55.若き大地の鼓動・雷
いよいよ、表彰式当日。
何かが起こる!?
――表彰式当日、開始二時間前
「よし、こんなものかな?」
姿見で全身をくまなくチェックし、おかしなところがないか確認する。加えて、その場でくるりと一回転。いつもより軽やかな動きに満足し、自然と笑顔になる。
クロ君、いるかな。私のこと、見てくれるかな……話せる時間があるといいな。募る不安はあるけど、いくら考えても仕方がないと自分に言い聞かせ、私は覚悟を決め部屋を後にした。
◇◇◇
神殿までの道のりをゆっくりと歩く。大地を踏みしめるように。街はいつもと変わらず、賑やかな装いを見せるも、私の心はここにあらずだった。色々な考えが頭の中をうずめき、なんだか落ち着かない。
クロ君に会えることへの期待と不安。ひょっとしたら、許してもらえないんじゃないかという諦めにも似た気持ち。自分への不甲斐なさ。そんな自分が表彰なんてされていいのか……邪念ともいうべき嫌な考えが生まれては消え、消えては生まれを繰り返す。
初めて戦場に出た時の気持ちに似てるかもしれない。マイナスな思考ばかりで嫌になる。本当の私はこんなにも弱い神だったのかな……。
神殿に着くと、会場には既に大勢の観客や関係者の家族などがおり、皆、一様に楽しそうな笑顔を見せていた。観客席を取り囲むようにして設置された、今日限定の天使たちの特別な出店。その元気な呼び声と様々な食べ物の良い匂いが会場全体を包み込んでいる。買ってすぐその場で食べる者、席で家族と一緒に食べる者など、皆がこの雰囲気を楽しんでいるようだった。
ふふっ。やっぱり今日という日は特別なのね。皆、すっごく嬉しそうに笑ってる。その時、突然、お腹がくぅ~と鳴る。そういえば、クロ君と身支度のことで頭がいっぱいで朝から何にも食べてなかったっけ。
「私も式の前に軽く食べとこ。でも、ここは混んでるし、どうしよう……関係者エリアにもお店ってあるのかな?」
誰に言うともなく呟き、しばし考える。すると、ふいに懐かしい声が掛けられた。
「レーアねえちゃーんっ!!」
その声に振り向くと――
「……!?久しぶりねぇ!今日はどうしたの?」
「へへっ!親父の手伝いさ!俺も将来は店を継ぎたいしな。最近は、アカデミー終わった後に結構、手伝ったりしてるんだぜ」
元気いっぱいな声でそう力強く答える彼――老舗精肉店にして串焼きの名店『天使の本気』の一人息子、ゲン君だった。
「そうだったの。最近、全然、お店に行けなくてごめんね。お父さん、お元気?」
「あぁ!親父はピンピンしてる!いまちょっと外してるけど、すぐ戻ってくるはずさ。そうそう。レーアねえちゃんのこと、心配してたぜ?神衛隊って男ばっかりだろ?肩身の狭い思いをしてないかって。お、俺も……その、心配してたから……元気そうな顔が見れて、う、嬉しかった」
そう話す彼の顔は、ほんのり赤く照れているようだった。ありがとね。ニッコリ笑って見つめると、さらに顔を真っ赤に染め上げ目を逸らしてしまう。
へ~ぇ、ちょっと前まであんなに幼かったのに、いまは一端の顔つきをしてるだなんて。時の流れは早いものね。
「中等部もそろそろ卒業でしょう?その後は天使アカデミーに行くの?」
「俺ももう1500万歳だからな。将来のことはちゃーんと考えてるさ!寄り道なんてしないで中等部を卒業したら、そのまま親父の元で本格的に修行するつもりなんだ!なにせ『串打ち300万年、裂き800万年、焼き一生』って言われるくらいだからな。早めに修行始めたいんだ。適当にやってるように見えても、ほんとはすっごく難しいんだぜ?」
「厳しい世界なのねぇ。だから、いつ食べてもとっても美味しいのね。私、ゲン君とこの串焼き大好きなのよ」
私の言葉に嬉しそうに笑う彼は、器用に仕込みの手を動かしながら口を開く。
「いまはまだダメなんだけど、俺が焼けるようになったらさ、レーアねえちゃんに一番に食べさせてやるよ!」
「まぁ、本当!嬉しいな~。ありがとね。その時を楽しみにしてるわ」
「はい、これ!俺じゃなくて親父が焼いたやつだけど、いまはこれで我慢してな?」
「ありがとう。そうね、楽しみは先に取っておくわ」
お金を払おうとすると、俺からの差し入れだから、と言って頑なに受け取ろうとしない。いいのかな……?でも、せっかくだから、お言葉に甘えさせてもらっちゃおうっと。
「ありがとう、ゲン君。いま丁度、何か食べようかなって思ってたところだったの。嬉しいな」
「うん、そんなら良かったよ!あとさ……」
「ん?な~に?」
「そ、その格好、スッゲーよく似合ってる。綺麗な神や天使はいっぱいいるけど、レーアねえちゃんが一番綺麗だ」
