out of sight
塾は7人中3人、トリシアを含め実に半数が病欠を申し出ていた。
「…なんかあったんっすかね」
勘のいいデミトリでも「何かあった」くらいしか予想がたてられない。
「病欠は病欠だ。どうする、今日はいっそのこと休講にするか?」
それも構わないような空気。
ただシンが頑なに机から顔をあげない。ずっと俯いたまま。
チェキも上の空。
ため息をついて決める。
「よし、決めた。今日は休講。各自好きに時間をつぶすように」
努めて明るく、レイはそう宣言してスタスタと教室を出ていった。
背中でドアを閉めた瞬間に顔が深刻に歪む。
病欠を申し出たのはマーティ、グラハス、トリシアの3人。何かあったのは確実だ。マーティとグラハス、追跡者たちはきっと仲間を引き連れて任務を遂行しているはず。
均衡が崩れたのだ。
しかも劇的に、突然。
仮にもしも、孵化したとしてもこれほどまで引っかき回されることはない。無いはずなのだ。
追跡者志望者には別棟で宿舎がある。
さっき、様子を見に行くと、そこは戦場のようだった。情報部隊が無線機とにらみ合い、暗号解読に追われていた。
十中八九、DPartyと戦闘中。しかしそれ以上に情報戦がカギを握っている。
いったい何があったというのだ。
「せんせ、そんなに眉間にしわ寄せてたら女の子逃げますよ」
「お、おお。いたのか」
いつの間に、チェキが横に並んでいた。
「トリシ―は分かんないですけど。追跡者組、休みでしたねえ」
「……」
レイは何も言わず黙っている。
「…明朝、夜明けと同時にドラゴンが飛んでったんですよ」
「何っ?!」
レイの食いついたリアクションににやりと笑みを浮かべる。
しまった、釣られた。
「先生、何知ってるのか今は聞かないでおきますけど。これは貸しですからね」
チェキはにっこり笑って指を2本ゆらゆらと振っている。
「今朝、俺は馬場に降りてました。クラブさんに頼み事されてたんで。そしたら、いきなり超低空飛行で真っ黒いドラゴンが飛んできた」
チェキの笑みは次第に薄れ、真剣な顔に変わる。
「その後はもうお祭り騒ぎですよ。よくみんな眠ってられたなあって感心しますわ。潜伏していた人間が大勢いたんでしょうね、追跡者とPartyの連中とドラゴンとで鬼ごっこ」
途中で堪えきれなくなったのかチェキが笑い声をあげた。
「…っはは、はははっ、すみません。でもホント、もうこの世界信用ならんくなりましたよ」
ひとしきり彼が笑い続けるのを、レイは呆然として見ていた。
「おれ、ドラゴン見たのはじめてだったんで、もうゾクゾクしましたね。追跡者も連中も馬鹿みたいに間抜けな顔で空を見上げて乱闘なんて、そのうえでドラゴンが空飛んでるんですよ?もう、」
彼は震えていた。
高揚した気持ちか、それともドラゴンへの畏怖の念か。
「……でもあんな人数が潜伏していた理由が分からない。見た感じ、まんまとあのドラゴンに誘き出された感じですね。全員」
そしてとっておきの話をするようにレイに顔を近づけて耳打ちする。
「…シン、最近様子がおかしいんですよ。気にかけてやってください。…絶対なんか大きなことに巻き込まれてます」
スッとチェキが身を引く。一瞬の出来事で、傍から見れば何事もないように見えるだろう。
「…貸し2、ですよ」
彼がレイにしか見えないように指を2本立てて揺らす。
まず、レイが向かったのはトリシアの家。
だが、明かりは付いていない。おかしい、トリシアは眠っているとしてもあの野郎、くっつき虫のようにトリシアにべったりのギアがいない。
どんな時でもいつだって、不愉快極まりない態度で迎え入れるのに。
自然と、あの洞窟に視線が向かう。
何故だろう、洞窟まで数十㍍の距離があるのに、鳥肌が立つ。
…恐れ?馬鹿な。
いつだか、あの洞窟の前で恐怖に震えるトリシアを馬鹿にした自分が、恐れている?
足が地面に根を張ったように動かない。
苦笑いが浮かぶ。
まいったな。
そのとき歌声聞こえた気がした。
か細い少女の洗練な歌声。
トリシアだ、そう思った瞬間に鳥肌も金縛りも解けた。いとも簡単に。
洞窟の目の前に立つと、地面にこの世の生物のものとは思えない大きさの爪痕が刻まれていた。地面をえぐり、土が見えている。触ると湿っていた。新しいものだ。
歌声が、洞窟の奥から聞こえる。子守唄、だろうか?
声のする方へ枝分かれた道を選んでいく。改めてみると。大変な迷宮だ。
声を求めて、最後の長い道をゆっくりと歩く。
仄暗い洞窟に灯がさした。外か?
道を抜けた途端、声が鮮やかに一層美しく響いた。
タマゴの安置されていた最奥の空洞にそれはいた。
トリシアの膝もとでまどろむ、一匹のドラゴン…。
当分はout of sight組と本陣(トリシア側)とが別々に話を進めていかれます
それをつないでくれるのは良くも悪くもレイ、そしてマーティですね
グラハスはどちらかというと口下手なので状況説明はこの二人に任せます
あー、大丈夫かなあ
out of sightは「視野にないもの」直訳するとそんな感じです
つまり「眼中にない」もしくは「部外者」といったニュアンスで使ってます
英語に明るくないので、使い方が間違っていた場合は、心広く許してやってください(笑)
そうそう、このout of sightって色々調べたんですけど
探せども探せども同名の映画に引っかかってしまうんですよね
しかしこのout of sightの連中が黙っているはずがない!
意味ありげなフラグ、立てたつもりです
「眼中にない、部外者」だからこそいろんな奴らのはなをあかしてやれるはず
では次話も乞うご期待




