オマケ編_ハグミーワンモア!
こんにちは、エンディングぶりですね。どうも、おばあちゃんです。本日はパパとママが出張に出かける日、一か月間の家族揃った生活に幕が下りる日となっています。家の人口密度が下がって幸樹が寂しがらないか心配で、ついついまた見に来てしまいました。
どうやらもう出発時間になっていたようで、玄関から出発するパパとママを孫と直美ちゃんがお見送りしています。
「それじゃあ幸樹に直美ちゃん、元気でな」
「パパも健康に気を付けて、元気でね」
「ちゃんと寝るんだよー」
「おうよ、二人も夜更かしはほどほどにな」
パパはこの休みの間、早寝早起きと睡眠時間の重要性を再三にわたって二人に話していました。「徹夜しまくってた同僚が急に体を壊した」だの「ショートスリーパーの友達もできるだけ十時には寝るようにしている」だの、多種多様な実例を通して早寝早起きの重要性を説明されて、二人も健康生活の重要性を理解したようですね。
「そーそー、若い頃の生活が老後を決めっからな。おばあちゃんみたいな体力オバケになりたきゃ、今のうちから健康生活しとくこった」
「おばあちゃんレベルは無理じゃない? あの人七十歳超えて遊園地で遊び倒せる人だよ?」
「遊園地行ったとき、俺らのほうが先に体力切れたからな……幼児の体力に勝てる老人ってなんだよ」
ふふん、おばあちゃんは昔からフィジカルエリートでしたからね、それに体力は使えば増えますから、定期的に遊んで体力を使い切っていれば存外簡単に体力維持ができるのですよ。
それはそれとして、おじいちゃんに付き合って健康生活してたのも事実ではありますが。おじいちゃん生前から割と健康に気を使ってたんですよね、タバコは仕事で必要な分しか吸わないし、金曜日も早寝するしで、なんというかメッチャ健康的な生活してたんですよ。なんでもお爺さま(おじいちゃんの祖父です)に「まず寝ろ、そして飯を食え、この二つがダメなヤツは早死にするから俺は育てん」と言われたそうで、出来る限りではありますが言いつけを守って健康生活してたんです、お爺さまは物凄い強キャラでしたからね、「あなたほどの実力者がそう言うなら……」というヤツです、細かいことは省きますがいわゆる当主系の強キャラが彼でした、お家騒動の都合遺産の相続はありませんでしたが、お爺さまはそれはもうおじいちゃんを可愛がっていましたよ。
まあ私とおじいちゃんがお爺さまに可愛がられてた話は置いておいて、そんなわけでおばあちゃんは七十超えても丸一日遊び倒せるような体力を保持していたのです、結局のところ健康という土台が無ければ人生は崩れ落ちますからね、そこを重んじるのは良いことです。
さて、時は流れ一時間後くらい、人口密度が下がったリビングで、幸樹と直美ちゃんがダラダラと過ごしています。ソファに座って動画やらネット小説を見るいつも通りの風景ですが、直美ちゃんはどうにもそわそわした様子です、どうしたんでしょう。
「……幸樹、元気そうだね?」
「? そりゃまあ元気だけど」
「いやほら、パパとママがいなくなったから、もっとしょんぼりすると思ってたんだよ」
それは私も思いました、一ヶ月も親が家にいたのですから、居なくなった寂しさも大きいでしょうに、幸樹はへこたれた様子を見せません。昔の彼は親が家を去る度に、まるで三段アイスを落としたかのように落ち込んでいたものです。とはいえそれは小学生の頃の話ですからね、この歳にもなれば流石に慣れたのでしょう。
「まあ流石に慣れた、毎年のことだし、それに今は高校生だし」
「むぅ、たしかにその通り」
口では納得している直美ちゃんですが、その態度はどこか不服そうです。それどころか少しガックリした様子でさえあります、一体どうしたのでしょう?
