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平凡と頂点

誰もが輝ける場所を求めている。

佐藤悠真はただ、平穏な日々を望んだだけだった。

この章では、王宮の朝の中で、彼の前に立ちはだかる「頂点」の存在を描きました。

平凡な足跡と、光を纏う背中。

この対比が、彼の未来をどう動かしていくのか——

どうぞ、ご覧ください。

朝の光が偏殿の木枠の窓から柔らかく差し込んでくる。

暖かい光は薄い茶色の床に落ち、穏やかな光斑を描いている。窓辺に置かれた白い花は、かすかに香りを漂わせ、部屋に残る異世界らしさを消し去っていた。


佐藤悠真は服を着込む。動作は少し慌てて、指先がかすかに緊張している。

周りのすべてが見知らぬものばかりだ。

見慣れぬ建築、見慣れぬ空気、見慣れぬ静寂。すべてが彼に教えている。ここはもう東京ではないのだと。


彼は前髪の乱れを軽く直し、布服の裾を丁寧に伸ばし、姿勢を整えた。

ただ、あまりにも無様に見えないように。

皇室の前で、これ以上恥をかかないように。


昨夜の光景が、まだはっきりと脳裏に浮かんでいる。

東京の街角。突然、強烈な光に包まれた。

風の轟音が耳を過ぎ、気づけば、自分のつま先は東京のアスファルトから、異世界の王宮の石畳に踏み入っていた。


壮大な広場、華やかな衣装の皇室、そして同じように困惑する異世界人たち。

そしてすぐに、才能測定が行われた。


E級。

それは最下級の評価だった。小さな石が心に沈んでいくような重さが残る。

周りの嗤い、蔑む視線、ささやかな陰口。すべてが彼に押し寄せてくる。


彼はもともと東京で一番平凡な少年だった。

成績は並、顔も普通、突出した長所など何ひとつなく、どこにいてもすぐに埋もれてしまう存在。

それが異世界に来ても、やはり最底辺だった。


幸い、姫様のリゼロッテが助けてくれた。

優しく、しかし毅然と彼を庇い、この静かな偏殿に泊めてくれた。

そうでなければ、彼はきっと嘲笑の中で朝まで立ち尽くしていただろう。


佐藤は手に持つ古いリュックを軽く握りしめた。

角はすり切れ、中には東京から持ち出した数着の衣類が入っている。故郷を感じさせる、唯一の痕跡だ。


深く息を吸い、不安を抑える。

身だしなみを整え終わったところで、ドアの外から穏やかで丁寧なノック音が響いた。


「佐藤様、そろそろ時間です。勇者の皆様は、すでに正殿広場にお集まりです。お連れいたしましょう」


「はい……お手数をおかけします」


佐藤は慌てて返事をし、リュックを抱えてドアを開け、従者の後に続いた。


王宮の回廊は広く、厳かだ。

両側には精巧な柱が立ち、石畳は朝の光で冷たく輝いている。

銀の鎧をまとった騎士たちが背筋を伸ばして立ち、鎧は冷たい光を放っている。

歩を進めるたび、足音までもが小さくなるように感じた。


佐藤は無意識に身を低くし、従者の横を、できるだけ目立たないように歩いた。

誰にも注目されたくない。

誰かの話題になるなんて、もう嫌だ。

ただ静かにこの道を歩けば、それで十分だ。


正殿の外広場に着くと、東京から一緒に転移してきた十五人の勇者たちは、すでに全員揃っていた。

昨夜の才能測定が終わってから、それぞれのランクはもう周知の事実。

人々は自然とグループに分かれていた。


Aランクの山下健太は、何人かに囲まれ、得意げな顔をしている。

佐藤を睨む視線には、隠しきれない軽蔑が宿っていた。


Sランクの森川弘は一人で佇んでいる。

落ち着いた表情で、すでにこの世界での生き方を考えている様子だ。


他にも何人かが集まり、東京の話を小声で漏らしていた。

故郷を恋しがり、未来に不安を覚える顔をしている。


誰一人、佐藤に近づこうとはしない。

誰も彼に話しかけようとはしない。


佐藤はこんな冷遇にも慣れっこになっていた。

黙って群衆の一番後ろの隅に移動し、うつむき、目立たない草のように、静かにそこにいた。


やがて正殿の扉がゆっくりと開かれた。

皇室の一行が、高い玉壇へと進んでいく。


中央に座すのは、女帝セラフィナ。

深紫の華やかな帝服をまとい、目元は厳かで、全身から圧倒的な気が漂っている。

広場は一瞬にして静まり返り、誰もが息を詰めて声をひそめた。


隣にいた国王カレンは穏やかな雰囲気で、ただ静かに立っているだけだ。


昨夜、彼に優しく声をかけてくれた長姫リゼロッテは、玉壇にはいない。