ゲン君ってば、そんなことも言えるようになったのね。あんなに顔を真っ赤にしちゃって可愛いな~。
「ありがとう。とっても嬉しいわ。ゲン君も見違えたわよ?こうしてお店に立ってる姿なんてお父さんそっくりで頼もしく見えちゃう」
「そ、そーかな?勉強は苦手だけど、どうしても店を継ぎたいんだ。俺、頑張る!だから、レーアねえちゃんも頑張ってくれな?」
「えっ?」
「何か大事なことがあるんだろう?それが何かは分からないけど、さっきなんとなく思いつめたような顔してたから……」
「ゲン君……」
「俺、レーアねえちゃんに後悔してほしくない。いつも笑っててほしいんだ」
困ったような照れたような、ともすれば、泣いてしまいそうな表情の彼。
「優しいのね。本当にありがとう。いまの言葉、すっごく勇気が湧いてきたわ。ありがとう!」
ゲン君のお店を後にした私は、彼の言葉に自分を奮い立たせていた。アレス様、隊員の皆、セメレー、ゲン君。そして……テテュス。彼女にはもう合わせる顔がないけれど、とても大切な事を教えてもらったわ。こんなにも大勢の方が私のことを気に掛けてくれている、心配してくれている。自分の弱さに負けてなんていられない。今までの私を変えていくことが、ケジメの第一歩よね。
クロ君、今日、あなたに会って謝りたいの。どうか、謝らせてね。その後はどうなったっていい。あなたの言うことに従うわ。例え……例え、二度と会えないことになろうとも。
◇◇◇
関係者の控え室のある建物に入った途端、中にいた神や天使たちのざわめきがピタッと止み、視線が一斉に私に注がれる。
「レーア様だ……」
「え?神衛隊の!?だって、あのお姿は……?」
皆が私をいつもと違う理由で見ているのは容易に分かった。少し緊張するけど、私は構わず歩みを進め、神衛隊の集まっている部屋へと向かう。そして、割と仲の良い大隊長の一人に声を掛けた。
「お疲れ様!こないだは休みの申請、ありがとう。助かったわ」
「おう!レーアか!あれくらいたやす……い……っ!?」
「なによ」
「い、いや……そ、その格好、どうしたんだ?」
その声に気付いたのか、周りの大隊長や中隊長たちが次々に私を見つめ、驚きの声を上げる。そんな中に一人だけいつもと変わらず、朗らかに声を掛けてくれる人物がいた。
「レーア様!お待ちしてましたぞ。ほぅ!今日はまた一段と……それは決意の表れですかな?」
にこやかな笑顔と嬉しそうな声で接してくれるアレス様。
「アレスさ……」
「んんっ!」
ハッ!いけないいけない。つい呼んでしまうとこだったわ。
「失礼。中隊長さん、先日はありがとうございました。ご覧の通りです」
「いや、結構、結構!」
笑いあう私たちを何が何だか分からないといった様子で眺める神衛隊の皆。
「いいんだ。うちの大隊長はこれでいいんだ!さぁ、何を惚けている!?レーア様に席を譲らんか!」
まくし立てるアレス様と慌てて席を立つ他の隊の隊長たち。なんだか悪い気もしたけど、せっかくだから座らせてもらうことにした。
「ごめんなさいね。ありがとう」
ニコッと微笑んで感謝を伝えると、皆、なぜか顔を赤くする。どうしたのよ?と聞いても、いいんだいいんだ、と歯切れの悪い返事ばかり。一体、どうしたのかしら?変なの。
「もう少し、ご自分がおモテになることを自覚した方がよろしいですな。皆、レーア様が眩しくて直視できないのですよ」
「……っ!?中隊長さんったら!おかしな事、言わないで下さい!」
急激に熱くなった顔を両手で隠しながらそう叫ぶと、豪快な彼の笑い声が控室に響き渡るのだった。
――表彰式開催時刻丁度
いよいよ、表彰式が開始された。音楽の神アポロンを筆頭に、歌や舞いなど様々な芸術を司るムーサ九神姉妹。そして、天界の三美神と名高く、美と優雅を象徴する可憐な女神たち。その他、楽曲や演舞を得意とする神々や天使たちからなる大天空楽舞団の荘厳にして華やかなオープニングセレモニーに皆が酔いしれていた。
下界の文明の利器である超特大画面モニターのうちの一つが、大歓声の観客席を映し出す。関係者エリアにはいなかったから、クロ君もあの中のどこかにいるのかな?もし、まだいなくても天界全土に中継されてるから、もう式が始まってることは知ってるだろうけど……一目でいいから顔が見たいな。
やがて、観客席が静まり返り、続いて大神帝様が開会のお言葉を述べられる。そして、ついに表彰の時が来る。次々に呼ばれ、壇上に上がる神や天使たち。次は神衛隊の番ね。
「続いて、長らく続いた大戦に見事終止符を打ち、平和をもたらすことに貢献した神衛隊。彼らの表彰に移ります!どうか、盛大な拍手でお迎えください!」
司会のアナウンスと共に、割れんばかりの大歓声と拍手が沸き起こる。いよいよね。いい?行くわよ、私!
