ご招待します
玄関が突然開いた。
「ただいま。今日はえらくにぎやかだな」
「…おかえりなさい」
レイは別段驚いた風もなく、シュトとギアが言い争っていてもちょっと眉を動かしただけだった。
カバンの中から束ねられた紙を取り出しトリシアに渡す。
「いつもありがとう。本当はもう塾に通ってもいいんだけど…」
申し訳なさそうに肩を落とす。
「いいから黙って休んどけ。医療隊のOKサインが出るまでは家に居ろ」
束ねられた紙は今日使った授業の資料とディスカッションの大まかな流れと発言者、その他諸々が細かく書かれている。
意外と、こういうところが律儀な人だといつもながら思う。
レイはレイで、痛みにうなされて怖い夢を見てローリエの肩で泣いている姿を見ているから軽々しいことを言う気になれないでいた。
出来る限り、安全を約束されている家に縛り付けていたかった。束ねた資料や授業内容の紙切れなんてその口実に過ぎないし、それで彼女が満足するならばいくらでも惜しくは無い。
壁で部屋が隔たれていても、悲鳴も飛び起きる気配もローリエがなだめる声も泣き声も何もかも聞こえる。
リビングに行くと大抵ギアがぼんやりと目を開けてシュトを寝付かせてやっていて、ばつが悪かった。
間近にいると彼女が本当に「ただの女の子」だという事が思い知らされた。
少し躊躇って頭をぽんぽんとあやすように叩く。
トリシアは辛抱が切れたように悔しそうに声を上げた。
「~っみんなが寄ってたかって子ども扱いするうっ!」
「なに、どうした?」
いちばん驚いたのはレイだろう。
「私だってこの春で19なのに!女性らしさだってないし、体つきも幼いけども!」
「ううむ、難しい年頃だなあ。よしよし」
神妙な顔で癇癪を起したトリシアを抱きしめるのはローリエ。
「キスしたり、あやしたり、お姫様だっこしたり…!私は子どもじゃない!」
「おれはキスなんてした覚えないぞ?」
まあ落ち着きたまえと、ギュッとトリシアを抱き寄せてローリエが件の招待状をレイに見せた。
「レイリエス・フラガ殿、第6052回ドラゴニスタ総会が開催されるのだが、トリシアとシュトが招待された」
たっぷり30秒、彼は脳内で言葉を処理するのに時間を要した。
そしてきっついこと聞いた、と顔をしかめた。眉根をよせて、そのあと出来るだけ笑顔になるように表情筋を動かしたのだろうが、お世辞にも笑っているようには見えない。
「…最後に開催されたのいつでしたっけ?」
「たしか…人間の暦だと第一次世界大戦前?」
可愛く小首をかしげてローリエが笑みを浮かべる。美人だと些細な仕草でも絵になる。
第一次世界大戦なんて世界史の授業でしか見聞きしていないし、年表が必要だ。
「それで、だ。ものは相談だが、本来は親族を連れていくために10人ほどトリシアが人間を招待できるんだ…が、彼女には近親者がいないだろう?私としてはあの塾生たちを招待してはどうかと考えている」
「ローリエ?私そんなこと聞いてなっ」
トリシアの顔面にクッションを押しつけて力ずくで黙らせる。むぐむぐと言っているトリシアを気の毒そうにレイは見つめた。
「しかしな、君も知っての通りあそこにいる人間は嫌にプライドが高いきらいがある。いい思いはしないだろうが、トリシア単身で行かせるのは私も心配だ」
悩ましげにそう言って、紙を差し出した。
「そこに署名してほしい」
「署名したら、行けるんですか?」
「それはもう、驚くほど簡単に」
そしてローリエはまだ迷いのある彼に駄目押しに耳元で囁いた。
「トリシアは器量もいいし、シュトの一番近くの人間であるからきっと政略結婚目当ての男どもが言い寄ってくるだろう。…心配じゃないかい?」
梅干しとワサビと苦虫を一緒に食べると、多分あのような顔になるのだろう。レイは苦い顔でローリエをにらんだ。
ローリエは人の心を操る術をよく心得ている。円滑な人間関係を作るには全くもって不向きだが。
「…分かりました、行きましょう。明日塾に行ったら彼らの分の署名も持ってきます」
「あ、あのっ」
ようやくクッションから逃れたトリシアが声を上げた。
「……シンの分の署名も、お願い。まだ追跡者の棟に居るんでしょ?」
二人は顔を見合わせて、笑った。
「だ、そうだ。レイ頼むよ」
「心配しなくてもそのつもりだ、馬鹿」
トリシアは心底安堵したようににへっと相好を崩した。
「ならいいの」
レイはシュトとじゃれているギアの方に目をやった。
「ずいぶん調子がよさそうじゃねえか」
「おかげさまで、夏に大きなイベントがあるらしいんで少し裏技使った」
動かなかった左腕を振って見せる。
「おれは多分、この一回きりだろうな。人生で1度だけって言うのも乙なもんだ」
「なんだよ運が良かったら、あと1回くらい行けるかもしれないぞ?」
「うっさい」
手元にあった本を投げつけるが、ギアは「おっと」と身をかわしてよけた。
「…本当に良くなったんだな」
「まあね」
薄々、あの掃討作戦で翼を打ち抜かれたドラゴンがギアだと気付いていたのだろう。
感慨深げにまじまじとギアの姿を見つめた。
「あんまじろじろ見んな。気色悪い」
お預け状態だったレイがログインしてくれました~
やー、よかったよかった、安心した
レイもだけど塾生サイドもそのうちでいいからログインしてほしい~
仲良くケンカをしているレイとギアの通常運転です
今回も読んでくださってありがとうございました!
では次話も乞うご期待☆




