12-9:最後の対決
12-9:最後の対決
王允が孤立し、四方から押し寄せる非難の波に呑まれ、狼狽と動揺で足元を失っている――その瞬間を、私はじっと待っていた。
玉座の間の外では、民衆の「聖女様を! 聖女様をお呼びせよ!」という叫びが、地鳴りのように轟き、宮殿の厚い石壁をも震わせていた。声は熱く、重く、そして揺るぎない。
それは私の背を押し、私の歩みを、まるで運命の糸に導かれるかのように、朝議の場へと向かわせた。
私と呂布は、堂々と、そして迷いなく、その広間に姿を現した。
私の身を包むのは、あの李粛を裁いた日と同じ、雪のように純白の衣。光を受け、わずかに揺れる度に、凛とした気配を漂わせるその衣装は、潔白と決意の象徴だった。
隣に立つ呂布は、漆黒の鎧に身を固め、まるで動く城壁のように私を守っている。黒と白――二つの対極が、同じ歩調で進み出た瞬間、広間にいた全ての者の視線が、吸い寄せられるようにこちらへ向けられた。
玉座に座る若き献帝は、わずかに息を呑み、その瞳に一瞬、希望の色を宿した。列席する百官たちは、突然の登場にざわめき、誰もが状況を掴みかねている。
ただ一人、王允だけが、その顔を引きつらせ、血の気を失っていた。目を見開き、唇をわななかせるその姿は、まるで死人が立ち上がったのを目にしたかのようだった。
「……き、貴様……なぜ……ここに……」
その声は震え、恐怖と動揺が露骨に滲んでいた。
「お父様」
私は、静かに、しかしこの場にいる全ての者の耳へと、確実に届く声で告げた。
「私は、民の声に応えに参りました」
空気が張りつめる。
私は一歩、玉座の前に進み出ると、まっすぐに王允を見据え、その罪を一つずつ、明るみにさらしていった。
呂布から兵権を奪い、己の掌に権力を集めようとしたこと。
私を宮殿に閉じ込め、外の世界から切り離したこと。
そして――董卓を討った後、その罪をすべて呂布と私になすりつけ、己こそが最高権力者として君臨しようとした、冷酷にして狡猾な密謀。
私は、陳宮が密かに集めていた証拠の木簡を高く掲げた。木簡は鈍く光を反射し、その存在が、この場の空気をさらに重くする。百官たちの間に、恐怖と驚愕のどよめきが走る。
「違う! 嘘だ! そいつは国を誑かす妖婦だ!」
王允は声を荒らげ、必死に否定した。しかし、その叫びは虚しく響くだけだった。
すでに彼の言葉を信じる者は、この場には一人もいない。民衆の声、そして目の前に積み上げられた証拠が、彼を容赦なく追い詰めていた。
私は息を整え、最後の言葉を放つ。
「この国を治めるのは、帝でも、司徒でもない。全ての民を守るための、公平な『法』と、その法を支える民の『意志』です!」
その宣言は、この時代の誰もが聞いたことのない、新しい時代の扉を開く一撃だった。空気が震え、広間の全員が息を呑む。百官たちは顔を見合わせ、その瞳に恐れと同時に新たな光を宿し始めた。
王允は、私の言葉に完全に打ちのめされた。肩が震え、瞳の奥から光が消えていく。最後には、糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。
旧き時代は――完全に終わった。
(……董卓は死んだ。王允も、もう敵ではない。私の知る『物語』の序盤の幕は、これで下りた)
私は、歓声とざわめきの中で、冷静に自分の立場を見つめ直していた。
(だが……ここから先は? 私の行動で、歴史の歯車は、すでに大きく狂い始めている。これから先は、私の知らない、本当の『歴史』が始まるのかもしれない……)
一抹の、しかし確かな不安が胸をよぎる。だが私は、それをすぐに振り払った。
未知の世界だからこそ――面白い。
私が創るのだ。誰も見たことのない、新しい物語を。




