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歌姫、鬼神を飼う。ー連環の計の駒?いいえ、鬼神の主は私です。未来知識で天下を操る。ー  作者: チャプタさん


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7-1:飼い犬の変貌

7-1:飼い犬の変貌

私が主導した李粛への裁きは、呂布軍という巨大な武力集団に、新たな魂を宿らせた。

その名は「法」と「義」。


それまで兵士たちを束ねていたのは、ただの恐怖――董卓の重圧、呂布の剣圧だった。だが今、彼らの胸にはそれとは異なる炎が灯っている。規律と信頼、そして共に掲げる理想。それは不揃いだった刃を一つの剣に鍛え直すかのように、軍の結束を強固にしていた。

しかし、光が強まれば、影もまた濃くなる。

呂布軍の変化は、やがて洛陽の闇に君臨する暴君とその腹心の神経を、確実に逆撫でしていった。


――洛陽・相国府。


玉座のような寝台が置かれた奥の間。絢爛豪華を極めた空間は、香の煙と濃密な酒の匂いに満ちていた。金糸の刺繍が施された厚手の絨毯。壁には虎や龍を描いた屏風が並び、そこかしこに翡翠の彫刻や宝飾品が飾られている。だが、その豪奢さはどこか粘つくような不快感を伴い、長く留まれば魂まで濁りそうなほどだった。


寝台には、巨躯を横たえた男――董卓。

上質な毛皮を無造作に敷き、その上にだらしなく身を沈める様は、まるで飽食した獣のようだった。肌を露わにした侍女たちが、媚びた笑みを浮かべながら、葡萄を房ごと彼の口元へ差し出す。別の侍女は銀の杯を持ち、甘く濁った酒を注ぎ続ける。


しかし、董卓の表情は晴れなかった。むしろ、分厚い眉間には苛立ちの皺が深く刻まれていた。

低く、くぐもった声が、部屋の空気を一層重くする。


「……して、李儒よ。近頃、奉先の奴の様子が、どうにもおかしいとは思わんか」


侍女から受け取った杯を、彼は一息に呷る。酒精の熱さなど意にも介さず、まるで腹に溜まった苛立ちを洗い流すかのように。


「以前ならば、手柄を立てれば、すぐに褒美を寄越せと、犬のように騒ぎ立てたものだ。だが、近頃はどうだ? 俺の呼び出しにも、何かと理由をつけて応じぬ。まるで、俺から距離を取ろうとしているかのようだ」


その声には、支配者としての本能的な警戒と、焦りが混じっていた。


「それに――」

董卓の視線が鋭く光る。

「あの貂蝉とかいう小娘よ。あれにすっかり骨抜きにされおって。軍営の改革だか何だか知らぬが、俺の兵を、勝手に動かしおる」


言葉に込められたのは、怒りというよりも、支配を脅かされた者特有の、不快な怯えだった。

董卓にとって、呂布は最強の駒であり、牙を剥くことのない「飼い犬」であるはずだった。その犬が――他者に懐き、牙の向きを変えつつある。


その事実は、暴君の血に潜む獣を、確実に刺激していた。


傍らに控えていた李儒は、背筋を伸ばし、表情を変えぬまま言葉を返す。

「お察しの通りにございます、相国様。呂布将軍は、変わりつつあります。そして、その背後には、間違いなく――あの貂蝉という女がおります」


懐から数枚の木簡を取り出し、静かに董卓へ差し出す。

そこには密偵が血の匂いを忍ばせながら集めた情報が、細かく刻まれていた。


「呂布軍は、もはや単なる武勇集団ではございません。あの女の入れ知恵で軍営の衛生は大きく改善され、兵の病死は激減。さらに、兵士たちを結ぶものは恐怖ではなく、不可解なほどの信頼と忠誠心。極めつけは――例の『慈愛院』の一件により、呂布将軍は民からの支持さえ得つつあります」


李儒は一拍置き、声を低めた。

「武勇、結束、そして大義名分。この三つが揃えば……」


「……我が軍の、脅威となる、か」

董卓は唸るように呟き、重たい体をゆっくりと起こした。濁った瞳が李儒を射抜く。その光は、毒を含んだ蛇のように冷たく、重い。


「……あの小娘、ただ美しいだけの飾り物かと思っておったが……とんだ食わせ物よ。奉先を誑かし、俺の懐刀を――俺の喉元に向けるつもりか」


「ご明察にございます。このままでは、呂布将軍は我らの手から離れましょう。それは、相国様にとっても、この洛陽にとっても最大の脅威となります」


董卓の分厚い唇が歪む。

「では、どうする。あの小娘を、始末するか?」


その瞬間、彼の瞳に宿った光は、露骨なまでに残忍だった。獲物を引き裂く寸前の猛獣のような光。だが、李儒は微動だにせず首を横に振る。


「なりませぬ。今や、あの女は民にとって『聖女』。下手に手を出せば、民の反感を買い、我らの立場は危うくなります。呂布将軍も、黙ってはおりますまい。その時は――内にも外にも敵を抱えることになります」


「ならば、どうしろと申すのだ!」

怒声と共に、董卓は手元の銀の杯を床に叩きつけた。


ガシャン――!


甲高い破砕音が部屋に弾け、銀片が絨毯の上で転がる。侍女たちは一斉に息を呑み、怯えたように肩を竦めた。誰もが、次にその怒りが自分に向かぬことを、ただ祈っていた。

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