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sheath‐鞘姫‐  作者: 肇川 七二三
誘拐(DParty編)
143/225

とある誘拐の発端

「カタリーナ…!」

ブロンドの美しい髪が稲光によく映えた。

背中をぴったりと壁につけて電気のスイッチを探る。やっと明かりをつけても彼らは動かない。

窓を力ずくで開けようとしたが、ピクリとも動かない。

シュトは扉で試したがそれも駄目だった。

…閉じ込められたんだ。

カタリーナの後ろには男が2人控えている。

「…何でこんな所にいるの。許しもなく部屋に入るのってマナー違反じゃない?」

嫌な悪寒が背中を駆け降りて行くから。彼女の返事は待たない。

「あなたちょっと挙動不審だったもんね、会食をドタキャンしたり、あんなにはしゃいでたのにパーティーにだっていなかった」

シュトが威嚇体制に入っている。

不審な匂いがするのだろう。不審、というよりある種の危険とでもいうのか。

「それより、ルツカはどうしたの?あんなにあなたにべったりだったのに、心配させてるんじゃない?」

ルツカ、の名前にピクリと肩を震わせた。

「もしかして、ギアを私から離させたのも、罠だったりして?」

キッと彼女は顔を上げた。

その強張った顔は痛みを堪えるような、泣く寸前のような顔だった。

「そうよ、その通り。私たちはもともとドラゴニスタに所属していないドラゴンだった。その前、どこにいたか、あなただったら見当がつくんじゃない?」

半信半疑、これで彼女が頷けば信は疑に変わる。

ディpartyパーティ…?」

「そう、私はディPartyパーティの勅命の元、トリシア・F・ルルーを誘拐します」

「馬鹿な!」

「ごめんなさいっ!」

喉鳴らして息を吸い込む。

「最初から近づく気なんてなかったの!私は手駒だった!ボスが!ルツカが人質に取られてっ!」

むせび泣くあいまに挟む言葉は切実な訴えで、控えていた男がその口を覆い隠す。まるで余計なことをしゃべらせないように。

「っ!カタリーナに手を加えればそっちの要求は呑まないから!」

ネコのように毛を逆立てて怒るシュトには既に静電気のようなピリピリとする魔力が帯び始めている。

シュトに言う。

と同時に男たちに脅しを利かせる。

「これより、魔法の行使をシュトに許す。殺さなければ身を守るために危害を加えてもいい。シュト、あなたの判断に任せてもいいと私は信頼してるから。いいね?」

見上げた顔は少し物怖じしたように見えたが、シュトはすぐに頷いて見せた。

「聞いたわね、そっちの要求は何、カタリーナ」

指名したカタリーナは涙を流してその場に崩れ落ちる。駆け寄ってやりたかったが、今は立場がそれを許さない。

男たちは視線を交わしてスマートフォンを取りだした。

操作の後すぐに、音声が発信される。

『要求は僕が、DPartyのボス、といえば分かってもらえるかな?』

ボイスオンリーと表示された画面から男の声が放たれた。

『僕は君たち二人と話がしたい、出来ればじっくり。こうは言っても世間様から見ると「誘拐します」って言ってるのと同じなのかな?』

「同意義ね、身の安全は保障してくれるのかしら、前回はちょっと手荒というか乱暴が過ぎたじゃない?信用しかねるのよ、あんあたたち」

『まったく、申し開きも出来ない。すまないことをしたと思っているよ』

あんな狼藉を働いた組織の人間の言葉とは思えないほど、穏やかだ。

『僕らは本来もっと小さい組織だったんだけど、最近手に余っていてね、本意ではなかったんだ。でもやっぱり誠意を示さなきゃ、誘拐の誘いには乗ってくれなさそうだ』

彼は一度言葉を切った。

『すこし…じゃないな、とても話がしたい。ドラゴンについて。出生の秘密や人間との交わりについて君と話がしたい。君を僕の館に招きたいんだ』

あまりに穏やかな物言いに3人さえ困惑を隠しきれていない。

