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電子書籍発売記念SS

エンジェライト文庫様から電子書籍が発売されました!画仁本にも様に素敵な表紙を描いていただきました。

ありがとうございます♪


シーモアやKindleなどで発売中です。

ぜひよろしくお願いします。

 第一騎士団の食堂に見慣れない箱が一つ置いてある。買い物から帰ってきて夕飯の支度をしようとした時、エラはワイワイと賑やかな騎士達に首を傾げた。


「エラ、おかえり」


真っ先にエラに声をかけてきたのは第一騎士団団長のレオンだ。いつもは無表情の強面なレオンだが、エラの前では笑顔が溢れている。


「レオン様、これは?」

「美容薬。知り合いの薬学者から支給されたんだ」


美容薬と聞いてエラは少し目を輝かせた。エラだって女の子だ。妹のアリアのことがあってなかなかオシャレも出来なかった分とても興味がある。

 しかし。

 エラよりも美容に興味がある男が一人。


「ふっふっふっ。これで俺も美肌男子になるぜ!そして彼女をゲットする!」


そう豪語するのはハムエッグの騎士だ。美容薬を掲げてやる気に満ちている。しかしそんなハムエッグの騎士を、第一騎士団の団員達は生暖かい目で見守っていた。


「美肌男子がモテるとは限らないんじゃないのー?」


ギルが首を傾げた。そして興味なさそうに美容薬をくるくる回して遊んでいる。

 しかしハムエッグの騎士は大声で否定した。


「いや!今の流行りは美肌男子だ!間違いない!」

「なにその自信ー。もしかしてまたあ?」


ギルの面倒くさそうな指摘にハムエッグの騎士は何も言えなくなった。

 どうやら図星のようである。


「懲りないよねー」

「こ、今度は伯爵令嬢で箱入り娘さんなんだ!きちんとしたお嬢様なんだよ!」

「それってもっと高望みになってないー?」

「前回の教訓だ。彼女は美容に大変興味があるらしい。好みのタイプは肌が綺麗な男性。だから俺は美肌男子になるっ!」


騎士達はそれ以上何も言わなかった。いつもの事なので、もう何を言っても仕方ないのだ。中には彼があとどのくらいで振られるか賭けようとしている者までいる。

 エラとレオンはそんな団員達を少し離れたところから苦笑しながら見守っていた。


「エラも使ってみるか?」

「いいんですか?」


エラは目を輝かせた。エラの反応が意外だったのかレオンは目をぱちくりさせた。そして優しい笑顔をこぼして、エラの頭をポンポンと撫でた。


「大量にあるからな。持っていっても全然構わない」

「ありがとうございます」


レオンの温かい視線がくすぐったくて、エラは視線を外した。そして美容薬へと視線を移す。


ーー美容なんて久しぶり。


エラは今から期待でいっぱいだった。


ーーもし綺麗になったら……。


そう思ってレオンに視線を向ける。レオンは愛おしそうにエラを見つめ続けていた。エラは慌てて視線を逸らした。


ーーレオン様も喜んでくれるかな。


エラはレオンの甘い笑顔を思い出してほんのり顔を赤くするのだった。


◆◆◆


「あれ?姉御、ちょっと肌の調子がよさそうだね」


ノエルからそう指摘され、エラはぱっと明るい笑顔を見せた。


「へへ。そうなんです。昨日貰った美容薬を使ってみたんです」

「美容薬?」

「まだ残ってると思いますよ」


そう言って食堂の隅に置かれた箱を指差した。美容薬の容器にはリンゴのロゴマークが付いている。それを見たノエルは納得の声を出した。


「ああ……これか」

「ご存じなんですか?」

「有名な美容品だよ。確か貴族令嬢の間で流行しているとか」

「そうだったんですね」


どおりで肌の調子が良いわけである。そんな良いものを無料でもらってしまって少し申し訳ない気持ちになった。


「この美容薬作ってる薬学者が、たまに第一騎士団を実験台にするんだよ。そのたびに美容薬が送られてくるんだよね」

「じ、実験台!?」


エラはゾッとした。良いものかと思っていたが思いもよらない副作用でもあるのだろうか。


「以前、健康的な小麦色の肌が令嬢の間で流行った時、肌が小麦色になる美容薬が送られてきたんだけど……あの時は酷かった」

「な、何があったんですか?」


エラは怖くなった。


「騎士ってもともと日焼けしている人が多いからかな。美容薬使ったらびっくりするくらい真っ黒になってね。周囲からドン引きされた。あの時第一騎士団は真っ黒団って呼ばれたな」

