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「そもそも、何で招待状ないのに乗り込んで来てんの? 無いと入っちゃダメなんだよ。その辺わかってる? 人間の常識だよ?」
「はい……」
「送られてない理由って考えた? どうせ送られてないことにも気づかないで、当日になっちゃったんでしょ? そんで何も考えないで王宮来ちゃったんでしょ。ほんっと単細胞だよね。次席卒業とか信じらんないよ」
「おっしゃる通りです……」
「てゆうか何あの格好。あんなドレス持ってるの知らなかったんだけど。誰から貰ったの」
「え、トノワが似合うからって……。自分で買った」
「今度から僕らにちゃんと話通して。もっと似合うのあるから」
「はい……え?」
シャルのお説教スイッチが入ったと思ったら、怒涛の言葉の羅列に口を挟む暇なく。バーバラは謝ることしか出来ない状態だった。こんな異様な状況にもユリウスは眉一つ動かさず、直立不動だ。
この光景、学生時代にトノワと一緒に見たなあ。シャルはお説教はいると長いんだ。そんなことを考えていると、バーバラの目にじわりと涙が浮かんだ。それを見たシャルはぎょっとして立ち上がる。ユリウスは直ぐにハンカチを取り出すと、目元に添えて拭ってやった。
「だって、だって楽しみにしてたの~! トノワの子供なら絶対可愛いって~!」
「ああ。君は、トノワ王妃が好きだからな」
「なのに、招待状来てなくて、悲しいし、理由聞こうと思って乗り込んだら、トノワが~!」
そう、トノワが『自分の立場を考えない女が近づいて、ご迷惑でしょう』って言葉に同意したから、バーバラは裏切られたと思って暴走したのだ。親友だと思っていたのはバーバラ一人だと、トノワは自分を鬱陶しい相手だと思っていたんだと。泣いているバーバラに疲れた様子のシャルは溜息を吐く。
「トノワ様はな、お前にじゃなくてあの女に言ったんだよ」
「……アンネ・ルイーに対してだな。あの親子は学生時代から、必要以上に王に近づいていた」
「それに、あのパーティ自体が、王国に反逆の意思がある人間を集めてたの。わざわざ狙いやすい環境を作って、一斉に摘発するためにね」
明かされる真実に、バーバラの涙が止まった。それが理由だとしたら、バーバラは摘発の邪魔をした上に、よくわからない理由で暴走したという事になる。ユリウスからハンカチを受け取って自分で持ちながら「……本当?」とバーバラが恐る恐る聞くと、二人は大きく頷いた。
「こんなことで嘘は吐かない」
「お前、トノワ様に謝れよ。よくわからない理由で暴れてすみませんでしたって」
バーバラが赤くなったり青くなったりしていると、シャルが立ち上がって伸びをする。明らかに、面倒な仕事終わりましたという体だ。
「じゃあ、帰るよ。まったく、面倒かけさせて……」
「転移陣の準備は?」
「ああ、僕がやる」
さらりと高級品の転移陣が使用されていることに度肝を抜かれるが、バーバラにとってそこは大した問題じゃなかった。転移するために準備を行おうとしている腰に飛びつき、シャルの引き留めをはかった。
「おま、何すんの! 離せ!」
「だめ、むり、やだ! トノワに嫌われた!」
シャルの方が力が強いのは当然なので、バーバラは引きずられてしまう。それでもしがみ付くバーバラを、ユリウスが引き離して地面に下した。怒り心頭のシャルは大人しくしてろと怒鳴るが、バーバラは諦め悪く言いつのった。
「だって私、ピティに酷いことした! 呪い掛けちゃうなんて、もう会わせる顔がない」
生まれたばかりの赤子に、感情で呪いをかけてしまう馬鹿な魔女なのだ。もう一生森から出ない方が、人の世のためだととバーバラは言う。話を聞いていたユリウスが、後ろから声を上げた。
「ピティ王女殿下なら無事だ。むしろ、呪いのおかげで助かったと言ってもいい」
「え?」