他の大隊長に続いて壇上に姿を現した途端、大きな大きなどよめきが会場を揺さぶる。観客席はもちろんのこと、壇上の高位の神々や天使たち。それに、チラッと伺い見ると、大神帝様でさえも私を見て驚く様子が見てとれた。
今の私が身に付けているもの。それは――先日、クロ君に買ってもらったあのドレスだった。
少し深みのある上品な色味のローズピンクと、柔らかな優しい印象のベイビーピンク。その二色が見事に調和したお気に入りのドレス。大人っぽく華やかな雰囲気を演出する肩見せ。そして、ふわりと広がって大人可愛らしさを主張するひらひらのフリル。さらに、夜空の星々の様に煌めくラメの輝きが、ドレスの存在感を否応なく高めていた。
「あの方は……?」
「鎧を着てないけど、あの方も神衛隊の方なのか?」
「なんて素敵なお召し物なのかしら!」
「素敵~!」
観客席から聞こえる声の数々。でも、不思議と嫌な感じはなく、むしろ、清々しい気持ちさえあった。覚悟を決めると、こんなにも見方が違ってくるのね。
「え、えーっと、皆様!お静かに!お静かに願います!……そ、それでは表彰に移りましょう。まずは――」
取り乱すことなくこの場をなだめ、式の進行を始める司会の天使。流石ね!その後、多少のざわつきはあったものの粛々と進められ、ついにその時が来た。
「では……続きまして。大戦中、最終防衛拠点にてその身の命を懸け、決死の攻防を繰り広げた第三大隊。その中で幾多の死闘を乗り越え、多くの神々や天使たちを救った若き女神がいました。若干1600万歳で最高位の【極大】を発現!天界史上最速の2000万歳にして、大隊長へと就任した彼女の名は――大地神、レーア!!どうか盛大な拍手をっ!!」
その瞬間、耳をつんざくような大歓声、大拍手の大嵐。いつまでもいつまでも鳴りやまず、このまま永久に終わらないんじゃないかと感じる程だった。
そんな中、一歩一歩確かめるように歩き所定の位置まで進む。そして、大神帝様に向き直り一礼。やっぱり、いざ大神帝様の前に立つと、こんなドレスで来てしまって良かったのかなと弱気な私が顔を覗かせてしまう。顔を上げチラ見すると、驚いたことに大神帝様がニコニコと笑っておられた。そして、一言。私にだけ聞こえるように極々、小さな声でこう呟かれたのだった。
――思いの丈を話しなさい。悔いのないようにするのだぞ。
言われた瞬間、涙が零れ落ちる。とても優しい声だった。心に染み込む言葉だった。なぜ、涙が零れたのか分からなかった。でも、力強い勇気を貰えたような気がした。
「皆の者、此度のレーアの活躍は目覚ましいものであった。素晴らしかった。そこでだ。ワシからの提案なんだが、表彰の他に発言の機会を与えたいと思う。どうやら、彼女にはこの場で成すべきこと、伝えたいことがあるらしいのだ」
一斉にざわめきだす皆。大神帝様、もしかして、私の心を知って……?