「真っ黒団!?」


それは嫌だ。今度はどんな副作用があるのか怖くなった。


「これも副作用があるのでしょうか?」

「最近は無害なものばかりだから、今回も大丈夫だよ。多分」

「ノエルの言う通りだ、エラ」

「レオン様!」

「知り合いからは美白効果のある美容薬と聞いている。日焼けした肌にも効くかどうかが知りたいらしい」

「なるほど。今は白い美肌が流行っていますからね」


レオンから理由を聞いて、エラはほっと胸を撫で下ろした。


「俺が何があるかわからないものをエラに勧める訳ないだろう」


レオンは少し不服そうに眉間に皺を寄せた。そしてエラに詰め寄っていく。顔を近づけられ、エラの顔はみるみる赤くなっていく。しかしレオンは近付くのをやめようとはしない。

 むしろ楽しんでエラを追い詰めているようにも見える。


「すみません。疑っていた訳じゃ……」

「姉御!俺の肌きれいじゃね?」


突然、エラとレオンの間にハムエッグの騎士が割って入ってきた。

 レオンに詰め寄られていたエラは少しホッとした。

 これ以上詰め寄られていたら目を回していたに違いない。


「ねえねえ!どう?どうかな?」


目をキラキラさせて聞いてくる。しかしそんな無邪気なハムエッグの騎士には申し訳ないが、昨日からさほど変化はないように見える。


「一日でそんなに変わるか」


レオンは不機嫌にハムエッグの騎士の頭を叩いた。


「痛っ!団長ひどいっすよ。おかしいなあ……いつもより調子が良い気がしたんだけどなあ」

「気のせいだ」

「気のせいだね」


レオンとノエルからきっぱり言い切られて、ハムエッグの騎士は項垂れた。エラも苦笑するしかない。

 そしてエラは自分の頬をつん、とつついてみた。


ーー綺麗になれるかな。


レオンの背中を見つめつつ、エラはやっぱり期待してしまうのだった。


◆◆◆


 最近姉御が綺麗だと騎士達の間で噂になっている。

 きっかけは騎士達の合同模擬試合の時、エラが第一騎士団のために差し入れを持ってきた時だった。あれから美容薬を使い続けていたエラの肌は確かに綺麗になっていた。

 化粧をしていないので素朴で地味な印象だが、家庭的で愛嬌のある美肌のエラに、日々男に囲まれて過ごす騎士達は自然と惹かれていっていた。


「あの子、肌綺麗だな」

「笑顔が可愛い」


そんな声がちらほらと聞こえてくる。しかし、それは第一騎士団にとっては少し不穏に感じていた。


「ちょっと姉御人気出てる?」

「以前よりは確実に人気が高くなってるな」

「肌艶が良くなったもんな」


そう言いつつ、皆レオンへと自然に視線を向ける。いつも通り無表情な強面だが、不機嫌なのが伝わってくる。

 そうしてそっと視線を逸らした。

 触らぬ神に祟りなし、である。


「レオン様」

「エラ、どうした?」

「あ、あの……」


そう言ってエラが差し出したのはバスケットだ。レオンはバスケットを受け取って中身をのぞいた。


「これ……!」


レオンは大きく目を見開いた。エラはほんのり頬を赤くして小さく頷いた。


「レオン様の好きな物詰め込んでみました。その……他の騎士達には内緒ですよ?」

「勿論だ」


先程まで不機嫌そうだったレオンの表情が一気に緩んだ。エラもそんなレオンの表情を見て照れたように「えへへ」と笑った。

 そんな二人の様子を遠くで見ていた第一騎士団は余計な心配だったとため息をついた。

 あんな甘酸っぱい二人の雰囲気を見たら、どんなにエラに想いを寄せていても諦めてしまうだろう。

 レオンもそれを察したのか、バスケットの中から一つサンドウィッチを取り出し、口に運んだ。


「いつも通り美味しい」

「あ、ありがとうございます」


レオンが普段見せないような笑顔でお礼を言う。エラにしか見せないとびっきりの笑顔だ。第一騎士団は見慣れはじめているが、他の騎士達には衝撃だったようで、何人か固まっている。

