会議室、モンブランケーキ、寝る子は育つ
ナオさんが湯原さんに絡んでいた。
その結果、なぜかネットで会議をすることになった。
「・・・・・・・・・・・・これ、なに?」
「んー?」
ぼくが思わず問いかけると、ナオさんから反応があった。
「あのなー? 湯原のおっさんがなー。前に仕事でネットミーティングしたって言っててな? ちょっとやってみたかった」
今日は、サークルの部室にいる。
はなさんもナオさんも同じ部屋にいるが、互いに互いの顔を見ていない。
それぞれに背を向け、スマホに向かって話している。
何をしているか、といえば、アプリを利用してネット越しに三人で会話をしているわけだが、
「・・・・・・同じ部屋にいて、なぜこんな二度手間を」
はなさんがぼやいている。
「いや、はなさん。ぼくは面白いとは思う。声が二重に聞こえるから、正直やめたいけど」
面白い、とは思う。
ただ、同じ部屋でやってもなあ、という気はする。
「まあ、待て」
ナオさんが言った。
「これは、練習」
「練習?」
「本番は、それぞれ家に帰ってからだ」
「あー・・・・・・」
ナオさんがもっともらしく言うから、ぼくも納得する。
「要は、アプリがうまく使えるかの練習ってこと?」
「そういうこと。やってみたいって言っても、いきなりでうまくいかなかったら面倒だろー? でも、ここで練習しとけば、問題あってもすぐわかるからなー」
「ははは・・・・・・」
それで湯原さん連れてこられたのか、とナオさんに肩をバシバシ叩かれて苦笑している湯原さんを見る。
「・・・・・・それで、ナオはこれをどうしたいんですか?」
「んー?」
はなさんに聞かれて、ナオさんは首を傾げ、
「なんか使えるかと思って」
「なんか、かー」
ぼくは何に使えるかな、と考えるけれど、はなさんは眉間を揉んでいる。
「普通に電話でいいのでは?」
「電話じゃ三人で話せないだろー?」
「そうだね。はなさん、ぼくもそれはそう思う」
うんうん、とぼくが頷くと、はなさんもしばらく考えて、
「まあ、電話は基本的に一対一ですからね」
そう納得した。
「まあ、あれだ。夏になるだろ? 夏休みだろ? うちとサンとはなでしゃべるの、難しくなるだろ?」
「そうでしょうか・・・・・・?」
「んー。ぼくは、一週間は実家帰るし」
「うちは、夏休み中はほぼ実家でなー。ぶっちゃけ、サンやはなとしゃべる機会が全くなくなるから、寂しいからなー?」
「おー。よしよし」
ぼくは、ナオさんの頭を撫でてあげる。
「でなー? これなら、三人で話できるでなー」
「・・・・・・やっぱり、電話でいいのでは、と思ってしまいますが・・・・・・」
はなさんは難しそうな顔をしているが、
「だって、お前ら二人、電話始めたら長話して、空く時間なかろーがー!」
がー、と言われても、と思うけれど、言われてみると、とも思う。
「確かに。ぼくがはなさんに電話を掛けた時にナオさんと電話中だったりすると、とても悲しくなるね」
「だろー?」
だからなー、とナオさんはスマホを操作して、
「これ、この会議室? にしとけば、ここにで三人で会話できるでな。すずこにも教えたし、湯原のおっさんも知ってるから、なんかあったときに便利」
「なるほど」
苦笑し、はなさんはナオさんに目を向けて、
「まあ、言いたいことは分かりましたよ」
「おー。よかった」
うんうん、とナオさんが頷いている。
「・・・・・・私みたいなおじさんが、入ってしまっていいのかねえ?」
湯原さんは首を傾げているが、
「サークル同期でしょ? 気にしなくていいんだよ、と」
「そうだぞー? つか、おっさん基本的にすずこと一緒だろうが」
「まあ、夏休み中は、娘連れて実家に帰ることになっているけれども、ねえ」
ふうむ、と湯原さんは唸っているが、
「まあ、いいか・・・・・・」
「おー。あとですずこにも教えといてくれなー?」
