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登校初日から天真爛漫な美少女にプロポーズされましたが、僕は彼女と結婚しないで一親等になることを決めました。【長編小説】  作者: 金森 亮
第七章 行動が物語るもの

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24/24

第24話 別れ話を切り出すということ

 6月24日、いつもと同じように彼女と登校している、その最中のことだった。


「……希奈」

「どうしたの?」

「僕たち、もう別れよう」

「そんな未来あるわけないでしょ」

「いや、本当に別れたいんだ。もう縁を切りたいと思っている」


 僕はそんな一言を投げ掛けた。能力の効果が発揮されていた。


 既に彼女に対する意識は闇の中へと葬られており、彼女の魅力・存在感・異性としての感触が失せていた。


 まさか感情まで能力で操れるとは思いもしなかった。とても好都合だった。


『これで、夢から目が覚めるのか……』


「ど、どうしちゃったのよ!? 急にそんな冗談言っちゃって……」

「だって、僕らは結婚できないんだ。それなのに付き合っているなんて無意味だろ?」

「そんなことないわよ! 最悪……私はカップルのままだっていいの!」


 彼女は僕を手放さまいと必死で、僕もそれに応じて段々と突き放していく。


「なら、僕は嫌だ。悪いけど、もう希奈とは付き合いきれない」

「……なんで、なんでそうなるのよ!」

「希奈のことが好きだからだ。これ以上、希奈を苦しめるのは僕の本望じゃないんだよ」

「わ、私の本望はどうしてくれるのよ!?」

「知らないよ。そんなクソ野郎が本当の僕だから。ごめん」

「そんな響も受け入れるから! だからそんなこと言わないでよ!」

「じゃあ……またな」


 僕は彼女をその場に置き去りにして学校へと駆け出す。このとき、僕は過去最高の達成感に呑み込まれていた。彼女を幸せにするという本望が無事に叶ったのだから。


 ただ一つだけ、彼女を恋しく想う心情はまだ完全に消し飛んでいなかった。


『願い足りなかったのか……』



「響、お前どうしたんだ? そんな無表情、最近のお前らしくないぞ?」


 学校につくと、不意に棚田がそう問いかけてきた。


「あぁ、さっき別れたんだよ。希奈と」

「……は?」


 棚田は衝撃的な一句に呆然として、口をかっ開いたままこちらを覗く。


「僕のほうから縁を切ろうって言った。それでいいんだよ」

「おいおい馬鹿じゃねぇのか!? あんな高嶺の花を手放すとか正気じゃないだろ!?」

「そうなのかもな。だけど、希奈のほうも正気じゃなかったみたいだ」

「なに言っているんだよ……お前が一番正気じゃないだろ!」

「僕らは互いに幻覚を見ていたってことだ。それから目が覚めただけなんだよ」

「……どうかしているぞ」


 今晩の明晰夢で、彼女の僕に対する魅力を欠落させればすべてが終わるのだ。僕は昔日の日と同じようにほんのりと笑みを浮かべた。



 彼女は青ざめた表情で教室に入ると、女子たちからの案ずる声にも答えず、そのまま教室を出て遠くへ行ってしまった。


 僕のほうに視線が集う。だが、今の僕はもう彼女とは赤の他人で、女子たちに対応する所以もなかった。

 こんなことならもっと早く葛藤しておけばよかったと、今更ながら後悔が募る。


『……悪いな、希奈。でも、今日で全部終わるから』



 そうしてその日の晩のこと。案の定、僕は明晰夢に飛ばされて、即座に「彼女がこれまでの僕との記憶を消すこと」を祈った。


 今日はお婆さんの姿がみえない。なので心置きなく願いを込めていく。


 きっと彼女は本当に明晰夢を観て、能力を会得していた。僕の両親を殺したのも事実だろう。それなら、これで僕は彼女の罪を帳消しにできる。


『……希奈のことだから、どうせまたいつか償いの気持ちが生まれるだろうしな』


 それに、たしか僕と結婚できなくとも、彼女は別の手段で結婚願望は叶えられるはずだ。最後には誰もなにも損をせず、幸福の渦中で終われる。我ながら名案だった。


『……僕は彼女が大好きだった。だから、もう終わりにしたいんだよ』


 そう想っていると、何滴か雫のようなものが落ちる音がする。それに自分の顔に触れると、なぜか手が濡れる感触がする。


 涙だろうと思っていると、そこには赤く染まった掌があった。夢の中での話なので痛みは伴わなかったが、心臓には鋭利な刃が突き刺さっていた。



 僕は彼女の幸せを願うあまり、自分のことを殺していたのだ。磔にされた身体は、今にも壊れそうでやつれそうだった。だが彼女への好意はあっても、彼女を守り抜く意思はもうどこにもなかった。


『……もういいだろ』


 僕はずっと続けていた懇願をやめる。すると次第に雫の落ちる音も落ち着いて、僕は普通の夢の世界へと誘われていった。




 6月25日、今日の天気は梅雨らしくない晴れ模様が広がって、僕は二ヶ月前の暮らしに戻ろうとしていた。


 学校に向かう途中、僕は彼女の後ろ姿が目に入る。あえていつもの時間に登校した僕は、彼女に気づかれるかどうか試してみたかった。

 僕の能力が働いたのなら、僕と彼女は知り合い未満の関係性になれるのだ。


 僕は彼女の真横を通り、いちべつして過ぎ去っていく。彼女からはなんの返事もなかった。僕は黙って喜びに近い何かを噛み締めていた。


『……次は僕の記憶も消さないとな』


 あんなもの、やはりすべて幻影に過ぎなかったのだ。あのお婆さんは、きっと孤独な僕らにいい夢を観させる番人で、善人であり極悪人でもあった。


 ただ、確実なことがあるとすれば、僕に心残りは何一つとして残っていなかった。



「ねぇ……希奈、響くんと別れたって話、本当なの?」


 学校に着くと、河田が彼女を問いただしていた。変わらず僕に聞こえるか聞こえないかの声量で。


「響くん……って誰?」

「なに言っているのよ、ひ、響くんは響くんでしょ!?」

「……響くんってあの男の子?」

「そうに決まっているでしょ! なに寝ぼけたこと言っているのよ!」

「ごめん……なにも思い出せないの」

「……記憶喪失ってこと?」

「そうなのかもしれないわ……」


 彼女は完全に僕との甘い思い出を忘れ去っていた。辛くも嬉しいその言葉に、僕は笑顔で涙を零す。黙ってシクシクなく珍しい僕の姿に、棚田が心配して駆けつける。


「お、おい……ほ、本当にどうなっているんだよ?」

「どうにかなったんだよ。これで希奈はずっと幸せでいられるんだ。せめて結婚式に同席できるぐらいの仲にはしたいんだけどな」

「……それ、お前の役目だろ」

「そうだった。けど……今はもう違うんだ」


 そしてしつこい棚田を追い返し、僕は再びその涙の味を堪能していた。


『これで希奈が結婚できる……。希奈の意味での一親等がこれで叶うんだよ……』


 僕は遂に元の普遍を取り戻した。これで何事もなく三度目の普遍を送れると、そう信じていた。



……すると僕の眼前に人影が映る。堂々と佇むその人は、やがて僕にこんな言葉を掛けてきた。


「どうしたのよこんなところで……。なにか辛いことでもあったの……?」

「……え」

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