「いやですね、直美ちゃんは幸樹がガックリ落ち込むと思っていたのですよ、その「ぐえー……」って感じの幸樹を思いっきり甘やかしてあげることで、更にお前を私に沼らせるつもりだったのです」
ああなるほど、そういうことでしたか。落ち込んでるところをじっとりと抱きしめて慰めてあげる、じめじめドロドロとしたやり取りを直美ちゃんはやってみたかったようです。
その気持ちは良くわかります、やっぱ傷心のところで身を寄せ合って慰め合うというのはロマンチックですからね、誰しも一度はやってみたいと思うことでしょう。そうでもない? そっか……
「そういうことだったか」
「そういうことなんだよー」
直美ちゃんが幸樹の肩にほおずりしながら「ちくしょー」と、気の抜けた感じの無念の声をあげています。指先をはむはむする様子からは、彼女の絶妙な不満が伝わってきますね。
さて、そんな様子を幸樹も不憫に思ったのか、直美ちゃんの予定していたジメジメ慰めタイムに付き合ってあげることにしたようです。
「それなら、やってみるか?」
「えっいいの」
これには直美ちゃんもビックリ、自分の趣味全開な欲望に付き合ってくれるというのです、こんな都合の良いことを前にすれば誰だって驚くでしょう。
「おう、慣れてもやっぱ少し寂しいとは思ってるからな、せっかく慰めてくれるんだから断る理由もない」
「うへへ、やったぁ……それじゃあちょっと失礼するね?」
じっとりとした表情になった直美ちゃんが、座っている幸樹の膝にまたがってぐいぐいと身体を押し付けています。視覚的には孫がソファと直美ちゃんでサンドイッチされてる感じですね、幸せそうです。
「ふふふ、あったかいでしょ。くっついて、抱き合って、安心するでしょ」
「そうだな、温かくて、安心する」
直美ちゃんが抱きしめる腕に力を込めて、ぎゅうぎゅうと孫をホールドしています。かわいい。
「私、こうやって密着するの好きなんだ。なんというか、許されてる感じがして」
「許される?」
ほう、許されるとな?
考えてみれば直美ちゃんがやたらハグハグしてる理由って詳細には聞いたことなかったですね。昔「抱きしめてると幸せになれる、やらせろ」って言ってたことぐらいしか知らないです。
となるとこれは直美ちゃんのことを詳しく知る絶好のチャンスというワケです。よし孫、根掘り葉掘りキッチリ聞き出すがよい。
「うーん、なんというかな。…………そう、パーソナルスペースって言葉があるんだよ、知ってる?」
「あれだっけ、好感度と近づかれて許せる距離は比例するとか、そんな感じの」
「そうそう! 半径一メートル以内に入るにはかなり仲良くならないといけないってヤツ!」
ほほう、そんな言葉があるんですね。話したことの無い同級生に抱き着かれたら死ぬほどビビるとか、仲が良いと隣り合って歩くようになるだとか、そういうのを言語化した物なのでしょう。多分。
「それでね、人との距離が0cmになるまで近づく、つまり密着するのってすごくハードルが高いらしいんだよ。顔とか色々よく見られちゃうし、身体触られるストレスもあるし、なによりシンプルに危険だもん」
「改めて言われてみると、密着するの怖いな? 直美がその気なら俺はもう死んでるワケだ」
確かに怖いですね。直美ちゃんがその気なら、孫は今頃首を『トンッ』とされて失神してるワケですから。
…………流石に冗談ですよ? 直美ちゃんにそんな暗殺者めいたことはできません、腕力強いから締め落とすくらいはできるかもしれませんけど。
「そういうこと。こうやってくっついて、抱き合って、ついでにほおずりもしちゃって。そうやって甘え倒して許されるのが、こう、なんというか…………愛されてるなって、ね?」
「……直美はかわいいなぁ」
ほほーう、そういうことだったんですね。グリグリと甘えてそれを受け入れてもらう、許される実感が好きだと、そういうことだったのですね。良い趣味してるじゃないですか、見直しましたよ。
うんうん分かる、分かりますよ。許される、認められる、存在を肯定される、そういう実感は何歳になっても心を強く満たしてくれるものです。私もおじいちゃんにちょっかいかけたりダル絡みしたり、アホみたいなダジャレを言ってシバかれた後、一緒にテレビを見る時間が大好きですから。
うん、こうやって孫たちを見ていたら私もおじいちゃんに構ってもらいたくなってきました。なんか孫が押し倒されてますが、まあ上手くいってるようで安心しましたよ。
では、このあたりで私は撤退するとします。完結後なのに読んでくれた、そんなあなたにありがとう。文量少なめでごめんね~。




