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静香の、もはや隠しもしないその野望を知り、虹丸は戦慄した。
(あの女は日の本を…この国そのものを斬ろうとしているのか!?)
何というの狂気か。
国を両断するなどという想いを何故、この女は抱いたのだろうか?
虹丸には、まるで想像がつかない。
分かろうはずもない。
虹丸が考えている間にも、裂け目はさらに大きく深くなっていく。
(まさか、本当に日の本を斬ってしまうのでは!?)
そうなれば、どうなってしまうのか?
全身が痺れたように動かない。
静香の壮大な狂気に完全に飲み込まれていた。
「何をしている!?」
背後から投げかけられた聞き覚えのある声に虹丸は、はっとなった。
「十蔵さん!?」
振り返った虹丸が、声の主の名を呼んだ。
十蔵が虹丸に近づいてくる。
震動し続ける地面にも、十蔵の歩みは乱されない。
十蔵に虹丸への敵意は感じられなかった。
「何をただ、見ている!!」
十蔵が怒鳴った。
「あの女を止めろ! このままでは取り返しのつかないことになるぞ!」
十蔵の言葉に虹丸の全身の痺れが消え失せた。
(そうだ。とにかく、止めなければ!)
「俺に使った技を使え。奴の身体の中から弱らせて止めろ」
十蔵が言った。
虹丸はふと、懐かしくなった。
十蔵に教えを受けていた子供の頃に戻った気がした。