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飛空技師は駆り出される  作者: 似瀬
ネブルヘイナ大森林編

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第159話 ムーミエは疲れている

           ──飛空技師は駆り出される──


休日の朝──。

──(あさ) 【晴れ】


<〔Perspective:(‐カカ視点‐)Kaqua〕>


飛空艇が王都に着いたのは昨日の入相頃だった。もう日は沈みかけていたし、討伐報告は明日でいいやとそのまま夜を過ごした。


最近はずっと地面の上でしか寝ていなかったから、ソファーの上にごろんっと横になると…噓みたいに夢の世界へ誘われた。


「 “すぅ…すぅ…” んっ…ぅん…ぅぅぅおおおおオオオオェェ…?! なっ…何じゃあ…!? ゲホッゲホッ…う˝ぅぅ…」


さっきまで夢の中に居たと思うが…喉に感じた異物感と途轍もない嘔吐(えず)きによって現実へ戻された…。


眠気が一瞬にして消し飛び…目も冴えてしまった…。一体何が起きたのか…、正直確認せずとも何となく原因は思い浮かぶが…一応確認すると案の定アクアスが立っている…。


はいはい…いつものやつね…、いつもの悪癖で起こされたのね私は…。ただ今回は今までになく酷いな…、私の喉に指突っ込みやがったな…?


いつもは肉体的ダメージで起こされるが…「喉に指突っ込み」が一番キツいかもしれん…、新たな知見…。


どんな夢を彷徨ってるか分からないが…アクアスはおもむろに床に正座すると、体を前後に揺らし始めた…。怖い…。


そんなアクアスを横目にソファーから体を起こすと、テーブルの上に色々と気になる物が置かれており…その中にも犠牲者が1人…。


「おぉ…オマエも随分好き勝手やられてるな…」


「ボクあの人が怖いヨ」


テーブルの上には何故か鍋が置かれており、その中には下処理のされていない野菜がいくつかと…縄でぎちぎちに縛られたパークの姿があった…。


「また随分滑稽だな…ハムみたいに縛られてやがって…」


「コレ見た目野菜なボクにとって最大級の侮辱なのデハ? あとこのママ煮込まれたらボク死んじゃうケド、コレがホントの〝最後の晩餐〟ってヤツ?」


「笑えないジョークだな…」


「助ケテェェェェ…!!」


パークが身をバタバタさせながら声を上げると、その声でようやくアクアスの意識が現実に戻ってきてくれたようだ。


「あれ…(わたくし)は一体…。あっカカ様、おはようございます。パーク様も──えっと…パーク様は一体何を…? ──お風呂ですか…?」


「小粋なジョークだな」


「ボク怖イ」


とりあえずアクアスにはカーファを注文し、その間にパークの縄を解いてやったが…めっちゃ苦戦した…「絶対に逃がさない固結び」が施されていた…。


パークは苦言を呈したが…私はそっと黙らせた。これはある種の洗礼だ…私達の仲間に加わる上で避けられない洗礼、そう言い聞かせた。


「ところでいつも一番早起きのニキはどこだ? オマエ見たか?」


「ウン、上ダヨ」


「上? 甲板ってことか?」


パークを頭に乗せて階段を上っていくと、甲板へ出るドアの前に…不自然過ぎる落し物があった…。ニキの衣服である…、頭巾以外の…。


もう嫌な予感しかしないが…とりあえず服を脇に抱えながら甲板へ出た。


「ニキー? 居るかー?」


「カカぁー…こっちニー…」


船首の方から弱々しい声が聞こえ、その方向に顔を向けると…小さく身を屈めながらクギャの後ろに隠れるニキが居た。


全身は見てないが…間違いなく全裸やんアイツ…、紫頭巾の全裸女とか不審者の極みだな…。とりあえず衣服を返してやろう…。


「ふぅ…助かったニ、危うく人としての尊厳を全て失うところだったニ」


「もうだいぶ手遅れ感はあったがな…。何がどうなってああなった…?」


「普通に寝ボケたアクアスに甲板まで運ばれて、そのまま衣服全部脱がされただけニよ? 今回は羞恥心で攻めてきたニ…、2人は無事だったニ?」


「ボクは最後の晩餐になりかけタヨ」


「私は喉チンコをギュッてされたぜ」


「2人も大概ニね…」


全裸に剥かれたニキを救出し、飛空艇内に戻ってカーファで一息ついた。この後軽く朝食を取ったら、身支度を済ませて報告に行かなければな。


その前に…パークがムネリ女王に無礼な発言をしないようにキツく言っとかなきゃならねェか…。ムネリ女王なら平気で流してはくれそうだが…人の怒りのツボは分からんからな…。


「カカ、ニキから一つ提案があるんニけど、手分けしないニ?」


「手分け? 何をだ?」


「女王への報告と、石版を石碑に戻す作業ニ。カカ達がムネリ女王のもとに報告に行って、その間にニキが石碑に石版を戻しちゃうニ。そうすれば早く終わるし、人が少ない方がニキも能力(チカラ)を使いやすいからニ」


