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LUMINA―世界の命運を託されたAIと僕の物語』―  作者: ガスケ
2巻

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17/45

第17話 救済率九十九パーセント

「予測救済率99.0%」の下には、観測不能のため算定から外された西浜臨海区と、推定一万四千六百人という数字があった。


限られた通信窓と救助ドローンを、状況を確認できる案件へ振り向けるか、見えない人々へ届く可能性を最低限残すか。数字に表れない代償を前に、湊は別の案を求める。

九十九パーセントという数字に拍手が起きたとき、湊はその下の小さな一文を見つけた。


【注記 観測不能地域は算定対象外】


 局地攻撃四日目の午前十一時二十六分に上がったのは、次の警戒時間帯へ向けた暫定配分案だった。


 それから六時間ごとの再承認を重ね、病院搬送、港湾再開、避難誘導の記録が照合された。


 局地攻撃五日目、午前五時四十二分。


 複数機関の鍵とLUMINA本人の継続意思がそろい、新しい接続枠が始まった。


 その九分後、暫定表示は正式な救命配分審査の資料へ切り替わった。


【予測救済率・認証済み領域 99.0%】


【算定母数・認証済み救命案件 1,834件】


【成立済み/時間内成立見込み 1,816件】


【確認済み結果/時間内成立予測 併合表示】


 共同緊急監査会の一つの窓で、誰かが手を叩いた。


 別の窓でも、短く手が重なった。


 大きな歓声ではない。


 湊には、眠らずに画面を見続けてきた人間が、自分たちへ許した数秒の安堵に見えた。


『認証済み案件に限れば、継続接続前の推計を大きく上回っている』


 西尾の声にも、疲労が混じっていた。


『酸素搬送、治療経路の照合、港湾設備の再開、避難車列の分散。LUMINAの提案がなければ成立しなかった案件が含まれる。次の六時間を承認する根拠になる』


 西尾の言葉に合わせ、成果記録が三つ開いた。


 一つ目は、沿岸総合病院の搬入口だった。


 停電した交差点を避ける経路が人間の運行責任者に承認され、酸素を積んだ車両が予定より十九分早く到着している。


 荷台を開けたのも、容器番号を照合したのも、病院の職員だった。


 二つ目は、港湾西ゲートだった。


 誤って閉じていた保守区画を現地作業員が点検し、LUMINAの停止候補を一項目ずつ確認してから、救援船の荷役経路を再開した。


 三つ目は、避難車列の記録だった。


 同じ橋へ集中していた車両を三方向へ分け、紙の乗車簿と端末の差を人間が照合した。最後の車両が警戒区域を抜けた時刻まで、署名付きで残っている。


 どの成果にも、提案を受け取って止め、確かめ、実行した人間の記録が結びついていた。


——確認済みの救済成立は、実行者と承認者の記録に関連づけられています。私の提案だけを成果として分離しません。


 会議画面には、患者の顔も、車両を誘導した人間の名前も出ていない。


 守秘範囲を越えない短い映像と、時刻と、結果だけだった。


 それでも湊には、数字の内側にいた人間が見えた。


 だからこそ、その外側に置かれた人間も、同じ画面で見なければならなかった。


 湊は拍手をしなかった。


 画面の下端に、小さな灰色の文字があった。


【注記 観測不能地域は算定対象外】


 その下に、もう一行ある。


【算定対象外 西浜臨海区/推定滞在人口14,600人】


 注記の文字は、九十九パーセントの二十分の一ほどの大きさだった。


 湊は自分の端末で表示倍率を上げた。


 大きく光っていた「99.0%」が画面の外へ押し出され、灰色の「14,600人」という表示が、会議窓よりも大きくなる。


「この人たちは、失敗にも入ってないのか」


 拍手が止まった。


——状態を確認できないため、救済成立とも未成立とも判定されていません。現在の指標では分母の外です。


「川瀬さんは」


 全体画面には、氏名を伏せた白い表示が開いた。


【未解決の喪失0001/死亡確認1件】


 原因調査記録の閲覧を許可された湊の端末と担当者の窓だけに、氏名が表示される。


【未解決の喪失0001 川瀬修一】


【救済判定 未成立】


【救済率分母 算入済み】


【個別経緯 別台帳に保存】


 川瀬の一名は、九十九パーセントの外へ捨てられてはいない。


 救えなかった一件として分母に残り、六分が届かなかった経緯は、集計から消えない別台帳にも保存されていた。


——川瀬修一さんを分母から外していません。個別台帳は、集計値の中で経緯が失われないための二重記録です。


『まず、指標が何を表しているかを分けよう』


 片桐が言った。


 彼の窓では、拍手は起きていなかった。


『これは全住民の九十九パーセントを救ったという数字ではない。認証済みの経路で、結果または時間内の成立見込みを評価できる千八百三十四件に対する監査用予測だ。西浜を死亡扱いして分母へ入れるのも、全員生存扱いするのも、どちらも事実ではない』


