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微笑む眼光

「そっか じゃあお前ら少年院行きになるのか……」

 


 一通り燐が状況を話し終えたところで、静かな夜に溶けるように沈黙が続いた。

 

 俺が辿り着く30分前に、突然警察がきてその場を制圧したという。


ドットとも意思疎通を図る暇もないまま押収され、家宅捜索の間ここで見張られていたらしい。


いきなりこの規模の家宅捜索は、どう考えても釣り合わない。彼らがやってきたことは、せいぜい少年院行きの範囲だ。


 なのに、警察の動きはまるで違う。

 罪を裁くというより――“回収”に近い。


 守っているのは、市民じゃない。真実でもない。

 ただ、“警察にとって都合のいい何か”だ。


(一体いつから――……)


元はといえば、俺が彼らに接触したせいだ。

 

いくら軽いとはいえ犯した罪、それは例えどんな理由があろうとも償わなくてはならないもの。

 

しかし、彼らの経緯を知ってしまった今の俺には、そんな当たり前の定義すら疑ってしまうほどだった。


「なんだ、助けてくれるとでもいうのか?」

 

よほど思い詰めた顔をしていたのか、唯がそんな風に投げかけてきた。

 

「いや、それは、その…」


 どんな部署であれ、警察という立場でそんなことが許されるはずがない。

 

しかし、それでもはっきりとした答えは出せないままで口ごもる俺を、唯は珍しく吹き出すように笑った。


「冗談さ。それくらい覚悟して、そのうえでやってきたことだ。お前が気にすることはない。

 ――……まぁ、司法(あいつら)によって生み出された憎しみを司法(あいつら)に裁かれるというのも、ひどく滑稽な話だが」

 

どこか遠くを見つめる。それはとても歳下とは思えないほど、愁いを帯びた瞳。

 

しかし、悲しさだけではない、固い決意と覚悟も、その瞳にはちゃんと映っていて。


 どう声をかけたらいいか顔を歪ませる俺に、燐は頭の後ろに腕を組んだままで歯を見せて笑って見せる。


「でもま!俺はなかなか楽しかったぜ!お前らみたいなやつに会ってさ、後悔はしてねぇ」

 

「そうだな。そう、悪くもなかった」


 頭の後ろで腕を組んで歯を見せて笑う燐。そんな燐に呆れながらも、唯もかすかに微笑みを浮かべて答える。

 

真琴は口を噤んでいたが、気のせいか、笑っているようにも見えた。


「お前ら……」

 

「いつか俺らが出てきたら、今度は正々堂々会おうぜ」

 

「ああ」


 悪戯っぽく笑う燐に、迷わずに答える。そのとき、急に思い出したように真琴が口を開いた。


「あ。そういえばひとつ聞きたかったことがあったんだけど――……」


 そこから、突然後頭部に衝撃が走る。


 そこからは意識は暗くなった。



          ◇ ◇ ◇




「おい!東雲!?」


 不意打ちをついた闇からの攻撃に、倒れる東雲。

 

闇に包まれたままのその人物はクスリと一度だけ笑い、続ける。


「少年院をでたら、か。泣ける話を聞かせてくれるね。君たちにそんな未来はこないよ?」


 夜の闇に包まれた人影を警戒するように睨む彼らを笑うように、人影はゆっくり姿を現した。


「お前は……」

 

「西鈴警視庁のトップ、藍田。なぜ東雲を……」


 俺のつぶやきを繋ぐように、燐がその続きを紡いだ。


「余計な感情を吹き込まれるといろいろ面倒だからね、少し眠っていてもらいましょう」

 

「ふざけんな!」

 

「ふざけるなとは、聞き捨てならないね」


「は?」


 「そうだな。『照明、落とします。3分、その間で遂行してください』といえば、わかるかな?」


 そのセリフを聞いた途端、俺は体の芯から体温が冷えていくのを感じた。青ざめた表情を見る限り、真琴も同じようだ。


 いまだに状況を飲み込めないでいる燐に補足するように、なんとか言葉を絞り出す。

 

 「その指示、貴方が『ドット』だったのか」


藍田は答えることはせず、優しげにほほ笑む。


 今、すべての事実が結びついた。

 

 『能力を与えた者の正体を掴みたいなら東雲を探せ』といったが報告は求めないのは、ずっと『ドット』として側にいたから。


 今まで何の音沙汰もなかったのに、アジトがバレていたのも、このタイミングでの突入も。


藍田がドットであり、警察の立場からこちらの動向を見ていたのなら――今までのすべてが、合点がいく。


 そう、東雲を介して――……。


そう考えて、また新たな疑問が生まれた。


 (あれ、なら俺たちは何故東雲を探させられたんだ……?)


無意識に、ドットと俺たちの敵は同じだと思っていた。


警察を憎む俺たちを手助けをしてくれるドット。それは信念が同じだから、だと思っていた。


だから、例えドットの目的が能力者として警察に属する東雲を探し出し、俺たちを利用して東雲を潰すことだったとしても構わないと思っていた。


だが、ドットと藍田が同一人物というのならどうだろう。


相反する立場で、相反する思想を補助している。


胸の奥で、理屈の噛み合わない音がした。


思考を巡らせていると、藍田は高らかに笑った。


「君たちには感謝しているよ。おかげで、私のプロジェクトは今最高の形に整いつつある」


「プロ、ジェクト……?」


 いまだ状況の読めていない燐の口から、処理落ちしたように言葉が零れ落ちる。


「能力者を“作る”。……そういう試みは、あった」


  遠い日を懐かしむように、藍田は目を伏せた。


「君たちには同じ“きっかけ”を与えた」


 闇の中、眼鏡の奥で、怪しげな眼光が鈍く光る。


 「だが……結果は揃わなかった」


 そこまで聞いて、ある疑問が浮かんだ。


 「待て」


 鋭く制止すると、藍田はあからさまに不機嫌な視線を向けた。

 

「なんだい、唯くん」


「同じきっかけを与えたと言ったよな。なら、教えてくれ」


 脳裏に浮かんだ予感が杞憂であってほしいと願うように、乾ききった口内の唾を固く飲み、恐る恐る続けた。


「……俺たちは、"誰を"なぞるはずだった?」


 俺たちが再現の予定でしかなかったというのなら、元の人物は他にいるはず。


 この状況で思い当たるのはあの二人しかいないが、否定の言葉を待っていた。


 しばらくの沈黙。


 ようやく口を開いた藍田は、淡々と短く言葉を落とした。


 「……ねぇ、唯くん。知ってしまうというのは、怖いことだよ」



 背筋に悪寒が走る。


 「まさか……」


 真琴も気づいたようで、続く言葉を失っていた。


「君たちには感謝しています。出会い、関わることで、彼の中に揺らぎが生まれました」


 視線が、ほんの一瞬だけ柚紀へ向く。


「ですが、君たちはもう用済みです」


 そこから先は成す術もなく、俺たちは三人とも別々のパトカーに乗せられ、両脇を体格の良い警官に挟まれる。


 一応未成年という建前もあり、手錠こそされないが、任意同行なんて甘いものではない。


 窓の中から外に目をやると、気絶したままの東雲を藍田がどこかに連れていくのが見えた。

 

 


 

 


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