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第二話 ツノとしっぽ


「ワタシを仲間にしたこと、きっと後悔させないぜー?」


「わー! 明日が楽しみです!」


「ふふん、迷宮のことなら何でも知っているからね。ワタシに何でも聞いていいよ?」


 僕の目の前ではサラとレウヴィスがじゃれ合っていた。ミカは、少し離れた椅子の上で三角座りをして、その様子を眺めている。

 彼女には結局押し切られてしまったが、まずギルドにどう説明しよう。

 角としっぽが付いてる人間なんて聞いたことないし、さっきもかなり目立っていた。正直に説明したらしたで、さっき僕たちがしてしまったように、きっと大騒ぎになるだろう。


「……うーん、不味いな」


「え、何が?」


 僕の口から溢れた言葉に、きょとんとした表情でレウヴィスが反応する。

 ……何がじゃないが。

 

「そのツノ、なんとかならない? 仮装……じゃ誤魔化せなさそうだし、あとしっぽ」


「ああ、ツノはちょっとどうしようもないね。魔人の力の源なんだ。折れてしまうと、力は使えなくなるね。試してないけど、両方折れたら……多分死ぬ」


「まじか……」


 死ぬのは駄目だ。けど、そのままだと目立って仕方ないからなんとか隠さないと。帽子だと心許ないし……。

 難しい顔をしていたら、レウヴィスが「あ!」と声を上げる。


「しっぽならイケるかも! しっぽなら自分の意思で再生とかも止められるし。そうと決まれば早速! サラちゃんちょっとお願ーい」


「はいっ!」


「いやいやいや」


 この子のこういうことに対する謎の軽さはなんだ。自傷願望でもあるのだろうか。僕は慌ててサラに自らの尻尾を切断させようとしているレウヴィスを止める。


「えー、いいの? ツノより目立つと思うよ?」


「それはそうだけど! サラもやめて!?」


「えっ、……はいっ」


 そんな見るのも辛いようなことしなくていいよ!

 サラは言われるがままに剣を取り出して、既に鞘から半ばほど抜き出した状態だった。おいおい……。


「とりあえず別の方法を考えるから……この話は一旦やめよう」


「ほーい」


 神経がすり減る。

 ……これについては、もう正直にアレクに説明するしかないな。変に隠したり、嘘をついたりして、バレてしまったときが怖い。

 騒ぎにはなるだろうけど、仕方ない。


「よし、次の議題。今日寝る場所をどうするか問題のお時間です」


 これについては早急になんとかしなければいけない。今すぐだ。


「ここじゃダメなんですか?」


「はい、サラ君! もちろんだめです!」


 駄目に決まっている。サラはきょとんとしているが、どうかもう一度思い出してほしい。ここが二人用の部屋だと言うことを。


「なんでー?」


 今度はレウヴィスが聞いてくる。ミカは少し顔を赤くしてこっちをチラチラと見ているから、僕が言わんとしていることに気づいたのだろう。


「女子三人に男一人、部屋は二人用! しかもベッドは一つ、……こんなことが許されるとお思いですか? レウヴィスさん」


「え、なんでー?」


 だめだ、この子、わかってない。


「……って、ヨータ。もしかして新人ちゃんと今までは同じベッドで寝てたって言うの!?」


 ……ミカは不都合な真実へと辿り着いてしまったようだ。彼女は更に顔を赤くすると僕に詰め寄ってきた。

 ミカは新人ちゃん呼びなのか。じゃなくて。


「あ、ミカさんごめんなさい。ヨータさんはお金が無かったので、私が借りてた部屋で泊まってただけですよ!」


「な、な、な」


 サラが援護射撃(よけいなこと)をしてくれました。

 ミカはわなわなと口元を震わせながらこちらを凝視する。ひぃ。


「ご、誤解だ! これには深い訳が……」


「何が誤解だって言うのよ! この、……この変態!」


 ……不可抗力だ。僕は変態じゃない。サラはわたわたと手を出そうとしては引っ込めて、青い顔で慌てている。


「あー、なるほどねぇ」


 レウヴィスはミカに肩を掴まれ揺さぶられている僕を見て、ニヤニヤしだした。くそ、覚えてろ。


「誤解だぁあああああ……」


 結局このあと小一時間、ミカに説教をされてしまったのだった。

 



 

「あー、ごめんねぇ。部屋もうずっと満室で」


 あのあと、ナギサさんに部屋を分けてもらえないか聞きに行ったけど、やはりだめだった。


「むこうひと月の間は予約で埋まってるのよね」


「「一ヶ月!?」」


 ミカと僕は同時に叫んだ。

 もう夜だ。今更他の宿にはいけない。とりあえずレウヴィスにはサラと一緒に部屋で待ってもらっているけど、もう今度こそ僕が野宿すればいいかな。

 女の子同士ならまぁ、許せるのではないだろうか。 


「というわけだから、またで申し訳ないけど……ごめんね?」


「はい……」

 

 これ以上ゴネてもただの迷惑にしかならない。僕たちは肩を落として(きびす)を返す。

 借りている部屋への階段を戻りながら、ミカが話しかけてくる。


「不可抗力……ね」


「そう、不可抗力だから」


 誤解は解けたようだ。僕は内心ホッと胸を撫でおろす。ミカはしゅんとした様子で謝ってきた。


「なんか、その……ごめん」


「う、うん」


 なんだか変な空気になってしまい、二人とも口をつぐんだところで部屋についた。そのままドアを開けて入る。


「あ、ヨータさん。やっぱりだめでしたか?」


「うん。レウヴィスは?」


「自分はどこでも寝られるから、って窓から出ていっちゃいましたよ」


 何やってんだあいつ! 

 僕は焦る。誰かに見られたらどうするつもりなんだ。


「何やってんだあいつって言われたら、どうせ夜だし誰も見てないから大丈夫だって言っといてと……」


 本当に大丈夫か……。


「本当に大丈夫かとヨータさんに聞かれたら朝までに戻るから安心していいよーって」

 

「言い訳の用意がいいな!?」 


 僕が思ったことを一言一句違わず予想されている。そういうスキルでも持っているのかな? でなきゃ怖い。


「まぁ、疲れてるだろうからとりあえず休みなよ。……以上がレウヴィスさんからの伝言です」


「……わかったよ」


 うーん、やっぱり悪いヤツじゃあ無いんだよね……。

 疲れているのは事実だし、言うとおりにして寝よう。難しいことは全部明日だ。


「寝る」


「えっ、お風呂は……」


「起きたら入る」


「分かりました、ゆっくり休んでくださいね!」


「うん、おやすみ……」


「おやすみなさい!」


 ベッドに飛び込む……度胸は無かったので僕は壁まで歩くと、腰を下ろしてそのまま意識を手放した。

 ここ数日、ろくに寝ていなかったので、久しぶりにぐっすり眠れたと思う。

 ちなみに次の日、街では闇夜を舞うドラゴンのような怪物が目撃されたという噂が探索者達の間で流れた。


 ……ダメじゃん。

 

 

 


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