誰かに似ている女の子
そんなある日、いつものように仁と事務所にいると、一人の女の子が事務所の扉を開けた。
「じん、いる?」
ひょこっと覗いた彼女の髪は茶色く、真っ直ぐだ。オレンジのリボンを使って、右側で上方だけをちょこんと留めてある。
「えっと……」
一紀は上手く言葉が出なかった。小さな女の子が訪ねてきた驚きではない。その姿に引っかかりを覚えたのだ。
どこか……誰かに似ている……?
「シオンか?」
仁がキッチンから、急いで彼女のもとへと駆け寄った。
彼の姿を見つけると、シオンと呼ばれた女の子は大きな瞳をパァッと輝かせた。
「じん! あそびに来た!」
「はいはい。ちゃんと許可もらってきたな?」
「うん。『まあ、もういいんじゃない』って、おかあさん言ってた」
「そうかよ」
子どもと目線を合わせるべく、自然に膝を曲げて腰を下ろすあたり、仁の面倒見の良さがうかがえる。表情や声も言葉も、いつもの何十倍か優しい。
女の子はだいぶ仁に懐いているようで、無邪気な笑顔を彼に向けて話している。
「あのね、きのうね、嫌いだったもの食べれたんだよ」
「何を食べれたんだ?」
「にんじん」
「頑張ったんだな?」
「ほめて!」
「えらいえらい」
言葉はほぼ棒読みながらも、手は彼女の頭を優しく撫でている。甘いようだ。
ところで、このモヤモヤはいつか解決するのだろうか?
一紀が空気に置いていかれていると、仁があっと気づいた。彼女も「あっ! 新人さん!」と声を上げる。
「シオン、まずは自己紹介しろ」
「はーい!」
シオンは一紀の方へと振り返り、じっと顔を見上げた。一紀も膝を曲げ、彼女と目線を合わせる。
「成田紫音、六歳です。よろしくおねがいします」
紫音は礼儀正しく、ぺこりと頭を下げた。そして顔を上げると、ニッと笑う。
――かわいい。
そのかわいさにつられて、一紀も優しい笑みを浮かべた。
「こちらこそ、よろしくおねがいします。八神一紀です」
「いつき、さん?」
「呼び捨てでもいいよ、紫音ちゃん」
「ありがとう! じゃあ、いつきも『しおん』って呼んでいいよ!」
「ありがとう」
ここでやっと、ある名前が降りてきた。
成田紫音……成田……。
「成田って、もしかして」
「ああ、紫音はゆかりの娘だ」
「やっぱりそうなんですね! まさか、お子さんがいたとは……。ということは、もしかして、結婚も?」
「ん、ああ……今は独り身だけどな」
仁は答えを返してくれたが、言い方が普通ではなかった。ただの離婚とかではなく、何かあるに違いない。しかし、プライバシーの保護だ。いや、この世界にそんな言葉が存在するかは知らないが。
「じーんー、あそぼー」
「あいあい。一紀、電話頼むな」
「はい、お任せください」
一紀の返事を聞くと、仁は紫音を連れて仮眠室に入っていった。紫音は何で遊ぼうかな~とうきうきした様子だ。
よしっと気合いを入れ、一紀はまず事務所内の掃除を始めた。




