第1話「涼音おばあちゃん、異世界で身バレする。」
音ゲー勇者!!
⻆谷 春那
第一話
「涼音おばあちゃん、異世界で身バレする。」
「鈴木 涼音。旧姓は、山本。あ、結婚のせいで、そんな、何て言うの?『韻を踏んでいる』?フルネームになったのね。」
「初めて会った人には、やっぱり驚かれますね。いつも。」
不思議な取り合わせである。豪華な一室に、老婆と女性。どうやら、「祖母と孫」と言った感じでは、なさそうだ。
女性は若いが、幼くはない。かと言って、若者特有のあの、過大評価的な自信や、「行動力」とも言えるエネルギーは、なさそうだ。けなしている訳ではない。「落ち着いている」と、言うべきなのだろうか?良い意味で、大人であり、幼さと言うか、「子供っぽさ」がないのだ。
「祖母と孫」と言ったのは、本当に老婆が高齢だからだ。ひ孫の一人や二人、全く不思議ではない。「少子高齢化」、「出産の高齢化」は確かに進んでいるが、それでもだ。こうやって椅子に座っているだけでも、思わず心配になってしまう程―「ベッドで寝てなくて良いのか」、「車いすじゃなくて良いのか」とうっかり、思ってしまう程の。肘置きが無い椅子だから、余計心配になるのだろう。うっかり目を離した隙に、横に倒れられそうだ。
ここまで豪勢な部屋だと、思わず「天国か?」と、錯覚してしまいそうだ。女性の歳も、相まって。
「えー、享年、108歳。えーと…。誠に、お勤め、ご苦労様でした。」
本当に、彼岸だったらしい。
「にしても、立派な最期でしたね~。最近は、看取ってくれる家族も居ない方が、増えているというのに。全く、羨ましい限りだわ。」
「いえいえ、そんな。」
「いや、もう、誇った方が宜しいわ。本当に、立派で素敵で、理想的な大往生。子供達だけでなく、孫やひ孫にも、看取って貰えたのでしょう?」
「ふふふ、時間が宜しかったのですよ、全く。」
「それに、最近は介護疲れの殺人が増えてきていると言うのに。全く、素敵なお孫さんね。」
「いやいや。娘の育てが良かったのですよ。」
「いやいや、その娘を育てたのは、貴女。もっと、誇るべきだわ。」
「いやいや。私は特に何も。」
「何にしても、貴女の人望の賜物ね。」
人間、死ぬと「全肯定して貰える、素敵なボーナスタイム」に入れるらしい(死後に使えるライフハックその1)。
「・・・ところで、どちら様でしょうか?」
「あ、そう言えば、そうだったわ。」
心当たりは、ないらしい。ひょっとして、若かりし頃の姿でいらしているのかもしれない。
「・・・ひょっとして、私の痴呆のせいでしょうか?」
老人ならではのブラックジョーク。
「いや、初対面よ。安心して?貴女の脳は正常よ?」
「お使いのデバイスは正常です(アナログバージョン)」。
「私はムジカ。まぁ、簡単に言うと…。神ね。」
「なるほど~。」
もはや人間100年以上生きていると、目の前に神が居ようが悪魔が居ようが、動じないものである(推しが降臨した場合を除く)。
「思った以上に、フレンドリーな方で安心しました。」
「あぁ、キャラ作ってるのは、新人さんくらいよ。」
「Ⅴチューバーみたーい。」
「・・・さて、本題に入りましょうか。」
ふっと女神が手をかざすと出てきたものは。神々しい神具ではなく。
何故か、素敵なお菓子と。「神具」ではなく、「寝具」だった。何とも可愛らしい、枕が出てきたのだ。お菓子も、「アフタヌーンティー」のような、仰々しさや、高級感は、良い意味でない。「庶民の味方」とも言える、親しみが半端ないお菓子たちだ。パジャマパーティーでも、始まりそうな雰囲気である。部屋も何故か、ファンキーな感じになっている。先程の部屋は「応接間」的な、「整えられた」感があった。しかしこの部屋は、the寝室。the私室。適度に散らかっており、生活感がある。しかし、初対面の人間を上げるには、相応しくないだろう。神にはそのような、人間の仕来りは関係ないのだろうか?
「ま、適当にくつろいで!」
「黄泉戸喫」と言う話があるが、もう108歳・死因は老衰の涼音おばあちゃんには、関係のない話だろう。勿論、美味しく頂く。嚥下力の低下により、固形物を長い事食べられなかった体だ。久々の駄菓子・スナック菓子に、思わず心が躍る。若かりし頃を思い出させられる。
「凄いです。若いころに戻ったよう!むせずに美味しく頂けるなんて!!」
「それは良かったわ!」
「・・・ここは、あの世なのですよね?」
「うーん。難しいわね。貴女の居た世界とは『異なる世界』と言う意味では、『あの世』とも言えるけれど…。まず、『神の世界』だしね。おまけに、『異世界』だし。」
「ッゴホゴホゴホ。『異世界』?!?!?!」
「あ、おばあちゃん大丈夫?ジュースもあるわよ?」
「ゴクゴクゴク。え、『異世界』??」
流石に、108年3カ月生きていても、「異世界」には驚きを隠せない、涼音おばあちゃん。
「・・・あ、まだ、話してなかったわね。」
「・・・本題を、口を滑らせてしまった感じでしょうか?」
「・・・まぁ、そんな感じね。もう、このまま本題に入っちゃいましょうか?」
「・・・そうして下さい。」
「えっとー…。まずは、ごめんなさい。」
告白の際くらいでしか聞かない台詞。
「え、私、夫も居ますよ?死別したけど。」
「そ、そんな…!」
ノリノリ。
「・・・もう!!こんな事してる場合じゃ、無いのよ!!」
「ごめんなさーい。」
「分かれば宜しい!」
また手をかざすと、何かの紙が出現した。よくある異世界では、羊皮紙が使われたりしているようだが、この紙は、新聞紙的なものである。
「・・・これ、貴女よね?」
「?!?!?!」
流石に、108年3カ月14日生きていても。インターネットの名前(SNSのアカウントのスクリーンショット)を突きつけられたら、驚きを隠せない。「【悲報】涼音氏(108)、あの世でも身バレしてしまう」。
「ちょ!ちょ!!ちょちょちょ!!!」
慌ててふんだくる涼音おばあちゃん。そこで気づく。自分の体の身軽さに。そして、自分の目に映る手の、若さに。もう、何十年も見慣れた、しわしわの手ではない。女神は鏡を見せてくる。そこに映っていたのは、若かりし頃の自分―ではなく。狐耳に、白い髪。黄色の目。親の顔の次、子の顔の前によく見た顔―インターネットでの自分だった。
「ふぁ?!」
女神は立ち上がる。
「鈴木 涼音!いや、稀代の才能を持つVチューバー!!雅客!!!私―音楽の女神・ムジカの、勇者よ!!貴女を!」
そう言って、三次元になった二次元ボディの手を掴む。そして、優しく、罪な上目遣いで。こう言ったのだ。
「貴女を。異世界転生させては、くれない?」




