第一部 11
とうとう、弘人と楓はやって来てしまった。何処と聞かれればそう、楓の実家にである。
弘人と楓の後ろには、乎耶と源抄もいる。つまり関係者全員が楓の実家へとやって来たのだ。
清楚な住宅街の一角、ひときわ目立つ白い三角屋根の家。
「何とも洒落た家に住んでおったのだな楓は。」
西洋風の木造住宅に広い庭。楓は実は以外とお嬢様だったようだ。
「あうう~、どうしましょう。だんだん緊張してきました・・・・。」
「そ、それは俺もだよ。」
しかしそんな乎耶のつぶやきも耳に入らない様子で、どこか声の震えている弘人と楓の二人。楓の実家の玄関までやって来て、硬直したまますでに十分が過ぎようとしていた。
「のう、早う呼び鈴を鳴らさぬか?」
「い、いや・・・・なんか・・・・こう・・・・。」
「う、うう・・・・うん・・・・。ねぇ・・・・?」
「何が『ねぇ?』じゃ。はっきりせい。」
乎耶が楓の代わりに弘人を肘で小突く。
「いてっ。そんなに急かさなくても・・・・。」
「なんか・・・・ですよねぇ・・・・?」
寄り添って、モジモジと優柔不断な弘人と楓。
「はぁ~・・・・、この二人は・・・・。」
「娘をもらいに来る男の気持ちはこんなものでしょう。拙僧には縁のない事ですが、何となく解りますよ、弘人さんの気持ちは。」
乎耶が腰に手をあて、大袈裟な溜め息をつく。源抄はそれをなだめながら笑っている。
弘人と楓はギュッと手を握り合っておどおどしたままだ。
それからまた数分・・・・。
「あ~っ、もう!我はもう辛抱できぬ!」
「あっ、こら!」
「ちょっ、乎耶ちゃん?!」
弘人と楓が止める間もなく、何と乎耶が玄関に突進してチャイムを鳴らしてしまった。
乎耶は相当イライラしていたのだろう。今度は玄関の前で弘人達に向き直ってふくれっ面で睨んでいる。怒っている・・・・というよりも二人の躊躇に納得がいかないと言いたげな表情だ。
「う・・・・?」
「あ・・・・れ・・・・?」
乎耶の表情に何故だか文句の言えない弘人と楓。理由は分からないが、余計な事をされたという気持ちにはならなかった。
しかし、楓の実家からの反応はない。
「おかしいのう。弘人、もう一度押すのじゃ。」
「わ、わかったから引っ張るな。」
弘人は意を決してチャイムを鳴らした。もうすでに乎耶が押してしまったのだ。一度も二度も変わりはしない。
だが相変わらず反応は無かった。
「ん?何じゃ、この紙切れは・・・・?」
乎耶が玄関の脇のポストに挟まっていた小さな紙切れを見つけて拾い上げる。
「んなっ?!」
その紙に書いてあった文字を読んだ途端、乎耶が驚愕の表情で叫ぶ。何だ何だと全員がその紙を覗き込む。
そこに書いてあったのは・・・・。
「うおっ?!」
『旦那の療養のため、しばらく温泉に行ってきます。御用の方はお隣の宗方さん宅に行って下さいね。』
という言葉が何とも可愛らしい文字で書かれていた。留守を知らせる張り紙であろう。
てっぺんにテープの跡があるところを見ると、風か何かで剥がれてしまったのを誰かがポストにねじ込んでいったのだろう。
何かと物騒になってきた昨今、随分と呑気なものだと弘人は思った。
しかし文面の最後には・・・・。
『PS.泥棒さんは警備会社のお兄さん達に捕まってくださいね。』
などと、ハート付きで付け足されていた。
「・・・・・・・・。」
全員沈黙。弘人が玄関の上の方を見ると、確かに有名な警備会社のシールが貼ってある。何度も泥棒や強盗を捕まえている凄いところだ。
「・・・・ああ・・・確かにお母さんはそんなところがありましたぁ・・・・。」
