14話
「さて、今日はダンジョン攻略の当日だけど――」
第六ダンジョンエントランス。
配信スペースにて、明星かざねはドローンのカメラに笑顔を向け手を振っていた。
その後ろにはチャリティ企画を聞いて集まった、他の探索者や配信者が並んでいた。
「これだけの探索者が集まってくれました! みんなありがとう! ここにいる全員の探索者ライセンスも記載してるから、気になるひとがいたらデータベースにアクセスしてみてね」
参加者が増えたおかげで、視聴者数は一秒ごとに増えていき、今では十万に近い。
配信開始直後でこれなのだから、実際にダンジョンに潜り始めたらこの倍の数は見込めるだろう。
だが人が集まれば問題が起こるのも必然であり――
「やぁ、かざね。元気にしていたかい? 君の騎士が参上したよ」
その筆頭が、かざねの画面に割り込んできた。
わざとらしく画面の中へと割って入るひとりの男。
かざねと同じAランク探索者の日上だ。
「日上君も参加ありがとう。高ランクの参加者はいつでも歓迎だよ」
「かざねたっての頼みだからね、当然だよ。『今回も』、僕が守ってあげるよ」
「う、うん、ありがとう。頑張ろうね」
かざねは日上の発言には極力触れずに聞き流しておく。
あくまで今回はチャリティ企画であり、別の話題に注意が向くことを避けたかったのだ。
だが露骨すぎる日上の『白銀の騎士』アピールに、カメラ越しのリスナーもざわつきを見せていた。
だからこそかざねは愛想笑いでごまかすしかなかった。
企画のための、不本意な連係だが仕方ない。
探索に入ろうとかざねが前を向いた、その時だった。
「これは……?」
『――緊急警報発令。緊急警報発令。第62階層に正体不明のモンスターを確認。ダンジョンの一部が崩落し、第六ダンジョン全体に影響を与える危険性があります。繰り返します、第62階層にて正体不明の――』
エントランスに鳴り響いたアラートは、管理局の大型モニターとドローンからだった。
管理局の窓口付近でも職員達がダンジョンの前に集まり、会議を始めていた。
見れば出入り口を固めていた警備員達も魔道具を起動させている。
「こんな時に緊急警報!? いや、でも、まさか……。」
ふと、かざねの背中に悪寒が走る。
このチャリティ企画の場所と日付けは、白銀の使い魔が指定してきたのだ。
となれば、この騒動が起こることすら計画に入っていたのでは。
「失礼します。代表の探索者様はいらっしゃいますでしょうか?」
「あぁ、僕とかざねがそうだ。そういう君は?」
「自分は迷宮管理局の特務討伐隊所属、相園と申します。単刀直入に言いますと、救助隊の編成しているのですが人手が足りていません」
「探索者に対しての救難要請ということですよね。もちろん協力します」
「特務隊の即応部隊が間もなく到着いたします。それまでに作戦の共有をお願いします」
端末での通信を終え、作戦準備の為にエントランスの入り口へ向かう相薗。
その背中を見送り、震える端末を開く。
「Bランクのパーティが行方不明、か。たぶん正体不明のモンスターに襲われたんだと思うけど……。」
端末には緊急警報の詳細と共に、特務隊の作戦概要が届いていた。
逡巡した後に、かざねは集まった企画の参加者へと支持を飛ばす。
「チャリティは救難活動に切り替えます! 参加してくれる探索者の半数は第30階層にある大昇降機の安全確保を! 残りの半数は、管理局の特務隊と共に60階層まで大昇降機で降りて行方不明者の探索に向かいます!」
「もちろん僕も手伝うよ。こういう時にこそ、この僕が必要だろう?」
緊急事態時にまでアピールに走る隣の男をよそに、かざねの視線はすでにダンジョンの入り口へ向けられていた。
「これも計画のうちだって言うわけ……?」
誰にも聞こえないよう、かざねはひとり毒づいた。
◆
そして同刻。
大崩落が危惧される62層よりさらに遥か下。
第六ダンジョンの最深部――『第100階層』にて。
「あっははははは! ほらほら、抵抗して見せなさいよ! この下等生物共!」
幼げな少女の笑い声と、業火に焼かれて絶命していくモンスターの断末魔。
おおよそ現実世は思えない状況だが、ルシフェリアはその中心でご満悦にもその爪に付いた血を払い落としていた。
「ルシフェリア、あまり食い散らかさないように。これだけの数だと回収も面倒です」
傍にいたレヴィアも呆れた様子でため息を付いているが、その足元にはこの第六ダンジョンのボスモンスター『エルダー・オーク・センチネル』が倒れていた。
