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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
144/225

犯行声明

犯行声明はこうだ。


あなた方の「姫」の身柄はこちらが預かった。

危害を加える意思はなく、何かを要求する意思もない。

万が一怪我ひとつでもさせたなら、すみやかにそちらの制裁を受けよう。

トリシア・F・ルルーおよびシュトラーフを

我々ディPartyパーティが誘拐つかまつった。


もぬけの殻となったトリシアの部屋には窓から大粒の雨が吹きつけて床を濡らしていた。風になびくカーテンが幽霊のようだった。

荒らされた形跡はなく、争った形跡も見当たらず、犯行声明だけが残されていた。

レイたちはスタンガンで気絶させられ床に横たわっているところを発見され、ギアが呼び出された合図はフェイクでまんまと誘き出された形だった。

ローリエとアポロンが当分手いっぱいだということも筒抜けだったらしく、犯行工作と思われる行為はたったそれだけだった。


通夜のような静けさだった。

いっそ通夜だった方がずっとましだとも考えたが、明らかに通夜の方が最悪なので考え直す。

「お前一人の責任じゃない」

いらいらとせわしなく踵で床を叩いてリズムを取り続ける不安定なギアにローリエが深く深く息を吐いた。

彼女は膝の上で頭を抱え込み、うっすらとその周りの空気は冷気を帯びている。次に彼女が深くため息を吐くと真っ白に染まった。

「お前一人の責任じゃない」

ローリエの肩を慰めるように抱いてアポロンが言った。

「奴らは長期にわたってこちらを探っていた。それに気づかなかったのはお前だけの過失ではないし、緊急信号を使われたら誰かが助っ人に行くというきまりに従って場を離れたギアに過失があるわけじゃない」

「もっと、もっとよく考えればよかったんだ」

声が少し枯れている事を指摘するのは無粋なため、誰も聞かない。

「考えてどうにかなってればとっくに排除できてた!」

ローリエの叫びは自分を責める方へ比重が高くなっている。もうそろそろこの部屋から立ち去らせて本部へ帰らせた方がいいと目配せを交わしてギアとアポロンがローリエに触れて立ち上がるよう促す。

が、それを拒むようにローリエは震え立ち上がり真っ赤な目を怒らせた。

「指図は受けない!自分の意志で本部へ戻る!そのくらいの理性くらい残ってるわ!阿呆!」

触れた手が音を立てて凍りついてしまう。人のものではないおかげで害はないのだが。

部屋には龍の母語を行使した形跡だけがかろうじて残っていた。

呼び声だった、と捜査員から知らされた。

それがトリシアの使ったものなのかシュトの使ったものなのかまでは特定できないと、申し訳ないと頭を下げられた。

自分はそんなにも死にそうな顔をしていたんだろうか。

捜査員の調べが終わり立ち去った後のがらんどうの部屋。

いくら絢爛豪華で美しい装飾や調度品に囲まれていたって、主がいなくてはがらんどうだ。

「いつ帰ってくるんだ?そもそも彼奴等に返す意志があるのか?なんで狙いも狙ってトリシアばかりなんだ!」

「ローリエ慰める奴が必ず言う常套句だが、自分を責めてもトリシアは戻らないし、そんなお前を見たってトリシアは喜んだりしない。理性が残ってるんならさっさと部屋から出て何か出来ることを探せ。ちょっと頭冷やしてこい」

アポロンの一喝にローリエははっと目を見開いたが口を開いて何か言う事もなく、おとなしく出て行った。

「ギア、お前は当分元の連絡役として文字通り飛び回ってもらう。公私を分けるくらいの頭はあるだろう」

返事は返ってこなかったが了解している事は分かっていたのでアポロンは何も言わず部屋を後にした。


トリシア誘拐の一報はたちまち広がることとなる。


「捜索は…警察に届けないんですか?」

気を失っていた塾生組は捜査員による捜査が終わった後頃に目を覚ました。

状況を知らされた彼らがまず問うたのは彼女の捜索だった。

医務室で7人はトリシア誘拐の一報を知った。

「警察には届け出ない。我々は秘密結社という枠組みであるからみだりに公的機関を利用することはできない」

「そんな馬鹿な!じゃあトリシーが返ってこなかったらどうするつもりだ!」

「万が一の事があったとしても、入会時にサインは受け取ってあるっ!」

それまで淡々としていたレイが声を荒げた。

入会時のサインというのは死亡同意書の事を指している。

それにはここにいる全員もサインしているいので、これ以上咎めようがなかった。

「警察を頼ったとしても国境を超えるだけで捜査が行き詰ってしまうだけだ。そのためにうちには『追跡者シーカー』がいる」

自然とマーティとグラハスに視線が集まる。

マーティは心得ているように目を伏せた。

「もとより、そのつもりです。仕事はできるだけこっちにも回してください」

レイには何の権限もないのだが、こちらの意向はローリエとアポロン、ギアがいる限り無視されることはないだろう。

「トリシアの事はほぼ死亡者扱いで進んでいくことになる。お前たち個人個人にも後ろ盾がついて塾から離れる奴がほとんどだし、各々自分の事以外の事にかまってられない。割り切れ」

