細さではないため杭でいいのだという。本人がそれでいいのなら何も言うことはないのだが。

 こうしてエイミィの魔法検証は幕を閉じた。

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