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ここで弱気を見せては手下に舐められる。
巨体とはいえ、たった独りの坊主に何を怯える必要がある?
「ぼさっとしてんじゃねえ! お前ら、早くそいつを始末しやがれ!!」
頭目の怒声に野盗たちは一斉に武器を抜いた。
それを見た虎然は笑った。
口を目一杯開けた大笑いだ。
「供養を始めるかのう」
そう言って虎然は背中の籠を下ろした。
それを今度は両手で抱えあげる。
「そうれっ!!」
虎然が籠を頭上へと放り投げた。
籠は重さが無いかのように飛んでいく。
野盗たちは法師の意図が掴めず唖然とした。
口を開けて、籠を眼で追う。
次の瞬間。
野盗たちに死の雨が降り注いだ。
大量の刀だ。
虎然の投げた籠に入っていた百本はあろうかという刀が、ばらばらと野盗たちに襲いかかったのだ。
運の悪い者は落ちてくる刀に身体を貫かれ死ぬか、大怪我を負った。
辺りは突如、血生臭い臭気に覆われた。
野盗たちの阿鼻叫喚が響き渡る。
刀の雨を免れた野盗たちも恐怖に身がすくんでいた。
降り注いだ刀は全て人に命中したわけではない。
むしろ、人を外れ、辺りの木や地面に突き刺さった物が大半だ。
それでも野盗たちは予期せぬ攻撃に心を挫かれた。
大きな影が怯える男たちの前に、ぬっと立ち塞がった。
虎然だ。