あいにーどもあぱうわー
ぬるり、断ち斬れないまま撫でるような感触とともに、振るった剣が耐え切れずに砕け散る。振り下ろし、切り上げ、抜き打ち。様々な方法で剣を振るうが、そのいずれもが確かな手応えを残さぬまま反動だけを蓄積させていく。
ガラスの剣どころか、まるで砂で出来ているかのように脆く崩れ去る剣は、しかしそれによってまだ私に力が不足していることを伝えてくる。速さか、鋭さか、力か。あるいはその全てか。百に迫る剣の残骸を量産しながらも、一向に掴めない手応え。
はたしてこれは何を斬ろうとしているのか、自分自身でも理解できないままにただ感覚を信じて、斬れるという信念を載せて剣を振るう様は、傍から見ればただの素振りにしか見えないだろう。砕け散る剣を度外視すればの話ではあるが。
ふと、腰の剣に手が伸びそうになる。これを使えば斬れるかもしれないという誘惑が、無意識のうちに手を伸ばそうとする。無論道具が良ければ結果も変わるかもしれないが、そこまでの手応えを感じているわけでもない。
余計な事を考えたと、一旦休憩を挟むことにする。安物とはいえ多量の剣の残骸は積もるというレベルを超えているし、斬撃の余波で散弾のように吹き散らされて周囲もひどい有様になっている。修練場のくせにやわな所だ。
剣を振るうのを止めて少しすると、パラパラと人が入ってくる。明らかに修繕を必要とする悲劇的ビフォーアフターに驚きのあまり声も出ていないが、頼めば快く片付けを手伝ってもらえた。これも主人公の人徳というものだろうか。
しかし、学園に頼んで支給してもらえる剣だが最近は渋られている。鍛造の量産品どころか鋳物の模造剣もどきを山と積んであったはずの倉庫を空にしたのが悪かったのだろうか、かといって私の資産や他のコネではそこまで消耗品を手に入れられないだろう。
どちらかといえば金ではなく品そのものが足りないという状況らしく、鍛錬の時間を一部木剣作りに充てなければいけないくらいには切羽詰まっていた。全てはあの何かを斬れれば解決しそうなのだが、それにはもっと修練を積まなければいけない悪循環。
ああ、全くままならないものだなぁ。レベルでも存在していてくれたならもっと手軽だったのに。