「それが何かはワシにも分からん。だが、どうか彼女の言葉に耳を傾けて欲しい」
大神帝様がジェスシャーをすると、司会の天使がマイクを貸してくれた。皆が私に注目している。流石に緊張しちゃうな。でも、願ってもない機会を頂けたんだもん。ありのままを話そう。
意を決して一歩前に進む。そして――
「皆さん、初めまして。神衛隊第三大隊長を務めますレーアと申します。まず……この度は、栄誉あるこのような素晴らしい式に参加させて頂けたことに感謝申し上げます。そして、私の無茶な戦い振りをフォローして下さった神衛隊の皆さん、第三大隊の皆さん、本当にありがとうございました」
後ろを振り返り、整列している神衛隊の皆に一礼する。顔を上げると、数えきれない程の笑顔が私を迎えてくれた。特にアレス様なんて、加えて小さく手まで振っている。その姿がなんだかとても微笑ましく、緊張がほぐれたような気持ちになれた。
再び、前を向き口を開く。いえ、開こうとして少し思いとどまる……言わなくちゃ。これを言えなければ、クロ君にも謝る資格なんてないもの!
「戦争が終わり天界を守れたんだと思うと、とても嬉しく誇りに思います。決して、私一人の力では成しえなかったことですが、その一員に加わることができた。そのことが何より幸せに感じます。ただ……恐れ多くも英雄などと呼ばれている今の私が、本当に英雄なのかは疑問に思うところではあります」
少しずつざわめき始める観客席。
「私は……本当の私は英雄なんかではありません。臆病で弱く、自分のことしか考えられない神なのです。周囲の目が気になり、本来の自分とは違う姿を偽っていました。皆さんを……騙していたのです。英雄と呼ばれ、良い気になっていたのかも知れません。私は怖かった!本当の自分をさらけ出すのが……知られるのが怖かったのです……」
少しずつ瞳に涙が溜まり始める。顔も前を向けず、完全に俯いてしまった。それでも、せめて口だけは動かそうと、言うべきことを言おうとお腹に力を込める。
「お洒落もしたいし、こ……恋だってしてみたい。大好きな男の子とデートだってしたい。そんな気持ちを持ち続けていました。でも、それを表に出すのがためらわれたのです。神衛隊にいる以上、女神だからできなくてもいい、劣ってもいいというのは何の理由にもなりません。女神であることを押し殺し、懸命に修練に打ち込んできました。その結果、幸運にも名誉ある大隊長に抜擢して頂きました。天界を守ろうと必死になってきた私ですが……たった一人のとても大切な神を……傷つけてしまったのです」
最後の一言を話した途端、涙がはらりと零れ落ちる。次々と頬を伝って流れ落ちてしまう。せめて、せめて泣き声だけは抑えようと必死になって口を閉じるも、体の震えが止まらない。周囲のざわざわとした音がやけに耳に響いてくる。怖くて顔を上げられない。いま、皆はどんな顔をしてるんだろう?怒ってるのかな?それとも、呆れてるのかな?
あぁ、私はなんて弱いんだろう!あれ程、決意してここに来たのに!言葉が続かないなんて……!
その時、突然、聞き慣れ親しんだ声が耳に響く。
「レーアーッッ!!顔を上げなさい!」
……っ!?テテュス!?その声にハッとして顔を上げる。どうして……?見ると、大画面モニターが瞬時に彼女のいる観客席を映し出していた。
「レーアッ!アンタはなんのためにそこにいるの!?ケジメをつけるんでしょーっ!?アンタはこのアタシの幼馴染なのよ!?そんなアンタが弱いわけないでしょーっっ!!頑張れー!!きっと、彼も聞いてるわ!!きちんと伝えなさーいっっ!!そして、掴み取るのよ!アタシは掴んだわよーっ!!頑張れえぇーっ!」
そう叫ぶと、すっと左腕を上にあげ手の甲をこちらに見せる彼女。モニター越しに見るその薬指には、燦然と輝く銀色の指輪がはめられていた。
テテュス!あなた、彼から……やったわね!おめでとう!涙が後から後から溢れてくる。けど、そんなことはもうどうでも良かった。幼馴染で一番の親友が喝を入れてくれたんだもの!
