俺について
俺は現在26歳 サービス業の仕事をしている
それなりの地位とそれなりの給料
文句があるとすると
仕事をしない上司と勤務距離だ
大学生活は適度に遊んで
紹介で知り合った病院務めの彼女と出会う
文句があるとすると
きっと彼女の方が給料はいいということだ
そして年上ではなく同い年である
約5年の交際だがお互いそこには触れていない
毎日「おはよう」「おやすみ」の挨拶や
お互いの日常の話や次のデートの日にちを決める
同じサイクルでそれが繰り返されている
喧嘩などはないが刺激も熱意もない
別れ話をするきっかけも理由もないが
交際を続ける理由も結婚する予定もない
お互い5年も交際していて
浮気をしているかどうかの疑いもない
そんな深く聞き込んだ事も聞き込まれた事もない
これが信頼関係といっていいのだろうか
彼女はしっかりしている
俺が必要ない程にしっかりしている
特に頼られた事も相談された事もない
自分の事は自分で解決するタイプだ
そんな彼女に俺はいつも背伸びをしている
甘えられたいからなのか
給料が少ないが故の見栄なのか
特に感情はなかったのだが
寂しさや虚しさを感じるようになっていた
そんな時期に職場に新しい女の子が入ってきた
1個下の女の子だ
ほのかちゃんと言う名前で
顔が整っている訳ではないが
常に笑顔で明るくて
誰とでも仲良くなれる子だ
すぐに職場に馴染んだ
職場には年上が多いのだが
男女問わず可愛がって貰っていた
俺には出来ない
職場には必要最低限の人間関係で良いと
昔もいまも思っている
俺には眩しくて煙たいような存在だ
だが、こんな俺にもニコニコしてくる
仕事だからアルバイトの機嫌をとる
そんな程度で話しかけてみた
「今日のご飯何食べるの?」
どうでもいい話だ
「お寿司食べます、ひとりで。」
と、真顔で答えてきた
俺が驚いていると
「案外根暗なんです」
といつもの笑顔に戻っていた
そして俺はまだ会話を続けたいと
思ってしまっている自分に気付いた
ほのかちゃんはきっちり仕事はするし
サボるような子ではないのだが
器用なタイプではない
アルバイトだから知識も経験も少ない
俺はそれからよく困っているほのかちゃんを
見る機会が増えた
というより以前よりも
俺がほのかちゃんを見ていたのかもしれない
困る事を減らす為に仕事を教える機会を増やした
距離も近いし触れる瞬間もあったが
真面目に取り組んでくれているので
俺も真面目に教え続けた
それ以降何かあるといつも俺に聞いてくれた
「仕方ないなあ」と言いながら
俺は喜んで教え続けていた
だが、ある日
俺の同僚や上司にも仕事の質問をしていて
とてもモヤモヤした
何故俺に聞かないのか、分からない。
そして俺が何故モヤモヤしているのか、分からない。
きっと独占欲なのだろう
知識がないほのかちゃんに
0から10までは俺が教えて俺の色なのだ
11や13だけ他の色に変えられるのが
積み重ねた積木を崩された気分になる
我慢が出来ず俺から手を差し伸べるようになった
「いつも助けてくれますね」
って言ってくれた時は
「あたりまえだろう」
と言いかけた言葉を飲み込んだ
そこから休憩時間はよく恋愛話になり
俺の彼女の事を都合悪く聞いてくる
ラブラブだと答えるし好きだと答える
そしてその時のほのかちゃんが
「羨ましい」と言うのだが
「じゃあ俺の彼女になれよ」
って言葉を飲み込んだ
かなり仲良くなったある日
親しい上司に呼び出された
内容はあるアルバイトが
俺の教育中の距離感が近すぎると
悩んでいるということだった
俺にはわかった
それがほのかちゃんだったことは。
何故なら俺はどんな仕事も
ほのかちゃんにしか教えていないからだ
その上司は俺の憧れの上司だ
男前で仕事が出来て貯金も高い車も持っていて
しかもオシャレで清潔感もある
普段は面白いが怒ると怖いという
理想の、憧れの、上司だ
普段は無口で踏み込んだ話題は話さない
とてもクールなので一歩が踏み込めない
俺より立場があるからこそ
アルバイトはもちろん
俺達部下からも一定の距離を置いている人だ