「……黙っとこうかと思ったけどな。お前の呪い、アレ、失敗してたよ」
バーバラの顎が、外れる勢いで開く。説明を求めるためにシャルを見ると、嫌そうな顔をしながら口を開く。
曰く、バーバラのかけた呪いは昂りすぎた感情のせいで、コントロールが効かなかった。『眠り続け、何があっても起きない』というのが『眠っている時は、何があっても起きない』という淑女にとって有るまじき仕様になってしまったらしい。しかも眠っている時は外的要因をすべて跳ね返す仕様になったとのこと。そのおかげで、巻き込まれそうになった抗争で怪我一つ負うことなく、今も健やかだそうだ。
「お前が残してった解除方法も、王に伝えてある。然るべき時に、上手いこと使うだろうさ」
その言葉を聞いて、バーバラの力が抜けた。隙を見てユリウスがバーバラに手を差し出すと、バーバラは大人しく手を掴む。その後はあばれ具合が嘘のようにおとなしく、庭に出てシャルの用意した転移陣に踏みこむ。一瞬の間をおくと、三人の姿は森から消え失せていた。
「バーバラ!」
「……トノワ」
バーバラの視界に光が差し込み、目を開ける。転移した先は、王宮の一室だった。綺麗なドレスを着たトノワが、バーバラを見て駆け寄ってくる。近くまで来ると、手をぎゅっと握って優しく笑った。
「バーバラ、会いたかったわ。……つらい思いをさせたわね」
「ううん、トノワ。……私が悪かったの。本当にごめんなさい」
一時の感情で、人に迷惑をかけた自分が悪いことは、バーバラが一番わかっている。今後は報連相をしっかりしようと思うくらいには、反省したのだ。
感動の再会の後、ベビーベッドで寝ていたピティ王女に会わせてもらう。ぷすぷす寝息を立てているピティ王女は非常に可愛かった。……けれど、バーバラの呪いが作用しているようで、頬を突くと弾かれる感覚があった。
「ほっぺたを突けないのは悲しいけど、ピティが安全な方がいいわ」
けど、早めに婚約者を決めてあげて、呪いを解いてあげてもいいと思うのよね。そう言ってトノワは笑う。その横では、苦々しい顔をしたアレク王が居た。生まれたばかりの娘が結婚することを考えると、複雑なようだ。
「そうだ、いずれバーバラが産んだ子が男の子だったら、婿に来てもらおうかしら。ね、良いわよね。アレク」
「トノワ、その話題は……」
バーバラはその言葉を聞いて、自分に子供が生まれたら、トノワと親せきになるかもしれないのかと暢気に考えていた。相手が居るわけでもないが、それも嬉しいなとポヤポヤとした妄想をしている。
そのため、アレク王が自分の友人二人を横目で恐る恐る見たことも、トノワが意味深な目を、彼らに向けたことも気づいていなかった。
一緒に帰って来ていたシャルの溜息が聞こえる。気になってバーバラが振り向くと、存外近い位置に二人はいた。
「……ま、潮時だね。気づくまではと思ってたけど、悠長なこと言っていられないし」
「同感だ。本当に逃げられでもしたら、目も当てられない」
二人がバーバラの前に立ち、片手を取った。急に両手が塞がったバーバラが驚愕して二人を見上げるそこには、悪戯っぽく笑うシャルと、真剣な表情のユリウスがいた。
ーーその時ようやく、バーバラは自分を見ている二人の目を認識した。はっきりと、愛おしいという感情が目の奥に見えた。バーバラは全身が沸騰したように感じた。顔に熱が集まり、倒れるんじゃないかと思った。目を泳がせて、手を自由に出来ないことから逃げようとするが、単純な力の差で敵わない。そして、気づいた時には柔らかい感触が手に触れていた。
咄嗟に飛びのいたバーバラに二人が笑う。そんな二人に意識を取られているうちに、バーバラは呟かれた言葉を聞き逃した。
「今さら、森に行くなんて言うなよ。僕らの心を奪った悪い魔女のくせに」
ーーこうして、悪い魔女は森には行けず仕舞い。
魔女を愛しむ者たちに囲まれて、幸せに暮らしたのだった。
6/7 一部訂正しました