「クロ君、酷いことを言ってごめんなざい!私、私……あなたを愛じてるの!大好ぎなの!!……お願いだから、顔を見せて!!謝らせてぐだざい!!」
涙が口の中に入り込み酷い声だったけど、精一杯の気持ちだった。素直な想いを叫んだ。誰にどう思われてもいい。でも、クロ君にだけはハッキリと伝えたかった。私の本当の気持ちを伝えたかった。
水を打ったように静まり返る会場。誰も何も発しない。私の泣き声だけが僅かに響いている。クロ君、聞いてくれたかな。私の声、届いたかな。そんな思いを巡らせていると――
「レーアちゃん……」
その声に振り向くと、いつの間にか舞台の袖に立つ一人の男性。一番、声が聞きたかった。一番、顔が見たかった。一番、会いたかった彼――クロ君が立っていた。
「く、クロ……君……?」
「レーアちゃん、遅くなってごめん。でも、間に合っ――」
瞬間、私は駆け出していた。そして、大好きなクロ君の胸へと飛び込んだ。
「クロ君!クロ君!ごめんなざい!ごめんなざい!!酷いごど言っでごめんなざいっっ!!あんなごと思ってなかっだ!あなたを愛じてるのに酷いこと言っでごめんなざい!!」
涙が溢れすぎて前が良く見えない。それでも、必死に彼にずがりつき謝る。何をすれば許してもらえるのか分からなかった。いまの私にはこれしか出来なかった。
「僕の大好きなレーアちゃん、ほら、涙を拭いて。僕の方こそごめんね。レーアちゃんからそう言われた時、本心ではそんなこと思ってないって分かってたんだ。でも、やっぱり僕じゃダメなのかって気持ちが膨れ上がっちゃって。それに、本心じゃなくてもそんなことを言われて、すぐに許せる気にならなくてさ……」
寂しそうな表情でそう話すクロ君。私、なんてことをしてしまったんだろう!一番大事にしなきゃならない彼に、そんな顔をさせるなんて……!
「クロ君、お願い。もうどこにも行かないで!私、あなたを――」
「待って!そこから先は僕に言わせて」
すると、私の手を取り連れ立って歩き始める。どうしたの?どうして、わざわざに真ん中へ……?
「ご来場の皆さん、お騒がせして申し訳ありません。実は、今日ここでどうしても皆さんに立ち合って頂きたいことがあります。少々、お時間を頂けませんでしょうか!」
突然、そんなことを言い出し、観客席に向かって頭を下げる彼。しばらくして、大神帝様にも向き直り深々と一礼する。
皆がその一挙手一投足に注目する中、大神帝様から声が発せられた。
「おっけー!」
おっけー!?随分と軽いわね!?
「レーアちゃん……いや、レーア!」
「……!?はい!」
会場中の視線が私たちに集まっているのを痛い程感じるけど、それどころじゃなかった。一体、何を言われるんだろう?もうこれで終わりにしようって言われちゃうのかな。不安と緊張が入り混じり、再び涙が溢れてくる。嗚咽を漏らしそうになるのをどうにか堪えて、彼の言葉を待った。
「これからはどんな時も無理せずに、自然な自分でいることを約束してほしい。できるかい……?」
クロ君の目を見つめながら、首を縦に振る。首がもげちゃうかと思うくらい必死になって振った。
「色々とすっ飛ばしちゃうけど、返事を聞かせてね。レーア、どうか僕のそばにずっといて欲しい……一生を懸けてあなたを愛すと誓う。だから、僕と結婚してくれないかい?心から愛してる」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。え?アイシテル?……愛してる!?クロ君が私を!?混乱しすぎて頭の中が上手く整理できない。言葉を出したいのに、なぜか声が出ない……!どうしよう、どうしよう!?早く何か言わなくちゃ!
その時――
『レーアったら、ほんと仕方ないわね。自分の素直な気持ちを伝えればいいの!頑張るのよ?ここが勝負所なんだから!』
テテュス!?
『先輩、頑張って下さい!大好きです!って言えば、それでいいんですよ!ね?ファイトです!』
セメレーまで!?二人からの通信が突如、頭に響き励ましてくれた。ありがとう、二人共。本当にありがとう!
「クロ君!……ううん、クロノス。私も大好きです。愛してます。ずっとずっと大好きで、訓練中も会いたくてたまらなかったの~!これからもずっと愛し続けます!よろしくお願いします!」
言わなくてもいいことまで言っちゃった?でも、いいよね?本当のことなんだもん!
「ははっ、レーアらしいね。ありがとう。大事にするよ。僕の方こそよろしくね」
すっと頬に手を添えられ、上を向かされる。クロ君の瞳が私を見つめてる。瞼が自然と閉じられ、そして――二人の影が重なった。この日、私たちは初めてのキスをした。唇に熱を落とす甘いキス。
幸せだった。とても幸せで夢みたいだった。一生懸けて彼を愛そう。涙を流しながら私は、他の誰でもないクロノスに誓った。
ついに現れたクロ君ことクロノス。
彼と想いを伝えあい、見事に愛を掴み取ったレーア。
でも、まだクロノスがどこに行っていたかという謎が残り……?
次回でレーア編最終回です。
ご期待ください☆




