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(石の力を増せると言っていた…)
十蔵は静香の石の力を奪うつもりだったのか?
それが事実なら。
(私の力も強く出来るのか)
ふと、日本を斬るという想いが甦り、静香は興奮を覚えた。
我ながら異常な思考ではあるが。
(斬りたい)
狂おしい欲望が頭をもたげた。
この何年もの間、まるで死人のようだった静香の心が踊った。
心底、生きていて良かったと思えた。
(そのためには)
十蔵は、もうひとつ教えてくれた。
石を持つ者は同じく石を持つ者を探知できるという。
(十蔵以外の石を持つ者を斬らねば)
今はまだ、十蔵と戦うときではない。
静香は月光の下、道なき道を駆けながら石の気配を感じようと、必死に精神を研ぎ澄ませるのだった。
八日後。
静香は十蔵と遭った山とは離れた石切場に居た。
石の気配を追っていくのは次第に慣れてきた。
再び、十蔵と遭遇せぬように二番目に近い気配へと進んだ。
そうして、たどり着いたのがこの場所だった。
今は使われていないのか、人影は無い。
春の温かい日差しの中、静香は眼を凝らした。
気配がする。
それは間違いない。
緑の石を身体に取り込んだ者が必ず、この近くに居る。
長刀の柄に右手を置きながら神経を張り詰め、静香は石切場の中央へと歩いた。
やはり、誰も居ない。