楓が何か恥ずかしい事でも思い出したのだろう、トホホな表情で恥じらう。
「おらんのでは致し方ないのう。」
「出直しますか、弘人さん、楓さん?」
「いや法尉、しばしまて。」
一度は腕を組んで考えた乎耶であったが、何を思ったのか急に走り出して行く。
「おい乎耶、何処へ・・・・?」
乎耶を追いかけて振り返る弘人は、そのまま乎耶の姿を追ってグルリとまわる。乎耶はさっさと隣の家へと行ってチャイムを鳴らしていた。
楓の母親の書き置きにあるところの『宗方さん宅』である。
慌てて弘人達も乎耶の後を追う。
「はぁい?」
弘人達が到着するのと同時に、その家のご婦人が現れた。
「おお、なれは宗方の家の者か?ちとものを訪ねるが、よいかの。」
「は、はい?」
扉が開くが早いか、乎耶は物怖じしない元気な声で訪ねる。しかし、突然現れた小さな女の子が時代錯誤の言葉遣いで訪ねるので、ご婦人はかなり混乱している様子だった。
「あっ、す、すいません!コイツ礼儀知らずで・・・・。」
後から追いついてきた弘人がそう言って急いで頭を下げる。楓も同じく頭を下げていたが、それはご婦人には見えていない。
「何を申す弘人。なれがいつまでも尻込みしておるから我が代わりに・・・・・。」
またもや、乎耶が腰に手をあてて弘人に食い付く。
「あら、篠崎さんのお知り合い?」
「あのっ、母は・・・・何処の温泉へ行きましたか?お父さんの療養って・・・・!」
楓がそうご婦人に聞くが、もちろんご婦人には聞こえるはずもない。隣では弘人が乎耶をたしなめている。
「あの、それで・・・・ええと、篠崎さんはどちらへ行かれたかご存知ですか?」
まだ何か文句を言っている乎耶を背中へと押し遣り、背中に隠して弘人は訪ねる。
「篠崎さんなら、那須の温泉へ行くって言ってましたよ。一月くらい留守にするって言ってましたけど、まだ一週間も経ってませんからねえ。」
どうやらまともに話す事のできる相手がいると解って、ご婦人の表情も緩む。
楓が弘人に父親の事を聞いて欲しいと耳打ちしてくる。耳打ちする必要は無いのだが。
「あの、旦那さんの療養って書いてありましたけど、どうかなさったんですか?」
「ああ、何でも胃潰瘍で手術をなさったんですって。夏頃だったかしらね。術後の経過もいいけど、この際だからお二人でゆっくり温泉ですって。いいですわねぇ。」
胃潰瘍の手術ならば命に別状はない。ご婦人の言葉に安堵の表情を浮かべる楓。
「そうですか。あの、それで篠崎さんの泊まっているホテルとかはご存じないですか?」
「ええ、確か・・・・ちょっと待って下さいね、今もらったメモを・・・・。」
ご婦人は誰が来てもいいように玄関においてあったのであろうメモを手に取って、楓の両親の行く先を教えてくれた。
弘人の質問よりも、その後ろにいる源抄と乎耶の方が気になる様子だ。それもそうだろう、弘人以外は普通の服装をしている者はいないのだから。
源抄は法衣。乎耶は例の不思議な着物姿。楓に至っては見えてもいない。ご婦人から見れば弘人以外は好奇の的である。
「あのぉ、後ろのお坊さん達は一体・・・・?」
「え?ああ、俺の友人です。いい人達ですよ。」
「弘人、弘人!行方が分かったのならば早う我らも向かうのじゃ。楓も早く合いたいであろうに。」
今まで弘人の後ろで源抄とじゃれていた乎耶が走ってくる。
「ん?ああ、そうだな。行こうか。どうも、ありがとうございました。楓、行こう。」
「あ、待って下さい弘人!」
乎耶と源抄に促されて、弘人はその場を後にした。楓もその後をついてくる。