「はいはい。わかったよお、と」
湯原さんは頷くと、荷物を持って部室を出ていった。
「・・・・・・湯原さん、何か用事あったのかな?」
「ん? このあとすずこと会うって言ってた」
「そんなタイミングで引っ張ってきたのか、ナオさんよ・・・・・・」
ナオさんのバイタリティすごいな、と思いながら、ぼくはスマホをいじる。
「・・・・・・これ、知ってはいたけど使うの初めてだなあ」
スマホがもはや電話ではない、というのは、昔から言われているけれど、
「これ、電話回線使わずにネット回線使うんだから、もはや電話とは、って感じだね」
「ふふ。そうですね」
「便利なもんな使う。あたりまえよー」
ナオさんが胸を張っていた。
+++
家に帰り、スマホからアプリを立ち上げてみる。
ちょうど、はなさんがいた。
「やほ」
「あら。サン」
「何してるの?」
「夕飯の準備ですね」
「へー」
「サンは?」
「ケーキ食べてる。モンブランケーキ」
「あらおいしそう。・・・・・・夕飯は?」
「さっき牛丼食べたよ?」
「・・・・・・・・・・・・そうですか」
「おー? なんか二人ともいるー」
「ナオさんが来た」
「ナオ。大きな声出して近所迷惑にならないようにしてくださいね?」
「お、おー。気を付ける」
声を潜めるナオさんに、くすくすと笑っていると、
「あら。これで入れたかしら?」
「お。すずさん。湯原さんから教えてもらったんだ」
「ええ。パパは今お風呂入ってるけど」
「ふふ。よろしくお願いしますね? すずさん」
「ええ。こちらこそよろしくね。はなちゃん」
「すずさんは、夏休みはずっと実家?」
「ええ。地元の友達と遊びに行く予定は立てているけれど、半分くらいはおじいちゃんやおばあちゃんに孝行しないと」
「わー。えらいなー」
「サンだって似たようなものでしょうに」
「ぼくは一週間くらいだから」
「うちは、孝行じゃなくて労働だなー」
「実家の手伝いだっけ? 何してるの?」
「農家。・・・・・・畑広くてなー」
「まあ、分かる。一日中畑で労働でしょ?」
「そうなんだー。・・・・・・帰りたくねー」
「あらあら」
「そんなこと言ってはだめよ? ナオちゃん」
「すずこはいい子だなー。でもな? ただ働きするためだけに帰るって、苦痛だぞー?」
「学費、出してもらっているでしょう?」
「正論言うなー」
「ふふ。がんばってきてくださいね。ナオ」
「はなはどこにもいかないのかよー?」
「そうですね。では、サンが帰ってきたらどこか行きましょうか?」
「いーねー」
「ずーるーいーぞー!」
わいわいと騒ぎながら、夜は更けていく。
「・・・・・・・・・・・・ナオさん。一つ言っていい?」
「ん?」
「この会話。電話以上にいつ切るかが難しいんだけど」
「おー。・・・・・・ずっとしゃべってるわけにはいかないもんな」
むー、とナオさんが唸っている。
「ふふ。では、今日はここまでにしましょう」
「ええ。それに、会話の日はある程度決めておいた方がいいかしらね?」
「まあ、そこらへんはおいおいだなー」
「ふふ。じゃあ、お休みなさい。三人とも」
「おー」
「お休みなさい」
「お休み」
通話を切って、アプリを落とす。
「・・・・・・・・・・・・ふふ」
不思議な気分だ。
電話と違って、なんだかんだと四人でしゃべった感がある。
「電話だと、部屋にいるのは一人って感じだし」
わいわいとしゃべっていると、一人とは感じなかった。
「面白い」
ナオさんには感謝するべき、と思いながら、ベッドに横になる。
時計を見れば、まだいつもより早い時間だけれど、
「寝る子は育つ。それに、なんか眠いや」
ほどよい眠気に逆らわず、ぼくはすやすや寝息を立てるのだった。
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