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番外編2(本編最終話のネタバレを含みます、番外編の内容は最終話のあとがきに記載しております)

 ※本編で選ばなかった二人とのもしものお話です。

 その為、最終話のネタバレを盛大に含みますのでご注意ください。


 ______



 新築独特の匂いのする家の中で箱から取り出した絵を専用の入れ物へ移していく。

 あのダンジョンからの襲撃でほとんどの絵は無くなってしまったが、わずかに無事だった物がこれだ。

 順調に移していったところで最後に出てきた絵が目に入る。

 その絵を手に取りじっと見つめた。

 ……今にして思えば私が彼を意識したのはこの時だったな、なんて思う。

 絵の中の彼は普段とは結び付かないくらいに冷たい瞳をしている。

 あの自警団の男達がお店を襲撃してきた時の彼の姿、普通に見れば少し怖い印象を受ける絵。

 けれどこの冷たい瞳の理由が私が傷つけられた事への怒りからだと知っている以上、私にとっては彼の優しさを強く感じられるものだ。


「アヤネ、そちらの荷物の仕分けは終わりましたか?」

「うん、この絵で終わり。ヴァイスの方は?」


 持っていた絵を入れ物へ移して蓋をする。

 そのタイミングで入って来た彼、ヴァイスの問いかけに返事をすればいつもの優しい笑みが返って来た。


「こちらも終わりです。これで大体片付きましたね」


 建ったばかりのこの家はヴァイスの実家のすぐそばにある。

 彼と行った湖とも近く、明るい森の中にあるこの場所はゆったりとした時間が流れるいい場所だ。

 ヴァイスからのプロポーズを了承した結果、この家を建てて暮らす事になった。

 あのパーティの次の日、どうにかヴァイスに会えないかと思いながらボロボロになった絵と無事だった絵を仕分けしていた時に、昼休みだという彼が訪ねて来てくれたのだ。

 もう何が描いてあったかもわからなくなった絵を見て私以上に悲しんでくれたヴァイスに、つっかえつっかえになりながらも気持ちを伝える事が出来た。

 私の告白に呆然として動かなくなったヴァイスに不安になったが、すぐに彼に抱きしめられて無事に恋人になる事が出来たのだが。

 あの騒動のせいで対応に追われていた彼は忙しく、なかなか時間が合わずに会えない日々が続いた結果。

 私との時間が全然取れない事に業を煮やした彼が夜中にいきなり家に来てプロポーズしてくるという急展開を迎える事になってしまった。

 会えなくて寂しい思いをしていたのは私も同じなので、プロポーズには二つ返事でオーケーしていたりする。

 そして一緒に暮らす家を建てようと決めてからは、私は彼の実家にお邪魔していた。

 彼の両親は温かく迎えてくれ、ヴァイスのお母さんは娘が出来たと大喜びでママって呼んでくれても良いからね、なんて言ってくれる。

 義母さんと義父さん、そう呼ぶたびに私にもまた両親というものが出来たのだと胸の中が温かくなった。

 この世界で出来た私の新しい家族をこれからずっと大切にしていきたい。


 そうしてこの家が建ち、無事に引っ越してこられたのが三日前。

 世間が落ち着いてきた事もありヴァイスもまとまった休みが取れたので、この三日間は引っ越し作業に集中していた。

 ようやくほとんど片付け終わり、ホッと息をつく。


「アヤネ、もう少し休みがあるので明日どこか行きませんか」

「え、良いの?」

「はい、ただ他の国まで行く日数は無いので近場になってしまいますが。団長がまた長期休みを取らせてくれると約束してくれていますので遠出はその時という事で」

「じゃあそれも楽しみにしてるね。近場なら……あの空中神殿は行ける?」

「ええ大丈夫です。久しぶりにあの子にも会いたいですし行きましょうか」

「あのペガサスね、元気かな」


 そんな話をした次の日、色々と準備をして午後になってから空中神殿へと向かう。

 相変わらず言葉を失うほど美しい、空の青に囲まれた場所……以前私に元の世界へ通じる道を示した場所。

 あの時こちらを選んでよかったと、今はそう思っている。

 今回はすぐに出て来てくれたペガサスと一緒に、持ってきたお菓子と紅茶でお茶会をすることにした。


 お菓子以外に持ってきた果物を寝そべった状態で食べるペガサスに寄り掛からせてもらって、温かい紅茶を口に含む。

 隣に座るヴァイスが青空と神殿を背景にお菓子を食べているのを見て贅沢なお茶会だな、なんて思った。

 私が見ているのに気が付いたヴァイスがふわりと笑い、その姿が彼のもう一つのものに変わる。

 長い金色の髪が風に揺れるのを見て笑顔を返した。

 付き合いだしてからの彼は私と二人の時限定でこんな風にもう一つの姿を取る事が増えてきた。

 初めの頃はまるで私の反応を確かめるかの様にだったが、今は何となくその時の気分で変えているようだ。

 彼にとって私がもう一つの姿を怖がらない事が当たり前になったようで嬉しく思う。

 ふふ、と声に出してヴァイスが笑う。


「今、すごく幸せです」

「……うん、私も」


 彼の肩に寄り掛かってクスクスと笑う。

 荘厳で美しい場所で、特別に大好きな人と一緒にゆっくりと過ごす時間。

 何かがあった訳では無いが幸せな気分になってしばらく二人で笑っていると、寄り掛からせてくれているペガサスが深いため息を吐いた。

 私達を見る瞳がどこか呆れを含んでいるようで、おかしくなって彼と二人で更に笑う。


 休みが終わればまた彼は自警団で、私はお店で仕事をする日々が始まる。

 前と少し違うのは、夕方にダンジョンへ来た彼が私の帰る時間に合わせてダンジョンから出てきて一緒に帰るという事だろうか。

 今度から帰る家は彼の実家では無く、新しく二人で住む家だ。

 初めての彼との二人暮らしだが不安は無い。


 日が暮れ始め、いつもの様に彼の金色の髪がオレンジ色の光をキラキラと反射する。

 初対面では話の王子様がそのまま出てきたのかと思ったくらい綺麗な人。

 この美しい人と一緒にこれからもずっと生きていく。

 元の世界とこの世界を天秤にかけ、そして選んだこの世界で。


 彼と一緒に過ごせるのならば、この選択を後悔する日は来ないだろう。

 彼にぴったりとくっつきながら、新しく出来た家族と共に過ごす日々を思って笑った。



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