その人にほのかちゃんが相談したとは思えない
というより2人が話している所を見たことがない
何が言いたいかというと
その上司はショートカットでボーイッシュな子が
タイプだという情報だけが職場で流れていて
ほのかちゃんもショートカットでボーイッシュなのだ
俺とほのかちゃんの仲の良さが
上司は気に入らなかったから
まるでほのかちゃんが悩んでいるかのような言い方を
あえてしてきたのではないかということだ
まあ本人も悩んでるから
いつも通りで距離だけは取るようにとの指示だ
尚更怪しいではないか
その日にほのかちゃんが話しかけてきた
「上司と何か話しましたか?」
「何も話していないよ、なんで?」
俺は驚いた
そして憧れの上司に心の中で
全力の謝罪をした
きっと本当に相談したのだろう、きっと。
するとほのかちゃんが
「どんな話を聞いたとしても、自分の事は直接話しますので、直接聞いて来てください」
「わかったよ」
としか言えなかった
困惑状態だった
それから俺はいままで通りを装った
ほのかちゃんはよく業後にご飯に行くのだが
色んな人達と行っているのだ
俺は職場が遠い為、人間関係を築いていない為
誘われる事も誘う事もない
羨ましいとも行きたいとも思った事はない
ただ、ほのかちゃんとは行ってみたいと
心のどこかでずっと密かに思っていた
そんなある日
俺の後輩がご飯に行こうという話を
俺とほのかちゃんの居る所で言い出してくれた
もちろん俺が彼女いる事は知っている
きっとその後輩もほのかちゃんを
可愛がっているのだろう
三人でご飯に行った帰り道
助手席にいるほのかちゃんに
何故かほっぺたをつんつんとしてしまった
話の流れも何もない、唐突にだ。
ほのかちゃんは驚いていたが
後輩に見られてないかを即座に確認していた
俺はそれを見逃さなかった
ということはだな
つんつんされるのが嫌というよりも
それを見られる方がきっと嫌なのだ
これがふたりっきりだったら
きっと反応は異なっていただろう
帰り道ひとりでラブソングを聞きながら思った
そこから俺はふたりの時間を狙っていた
仕事を言い訳にふたりで作業してみたり
何か頼む時にすぐほのかちゃんを呼んだり
ふたりで過ごす時間をとことん作ってみた
そしたらほのかちゃんが変わり出した
相手からとてつもなく触れられるようになった
いつも話題は恋愛の話
以前とは異なるのが彼女の質問ではない
好きなタイプだったり嫌いなタイプだったり
質問が合コン仕様になってきた
そしてボディタッチが激しくなってきた
喜ぶ自分と警戒する自分
ほのかちゃんは一体何を考えているのだろうか
そんな濃い日が続くようになっていた
気が付けば脳内はほのかちゃんだらけ
ほのかちゃんは
とても良い匂いの柔軟剤を使用していて
近付くとシャンプーの香りがする
程よい肉付きと耳に残る声
俺は毎日が楽しくて仕方がなかった
そんなある日
4人でご飯に行こうと言う奇跡が起きた
ひとりは予定で断ったのだが
それは俺の予想通りだった
俺とほのかちゃんと残るひとりが
例の、憧れの上司だ
明日も早いですし無理しないように
と適当に、遠回しに来るなとアピールした
すると行かないってことになったのだ
念願のふたりでご飯
はじめての話題になったお寿司へ
だがほのかちゃんは少し不安そうだ
「ふたりって、彼女さん大丈夫ですか?」
俺の嫌いな話題だ
「バイトとご飯に行く事もあるよ」
「大丈夫ならいいんですけどね!」
いつもの笑顔に戻ったが内心は分からない
だが助手席に乗せるのは二回目で
ボディタッチも絶好調だった
ほのかちゃんの匂いがたまらなく安心する
駐車場からお店まで数分程歩いたのだが
ふたりで店舗外に歩くと緊張した
まるでデートのようだ
だが話題は仕事の話になるのが引っ掛かる
プライベートだからと言って
仕事関係の話題出したらビンタするルールを設けた
お互い数回程出してしまい
ビンタしたりされたりしながら
お寿司を食べた
楽しくてビールが飲みたくて仕方なくなり
ノンアルコールを注文した
