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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
羽化(誕生編)
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少女は傷つきながら

「さっきお医者の格好をした人から渡されたんだが、人間はこんなに面倒くさいものを飲んだり食べたりするのかい?」

かなり大きめの紙袋には鎮痛剤を筆頭とする錠剤が詰め込まれていて、一日何回何錠飲むのかきちんと指示する四つ折りの紙も入っており、だいぶ安心した。なにぶん、人間の自分でもびっくりするような薬の多さだったので、逆に病気になるんじゃないかと目を疑った。

「自然治癒には限界があるんで、こういうのに頼らないと死んでしまうんです」

ローリエは驚愕の事実に目をむいた。

「なんと…!そんなに脆いのか!人間は!よくもここまで繁栄できたものだ!」

「さあ、生殖能力の違いが大きいのではないでしょうか。ドラゴンの子育てのスパンは長いと聞きますし、一人前になるまで時間もかかるでしょう?」

「ああ、そうだなあ…、愚弟、いやギアはまだまだ一人前には程遠く教育には私も苦労している」

「そうなんですか?」

思わず笑いが漏れる。姉の前ではあの完璧超人も形無しだ。

この二人の会話には大きな欠陥がいくつかある。ひとつは種族の違いによる情報の共有がなされていない事。薬を飲むという行為の認識の薄さ、歳月の認識…だいたい生殖能力なんて言う言葉を日常会話で使う事態に陥らないし、そもうら若き嫁入り前の娘が口走っていい言葉とも思えない。

いったいぜんたいどうしたんだこの状況。

まだショックから立ち直れていない様子のレイは唖然としてただただ二人の会話する様子を呆けたように見ている。

「君はシュトラーフの親代わりなのだろう?あの子に治癒をしてもらっても不都合はないのではないか?」

それはドラゴンとしては自然な思考だった。

息をするように魔法を使い、世界の調和を保ってきたドラゴンとしては怪我を治すくらいどうってことのないことだろう。

シュトがピクリと身を動かし、頭をトリシアに向けて額をトリシアに寄り添わせた。

考えが揺らぎそうになるのを必死にこらえた。そうしなければ、きっと教育者としての大事な部分を失う。

だからはっきり、トリシアは首を横に振り否定した。

「駄目です。もしもあなたのような成熟したドラゴンの申し出なら頷いたかもしれませんが。人間とドラゴンの区別があいまいなシュトにはさせられません。人間の治癒能力の低さも、魔法の及ぼす影響も、きちんと教えていくというのが私の方針なので」

すみません、と深く詫びた。

魔法の行使を否定することはドラゴンの文化やアイデンティティーまで否定することになる。敬意を払う身としては詫びるのが自然な礼儀という物である。

「頭を下げることはない、むしろ私は人間として君ほどドラゴンへの理解があることに驚いているんだ」

ローリエはテキパキと私の身の周りに散雑しているものを、実に要領よく片づけて松葉づえを差しだした。

「まだ、痛むかい?」

答えに詰まった。

何でそんなことで言葉が出てこないのか、自分でも自分を疑った。

彼女は同情も憐憫の感情もおくびにも出さず、言葉をかけた。

「正常な反応だと思う。たかだか18年しか生きていない小娘があんな体験を前にして心を律する必要はない」

彼女は人差し指でとんとんと私の胸を叩いて指差す。

「君は子どもで、私は大人だ。ギアだって成熟こそしていないが君の何倍も長い年月を生きている」

ああそっか、すとんと胸に言葉が入ってきてぽっかり空いた場所に収まった。

私は子どもなんだ。

人を頼って、甘えて、そう言うことが出来ない立場だって思い込んでた。

シュトが生まれた時にその選択肢を自分で隠してしまっていたんだ。

教育者として、親として、大人として、正しいことをしめしていくのが自分の使命だと思って行動していた。

でもそれは、ひとりの人間の生き方としては間違っていたんだ。

だから、ローリエの言葉がこんなに強く胸に響くんだ…。

「怖かったな、痛かったし辛かったな、君はそれでも負けなかった、卑劣な相手に屈しなかった」

だから今泣いたり傷ついたりすることは敗北ではないし、相手に貶められることではない、それと同じ言葉をいつか聞いた気がする。

喉の奥が熱くなって、締め付けられたようにくっと苦しくなった。

「お、お父さんもお母さんもい、いないしっ、わた、わたしはシュトの何にならなくちゃいけないのかも…わか、んないしっ」

「辛かったな」

嗚咽が漏れた。今更、恐怖が噴き出して壊れた蛇口のように溢れて止まらなくなった。

怖くて怖くてたまらなかった。死ぬかもしれない、撃たれるかもしれない、捕まった時のあの絶望は今までのどのものとも比べられなかった。

誰か助けて!

悲鳴も上げられなかった。助けてとシュトに言えるはずもなく、悲鳴をのみ込んだ。

「君はとってもドラゴンに理解がある様だけど、私は君がいつも正しくなくてもいいと思うし、一緒に成長しても何も差し支えることはない」

「…はい」

涙を指でぬぐって、ローリエを見つめた。

彼女の笑みは一層鮮やかになりトリシアもきつくつぐんだ唇をほころばせた。

さてさて

いよいよ羽化(2)もエンディングに近づき、次の展開も見えてきて

早く次の章を書きたくて仕方が無い感じです

次の章は筆者的にはsheathを書くにあたってもっとも

sheathの世界観を色濃く反映した感じに仕上げたいなあ!と思ってます!


気合だけは十分です!

では次話も乞うご期待☆

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