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レッド・クイーンズ ~天織灯のあくまな怪盗生活~  作者: 麻莉
2章 6月 涙の暴雨、天舞う朱は侵界を祓う
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31話 沈黙=キン、雄弁=ギン 怒りがあっても言ってはいけない

「この女は貰っていく」

 醜悪な笑みを見せ、カラス型のソドールが逃げる瞬間、私はカードを投げた。

 しかし、強風の影響でカラス型のソドールには当たらず風に煽られている。


「クソッ! 待てっぇえぇぇ!!!」

 クイーンズブラスターASKにNo.44 【タカ】をセットし起動するタイミングで腕を引っ張られた。


「灯ちゃん! 一旦、冷静になって。今は倒れている萌香もかさんと一緒にここから逃げるのが先よ」

 そうだよね……ありがとう、綾ちゃん。

 クイーンズブラスターASKを懐に入れ、ここから離脱した。


 1階まで降りるのに2時間以上かかってしまった。カラス型のソドールは自身の爆弾の能力を使ってこのホテルの窓ガラス全部爆破していたらしく、泊まっていた人々で廊下、非常階段がごった返しになっていた。


 1階に到着し、ホテルの近くに救急車や隊員がいたので月音ゆみをお願いした。

 外は見たが、騒然としていた。

 今尚、出てくる泊まっていた人々に加え、上から落ちてきたガラスが地面に大量に散らばっていた。

 カラス型のソドールは周辺施設も爆破したのか黒煙と燃え盛る炎が立ち込めていた。

 色んなモノが焼けた影響で赤い粉がゆらゆら舞っていた。


 何十もの消防車、救急車、警察車両のサイレン音が混じり合い頭に痛みが生じたが、それだけ周辺全体が緊急事態のだと分かる。


 少しの口論だけでここまでやる必要があるのか……。つい先程、協力者達の調査でカラス型のソドールの人間体が分かり、初めの工場地帯を爆破した動機も判明している。

 即座に協力者達に連絡し逃げたカラス型のソドールの動向を探してもらっている。


 近くにちょっとした木々が植えられておりそこですずちゃんと綾ちゃんが座っていた。

「2人とも、平気?」


 ペットボトルを2本、2人にあげた。

「ありがとう……私達は大丈夫だけど、月音ゆみちゃんが……」


「灯……アイツがどこの誰か分かっているのか?」

 すずちゃんからは殺気まじりの感情が出ており、目つきがヤバかった。

「うん。さっき判明したけど、教えないよ。理由は分かるよね、すずちゃん……」


 携帯端末が振動した。潜伏場所が判明したため、そこに向かうことにした。


「こんなことして、何になるんだ……」

 歩く私の後ろからすずちゃんが発した。

「アイツの行動は単純だよ。ただ、自分の居場所を守る……それだけ」

 それがアイツ——カラス型の願い。その願いを叶えるために今度の自分の人生を棒に振っても構わないのかもしれない。それだけの覚悟を持って望んでも他に方法があったのではないのか。


 走りながらマイナス思考に陥る私。

「『それだけの覚悟を持って望んでも他に方法があったのではないのか』と思ってるの?」


「……クロ」

 走るのを止め、同じく連絡を受けたクロは私と合流するために目の前に現れた。

 クロは携帯端末の画面を私に見せた。SNS上では私達がいたホテルの周辺の状態が動画や画像として世に出回っている。

「自分の願いを叶えるために近隣の工場や灯がいたホテルを襲う野望か……中々な人間もいるもんだね」


「止めるよ……今日でこの悪夢からみんなを解放する。これ以上は……」

 どんな願い・野望を抱くのは人それぞれ。他人が口に出すのはお門違い。だけど、実際にそれを実行し自分以外を不幸にするのは間違っている……。


 暗くなっている私の顔をクロが頬を抑え、私の顔が歪んでしまった。口がタコ口になっている。

「いい灯!! 私達は【ソドール】の能力を回収するだけ、そう決めたじゃん!! 世界中の人全員を救うなんと大胆な事をする必要はないわ」


 手が私から離れ先に進むクロ。

「もし、人も救いたいのなら自分が守れるだけの範囲の人にしなさい」

 こちらを向き、少し口元が緩み優しげな微笑みを浮かべたクロがそこにいた。

「後、暗い顔は止めて笑おうよ!! 少しは気が楽になるよ」


「……そうだね」

 はっきりとした表情をした灯。


「行きましょう、灯!」

 2人はカラス型のソドールの潜伏先の廃工場に向かっていく。



「ここか……」

 山奥にあるこの製鉄所は何十年も使われていないのか外装が赤茶色の錆が全体の何割占めているか分からない位に付着していた。

 廃工場の外側は設備の間や地面に緑が生い茂っている。廃工場の内部はそれとは対照的に緑は無いが砂まみれの空間。当時使われてた資材や機械類は一部が劣化しているがそのままの状態で置かれているだけでほとんど物がなかった。内部はただ広大な敷地となっており、窓ガラスからは光が差し込んでいた。


 十分に警戒しつつ中に入る2人。

 敵がいつ襲いかかってくるか分からない危険な場所。

 しかし、その心配は要らなかった。コンクリートでできた段差の所に目当てのソドールが座っていた。その傍らに縄で拘束されている月音ゆみさんがいた。


「どうせ、俺の邪魔するならこっちから仕掛けるしかないと思ったがこうも上手くいくとはな〜」


「私を誘き寄せるためだけにあんなことをしたの……」

 私は徐々に不愉快な気分になり始める。


「いや、元々はあの周辺を爆破する予定で飛行していましたが、幸運にも俺の標的のホテル最上階に俺を不快にした2人が居たんだ。襲うしかないだろう?」



「——ッ!」


「最低ね、貴方……」

 私は怒り、クロは毒を吐く。


「襲ったら、あら不思議!! 怪盗もいたなんて俺は幸運な男だよ!!! お前も俺の野望の邪魔になる。そこで、片割れを連れ去ればきっと来ると思っていたよ」



「後1つだ。それにお前の持っているモノを全て奪えば俺を阻む者はいなくなる。そうしたら……」


「自分の家が助かる……ですか?」


「何故、それを知ってるぅんだぁ?」

 カラスの眼で睨まれるがそんなのお構なしよ。


「こっちもね。貴方のことを仲間に調べてもらったのよ。あの工場を爆破したのは、そこから流れる汚染物質が温泉街の源泉に侵食する恐れが……いや、もうすでに少しなっているのかしら。そして、ホテル・周辺の商業施設をやったのは人が来ないため……かな」



「あぁ、そうだよ! 今はマシでも後、数年ではどうなってるか分からない……だから、先手を打っただけだ。本当は抗議運動などをしていたが、この力を手に入れたおかげで即座に実行することにした」



「そこにいる人々の事、考えなかったの——貴方?」


「手段を選んでいる場合じゃなくてな、話はここまでだ。そろそろヤられてもらうぜぇ!」

 段々苛立ちが高まり、攻撃を仕掛けるカラス型のソドール。


お読み頂きありがとうございます

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