「・・・・・・・・。」
ご婦人は帰っていく『三人』の姿をしばらくの間見ていた。
「・・・・あら?そういえばあの人達、たしか最後に『楓』って・・・・。亡くなった娘さんのお知り合いかしら・・・・。でも・・・・不思議な人達だったわねぇ・・・・。」
一迅の風が吹き抜け、ご婦人のそんな言葉は世界の中に消えていった。
弘人達は楓の実家に行った日の午後、支度をしてすぐに那須温泉へと向かった。
冬休みの最後の三日間を利用して、楓の両親に会ってしまおうというのだった。もちろん、言い出しっぺは乎耶。さすがは理不尽少女。思い立ったが吉日と他の三人を囃し立てて那須へと向かわせてしまった。
「おお~♪ようやく那須だのう。『九尾狐』めが封印されてからはや幾年、時の経つのは早いものじゃの~。」
楽しそうに乎耶がはしゃぐ。
「え、『九尾狐』ってホントにいたのか?!」
「決まっておろう。きゃつめ、海の向こうから一っ飛びでやって来ては流行病や天変地異を起こしよった。彼の高僧がきゃつを封印せなんだら今頃この国はどうなっておったやら。まったく、迷惑千万じゃ。」
「へ、へえぇぇ・・・・。」
弘人の驚きを余所に、乎耶は車の窓にべったり張り付いて楽しそうに流れる風景を見ていた。
楓を黄泉返りさせる事が決まってから、何故か乎耶は随分と張り切っている。楓の魂をどうにか収めなければ黄泉には戻れないと言っていたので、そのせいだろうと弘人も源抄も考えていた。
いよいよ両親と会う楓は、その隣で複雑な表情をしていた。
自分が両親に見える事はない。声を聞かせる事はできる。しかし、その時両親はどの様な気持ちで、どの様な表情をするのだろう。楓はそれを考えると複雑でいたたまれない気持ちになっていた。
多分自分も今楓と同じ顔をしているのだろうと考える、ハンドルを握る弘人の助手席では源抄が那須温泉のガイドブックなどを広げてニコニコしている。
「のう法尉よ、弘人と楓の用事が済んだらゆるりと温泉に浸かりたいものよのう。」
「そうですね。湯治はどれくらいぶりでしょうか。一昨年、長野で鬼退治をして以来ですから・・・・。」
他の人が聞いたら一歩退くような事をさらりと言う源抄。
「お、鬼退治?」
「桃太郎・・・・ですか?」
弘人と楓が同時に反応する。
源抄はそれを聞いて困った顔をして笑う。
「おお、あれは『浴衣』じゃのう。我も一度着てみたいと思うておった。楽しそうじゃのう。弘人、楓、早うなれ等の用向きを終えて湯に浸かるのじゃ♪」
「おい・・・・。」
道路の両端にポツリポツリと姿が見え始めた浴衣姿の湯治客を見て、乎耶がまたはしゃぎ出す。楓の両親に楓の黄泉返りを願ってくれるように頼みに来たのではなかったのか。
「楓の両親に会いに来たんだろう?遊んでる暇なんか・・・・。」
「いいではないか。」
聞く耳も持たず、車の後部座席で乎耶がはしゃぐ。もともとキャイキャイとやかましい乎耶だが、那須温泉が近くなってから一段とうるさくなってきた。
「おい乎耶、遊びに行くんじゃないんだぞ?」
「そんな事は承知しておる。いいではないか、遊興など我には縁遠かったのじゃから、少しくらい楽しんでもバチは当たるまい?」
車の外を眺めたまま、乎耶が逆に文句を言う。
「あ・・・・そうか・・・・。悪りぃ・・・・。」
「・・・・・・・・気にするでない・・・・。」
仕方がないと乎耶は溜め息をついてまた車の外を見てはしゃぎだした。
乎耶は幼くして病で死に、黄泉で永槻祭如女になったと言っていた。楽しい事など何も知らずにいたのだ。弘人はそれを思いだして、少し乎耶の相手をしてやる事にした。