あくまで冷たく言い捨てた教師の言葉に生徒は重く頭を垂れた。

しかしふつりと。

「先生は…レイは割り切れるっていうんですか」

それには答えなかった。真っ白になるまで握られた拳がその答えだと悟った。



「…二人して死にそうなツラしてんな」

「うるせえ」

この二人だと口汚くなってしまう。

「でもまあ、おれはお前ほどじゃねえな。ストッパーかかってたから」

「なんのだ」

「理性、もしくは恋心?」

「…その口黙らせてやる」

「その様子だと、おれは当分安泰だ」

だらりと力なく放り出されている四肢ともたれた椅子。その隣に腰を下ろす。

「歳の差だってあるし、何しろ険悪な雰囲気から始まったそのうえに好きだって言えるか?言えないだろ」

「ビビリめ」

「お前なあ、我が身を省みてから物言えよな。歳の差なんておれの比じゃないだろ。そのうえ生物学上違う生き物だぞ」

「…うるさい」

「傷が浅いうちに引き返せ。そして速やかにおれに引き渡せ」

「なんだ、やけに積極的じゃないか。今更奥手だったことを後悔しても遅いぞ」

「…もう会えないって考えちまったら、いっときゃよかった、やっときゃよかったってことが脳みそをゲリラ襲撃して明け渡さねえんだよ。コノヤロウ奥手で悪かったな!お前が四六時中一緒だから付け入るすきがなかったんだよ!バカ!」

意味不明な言葉の羅列をひとしきり喚くとレイは静かになった。

もともとギアは黙りこくっていたのでおのずと沈黙が降りた。

「結婚でもするつもりか」

「できればそうしたい…」

「おれが拒んでやる。健全な道を歩ませてやるんだ」

「…可能なら愛人として容認してやる」

「死ねっ!」

顔を真っ赤にして椅子にもたれてねそっべていた体を起こした。

なにを身も蓋もないことを口走っているんだこいつは!

「トリシアはたぶん子どもの事を考えてるから、そのあたりはお前に譲ってもいいと思ってる…」

「…お前相当まいってるな。ついに脳ミソまでイカれたか。本音駄々漏れで敵に塩をおくるんじゃねえ!それからあいつの気持ちを考えずにセフレの真似ごとさせようだとか考えてるんだったらおれがかっさらってやるからな!」

怒り半分、悲しいの半分。

自分が一目置いていた男がこんなざまになっているのが耐えられない。

「おれはなあ!あいつを一人前にさせてやりたかったんだよ!自信もってシュトの隣にいさせたい。リタさんとローヴァがおれにしてくれたことを返してやりたかった。とち狂って色恋に走って邪念が出てきたらそれは叶わないし、そのつもりはなかったのに!」

レイは頭を抱え込んだ。

「いなくなった途端、そんなものがどうでもよくなっちまったんだ」

ギアはやはり黙り込んだままだったが、数分の後。

「お前も大概、本音駄々漏れで情けないぞ」

何か言い返される前に機械仕掛けの人形のようにスッと立ち上がったかと思うと足早にその場から離れて行った。

いやになる。

大切な人が大切に思われている事を聞くのは嫌になる。

そして、自分の愛情は身勝手なものなのだと思い知ることになる。

決して身勝手でもなく嘘でもなく気まぐれでもないのに、そう思えてくる。

弱気な彼は呟いた。

「とにかく、私は帰りを待つしかないようだ。君の事だから、何の打算もなくほいほいついて行ったわけじゃないんだろう?」


こんにちは

いやー、実は月曜、金曜更新制に移ってから

読者様の方々にちょっとばかし不便な事をさせることになって申し訳ないです


ええっと、今話から新しい章に入り、新しい展開に移るわけでありますが!

どうでしょう

予測できない感じでスタートを切れていると筆者は嬉しいです


では今回も読んでくださってありがとうございます!

次話も乞うご期待☆

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