眠りにおちた船
はじめての中華料理は2度目の船の中だった。
円卓ではないが回転テーブルがつけてあって大勢でテーブルを囲んでご飯を食べられるという事が嬉しかった。
ドラゴンには基本的に人間と同じように「食事をとる」という習慣がないと聞いていたけれど、この7ヶ月でローリエにもそれは習慣付いていた。
ギアはもともと作るのが好きで料理を作ったり食べたりしていたし、ブラムスも食事をとることに抵抗はなく、ほぼ全員が同じ皿に盛られた料理をつついた。
「中華料理って辛いイメージがあるけど、そうでもないね?」
「お前はシシトウ除けてるだろ!辛いんだからな!」
「箸が進むっていうもんだ」
ある者はコップを片手に、ご飯の盛られたお茶碗を片手に料理をつつき、ある者は辛そうでないものを選りすぐって楽しんだ。
「舌がしびれる…」
「それは山椒のせいだろう、美味いもんだ」
中華料理の辛さにはふた種類あるのだとおかずを口に放り込みながら考えた。
麻、舌がしびれる刺すような辛さ。辣、燃えるような熱を伴う辛さ、今日テーブルに並ぶ四川料理にはそれが多く用いられるのだと聞いた。
楽しそうなテーブルの端でシュトはむっつりと顔をしかめている。
子どもにはいささか刺激が強すぎるので一人だけお預けを食らっているのだ。楽しいわけがないだろう。
ささやかながら茶碗蒸しのようなものをレンゲで食べているだけ。それも十分おいしいと思うのだが辛い辛いとみんなが楽しそうに食べているのがやはり面白くなさそうだ。
トリシアは漢字の羅列するメニューを読解して辛くなさそうなものを注文する。
正しければ川エビの素揚げが来るはずだ…たぶん。
「シュト、今日停泊する町で最後だって。明日はもっと小さな船に乗って開催地に行くってローリエが言ってたよ」
隅っこの席で意地を張って縮こまっているシュトを抱きかかえて膝の上に座らせる。
シュトがいくら抵抗したってトリシアにはクッションほどの重さしか感じさせないのだから簡単なものだった。
菜箸で取り分けた菜をシュトにすすめる。
「ひとくち、食べてみる?」
たちまちシュトの顔が嬉しそうに崩れてフォークとスプーンで口に運ぶ。
箸はまだ少し難しいのだ。
甘辛い味噌の味にシュトが一層嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ねえローリエ、開催地ってどんなところ?町なのかな?」
「え?うーん、町っていうか、別荘かなエラーい人の」
「そこに世界中のドラゴンが集まっても平気なの?」
「うん、それは大丈夫」
と、その続きが聞きたかったのに料理が運ばれてきて話が途切れる。
うん、よかった川エビの素揚げだ。
シュトにすすめる。
「でもね、悪いけどみんなには一服盛らせてもらう」
「それって、道のりを見られたらまずいっていうこと?」
「そうなるね、みんな分かった?」
一同は料理に夢中で了解したように頷いた動作も片手間、ローリエは苦笑する。
さすがは成長期の男子だ、食べる量が自分とは違う。
「謀ったな…」
レイ、アラン、デミトリ、チェキ、グラハス、マーティ、シン…自分を除く全員が泥のように眠っている。幸せそうにいびきをかいているのだけがせめてもの救いだ。
「有言即実行ってわけ?」
恨めしげに向かいに座るローリエを見やるとテーブルの上で手を組んでいる。
「みんなの了解は得ている、君だって見てただろう。聞きたいのはこっちのほうさ、…なんで君は眠っていないのかな?」
いま、猛烈な眠気に襲われているが同時に同じくらい強引なやり方に呆れている。
「結構眠いんだから…薬が効いてないってわけじゃないし…作戦は成功したんじゃない?」
ふあ、とあくびをすると、まぶたが重たくなってきた。体も眠りに落ちる寸前というところだろう。
「あなた方は…開催地までの日程、を…嘘ついて、んでしょ。本当は今日着く手筈で…でも、起きていられると都合が悪い…だから観光を楽しんでいる隙を突いた…?」
席をを見やるとやはりギアとブラムスは起きていた。
「相変わらず頭がまわるなあ」
呂律はまわってないけど。
最後の力を振り絞って精々恐ろしげに見えるように睨む。
「シュト…シュトになんかあったら、許さないから…それだけは…」
約束して、という言葉は寝息にうもれてかききえた。
「だってさ」
「おっかないわねえ、あれって執念で起きてたって感じね!健気な子~!」
「しょうがないじゃないだろ、まさか船じゃなくて『おれたち』が運ぶ~だなんて口が裂けても言えないしさ」
「普通の人間だったら卒倒するだろうけど、この子たちは嬉々として「連れてけ」って言うだろうしぃ~」
そう、見られて都合が悪いのは道のりではなく自分たち、即ちドラゴンの姿だ。
「…っていうことなんだ、シュト。トリシアは眠っているだけだ、安心してくれ。私たちの後について来てほしい」
寝息を立てる少女の膝の上にちょこんと座っているもう1匹のドラゴンに伺いを立てる。
「トリシアが無事ならシュトは良いけど、うまく飛べるかわかんない」
道のりは船で3日ということに誤りはない。ただドラゴンの足だと(この場合は翼と言った方がいいのだろうか)ここから2時間半というところ。
圧倒的に速いのだ。
ローリエは腕まくりをしつつ立ち上がる。
「さあ、言うからにはさっさと片付けてしまおう」
見渡すと同じく船の中の乗客は眠りに落ちている。もともとこの船に乗っているのはドラゴニスタ総会を目指す人間しか乗っていない。いや正確には、部外者を乗らせていないのだ。
組織力の発揮のし甲斐があるというもの…、妙な感慨に身をゆだねながら軽く深呼吸をした。
眠りに落ちた船内は不気味なほどの静寂に包まれている。
立ち上がっている者は皆人間ではない。我々の同胞だ。
「目指すはドラゴニスタ総会会場だ、構わないな?」
席の向こうで数名が頷き返してくる。
「では、状況開始」
人目につかない河の影から数匹のドラゴンが次々と翼を広げ船から飛び立った。
古来、この風景を偶然に見た人間が、この地に龍という神がいるのだと云ったのかもしれない…。
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すっごい嬉しいよ!嬉しいよ!
皆々様本っ当にありがとうございます!
はい、今回の話は(全体的な意味あいではドラゴニスタ総会の話)ドラゴンが集う話ですのでドラゴンはホイホイ出てくるし
筆者は遠慮なくパシらせます
交通機関代わりにドラゴンも使いパシらせますし、知ったこっちゃねえと言わんばかりに飛んだり跳ねたりします
…いや跳ねはしないか、しないな
とにかく、ドラゴンが出てくるので「ドラゴンの話」とさらに胸を張って語れそうです!よかった!
その辺は楽しみにしておいてもらえるとうれしいです
今回も読んでくださってありがとうございます!
次話も乞うご期待☆