途中で一度車を停め、通りの土産物屋へと入る。
「弘人、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね。源抄さんもちょっと・・・・。」
「どうしました?」
楽しそうに土産物屋へと突撃した乎耶にわからないように、楓と源抄に耳打ちする弘人。
「なるほど。」
「あ、名案ですっ。」
土産物屋ではしゃぐ乎耶と楓と源抄に任せて、弘人はそっと隣の店へと走った。
楓と離れられるぎりぎりの距離だが、何とかなりそうだ。
「のうのう、弘人!・・・・ん?弘人はどうした?」
竹をつないでできた蛇のオモチャを持って走ってきた乎耶。弘人がいない事に気がついてキョロキョロと辺りを見回す。
「あ、ああ。弘人さんならトイレに行きましたよ。」
「なんじゃ、そうか。この蛇面白いのにのう。古くは畏れ、敬われておったが、こうして見るとなかなか愛らしゅうて良いものじゃ。」
源抄の答えに少し残念そうに蛇を戻しに行く乎耶。はしゃいでいる姿を見ると年相応の少女である。
「のう、弘人はまだ帰らぬのか?」
「ええ、ちょっと遅いですね。弘人さん、何やってるんでしょうか。」
「まったく、節操のない男じゃのう。楓、ちと相手を考え直した方が良いのではないか?」
「いやだよぅ!」
乎耶のイタズラな笑みに少し本気で怒る楓。乎耶はちょっと舌を出して戯ける。
「もう!」
冗談が過ぎると、そっぽを向く楓。
「そ、そんなに怒るでない!・・・・ちょっと、からかっただけじゃのに・・・・。」
楓が予想外に怒っている事に動揺して、乎耶は店の棚に指をついてクリクリと円を描く。
弘人が帰ってきたのはそんな時だった。源抄が土産物屋の外で三人を呼んでいる弘人に気がつく。
「ああ、ほら。弘人さんが戻ってきましたよ。」
源抄の言葉に楓も乎耶もパッと店の外に飛び出していく。
「随分かかったんですね、弘人。」
「ああ。以外と混んでてさ。ほら、乎耶。」
そういって乎耶に差し出した弘人の手に握られていたのはソフトクリームだった。
「な、何じゃ、これは?」
「ソフトクリームってな。冷たくて甘くて美味しいぞ~?」
「ほう!」
乎耶は差し出されたソフトクリームを受け取ると、ソフトクリームのてっぺんにちょこっとかじりついた。
「おお!甘くて、冷たくて、良い香りだのう♪」
「だろ?あっちのベンチに座って食べようか。」
「承知♪」
実は弘人は今までこのソフトクリームを買いに行っていたのだ。源抄と楓に乎耶の相手を頼んで、こっそりと。
「のう、弘人。何故これは一つしかないのだ?」
ベンチに腰掛けた弘人の隣りに座って、ソフトクリームを舐める乎耶が気が付いたように周りを見回す。楓は食べられないので仕方ないとしても、源抄も弘人も何も持ってはいなかったのだ。
「拙僧は甘い物はあまり好きではありませんので、あちらでコーヒーでも買ってきますよ。弘人さんは?」
「俺はいいです。」
源抄が自動販売機へ向かうのを見送って、弘人は楓と一緒に乎耶の嬉しそうな顔を見ていた。彼等が初めて見る、乎耶の等身大の表情。
しかし、その表情は不意になくなった。乎耶はソフトクリームをじっと見つめている。
「ん?どうした、乎耶?」
「弘人、もしやこれは随分と高価なものではないのか?」
「は?いや、そんな事はないけど?」
「では何故、弘人は何も食さぬ?法尉は何やら探しに行ったが、弘人は何もないではないか。もしやこの、そふと・・・・何やらのせいで・・・・。」
柄にもなく、おかしな事を勘ぐっている乎耶を見て、弘人が慌てて首を振る。