従者の伝令によれば、姫は早朝から辺境へ出かけ、魔物に襲われた村を視察し、民を慰めているとのこと。

まだ宮廷には戻っていない。


玉壇の脇には、第二皇女エリーネがひっそりと立っていた。

柔らかい金髪に、澄んだ瞳。

気品はあっても高圧的ではなく、純粋で優しい雰囲気を纏っている。

視線が佐藤に落ちても、軽蔑も好奇もなく、静かに頷いてくれるだけだった。


女帝の声が穏やかに、しかしはっきりと広場に響く。

無駄な挨拶はなく、昨夜すでに発表された才能ランクを再び読み上げることもなかった。


大陸の辺境で魔潮が頻発し、魔物が暴れ、村が襲われ、民が困窮している。

帝国は古い秘法を用い、異世界から彼らを召喚した。

魔物を討ち、国土を守る力を貸してほしい——と。


古書に伝わる天啓キメラは、あくまで伝説の魔物であり、現世では出現していない。

今のところ心配する必要はない、と。


続いて女帝は今後の方針を宣言した。


勇者全員は、才能ランクに応じて修行場所、師、生活物資が与えられる。

高ランクの者は皇室専属の師が直接指導する。

三日後、全員で辺境の軍営へ移動し、実戦訓練を行う。


声が落ちると、広場には小さなざわめきが起こった。

期待に輝く者、不安に顔を綻べる者、内心で喜ぶ者……それぞれだ。


その時、女帝は軽く手を挙げ、静かにするように合図した。

視線はゆっくりと、群衆の一番隅にいる少年に注がれた。

声の調子に、稀なる重々しさが宿った。


「今回の召喚において、我が帝国は千年に一度のSSS級才能者を迎えることとなった。雷属性、称号・雷霆の槍——キリュウ・リンである」


広場は一瞬、完全に静まり返った。


全員の視線が、一斉にその少年に集まる。

桐生凛——すらりとした体つきに、黒い髪はさっぱりとしている。

目は鋭く冷たく、近寄りがたい鋭気を纏っている。


最初からずっと一人で隅に佇み、誰とも話さず、誰とも関わろうとしなかった。

存在感は薄く、目立たない存在だった。


しかし今、名前が呼ばれた瞬間、彼の周りには雷の気が纏わり、静かに立っているだけで、圧倒的な重さが周囲に漂っていた。


SSS級。

S級を超えた絶頂の才能。

この大陸では千年に一度現れるかどうかの、強者の資質だ。


さっきまで得意げだった山下健太の顔は、急に青ざめた。

信じられないという表情で、桐生凛を見つめている。


S級の森川弘も驚き、瞳に畏れが宿った。


周りの者たちは目を見開き、羨望と崇拝を込めて、彼から目を離せなくなった。

それは頂点に輝く光であり、彼らが一生届かない高みだった。


玉壇の上で、女帝は静かに頷き、瞳に賛辞の色を宿していた。

千年に一度の逸材に、大いに満足している様子だ。


第二皇女エリーネは桐生凛を見て、嬉しそうに手を軽く叩いた。

素朴な驚きを浮かべ、その绝世の強者をそっと眺めていた。


一方、佐藤悠真は相変わらず群衆の最果てにいた。


一方は、万人が注目し、絶頂の才能を持ち、帝国の期待を背負う雷霆の槍・桐生凛。

広場で最も輝く存在だ。


もう一方は、誰からも注目されず、最底辺のランクで、ただ平穏に生きたいだけのE級勇者・佐藤悠真。

塵のように平凡な存在。


同じ朝の光の下で、平凡と絶頂は、あまりにも鮮やかに、そして痛いほど対照を成していた。


佐藤は手のひらを軽く握りしめた。

羨ましくもない、卑しくもない。


ただ、これでいい、と心の中で思った。


注目されない。話題にならない。争いに巻き込まれない。

ただ穏やかに日々を過ごせれば、それで十分だ。


彼と桐生凛は、もともと違う世界の人間。

交わることなど、最初からないのだ。


女帝は解散を命じた。

人々は一斉に礼を述べ、散り始める。


佐藤は相変わらず最後列を歩き、一人朝の光に溶けていく。

誰かに囲まれ、華やかに去りゆく桐生凛の背中を眺め、黙って振り返り、自分の偏殿へとゆっくり歩いていった


異世界の王宮の中で、二本の道は、まったく違う方向へと続いていた


一方は平穏な平凡へ。

一方は栄光に輝く絶頂へ。

読んでくださり、ありがとうございます。

少しずつ物語が動き始めました。

これからも、ゆっくりと彼らの歩みを描いていきますので、

どうぞお付き合いください。

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