「あー…まあ確かに合理的ではあるな、んじゃそうするか。サクッと終わらせて、今日1日は心身の回復に励むぞ!」


「「「 オー! 」」」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




-フリンデール城-


「助っ人様方、此度も無事にお戻りになられて安心致しました。やはり助っ人様方達には、神の御加護があるのかもしれませんね」


「いやいやそんな…今回も今まで同様、現地の頼れる仲間が力を貸してくれたおかげですよ。私達だけではどうにも…」


「それも含めてですよ。人の心を突き動かすのは単に言葉や行動だけとは限りません。その者の心根や存在感が、時に周囲に大きな影響を与えるものです。貴方様がそのような人物であるがこそ、神は御加護を授けてくださったのでしょう」


まあ確かに…変なのにはよく好かれますね…。寝ボケ癖…怪力頭巾…服従偽竜種(レックス)…胸好き妖精…舐める変態…、ろくでもねェな…。


「カカ殿、ニキ殿の姿がないが…まさか…」


「ああいや、アイツも元気いっぱいですよ…! アイツは今石碑に石版を戻しに行ってるだけなんで…! 決して殉職とかじゃないんで…!」


「そうか、であれば良かった。──そういえば、王女様がカカ殿に会いたいと仰っていた。恐らくはまた…稽古をつけてもらいたいのだと思うが…」


「助っ人様、あの子の我儘は無視していただいて結構ですので…どうかゆっくり体を休めてください。そして図々しい願いですが…この先もどうかお願い致します」


ムネリ女王に深くお辞儀をし、この場を後にした。想像以上にすんなり終わった、ニキの提案はズバリ大正解だったわけだ。




-王都-


用が済んで城を後にしたわけだが、このまま直帰もつまらないし、かなり復興が進んできている王都を散策することにした。


パークにとっては初王都だし、かく言う私達も王都の中をほとんど知らない。いい機会だし、今日はゆったり散歩しながら心の休日としましょうかね。


「ワァ~、昨日の町モ凄かったケド、ここハもっと凄いネ」


「そりゃこの国一番の都だからな、完全に復興が完了すればもっと美しい街並みになるだろうぜ。機会があればベンゼルデの王都も見せてやるよ」


「ワーイ♪ 楽しミ楽しミ~♪」


ずっとネブルヘイナで暮らしていたパークは、言っちゃえば超田舎者みたいなもんだろうし、見るもの全てが新鮮でさぞ楽しかろう。


頭の上で小せェ手足をバタバタさせるほどだ、実に鬱陶しい…もっと大人しく見物できないものか…。──おっ? あの人は確か…。


前からこっちへ歩いてくる人影の中に、見知った顔がある。ただ名前が思い出せず…顔を見詰めていると、向こうもこっちに気付いて駆け寄って来た。


「やややっ! 何となく見たことある人が居るなと思ったら、カカさん達じゃないですか! お久し振りですね~、こんにちわ~」


「ああ…こんにちわ。えーっと…確か職人商会(ローウギルド)の…」


「はいっ! ラウントース職人商会(ローウギルド)の元気だけが取り柄な受付嬢、ムーミエです!」

< 受付嬢 〝蟲人族(ビクト)〟 Mumille Khor(ムーミエ・コリレス)iles >


そうだそうだ、そういえばそんな名前だったな確か。受付嬢なのに説明が苦手で、結論だけを伝えちゃう受付嬢らしからぬ受付嬢。


「お久し振りですムーミエ様。──ムーミエ様…何だか疲れていらっしゃいますか…? 疲労が見て取れますが…」


「やややー…分かっちゃいますか…? 実は最近お仕事が忙しくて…あまり元気がないんですよー…」


「取り柄ナクなっちゃったネ」

「パークちょっと黙れ」


言われてみれば確かに、何となーく全身から疲労している感が滲み出ている…。よほど疲れが溜まっているようだ。


「何かあったのですか…?」


「ご覧の通り王都の復興はかなり進んでますでしょ…? その結果色々あって…商会(ギルド)にあれこれ依頼が増えてて…それを整理するので大忙しで…」


「その()()の説明が欲しいんだけどね私達は…。相変わらず説明下手なことで…」


「やややー…返す言葉もないですね…!」


立ち話もなんだし、ひとまず付近のベンチに腰を下ろして、ゆっくりムーミエさんの話を聞くことにした。


──王都の復興が進むにつれ、住民達は次第に心に余裕を持てるようになり、現在は家々の再建以外の事にも手を回せるようになっているのだそう。


その内の一つが〝周辺環境調査〟。本来であれば定期的に環境団体(ナチュラギルド)が調査するのだが…悲劇が起きた日から最近に至るまで、この環境調査が行われていなかったらしい。