「そんな事ないって。ソフトクリームくらいならまだ何十個でも買えるけど。」
「では何故?」
「あ~・・・・何て言うかその・・・・。買ってくるの忘れた・・・・・。」
「はぁっ?!」
頭を掻きながらそんな事を言う弘人。乎耶だけでなく、楓もわけが解らないと言いたそうに弘人を見ている。
「あ~なんだ、その・・・・乎耶を喜ばせてみようかと思って買いに行ったから、自分の分の事なんてすっかり忘れてた。」
「我・・・・を?」
「ふふふ、弘人は乎耶ちゃんが今まで遊んだ事ないって言ってたから、少し遊んでいこうって思ったの。それでソフトクリームを買ってきて、乎耶ちゃんをビックリさせようって。さっき私達に乎耶ちゃんを任せてこっそり。でも、自分の分を買い忘れるなんて、以外と弘人はおっちょこちょいさんです。」
クスクスと笑う楓を見て弘人も照れ笑いをする。
「我のため・・・・に・・・・。」
事情を知った乎耶が突然俯く。
「・・・・うぅ・・・・グスッ・・・・。」
「お、おい・・・・乎耶?!」
いきなり泣き出した乎耶に驚く弘人と楓。
「我は・・・・我は・・・・嬉しいのじゃ・・・・。はじめて・・・・我が願いが・・・・叶うた・・・・。」
すすり上げながら、乎耶はそんな事を言う。
「え?」
そして、弘人に答えることなく、次の瞬間には笑顔になっていた。
「へへへ・・・・なんでもない・・・・。」
愛らしい、少女の笑顔。それを見て弘人は何とも言えない、満ち足りた気持ちになった。
乎耶は涙を拭いて、弘人にすり寄ってくる。
そして。
「楓!なれも乎耶の隣りに来てたもう!」
「え?え?」
すぐ側にいた楓の手を取って、乎耶は半ば強引にベンチに座らせた。
「お願いじゃ。乎耶の一度きりの頼みと思うて。」
「う、うん?」
「もっと、もっとこっちによってたもう!」
「はっ、はいはい・・・・?」
乎耶の突然の言葉に戸惑いながらも、乎耶の隣りに密接して座る楓。乎耶は弘人と楓に挟まれて座り、とても満足そうな表情をしていた。
乎耶の表情を見て、弘人と楓は戸惑いながらも不思議と幸せな気持ちになっていた。お互いに顔を見合わせて笑い合う。
それに気が付いた乎耶もにっこりと笑う。
「弘人、半分こじゃ。」
そういって乎耶が差し出すソフトクリームを、弘人は遠慮なくかじる。
「のう楓、戻ったらまた乎耶に『ほっとけーき』を焼いてたも。」
「え?うん、いいよ。」
珍しく乎耶が誰かにおねだりをする。楓の答えを聞いて、乎耶は嬉しそうに満面に笑みを浮かべた。
「えへへ・・・・。乎耶はいま・・・・幸せじゃ。この世で、一番の果報者じゃ・・・・。」
弘人と楓にすり寄って、乎耶は初めて『愛情』というものを味わい、噛み締めていた。
コーヒーを買って戻ってきた源抄は、その様子を木の陰で見ていた。まるで仲の良い親子のように笑い合う三人を見て、源抄は彼等が本物の家族であったらどれほど素晴らしい事かと考えていた。
実際には弘人と乎耶、二人だけしかベンチに座っていないように見えるが、そこには三人分の幸せが確かにあった。
源抄はしばらくの間、彼等の邪魔をしないようにそっと隠れたいた。通り過ぎる人は弘人と乎耶を見て笑みをこぼしながら通り過ぎていく。
源抄の手にした缶コーヒーがなくなるまで、暖かな光景は温泉街の一角で景色と一体になって溶け込んでいった。
もうすぐ、弘人と楓にとって最初の正念場となる。果たして、楓の両親はどれほどの理解を示してくれるのだろうか。
不安と期待は大きく膨らむばかりとなり、次第に緊張感が高まってくるのを弘人も楓も感じ取っていた。




