79/105
79
十蔵を押さえ込む虹丸たちは、呆気にとられている。
しばらくして、十蔵の笑いは止んだ。
「俺はさっきまで、自分が必ず勝つと思っていた。まったく、いい様だな」
十蔵が言った。
再び淡々とした口調に戻っている。
「お前の勝ちだ」
「………」
「殺せ」
「十蔵さん」
虹丸の声は優しかった。
「もう、関係のない人を殺めないと約束してください。約束してくれれば、俺はこのまま消えます」
「………」
「十蔵さん?」
「俺を生かすと?」
「はい。俺は十蔵さんを殺したくありません」
虹丸の声が微かに震えた。
しばらくの静寂の後。
「断る」
十蔵が言った。
「俺は里を抜け自由になった。誰にも指図されたくない。殺したいときに殺したい奴を殺す」
「十蔵さん…」
「お前が俺を止めたいなら、俺を殺すしかない」
「………」
「お前に俺の自由は奪えない。殺れ」
十蔵が言い放った。
と同時に、不意に十蔵を押さえつける力が消えた。
十蔵は自由になった身体を起こし、辺りを窺った。
あれほど周囲を埋め尽くしていた虹丸たちの姿が全て、居なくなっていた。
「虹丸…甘いぞ」
十蔵が呟いた。
体内の痛みも、いつの間にか和らいでいる。
立ち上がった。
十蔵の足元は、ふらついている。
口中に残った血をぺっと吐き出す。




