午後の暖かな食卓
この章は前回の話を引き継ぎ、昼下がりの第九修行場を舞台に描いています。主人公がいじめを受けた抑鬱とした雰囲気を一変させ、優しい筆致で長姫リゼロットが妹のエリネを連れ、牛肉と果実酒を持って主人公の佐藤悠真を訪ねる温かいエピソードを展開します。激しい対立はなく、細やかな善意と癒しの付き添いだけがあり、主人公の忍耐強くおとなしい性格を浮き彫りにすると同時に、エリネの純真さと長姫の優しさを通じて、異世界でどん底にいる主人公に初の温かい光を灯し、後に主人公が軍営に向かい、新たな旅立ちをするための感情的な伏線を張っています。平淡な日常の中で癒しの力を余すところなく表現しているのが本章の魅力です。
午後の日差しは朝の冷たさも昼の暑さもなく、第九修行場の荒れた庭に柔らかく降り注いで、乾いた土壌と崩れかけた石塀に淡い温もりを与えていた。
風がそよぎ、塀際の枯れ草がかすかに音を立て、帝国に忘れられたこの荒れ地に、ゆっくりと広がっていく。
佐藤悠真は朝からずっと働き続け、わずかな休みもなく、日が傾くまで休むことはなかった。
山下健太に蹴り倒された石塀を、彼は石を拾い集めて少しずつ積み上げ直した。道具もなく、ただ素手で作業を続け、指先は粗い石で赤くなり、細かい傷までついた。それでも眉をひそめるだけで、黙々と作業を続けた。今にも崩れそうだった塀は、やっと形を保てるようになり、堅牢とは言えないまでも、この小さな空間を外界の騒がしさから遮ってくれる。
それから庭に生い茂った雑草を抜き始めた。根が深く張っているため、一本抜くのも一苦労で、すぐに額に汗がにじみ、こめかみから流れ落ち、前髪を濡らした。抜いた雑草は小さく束ねて塀際に積み、乾かして寒い夜の薪にするつもりだ。
地面に散らばった砂利や枯れ枝も隅に片付けられ、以前は足を踏み場もなかった庭に、やっと平らなスペースができた。簡素なままだが、最初のような荒れ果てた様子はなくなった。
奥の低くて粗末な石の部屋も、隅々まできれいに片付けられた。天井の蜘蛛の巣は棒で払い落とされ、壁の埃はボロ袖で何度も拭かれ、凸凹の床は細かい石と土で埋められた。部屋にある唯一の青い石板は磨き上げられ、テーブル代わりに使われている。
彼は古いリュックから、残り半分のノート、芯が少なくなった鉛筆、そして洗い古された着替えを取り出し、そっと石板の上に置いた。東京から持ってきたこれらのわずかな品が、見知らぬ異世界で、過去の温もりをつなぐ唯一のものであり、彼が生きていく支えになっていた。
すべての作業を終え、佐藤はほっと一息つき、冷たい石塀にもたれて、うつむいた。前髪が目元を隠し、表情は見えない。
彼は不満も言わず、悔しさも感じなかった。
東京での二十年間、彼はただの平凡な人間だった。成績は普通、顔も普通、大人しい性格で、人混みに紛れたら二度と見つからない。異世界に召喚され、勇者となった今でも、最底辺の存在である。十六人の勇者の中で唯一のE級、誰からも軽蔑され、嘲られ、嫌われている。
彼はもうこの境遇に慣れてしまっていた。
大切にされたい、注目されたいなどとは望まない。ただ、邪魔されず、穏やかに生きられる居場所があれば、それで十分だった。
午後の日差しが体に降り注ぎ、ほのかな温もりが伝わってくる。佐藤はそっと目を閉じ、ふと東京の日常が思い浮かんだ。放課後の混雑する道、イヤホンから流れる音楽、家でのささやかな夕飯——白いご飯に味噌汁、焼き鳥三本。以前は退屈でつまらないと思っていた日々が、今では胸を締め付けられるほど大切に思える。
もし召喚されていなければ、彼は今でもそんな平凡な日々を送っていただろう。こんな荒れ果てた廃墟にいることもなく、他人の冷たい視線やいじめに耐えることもなかった。
しかし、運命はそうはさせなかった。彼は結局、ここに来てしまった。