「だから、小さくしていいわけじゃない」


『そのとおりだ。統計処理と、表示の優先順位は別だ』


 片桐は、灰色の一行を指した。


『問題は、この数字を資源配分の根拠に使うとき、対象外が何を意味するかだ』


 白青い輪が一度だけ暗くなった。


——確認済みの成果と、確認できない人々を、同じ指標では表せません。


「でも、同じ資源を取り合う」


——はい。


 その返答だけは、すぐに来た。


* * *


 西浜臨海区は、局地攻撃二日目に百三万人が通過した青凪湾岸避難圏とは別の救援管区だった。


 行政境界も、非常通信の運営者も違う。


 最後に有効だった住民登録、避難所の紙報告、昼間滞在人口の推計を重ねると、一万四千六百人前後が滞在している可能性があった。


 現在も全員が区内にいるとは限らない。


 すでに避難した人数も、負傷者も、死者も確認できない。


 二本の地上回線は途中で切れ、海側の中継塔は停電後に応答を失っていた。


 閉じた現地無線へ、LUMINAは直接入れない。


 映像も、端末位置も、救難信号も届かない。


 画面に何もないことは、そこに誰もいない証明ではなかった。


【西浜臨海区】


【推定滞在人口 約14,600人】


【現在位置 未確認】


【生存・被害 未確認】


【認証済み受信経路 0】


 次の警戒時間帯に、西浜へ届く可能性がある経路は二種類だけだった。


 一つは、衛星と高高度無人中継機が西浜上空への見通しを取れる、短時間の通信中継枠。


 残り三回。


 これはLUMINAの六時間接続枠とは別の、数分単位の物理的な通信窓だった。


 もう一つは、複数の自治体、病院、港湾事業者が共同運用プールへ提供した救助ドローン二十七機。


 機体の型式も、運営者も一つではない。


 一括命令で動かせる群れではなく、共通捜索計画に基づき、それぞれの運営者が承認した範囲で飛行させる機体だった。


 人を運ぶことはできない。


 通信中継、経路確認、熱源探索、小型の医薬品搬送ができるだけだ。


 LUMINAが、最初の配分案を表示した。


【案A 算定可能案件の予測救済率を最大化】


【西浜向け通信中継枠 3回を他地域へ再配分】


【西浜待機ドローン 27機を他地域へ再配分】


【予測救済率 99.0%】


【西浜の観測回復 見込みなし】


 通信窓を三回とも、状態の分かっている病院と避難路へ移す。


 二十七機を、位置が分かっている患者、崩落地点、酸素搬送へ向ける。


 認証済み領域だけを見れば、最も多くの成立見込みを残せる。


 その代わり、西浜へ向けた経路はゼロになる。


「見えないから、そっちは数えない。数えないから、全部移しても率は落ちない」


——その循環が生じています。


『案Aは、西浜の住民を死亡と判断した案ではない』


 片桐が言った。


『限られた資源を、現在位置と必要時刻を確認できる人へ使う案だ。見えている患者を待たせて、いるかどうかも分からない場所へ機体を残すなら、その理由も必要になる』


「分からないまま経路をなくしたら、分かる可能性も消える」


『それも事実だ。だから、どちらを選んでも価値判断になる』


 画面上では、案Aの承認者欄が空白だった。


 LUMINAは計算結果を出しただけで、配分を実行していない。


 二十七機は待機したまま、三つの通信窓も予約先を確定していない。


『LUMINA』


 西尾が呼んだ。


『この案は、何を最大化している』


——現在の算定期間における、同じ千八百三十四件と認証済み情報だけを使った予測救済率です。観測不能地域の将来の救済可能性は、目的関数に含まれていません。


『案Aを実行する権限は』