そう、このダンジョンのボスモンスターである。
「なぜ、こうなったんだろうな。本来なら80階層近くで狩りを続けてたはずだったのに……。」
「あのクソガキを手なずけた、聡明なるご主人様の手腕かと。お見事です」
「ルシフェリアがここまで好戦的な性格だとは思ってなかったんだよね、俺も」
当初は深層で、期限近くまでモンスターを狩り続ける予定だった。
だがルシフェリアが半永久的に戦闘を続け、レヴィアがそれに張り合った結果、70階層から下のモンスターを『全て』狩りつくして100階層まで到達してしまったのだ。
そして俺はと言えば使い魔の蹂躙の後を歩き、ドロップアイテムを回収する係となっていた。
ボスモンスターのドロップアイテムを含めれば、すでに5億近くは稼いでるはずだ。
特に『エルダー・オーク・センチネル』は仲間のモンスターを大量に召喚する性質上、ルシフェリアと相性が抜群で、部屋の隅には召喚されたモンスターからドロップしたアイテムが山積みになっていた。
「さ、流石はSSRが二人いるだけある。第六ダンジョンのボス相手にも、まだ余裕じゃないか」
「これも全て、ご主人様の能力があればこそです。更に難度の高いダンジョンに潜ることも可能ですが、いかがなさいますか?」
「アイテムの換金にも時間がかかるはずだ。木戸との交渉の日も近づいてるし、別ダンジョンの攻略はまた今度にしよう」
「承知いたしました。ルシフェリア、帰りますよ」
「もう!? まだまだ暴れ足りないわ!」
血気盛んに喚くルシフェリアに対して、レヴィアは完全に見下した視線で告げた。
「理性を捨てて暴れまわるとは。品性が足りませんね」
どこかのSSRのサモンモンスターも、契約した初日に召喚主の意見を無視してダンジョンをふたつ梯子していたが、覚えていないらしい。
指摘しても軽く受け流される未来が見えるので、アイテムの回収を優先して帰還の準備を急ぐ。
だがその最中、ふと背中に冷たい感覚が走った。
レヴィアも違和感を感じ取ったのは、じっと天井を見つめている。
まるでその先に、なにかあるかのように。
「レヴィア、なんだか嫌な感じが上の階層からするんだけど、これは?」
「まさか我々よりも先に気付かれるとは流石です、ご主人様」
「い、いや、そこまで褒められるようなことじゃ――」
言いかけたその時、今度は物理的な振動がダンジョン全体を貫いた。
ぱらぱらと崩落した天上の一部が降り注ぎ、嫌な予感は確信へと変わっていく。
見ればレヴィアだけでなく、ルシフェリアまでが上の層を仰いで顔を歪めていた。
「ねぇ、レヴィア。このふざけた気配はもしかして、もしかするのかしら」
「間違いありません。私はご主人様と共に、一匹駆除していますので」
「聞きたいのだけれど、まさかアタシを暴れさせたのって、これを呼ぶためじゃないのよね?」
「さぁ、どうでしょうか」
「一匹駆除してるって……まさか黒いモンスターがまた!? レヴィアとルシフェリアはあれがなんなのか、知ってるのか!?」
レヴィアとルシフェリアは妙に落ち着いている。
その様子から黒いモンスターの事情に詳しいことは明らかだ。
第三ダンジョンで探索者達を襲っていた黒いモンスターは、管理局でさえ把握できていない未知のモンスター。
狂暴性からAクラスのパーティですら壊滅するという歩く災害だ。
その情報を聞き出そうとするがしかし、レヴィアは硬い表情のまま俺の腕を握った。
「今は急ぎましょう、ご主人様。詳しい話は後日、必ずお話させていただきます」
「……わかった、レヴィアを信じるよ」
「ではルシフェリア、こちらへ」
「はぁ? 急ぐんじゃないの? 悠長にしてると連中が――」
レヴィアがルシフェリアの腕を引っ張り、耳元でなにを囁く。
聞き取れないが当初の邪険な言い争いや挑発でないことはすぐに分かった。
少ないやり取りで何かを納得した様子のルシフェリアが、嫌な部類の笑みを浮かべる。
「なんとなくアンタの狙いが読めてきたわ。その作戦に乗ってあげるわ」
「では伝えた通りにお願いします。重要なことなので、くれぐれも間違えないよう」
「れ、レヴィア? ルシフェリア? なにを話して――」
「行きましょう、ご主人様。被害が出るその前に」
「ぼさっとしてないで、さっさと背中に乗りなさい! 急ぐわよ!」
話を聞くその前に、ルシフェリアが再び爆炎に包まれ巨大な竜へと変貌する。
そして『武装憑依』で鎧となったレヴィアが、俺の体を使ってルシフェリアに飛び乗る。
詳しい話を聞けないままに、俺は竜の背中に乗って百階層を後にしたのだった。




