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探偵事務所の日常

       4



 一紀がこの地に来てから、二週間近くの時間が経った。


 さすがに慣れてきたことも多くなり、探偵事務所の周辺ならば一人でも出歩けるようになった。仕事もそう多くないので、晴れればよく散歩をしている。空気がだいぶ心地よいのだ。海沿いまで行くと、まさに「おいしい」と言えるほど澄んだ空気が漂っている。


 また、それほどの時間を仁たちと過ごしていることで、分かってくることも多くなった。


 まず、食事のルールだ。基本的に、朝食と夕食は事務所内でとる。

 理由の一つは節約のため。自分たちで食事が作れるのだから、作るほかないと立派なことを言っていた……景が。

 仁の疑いの目が忘れられない。あとから仁にこっそりと聞いたことだが、景は揃って食べないと面倒がってしっかり食べないらしい。「朝も昼もちゃんと食べたし、さっきケーキ食べたからいいでしょ」――よくないだろう。


 そして、もう一つの理由は、雨が降ったときに移動が面倒になるからだ。三階から四階までは一応、通る道に屋根がついているのだが……横殴りの雨は堪らない。

 探偵事務所は夜の九時頃まで電気がついている。帰ってもやることがないと、事務所でぐだぐだしていることが主であるが――とりあえず、すぐに対応できるということだ。

 これまで、朝食は適当に交代して作っていたらしい。そこに一紀も加えて……だが、きっちり決めてしまうのも面白くないと、結局やり方を変えなかった。

 夕食でも似たようなもので、何か食べたいものがあったら、言い出した本人かそれを得意とする者が作ることになっている。一紀は立派な食事を作れないので、夕飯の担当からは外れさせてもらった。代わりに、皿洗いを率先してやっている。

 その皿洗いだが、朝は食事を用意した者がやり、夜は適当にとなった。これまで通りらしい。なんだかんだ、緩いのである。


 次に掃除だが、これも手の空いた者がやることになった。緩い。




 そういえば、不思議なことがある。

 仁たちが手袋を外そうとしないのだ。

 いや……正確に言えば、その下を見せようとしないのである。

 景はガードが非常に固いが、仁は度々もどかしくなってか、一紀に「手伝いはいらない」と念を押してから作業することもある。

 ものすごく訊きたいのだが、訊いてはいけない空気に満ちあふれていて、全く訊く隙がない。


 あと、分かったことと言えば、彼らの働き方だ。

 仁は事務所で客を待ち、話を聞いてから出かける。やはり、一紀と多くの時間を過ごすのは彼の方だ。それというのも、一紀に多くもない電話の待機ばかりさせるのではなく、連れて依頼をこなすことが多いのである。

 理由はもちろん一紀の身の安全面だ。事務所周辺は比較的安全であるが、事務所には誰が訪ねてくるか分からない。この間、ヤクザっぽい男が訪ねてきたときは、さすがに腰が抜けそうになった。仁が慣れた様子で対応できるほどの常連で、実際に話してみるといい人ではあったが、怖いことには変わりなかった。


 一方、景の仕事方法はというと、大抵ふらっと出かけてふらっと帰ってくる。外で仕事を得て、済ませてから帰るのだ。つまり、ほとんど理解が進まない。

 一度、ついて行かせて欲しいと頼んだことがあるが、一紀を真っ直ぐに見ながら「面倒ごとは増やしたくない」とそれはサラッと返されたものだ。

 思い出すと、少し落ち込む。

 物騒な場所だ。それはもちろん分かっている。いろいろあるのだろう。

 事実、景はいつも深緑色のガンホルダーを両腰に着けている。黒の拳銃と銀の拳銃、その二丁を常時身につけて出かけるのだ。

 紫のズボンに深緑という色合いはさて置いて……いや、実に彼らしいのだが。


 とにかく、景との距離は全くと言っていいほど縮まっていなかった。


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