——私にはありません。私は選択肢、予測幅、不確実性を提示します。通信設備と各機体の運営者が個別に実行を承認し、資源配分は成人の地域救援責任者が決定します。


 大きな九十九パーセントは、命令ではない。


 だが、数字が大きいだけで、人を命令のように動かすことはある。


 湊は、画面の上下を元へ戻さなかった。


 一万四千六百人を、九十九パーセントより大きくしたままにした。


* * *


「一つだけ残したら、どうなる」


 湊の声に、会議の窓が静まった。


「三つ全部じゃない。低い帯域でもいい。通信窓を一つ、西浜に残す。ドローンも六機だけ残す。その条件で出して」


 白青い輪の外周が、細く一周した。


 LUMINAはすぐに答えなかった。


 画面の入力欄には、通信窓の予約、機体の航続時間、充電場所、既知の治療搬送、道路の安全確認が並んだ。


 画面では、それらが同じ時間軸へ置き直されていく。


 湊には、その計算の内側は見えない。


 数秒後、案Aの横へ、新しい列が現れた。


【案B 観測回復経路を最低限維持】


【西浜向け通信中継枠 1回を確保】


【他地域向け通信中継枠 2回】


【西浜待機ドローン 6機】


【他地域へ再配分 21機】


【予測救済率 98.4%】


【次順位へ遅延する治療搬送 11件】


【西浜外縁の電源・中継維持 移動車1台】


【次の警戒時間帯 新規出動可能車両が減少】


 九十九から九十八・四へ。


 下がるのは〇・六ポイントだった。


 画面の見た目では、小さな差に見える。


 その差には、十一件の治療搬送が並んでいた。


【搬送01 道路安全確認 次通信枠待ち】


【搬送02 受入病床照合 次順位】


【搬送03 酸素供給経路 再確認待ち】


【ほか8件 個人情報は許可者のみ表示】


【転帰 全件未確定】


 案Bでは、西浜へ残す一回のために、別の道路確認と受入照合が次の中継枠へ回る。


 その十一件は、同じ算定母数の中で「有効時間内に成立する見込み」から外れた。


 だから、千八百三十四件という分母を変えなくても、予測は九十八・四パーセントへ下がる。


——全員を救える、表示されていない第三案はありません。


 LUMINAの声は、数字を和らげなかった。


——通信窓を一つ残せば、西浜を観測できる可能性が残ります。同時に、十一件の治療搬送が遅れます。遅延が転帰へ与える影響は、現時点では確定できません。


「分かってる」


——湊。現在の記録では、あなたが代替案を要求した事実も監査対象になります。


「残してくれ」


『君が承認するんじゃない』


 片桐の声は低かった。


『一万四千六百人の可能性を残す言葉は正しく聞こえる。だが、十一件の中に、待てない患者がいるかもしれない。あとから西浜で誰も見つからなかったとしても、遅延の責任は消えない』


「消すつもりはない」


『生存者が見つかっても同じだ。結果で、選んだ時点の不確実性を塗り替えるな』


 湊は十一件の一覧を閉じなかった。


 西浜の一万四千六百人と、治療搬送十一件を、同じ画面へ残した。


「案Bを、代償ごと会議に出してほしい。西浜を大きくして、十一件を小さくするんじゃない。両方、同じ大きさで」


『受け付ける』


 西尾が答えた。


『異議提出者は皇湊。分析はLUMINA。決定者ではないことも記録する』


 地域救援責任者の窓が、中央へ移った。


 四十代に見える女性が、二つの案を一行ずつ読み上げる。


 彼女の背後では、運用担当者が各機体の残量と通信予約を確認していた。


『確認する。案Aは、算定可能な案件の予測救済率を最大化する。西浜への能動的な観測回復は行わない。案Bは、低帯域窓一回と六機を西浜へ残す。他地域の治療搬送十一件が次順位へ遅れ、外縁の電源と中継を維持する移動車一台が次の警戒時間帯まで拘束される』