トリシアは考え込むように腕を組んだ。

「こっちの要求を呑んでくれれば、行ってもいいと考えてる。どのくらい?」

『…うーん難しい所だ、最低でも3、4年かなあ』

「じゃあ今要求を呑んでくれれば最低でも半年はそっちにいてもいい」

「トリシア!」

悲鳴のような声でシュトが引きとめようとする。

機械の向こうで男も少し驚いているようだ。

「興味があるの。まず身の安全を」

『保障するよ。怪我ひとつさせないと誓ってもいい』

「誘拐しましたって犯行声明くらい出してよね、家出少女扱いになると困るの」

『いいよ、構わない』

「そっちに行ったらもっと言いたいこと言うけど要求は呑んでくれるの?」

『もちろん、そうこなくちゃね』

深く深く、息を吐いた。

そして睨みつける。

「今の、聞いたわねあんたたち。傷つけたりしたら自分の身が危うくなるってことを肝に銘じなさい」

機械の向こうで笑い声が上がるのをしらじらしい目で見ながら荷づくりとはじめる。

「と、トリシア、駄目だよ!助けを待とうよ!」

「助けが来るならとっくに来てる。何か妨害されてるのよ。おとなしくついて行くしかない、ごめんねシュト」

その声は擦れている。

龍の母語を使い続けていた反動だ。シュトにもそれが分かった。

トリシアは相手がこちらが黙っている間ずっと龍の母語、高周波の子どもの呼び声を発していた。短い時間だったが、喉の負担は計り知れない。

か細い悲鳴でも誰かが来ると、ギアが来てくれると思っていたのに、と歯がみする。

「勝手に動くな!」

控えていた男はあくまでも優位に立っていたいのか命令する。

鼻で笑って黙らせる。

「なによ、あんたたち女ものの服や下着を持ってるってえの?スリーサイズまで把握して用意してるっていうんならストーカー規制法でとっちめてやるから黙ってなさい!」

また、愉快そうな笑い声が上がる。

「カタリーナ、そっちの荷とこっちの荷はすぐに使うから手伝って。あとから送りつけるように手配できるかな。そっち住所特定されたらまずいんでしょ?」

「え?あ、ああ、うん」

もう既に自宅に帰るためにある程度の荷をまとめていたので段ボールを指差して持つように頼む。

けっして、相手にペースを譲らない。手慣れた様子で荷を仕分ける姿は誘拐される側の人間とは思えないほど肝が据わっている。

「動揺しないんだね…」

「そう、みえる?」

苦笑した顔をまじまじと見つめて、次いで腕組んだ手が血流を遮るほど強く腕組まれ真っ白になった手、かすかに震える肩を凝視した。

「ごめん、無神経なことを言った…」

「いいよ別に、誘拐なんて一生に一度あるかないかのことだしね」

本来ならば一生に1度もない人生の方が望ましいのだが。

シュトにも荷を作らせる。

小さいなりに真面目な顔をしているのだから、頼りになるのかならないのだかわからない。

もしかしたら守れるのは自分しかいないと思っているのかもしれない。

食べられそうなものを巾着に詰め込んでいる。海神のあの花も入れているのには少し笑ってしまった。食べられるんだ、あれ。思わぬところで役に立ってしまった。いつかお礼に行かねばならないな。

「あーあ、本当に、どうしてくれるのよ」

『僕は、君に会えるのを楽しみに待ってるよ』

いたずらっ子のような無邪気な声が、今は不吉なものにしか感じられなかった。


さてさて、思ったよりもがっつりペースが落ちて

アクセス数も落ち込むぐらいに減少しているけど

ぜんぶ自分のまいた種なのでおとなしくしてます


えーいどうにでもなっちゃえ!


前回予告した通り次話から新章に突入します!

どんな話になるのかというのは

…是非とも読んで確かめてください(笑)


今回も読んでくださってありがとうございます!

次話、次章も乞うご期待☆

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