 レオンはもう一つサンドウィッチを取り出して、そのままエラの口に差し出した。


「ほら、口を開けて」

「へ!?」


エラは顔を真っ赤にした。そして周囲を伺うように見渡した。しかし皆エラから……というよりも甘いレオンから視線を逸らした。

 誰も見ていないと勘違いしたのか、エラは恐る恐る口を開いた。


「あーん」


レオンの甘い声にエラは気絶しそうになる。


「な?美味しいだろ?」


レオンは優しく微笑んで聞いてくる。正直、サンドウィッチの味なんて分からない。けれどエラは顔を真っ赤にしたまま何度も頷いた。

 それが楽しいのかレオンはまたサンドウィッチを食べさせようとしてくる。


「レ、レオン様!これはレオン様のために作ったので……」


そう言って必死に首を横に振った。

 これだけでもう充分エラに密かに想いを寄せていた騎士達の心は折られていた。

 それが分かったのかレオンも満足そうに笑っている。しかし、レオンはそんな騎士達にトドメを刺すことにした。

 レオンはゆっくりとエラの頬に触れた。


「肌、綺麗になったな」


エラの肌を堪能するように触るレオン。

 優しいレオンの手つきにエラの心も揺れ動く。

 そうしてエラは恐る恐るレオンの手に頬擦りした。


「美容薬のおかげです」

「……そうか。良かったな」


今度はレオンが顔を赤くして、思わず手を離した。恥ずかしくてエラから視線を逸らすレオンに、エラは思わず笑ってしまう。

 そんな甘い二人の雰囲気に、騎士達は羨望の眼差しを向けていた。


「美容薬か……」

「俺、婚約者に贈ってみようかな」


そんなセリフがポツポツ聞こえてくる。

 しかし、そんな雰囲気を崩す悲痛な叫びが響き渡った。


「うわああーーー!!」


第一騎士団には聞き慣れたハムエッグの騎士の泣き叫ぶ声だ。


「どうしたのー?もお振られたー?」


ギルは楽しそうにニヤニヤしている。いつも通りのことすぎて第一騎士団は誰一人として動じない。


「聞いてくれよ!この前言った気になる伯爵令嬢……婚約しちゃったんだ!!」


やっぱりな、と誰もが思ったが口にはしない。ただ優しい眼差しでハムエッグの騎士の話に耳を傾けている。


「しかも……しかも相手は筋肉ムキムキの色黒男子なんだぜ!?田園地方の貴族らしくて、農作業する逞しい姿に惹かれたって……全然美肌男子じゃないじゃん!!」


泣きじゃくるハムエッグの騎士。皆、彼の肩を優しく叩いた。


「元気出せよ」

「そうだぞ。いつもの事じゃないか」

「美肌男子はモテるんだろ?今回の努力は無駄じゃないって」

「うっうっ……そうかな?」


ハムエッグの騎士がモテる未来なんて想像出来ないけど。なんて思っても口にはしない。

 しかしみんなに励まされて、ハムエッグの騎士は涙を拭い、新たに決意表明した。


「俺、今度こそ恋人を作ってみせる!!」


きっと彼に恋人が出来る日はまだまだ遠い。


 エラもレオンもそんなハムエッグの騎士を見て目をぱちくりさせた。


「あいつは変わらないな」

「良い人が見つかるといいんですけど」


 ハムエッグの騎士は涙目のまま拳を掲げている。

 そんな彼の姿を見て、二人は顔を見合わせクスクスと笑い合うのだった。



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