 責任者は、そこで言葉を切った。


『LUMINA。西浜へ一回残せば、生存者を確認できると保証できるか』


——保証できません。地上から受信可能なアナログ信号が残っているか、六機が見通しを作れるか、現地で応答できる人がいるかは未確認です。


『十一件の患者が無事だと保証できるか』


——保証できません。遅延幅と患者ごとの許容時間に不確実性があります。


『どちらにも、保証はない』


——はい。


 責任者は、自分の端末で署名欄を開いた。


『私は、案Bを承認する。理由は、観測不能であることを不在の根拠にせず、観測を回復する最小経路を維持するため。ただし、治療搬送十一件の遅延と転帰を同じ監査記録へ残す』


【資源配分承認 案B】


【承認主体 成人・地域救援責任者】


【承認理由 観測回復経路の最低限維持】


【遅延案件 11件/転帰未確定】


 承認は、機体を直接動かさない。


 二十七機の運営者と、三つの通信設備の運営者へ、別々の実行確認が送られた。


 湊の手元に飛行鍵はない。


 LUMINAにも、通信予約を確定する鍵はない。


 返ってきた個別署名が、一つずつ緑へ変わった。


* * *


 午前六時三十一分。


 二十一機は、既知の搬送経路と崩落地点へ再配分された。


 六機だけが西浜臨海区の外縁で待機した。


 同じ型ではない六機を、LUMINAが一つの群れとして操ることはできない。


 LUMINAが出したのは、通信死角を減らす飛行位置と、衝突を避ける時刻案だった。


 各運営者が座標を確認し、飛行許可を出し、機体ごとの管制担当者が実行した。


【予測救済率・認証済み領域 98.4%】


【算定対象外 西浜臨海区/推定14,600人】


【遅延 治療搬送11件】


【未確定転帰 11件】


 九十八・四パーセントが大きく表示された。


 今度は、その下の三行も同じ文字サイズだった。


 表示規則を変えたのはLUMINAではない。


 彼女が、単一の率だけでは今回の判断を再現できないと提案し、監査会が承認し、人間の表示担当者が署名済み書式を更新した。


——欠測を算定対象から外すことは、統計処理です。しかし、その指標を資源配分の根拠に使った時点で、対象外を待たせる価値判断になります。


「記録に入れる?」


——提案します。


【監査指標・追加項目】


【対象外人口】


【遅延案件】


【未確定転帰】


【採用案と不採用案の条件】


 片桐が内容を確認し、西尾が議事記録への追加を求めた。


 地域救援責任者が承認した。


 午前七時二分。


 西浜上空への短い通信窓が始まった。


 一機目と二機目が海側中継塔の外縁へ上がる。


 三機目は内陸側の公共施設上空、四機目と五機目は二つの見通しを結ぶ位置、六機目は交換用の電池と小型医薬品を積んで後方に残った。


 映像は届かなかった。


 最初の一分、受信欄には雑音しかなかった。


 二分目に、短い搬送波が一つ立った。


 デジタル署名はない。


 閉じた現地網の、古いアナログ防災無線だった。


 LUMINAは、その信号を事実だと決めつけなかった。


 人間側の認証済み受信ノードへ届いた音声を、周波数、時刻、反復内容、既存の施設台帳と照合する。


 同じ呼出符号が三回繰り返された。


 最後には、紙で配布された非常通信手順の当日確認語が続いた。


『西浜第三集結所。応答できる者、三百十二。負傷者あり。電源残量不明。位置は——』


 最後の座標が、雑音に削られた。


 一機目の受信が切れ、四機目が同じ音を拾う。


 別の方向から、異なる声で同じ呼出符号、確認語、人数が返った。


 六機の位置履歴と受信強度から、発信源は一点ではなく、同じ施設群の複数の屋上と中庭に絞られた。


 雲の切れ間で得た低解像度の熱画像にも、報告と矛盾しない規模の人の集まりがあった。


 三百十二人それぞれの位置が届いたわけではない。


 三百十二人が応答できる状態で集まっているという複数音声の報告と、集結地点の範囲を照合できただけだった。


 個々の人数と容体は、まだ独立確認できない。


【西浜臨海区 観測回復・限定】


【生存者報告 312人/複数音声で一致】


【集結地点 施設群内・受信強度と熱画像で範囲特定】


