ホリデイ(2)
トリシアに休日をプレゼントしよう、ということを『笑顔が見たい作戦』にて採択された。
気が張っているから、リラックスできないんだ。という認識が彼ら、正確には我々の考えとして一致した。
「…って言ってもなあ。あいつ、また勉強してそうだし」
勉強されていては、休日をプレゼントした意味も意義も何もない。
ちょっと様子を見に行くだけだ、と言い訳をしながら寮から塾へ塾から弓場へ馬場へ続く道を下って行きトリシアの家の庭へ下りた。
庭と言ってもこれがけっこうな広さで、手入れされた庭園とはかけ離れた草原である。
向かいの木陰では鹿が草を食んでいた。
膝より少し低い位置まで伸びた草をかき分けて進む。
家に籠っているだろう、と思っていただけに草原で寝ころんでいる人影にギョッとした。
トリシアだった。
いつもより女の子らしい格好でタマゴを抱きかかえている。
服装は本来の彼女の趣味なのだろう。
やはり、クラスの中で自分一人だけが女だと言う事を気にしているのだろうか。
「…おい?」
顔を覗き込むと眠っていた。
無防備な姿に心臓が一度だけやけに大きくドキリと鼓動を刻んだ。
『よく見ると、すっごい可愛いんですよ』
脳裏にアランの言葉が閃く。
ただ、少し見つめていただけなのにやましい事をしているように思ってしまう。
「おい、起きろ」
やましいという気持ちを振り払うように肩を揺り動かした。
彼女は少し身じろぎしただけで起きる気配はない。
「おいって」
「…や」
眉根をよせて膝を抱えるような格好でごろんと寝返りをうつ。
不覚にもその仕草に今度ははっきりとドキッとしてしまう。
生徒たちの言葉にいいように振り回されている。
嫌だと言われてもこのまま放ったまま帰るわけにはいかない。
仕方なく彼女の膝裏と首元に手をすくい入れて抱きあげる。
少し重かったが気にするほどではない。
彼女の体つきからするといたって健康的な重さ。
彼女の抱きかかえているタマゴはまるでただのクッションのように細腕の中におさまっている。
歩くたびに軽やかに弾む彼女黒髪と、愛らしい顔は、認めたくないが確かに可愛かった。
彼女の家の玄関を躊躇なく開ける。
「トリシアお帰…り」
出迎えた男はあからさまに不快感を露わにする。
出迎えられたこちらも、眉をひそめる。
「どういう事だ、トリシアに触るな」
強く言われても、顔色一つ変えずに立ちふさがる。
彼は腕の中のトリシアの事を言っているのか、レイが触れていることそのものを嫌悪するような目つきで問い詰める。
「こいつのことだからまた根を詰めているんじゃないかと思って様子を見に来た。そしたら原っぱで寝ていたから連れてきた」
教科書か説明書でも読むような調子で説明する。
「お前こそ、どういうことだ。寮への出入りがないから本部へ戻ったものだと思っていたのだが」
「まあ、成り行きでここに寝泊まりしている。お互い話したい事が色々ありそうじゃないか、とりあえずその娘を寝室に連れてって」
本当は今すぐ自分の腕の中からでも奪い取ってしまいたそうな顔をしているが本人はそれを隠そうともしない。
突き刺さる視線を背中に感じながらも彼女をベットに横たえる。
眠っている事を確認してドアを閉めリビングに戻る。
「で、お前は何で寝泊まりしている?」
「トリシアが泊ってもいいと言ってくれたから、厚意に甘えている」
「いかがわしい」
「私にはやましい事は何も無い」
一秒ごとに部屋の温度が下がっていくようなにらみ合いが続く。
ギアはテーブルの上で手を組んでいる。
紅茶を出すなどという客人を迎える行為などする気もない。
そもそもトリシアを抱きかかえて来た時点で客人とも思ってないだろう。
「やっぱり、丸く収まりたいなら3人で住んでしまった方がいいんじゃない?」
「馬鹿言え」
年頃の男女がひとつ屋根の下で暮らすなど悪い冗談だ。
「トリシアはもう自分のペースを掴んでいる。休日をもらった事もとても喜んでいたし」
喜んでいた、という言葉にかすかに反応する。
「彼女はここでとてもくつろいでいるよ。君の前では見られない表情もしているだろう」
ギアは的確に人の弱みを少ない言葉であぶりだし突く。
苛立ちを煽る。
「あの子はもともと明るくて快活な性格だからね、塾は少し窮屈じゃないのかな?」
この男が何を見知っているかなんて言う事はそれほど問題ではない。
ただ、あまりにも選ぶ言葉が的をついている。
しかし、ここで言われ放題になったまま引き下がるレイではない。
「そうだな、塾では少し気を張っているようだし、気晴らしに街に下りてはどうかと思って誘いに来た」
ホントは毛頭考えていなかったことだが、さも最初からそうしようと思っていたかのように言う。
ギアは眉一つ動かさない。
「それは奇遇だ。私もトリシアに買い物に行こうと誘われていたんだ」
互いに腹を探り合いながら手持ちのカードをきる。
ギアは挑発的に、しかし心底親しげに笑いかける。
「レイ、君も明日一緒に買い物に行くかい?」
「お誘い感謝しよう。では明日の朝に」
「そうだね、また明日」
ギアは立ちあがって玄関を開ける。
帰れ、という意味か。
苦々しく思いながらも席を立つ。
笑顔の仮面をつけながらもう顔も見たくないということを意志表示する。
家の外に出た瞬間にぴしゃんとドアを閉められた。鍵もしっかり施錠される。
思ってもなかった事を約束してしまい苛立ちから髪を掻き乱す。
「「あああああーーーーーーー!クソ!あの野郎!!」」
二人は同時に違う場所でそう叫んだ。
***
「えっ?レイ、トリシアを買い物に誘ったの?」
乱暴にうなずく。
「すごいじゃん!二人で?もしかしてデート?!なんで僕達も誘ってくれなかったの!!」
アランが叫んでいる。
これでは寮にいる全員に筒抜けだ。
「保護者同伴で3人!!お前たちは各々で誘え!以上!」
GWだと言っていたのにまたしても更新しましたね
どういうことだ
私としては早く坊やが卵からかえって話をトントン拍子に進めたいんだけど
登場人物が多くなると、それだけ言いたい事とか要求が増えます
秘密ですが、筆者は脳内で強迫されているのですよ(変人)
ではではGWだし?ホリデイ続きます
次話も乞うご期待☆