ほのかちゃんも付き合ってくれた
一緒に乾杯した
最後の晩餐とはこんな感覚なのだろうかと
ノンアルコールで浸っていた
帰り道はお店まで送ったが
ほのかちゃんは帰る感じではない
コンビニでジュースを買って話した
だが帰る感じがない為
「お家まで送ろうか?」
と聞くと
少し悩んでから
「では、お願いします!」
と言われほのかちゃんの家の近所だという
コンビニまで送った
だが、お店から近所なのだ
ほのかちゃんはまだ帰る感じはない
すると突然話を切り出してきた
「実は悩んでたんです、距離のお話」
「上司に、相談したの??」
すると、女性の先輩に相談してる所を
たまたま聞かれてしまったという事だったらしい
「でも、距離の捉え方は人それぞれなので考え過ぎなのかとも思ってました」
「何か、ごめんね。そんなつもりはなかった」
ほのかちゃんもこちらこそという様な素振り
だが
「でも、ほっぺたつんつんって誰にでもしないですよね??」
「言われてみれば…しないね」
「もおおおぉーわかんなあああぃ」
お互い笑い合っていた
「今後は気を付けるね」
と約束をしてほのかちゃんは帰宅した
その帰り道は別れの歌を聞きながら帰った
そこからほのかちゃんは
何となく親しい感じを出してくれるようになった
それが居心地が良かったのと
周りの驚いた顔はもはや優越感だ
俺はほのかちゃんには色んな感情を満たして貰える
だがボディタッチの話の時に
「私だけっていうか、お兄ちゃんみたいな感じなので、妹みたいな感じですよね?」
「一番自分が納得する解釈でいいよ」
と委ねた
妹とは思った事はない
そもそも妹いないから分からない
そして妹が欲しいと思った事もない
だが彼女の事を考えると
彼女がいる事を知っている職場と考えると
それが一番都合良くて距離も一定だと思った
とりあえずそのお兄ちゃん枠で我慢しよう
そんなある日俺が飲みに行った事のない先輩と
アルバイト複数が飲みに行ったというお話だ
そこにほのかちゃんもいたそうだ
俺は職場が遠いのでいつもマイカー出勤だ
だから勤務後にご飯に行く事が出来ても
ほのかちゃんとは飲みには行けないのだ
それを複数とはいえ羨ましい話じゃねーか
なのでその先輩に
「僕達行ったことないからいきましょーよ」
とあえてほのかちゃんの前で誘った
先輩は
「いこういこう!いつにするー??」
なんて話をしてたら3人が休みの日があった
ほのかちゃんも冗談まじりで
「その日私もあいてまーーーす」
これは楽しい展開だと思っていると先輩が
「ごめん、この日は彼女と約束してる」
それで別の日にみんなで行く事になったのだが
「私やから飲みに行ってくれないんですかー?」
と、休みの日のことをぶりかえしてきた
「いやいや、いく?いいよ!」
と言ったら幸せそうに
「行きましょう!」
と言ってきた
急遽楽しすぎる展開になってしまった
デートではないか
だが、連絡先を知らないので帰る時に
ほのかちゃんが場所の指定と
「18時待ち合わせで18時15分までは待ってます」
と言ってきたので
「わかった、15分までにいくね」
と言ってたら俺の先輩が
「不便やねんから連絡先交換したらええやん」
と言って電撃が走った
ほのかちゃんも嫌がる素振りない
むしろ不安そうな顔をしている
きっと俺の嫌いな話題が原因なんだろう
そして連絡先を交換した
家に着くまでにほのかちゃんから連絡がきた
「本当は先輩誘ってたのに、先輩来れないし私とふたりで彼女さんは大丈夫ですか??」
本当に俺の好きなほのかちゃんは
俺の嫌いな話題が大好きなのだ
「大丈夫だよ、やっぱり無しでって言ったら嫌でしょう??」
ちょっと意地悪をしてみた
そしてあなたが嫌がる事はしないという事
彼女<ほのかちゃんだと伝えたかった
「嫌がれる立場じゃないので、構いませんがちょっと落ち込んじゃいます」
すぐに来る返信に心が踊る
いちいち謙虚な感じがずる賢い気がする
落ち込むって事は俺と行きたいという事だよな?
数日前から楽しみで仕方がなかった
そしてデート日がついにきたのだ