柔らかな足音が、ゆっくりと庭の静寂を壊した。
その足音は従者のように慌ただしく冷たくもなく、山下健太たちのように横柄で乱暴でもない。柔らかく、穏やかで、生まれながらの気品を感じさせ、埃だらけのこの荒れ地には似つかわしくなかった。
佐藤は急に目を開け、思わず門の方を見上げた。
傾いた木の門がそっと開けられ、耳障りなきしみ音もなく、薄紫のワンピースを着た姿がゆっくりと入ってきた。
リゼロット、帝国の長姫だ。
銀髪は銀色のリボンで軽くまとめられ、頬には幾つかの髪が垂れ、肌は雪のように白く、目元は優しく、口元には淡い笑みが浮かんでいる。王族の高慢な雰囲気は一切なく、まるで一筋の陽だまりのように、この荒れ地を照らしていた。彼女の手には細かい模様が彫られた陶製の徳利が持たれ、ほのかに甘い酒の香りが漂っていた。
その後ろに、小柄な少女が従っている。第二王女のエリネだ。
エリネは薄ピンクのワンピースを着て、目元は柔らかく、両手で木製の弁当箱をしっかりと抱えている。弁当箱には水色のリボンが結ばれ、姉の後ろから小股で歩きながら、丸くて大きな瞳で、佐藤の姿や荒れた庭を興味深そうに、けれども痛々しそうに見つめていた。
佐藤は一瞬硬直し、慌てて立ち上がり、両手を緊張から服の裾に握りしめ、思わずうつむいて、二人の瞳を直視する勇気がなかった。
今の彼は埃まみれで、袖はすり切れ、指先には傷があり、みすぼらしい姿だ。目の前の二人は高貴な王族で、輝かしい存在である。自分がこの人たちと対等に見られる資格などないと思った。
「姫、姫様……」佐藤の声は乾いていて、隠しきれない緊張がにじんでいた。
リゼロットは彼の前まで歩み寄り、片付けられた庭を優しく眺め、それからみすぼらしい様子の佐藤に目を落とし、午後の風のように柔らかい声で言った。
「佐藤くん、かしこまらなくていいわ。邪魔になったりしていないかしら?」
エリネも慌てて前に出て、小さくお辞儀をし、柔らかく照れ臭そうに言った。
「佐藤くん、こんにちは。」
「二、二姫様、こんにちは。」佐藤は慌ててお辞儀を返し、さらに頭を下げた。
彼には、どうして高貴な二人がこんな辺鄙で荒れた第九修行場に来たのか、さっぱり分からなかった。
リゼロットは彼の緊張した様子を見て、軽く笑みを浮かべ、隣の青い石板を指し示した。
「午後は暇だったので、ここに配属されたことを聞き、慣れないかと心配で、少し持ち物を持ってきて、一緒に過ごそうと思ったの。」
そう言ってエリネに合図し、弁当箱を石板の上に置かせ、自分も徳利を弁当箱の横にそっと置いた。それから埃っぽい地面を気にする様子もなく、自然に石板の端に腰を下ろした。
エリネも姫の隣に座り、慎重に弁当箱のリボンを解いて、そっと蓋を開けた。
瞬く間に、濃厚な肉の香りと甘いお菓子の香りが庭全体に広がり、元々の埃っぽいにおいを消し去った。
弁当箱の中には、黄金色に焼かれた牛肉がぎっしりと並べられ、肉は柔らかく汁が豊かで、表面には細かい香辛料が振られ、見ただけでよだれが出そうだ。隣には小さくて可愛らしい和菓子も数種類、それに清潔な箸と小さな杯が三つ添えられていた。
ここではただ麦の粗パンと乾物しか支給されないことを考えれば、こんな食事はまさに贅沢も甚だしい。
佐藤は弁当箱の中を見て、目を少し見開き、驚きと不安でいっぱいになり、慌てて断ろうとした。
「姫様、それはあまりにも高価です。受け取るわけにはいきませんし、姫様と同じ席で食事をするなど……」
彼はただの底辺E級勇者で、王族と同席してこんな高級な食事をいただく資格などなかった。
しかしリゼロットは軽く首を振り、一枚の牛肉を取って彼に差し出し、優しくけれども揺るぎない声で言った。
「佐藤くん、そんなにかしこまらなくていいの。あなたも帝国に召喚された勇者の一人よ。当然、養われるべきだし、これはただの普通の食べ物よ。早く座って食べなさい。」