っで久々に調査を行ってみた結果、魔物の影響のせいなのか…それまでは王都周辺で確認されていなかった生物が多数目撃されたという。


それにより始まるは大規模調査。当然多数の自然調査員が現地へ赴き、その護衛としてハンター達もまた多数が出動した。


温厚な生物ばかりなら苦労はないが…無論そうじゃない猛獣も多くおり、ハンター達は日々戦いに身を投じることとなった。


戦えば当然武器や装備は傷み…破損することもあるだろう。そうなれば必然、それ等の修理依頼は職人商会(ローウギルド)へ集まることになる。


そしてラウントース職人商会(ローウギルド)は王都一の職人商会(ローウギルド)職人商会(ローウギルド)は他にもいくつかあるが、王都一というブランドは嫌でも人を寄せ付ける。


結果ラウントース職人商会(ローウギルド)には連日ハンター達が押し寄せ、たくさんの依頼を消化する激務の日々が続いたそうだ。


「ようやく調査が一段落ついて…激務の日々から解放されましたが…、私はもう疲れちゃいました…! 疲労です…! いやもはや疲労を飛び越えて疲弊です…!!」


「よっぽどですね…」


「まあ労働とは元来そういうものだしな…」


「私は今癒しを求めています…! 癒しが欲しいです…!」


癒しかぁ…、私は子供達と触れ合えればそれが何よりの癒しになるが…人それぞれ何に癒しを覚えるかは違うだろうからな…。


「そうだなぁ…ペットを飼うとかはどうかな? 可愛いペットに癒してもらうってのも一つの手だと思うけど。──コレいる?」

「やめてネ」


「それはいいです」

「傷ついタ」


「だよね」

「だよねやめてネ」


そりゃパークじゃ無理よな…私も癒されたことねェもん…。やっぱこういう時は無難にイヌとかネコがちょうどいいかもな。


「実は私も考えたんですよね、ペットを飼うの。それで色々と調べて…見つけたんですよっ! 飼いたいなって思った動物を!」


「ヘェー、どんなの? イヌ? ネコ? 少し外れて鳥とか?」


「〝フフトゥラル〟です」


「えっ…?」

「フフトゥラル」


全く聞き馴染みのない名前が出てきた…、どんな姿なのかも想像つかん…。こういう時に限って知識豊富なニキ居ねェもんなぁ…。


私もそこそこ知識には自信あるが…マジで一度も耳にしたことがないと言い切れる…。ドーヴァには生息してないのかも…?


「それは…調教商会(テイマーギルド)で取り扱われてるの…?」


「さっきダメもとで見に行きましたが…やっぱりダメでしたね…。どうしてもペットにするなら、自力で野生の個体を手懐けるしかないと言われちゃいましたー…」


野生個体を手懐けるのは素人にゃ難易度高いな…。そのフフなんとかの警戒心がどれほどかにもよるが…。


「でも諦めたくないですっ! それほどまでに私の疲弊は限界なのですっ! ──あの、御2人は湖とかって好きですか?」


「えっ急に…? まあ…綺麗な湖とかは普通に好きだけども…、それが何か…?」


「ここから北の方に行くと〝ウルゥ高原〟という綺麗な場所がありましてー、そこの〝ウルゥ湖〟はとても美しい湖として有名なんですよ」


「へ…ヘェー…、そっかぁ…それはいつか見に行けたらいいなぁ…いつか…」


何だろう…不思議と先の展開が読めたような気がする…。マズい…早く話を逸らさなければ…。


「やはりそう思いますよね、あれは見に行く価値がありますよ。──っでフフトゥラルがですね、なんと偶然たまたまウルゥ湖周辺に生息してるそうなんですよ」


「ふーん…そうなんだぁ…、良かったね生息域の情報があって…」


「これも何かの縁ですし、これから一緒に行きませんかっ?! っていうかカカさんの飛空艇で乗せてってください! お願いしますぅ…! 今の疲れ切った私にはどうしても癒しが必要なんですぅ…!」


ぐェェ…やはりそうきたか…、ぐぬぬ…どうしたものかな…。湖畔でのんびり過ごすのも趣があっていいが…フフなんとかを手懐けるので苦労はしたくない…。


休息に面倒事は一番不要だ…できればお断りしたい…。っが…こんな眩いほどに目を輝かせてお願いされると…NOとも言いづらい…。


チラッとアクアスの方を見て…目線で助けを求めてみるも…、わざと目線をズラしやがった…。コイツ大事な時以外に割と裏切りやがるな…。


「ダメですかぁ…? 助けてくれませんかぁ…?」


「う˝っ…! いや…あの…、んぅー…──はい分かりました…お助けします…」


「ありがとうございますー! 流石はこの国の救世主様ですねっ!」


「おネェさんの負ケー」

「おう黙っとけ…」



──第159話 ムーミエは疲れている〈終〉

ムーミエの為に湖へGO──!

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