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七人の呪詛者  作者: 野原四葉
七人の呪詛者/天野市花の章
13/55

【13】過去に死んだ人(エルス)

「···お?まさかあなたが来るとは予想外ですね。天野永梨さん」

 夜の暗い森を照らすのはお月様だけ、今夜は満月の夜だ。

「2年ぶりかしらね、エルス」

 2人の間で目立つ懐中電灯の光は強く、度々と目がいってしまう。

「どうしてあなたがここにいるの?」

「···話は中でしませんか?懐中電灯をつけていると虫が寄ってきますよ」

 永梨の質問を無視し、エルスは数メートル先にある白い小さな建物を指差した。ひと1人入るのが限界のような箱だ。

「ここにもあったのね。···いや、移動させた、かしら?」

 永梨は険しい表情でエルスを睨む。目の前のこの小さな建物には見覚えがある。イーズランド南西、ケルベリタが建っていた場所付近の林の中に、この小さな建物があった。永梨たちが呪詛者のなった次の日からこの建物はあった。

「そんな怖い目で見ないでくださいよ、別にこの建物に悪気はないでしょ?全ての元凶はケルベリタだったのですから。ケルベリタさえなければ世界は崩壊しなかった」

「あなたはケルベリタの信者じゃなくって?」

「イーズランドで言ったでしょ、あなたの勝利は私の力があってこそだと!」

 疑いの眼を向ける永梨に、エルスは気が立ったのか強い声で言った。その声で驚いたのか、梟の鳴き声がおさまった。

「···あなたは、私の愛する人を殺した。絶対に許しはしない」

「まだ言っているのですか!不知火芽吹さんはあなたを守るために死んだと、そう何度も言ったでしょ?!」

 永梨の体がピクリと動いた。エルスの怒鳴りに驚いたのか、エルスの言葉の内容に恐れたのか、永梨自身でも分からなかった。

「···まぁいいでしょう。今日は何の要件で?まさか、娘さんを助けたいとかではないですよね?」

「それができたら苦労しない、あなたもね」

「···不知火琳さんのことですか?」

 エルスの下から上へ覗くような素振り、昔イーズランドで会った子に似ている。名は忘れたけれど、印象的だったのは、ケルベリタの従業員だということ、あとはその子の年齢が15歳ということと、ドジな子で、いつも誰かがそばで面倒を見ていたことだ。

「···そうよ。不知火芽吹の娘、不知火琳の件できたの。ややこしくなる前に訊く、不知火琳を呪詛者から外す方法、あるんでしょ?」

 再び梟の鳴き声が森を賑やかにする。それを合図かのように風が吹く。

「呪詛とは、動物が持つ喜怒哀楽に近いものです。誰かを想ったり、誰かを憎むと、呪詛はより盛大な力となります。第一回目のノロイアイでメアシー・グランダェアさんが見せた技は、感情が己のまま出ていたのです」

「···何がいいたいの?」

「動物に感情があるかぎり、呪詛者にゲームを辞退する権利はないということです」

 感情とは切っても切り離せない、動物からしてはそんなものだ。だからこそ感情は恐ろしい。誰かと笑うこと、誰かと喜ぶこと、誰かと悲しむこと、誰かを怒ること、その全てが呪詛に繋がる。

「ただ、ノロイアイに選ばれたプレイヤーには共通点が多々あります。誰かを想っている、悲しい過去がある、呪力がある、等 共通点が幾つかあります」

「呪力が···ある···?」

 その共通点にはたしかにしっくりくるものばかりだ、ただ一点、呪力があるという点を除けば。

「呪力と喜怒哀楽が相まった結果、呪詛者が生まれるのです。つまり、天野市花さんや不知火琳さんには呪力があった。それをあなたたち親···いえ、元呪詛者のあなたたちは知らなかったのです」

 あなたたちというのは永梨と芽吹のことだ、2人はイーズランドで自分の娘について話したことがあった。日本ではしたことがないような話が沢山出てきた。それも全て、2人が呪詛者になったからだった。

「じゃあ、市花と不知火琳が呪詛者になるのも、ノロイアイに参加するのも、初めから決まっていたっていうの?」

 信じたくないが、神の代理であるエルスが言うのだから間違いはないだろう。永梨はただエルスの返答を待つしかなかった。

「···いいえ、全てが決まっていたわけではありません。第一回目のノロイアイで、あなたが勝利したから彼女たちは呪詛者になったのです」

「え?」

 それではまるで、永梨が2人を呪詛者にしたみたいではないか。

「あなたがあの時負けていれば、次の舞台はエリーゼット・ヴァレイン・フェアントさんの娘さんがいるカルマニアで開催されるハズです」

「それはどういうこと···?」

 そう、全ては永梨の責任だ。

「あなたはノロイアイで勝利し神の力を手にいれた。神は二回目のノロイアイを開幕するために、あなたの血を受け継ぐ天野市花を器とし、二回目を開幕させた」

 エルスの口から次々と出てくる言葉は全て真実で、なぜそこまで知っているのかが不思議になるくらいだ。

「···お姉ちゃんが悪いんじゃないよ·····」

「!」

 お姉ちゃん、懐かしい響きだ。イーズランドでドジな子にお姐ちゃんと呼ばれたことがある。ことは些細で、ただ道端で泣いているのを助けただけなのに、その子は永梨をお姉ちゃんと呼んだ。

 名前はたしか――。

「かとう····みぞ、れ·····ちゃん?」

 河東(かとう)(みぞれ)、それがドジな子、永梨をお姉ちゃんと呼んだ子の名前だ。

「···河東霙はケルベリタ爆発事件であなたを助けた代償に死んだ人では?」

 河東霙はケルベリタ爆発寸前、永梨を助けて爆発に巻き込まれた。今でも忘れない、あの時霙が言った言葉「ずっと好きでいさせてください。私のことを忘れないでください。いつか、もう一度会える日を信じています。私を、愛してください」その言葉の数秒後、ケルベリタは爆発し、霙の姿はどこにもなかった。

「そう···か···?」

 そうなのだ、河東霙はもういない、そんなこと分かっている。ただ少し気になることがある。

「河東霙の願いに、あなたは答えることができましたか?」

 願いというのは河東霙が死に際に永梨に言った言葉だろう。永梨はそれに、答えることはできない。永梨には既に愛する人がいるからだ。

「···分からない。霙ちゃんが私のことを好きだということは知ってた、でも···」

 答えていない、答えられるわけがない。だって自分には――。自分を騙すように脳内でそう暗示する。

「そう···ですよね」

「!」

 ポツリと呟いたエルスの目には、懐中電灯の光を反射していた。涙が流れていたのだ。

「天野永梨さん、あなたを決めるのはあなたです。誰を愛そうがあなたの心からの愛ならば、誰も口をはさまない。でも、あなたを心から愛した河東霙を、忘れないで···」

 軽く手を叩いたような音で永梨は眠りから覚めた。これは夢なんかじゃない、永梨は強く握りしめた右手を見ながら、様々な想いを見た。

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