エリネも大きな瞳で佐藤を見つめ、小さな声で言った。
「佐藤くん、早く食べて。この牛肉、お姉様がわざわざ厨房に作らせたの。すごく美味しいよ。お酒も、お姉様の大好きな果物のお酒なの。」
彼女の瞳は純粋で真実そのもので、作られた優しさなど一切なく、心からの関心が込められていた。
王族の二人が、こんな荒れた庭に分け隔てなく座り、真心を込めて勧めてくれる姿を見て、佐藤はこれ以上断るわけにもいかず、ゆっくりと座った。それでも緊張した様子は隠せず、両手でリゼロットから渡された牛肉を受け取り、小さく口に運んだ。
牛肉は柔らかく汁が豊かで、温かい肉の香りが口の中に広がった。異世界に来て初めて食べる温かくて立派な食事に、淡い温もりが心からゆっくりと湧き上がってきた。
エリネは彼がやっと食べ始めたのを見て、嬉しそうに小さく手を叩いた。
リゼロットは彼が小さく食べ進める様子を見て、口元の笑みをさらに優しくした。彼女は徳利を取り上げ、栓をそっと開けた。瞬く間に、清らかで甘い果実酒の香りが空気に広がった。
自分用に少量注ぎ、エリネにはジュースを注いで、それから佐藤に目を向け、柔らかく訊ねた。
「佐藤くん、この果物酒を飲んでみる? 度数は低くて、味は甘いわ。」
佐藤は一瞬戸惑ってから、軽く頷いた。お酒を飲んだことはなかったが、姫の勧めを断るわけにもいかなかった。
リゼロットは笑みを浮かべて彼の杯にも注ぎ、目の前に差し出した。
「飲んでみて。もし口に合わなければ、無理しなくていいわ。」
佐藤は杯を持ち上げ、そっと一口飲んだ。果物酒は甘く、ほのかな酒の香りがして、辛さはなく、とても飲みやすかった。
三人はこうして荒れた庭に座った。豪華なテーブルも椅子もなく、ただ粗末な石板と埃っぽい庭だけなのに、珍しく穏やかな温かさが漂っていた。
佐藤は黙って牛肉を食べ、酒を飲みながら、ずっと口を開かなかった。もともと大人しい上に、王族の前では余計に口ごもってしまう。
そんな時、リゼロットの視線が、不意に彼の腕に落ちた。
佐藤が片付けをしている間に袖をまくっていたため、腕にはっきりとした痣がいくつも、細かい擦り傷も見えていた。古い傷と新しい傷が入り混じり、明らかに殴られたり押されたりした跡だった。
佐藤は視線に気づき、慌てて腕を引っ込め、袖を下ろして傷を隠そうとした。そしてさらに頭を下げ、やはり黙ったままだった。
彼は大人しい性格で、いじめられてもただ黙って耐えるだけで、言い訳も、誰かに訴えることもしない。
リゼロットは彼の動作を見ても、少しも驚いた様子はなく、心の中ではすべて理解していた。
霊力測定の日、彼女は山下健太が公衆の前で佐藤を罵り、心から軽蔑しているのを目の当たりにしていた。周りの勇者たちも彼を嫌い、いじめていた。この上もなく劣悪な修行場に配属され、体に傷を負っている姿を見れば、いじめに遭っているのは火を見るより明らかだった。
彼女は直接には指摘せず、怒りも哀れみも顔に出さず、ただ声をさらに柔らかくして、優しく慰めた。
「佐藤くん、あなたはこの頃、たくさんの辛い思いをしたわね。」
エリネも不思議そうに佐藤を見つめ、小さな声で言った。
「佐藤くん、いじめられたの、私、分かる。」
本章は昼下がりの酒と肉の温かいシーンで締めくくられ、華やかな演出は一切なく、最も素朴な交流で見知らぬ者同士の善意を描き出しています。主人公の佐藤悠真はこの忘れられた修行場で、初めて他人からの真心の関心を感じ取りました。リゼロットがかけた「何も難しいことを考えず、ちゃんとご飯を食べ、ちゃんと生きていけばいい」という言葉は、彼の心に深く刻まれ、異世界での生きる希望を与えてくれます。この短い温かいひとときは、主人公のこれからの道において、困難に立ち向かう大きな支えとなるでしょう。




