2021年6月8日(火)『地元でのエリート職につけない人が他県に逃げ出す』
お見合いを告げられた私はとにかく仕事で忙しいとか、コロナだから、と断ろうとしたが「お盆で構わない」とか「ワクチン接種しとけば大丈夫」とか言われて逃げ道が断たれてしまった。
ゆえに私は盆休みまでにどうにかお見合いを断る口実を作らなければならなくなった。
それを相談がてら菜々緒ちゃんに宣言したところ「相手のスペックは?」と尋ねられた。
聞いていなかった。断る前提で話をしていたため、わざわざ相手のことを聞くという当たり前のことを忘れてしまっていた。菜々緒ちゃんに呆れられ、促され我が母に相手のことについてメールで尋ねてみた。
「あんたが相手のことを聞くなんて少しは興味持った?」などという文言が返信に添えられてイラッとしたが、相手のことが判明した。
なんでも国公立大卒の市役所勤務らしい。田舎からするとエリートなお方だそうだ。良縁だから是非お見合いをしろとのことらしい。我が母が仰っていることはわからなくはない。今年三十路を迎える娘に、田舎ではエリートとされる公務員とのお見合いの機会があればそりゃ勧めるし、勝手に話も進めがちになる。ちなみに他のエリート職は銀行員か地元優良企業ぐらいが関の山である。
相手が公務員であり良縁のようだ、と菜々緒ちゃんに伝えると「まさかお見合い受けるつもりじゃないですよね?」と訝しげに目を細めた。
「まさか」
そう返すと安心したように「それでこそ姐さんです」と口角を上げた。
些か男嫌いのイメージを持たれているような気がして、これは早めに誤解を解くべきなのではないかと考える。いつか……近いうちに私が結婚する日が来たとして幻滅されるということがないようにした方がいい。
「誰か手頃な男を恋人と嘘ついて紹介しようかしら」
だから男が嫌いなわけではないということを暗に伝えたのだが、「当てがあるのですか!?」と食い気味に訊いてきた。
そこまで驚かれると、否定しておいて良かったと思う。
「亜美ちゃんから紹介された人に頼むしかないかなぁ。まあ、あまりプライベートなことを頼むのは気が引けるけど」
ならば! と菜々緒ちゃんが身を乗り出す。
「適任がいます! 私の先生に頼みましょう!」
白石くんのことだろう。
たしかに昔馴染みであり、亜美ちゃんから紹介された人より気心は知れている。
ただどうしても気掛かりな点があった。
あのファッションセンス皆無な彼を二か月そこらで恋人として紹介しても信じられる程度の男に変えなければならないのか。
ただひたすらに苦労しそうだと感じた。
ゆえに私は相手の都合もあるから、他に手段がないか考えてみる、とその話を打ち切った。
色々考えたが、お見合いの日にドタキャンかます方が気が楽そうだった。