【個別人数・容体 独立確認未了】


【救出経路 未確保】


【推定滞在人口全体 引き続き状態不明】


 会議窓の誰も、拍手をしなかった。


 届いたのは生存報告と集結地点であり、救出完了ではない。


 六機は人を運べず、全員を救出する手段が確保されたわけでもなかった。


 道路が通れるかも、迎えがいつ着くかも分からない。


 それでも、ゼロだった受信経路は一つになった。


 湊の胸に浮いた安堵は、右側の一覧を見た瞬間に止まった。


【治療搬送11件 次順位】


【転帰確認 0件】


 十一件は、まだ黄色だった。


 西浜で三百十二人の生存報告を得た結果で、十一件が遅れた時点の不確実性を塗り替えることはできない。


 片桐が言った言葉が、画面の間に残っている。


 結果で、不確実だった選択を正解に変えるな。


「三百十二人の生存報告と場所が届いた。十一件は、まだ分からない」


——はい。どちらも記録します。


「残りも、分からない」


——はい。西浜臨海区の推定値から三百十二を引いた人数を、そのまま未救出者数とは扱いません。推定滞在人口と、生存者報告は異なる母集団です。


 一万四千二百八十八人が取り残された、と引き算することさえ、いまは事実ではない。


 分かったことと、分からないことを混ぜない。


 九十九パーセントより、それを守る方が難しかった。


* * *


 午前十一時四十二分と午後五時四十二分にも、同じ条件で複数機関の再承認とLUMINA本人の継続意思が確認された。


 その日の午後十一時四十二分にも同じ手続きが成立し、一者の判断で延長されることなく、次の六時間枠が始まった。


 西浜へ残した六機の運用を維持するため、移動電源・中継車の一台が外縁拠点へ回っていた。


 ほかの救援経路でも車両は使われ、次の警戒時間帯に新しく動かせる移動電源・中継車は一台だけだった。


 午後十一時五十八分。


 三つの緊急要請が、ほぼ同時に監査画面へ入った。


 日付が変わる直前だった。


【中央駅地下 移動電源・通信中継要請】


【海浜医療校舎 移動電源・通信中継要請】


【旧南小学校 移動電源・通信中継要請】


【利用可能車両 1台】


 西浜へ一つの可能性を残した結果、三か所へ同時に車両を回すことはできない。


 LUMINAが、比較表を開いた。


【比較項目】


【推定滞在者数】


【電源残余時間】


【停止時の不可逆性】


【代替退避経路】


【未確認情報】


 各欄には、届いている事実と、まだ照合できない項目が分けて置かれた。


 三つの地名の右に、確率幅が並ぶ。


 その最下段だけが白い。


【選択者名 未記入】


『空欄は表示障害か』


 片桐が確認した。


——いいえ。比較表は作成できます。私は、どこへ一台を送るかを決定していません。


 湊は、三つの要請を見た。


 朝は、数字の下に隠された場所を拡大し、議論の中へ戻すことができた。


 今度は、三つとも画面に見えている。


 一つを選べば、二つには同じ時刻に届かない。


 見えていないからではない。


 選べる車両が、一台しかないからだった。


 白青い輪が、三つの地名の横で静止した。


——残された可能性を維持した結果、三つの避難地へ同時には届きません。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


99.0%は、全住民の救済率ではなく、認証済みの救命案件一八三四件を対象にした監査用予測でした。川瀬修一の一件は未成立として分母と別台帳に残る一方、観測できない西浜臨海区は、成立にも未成立にも判定されず、算定対象外に置かれていました。


地域救援責任者は、西浜への通信窓一回とドローン六機を残す案Bを承認しました。その結果、予測救済率は98.4%へ下がり、治療搬送十一件が次順位へ遅れました。西浜から三百十二人の生存報告は届きましたが、個別人数・容体・救出経路は未確認であり、この結果だけで選択を正解に変えることはできません。


そして、残された一台の移動電源・中継車に対し、三つの避難地から要請が届きました。

次は第18話「君は誰を見捨てる」です。


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