流木、謎、帽子
帽子越しにでも、日差しが熱いのを感じる。
ぼくは基本的に帽子の類は被らない。
頭に何かをかぶせる、という感覚があまり好きではないからだ。
蒸れるし。
そういうわけで、ヘルメットの類も苦手だ。
バイクのフルフェイスとかは絶対に被らないと思う。
それでも、帽子をかぶらないといけないと思うときはある。
夏の日差しが強い時がそれだ。
特にちょっと出かけるだけではなく、アウトドアをするときは、絶対必須と思っている。
さすがに、そこでこだわるほど馬鹿じゃない。
・・・・・・昔、一度熱中症で倒れかけてから、さすがに学んだのは内緒だ。
さて、帽子が必要なほど暑い日に、ぼくが、というかぼくとはなさんが何をしているか、というと、河原の掃除だったりする。
なんでなのか、というと、ちょっとしたボランティアだ。
ぼくはあまりこういうボランティアには参加したことがないのだけれど、はなさんは昔からよく参加しているらしく、必然、はなさんに付き合う形で、ぼくも参加することが多くなった。
はなさんは、別に付き合わなくてもいいですよ、と言ってくれるが、物珍しさもあって、ぼくははなさんがボランティアに参加する時は、声をかけてくれるように頼んでいる。
毎回付き合っているわけではなく、本当に何もすることがない時に、一緒に行く程度だ。
邪魔になるわけにはいかないから、参加するからにはしっかりやる。
はなさんが参加するボランティアは、はなさんのお母さんが主催しているものが多い。
主催者の子として、参加しないわけにはいかないんですよね、とはなさんは言うが、なんだかんだ言って、はなさんは結構楽しんでいる気がする。
今日のボランティアは、地区の中を流れる川の掃除。
ぼくとはなさんがやるのは、河原のゴミ拾いだ。
空き缶、古雑誌、段ボール、ポリタンク。
コンビニ弁当に空き容器に、ビニール袋や中身の入ったごみ袋。
ポイ捨てすんなよ、とゴミ拾いしていると本当に思う。
もらったゴミ袋は大きなものだったのに、結構いっぱいになってきた。
卵一パック(未開封)があった。
「・・・・・・なんで、こういうのが捨てられてるんだろうね?」
拾ったそれをゴミ袋に入れつつ、ぼやく。
「落とした、とか?」
「それで、卵が一個も割れていないのはなぜなのだろう・・・・・・」
「そういうこともありますよ」
「いや、でもさ、こういう何が原因で落ちたのか分からないゴミって、出自が気にならない?」
「道にだって、なんで落ちてるのかわからないもの、たまに落ちてるじゃないですか」
はなさんは苦笑しているが、その手には漫画週刊誌を持っている。
「今週号じゃん。それ」
もったいないことするなあ、とは思うが、すでに雨を吸ってふやふやだ。
「・・・・・・ものを捨てる位なら、買わなければよいのだ」
「こういうことやってると、本当にそう思いますよね」
買わなければ、捨てずに済む。
「ものをたくさん買う人は貧乏になるっておばあちゃんが言ってた」
「おばあちゃんが」
「買ったらお金なくなるんだから、貧乏になるのも当たり前だよねえ?」
「そうですね。・・・・・・そのおばあちゃん。物持ちよさそうですね?」
「すごい古いものでも平然と使ってたね。・・・・・・でも、何か買うときの決断はものすごく速かったけど」
「そうなんですか?」
「うん。何かが壊れたときはささっと捨てて、すぐに新しいの買ってた。・・・・・・その買ったやつを十年単位で使うのがおばあちゃんだったけど」
「ほう?」
「おばあちゃんのとこでお手伝いするとさ、古い家電が普通にあるのね? 例えば、電子ジャーとかさ、最近のはボタン一発だけど。おばあちゃんちにあったやつはなんか重たいボタンをばちん、って押すの。予約炊飯とかできないから、いつも朝早起きしたおばあちゃんが、ボタン押すの。僕がするのは、前の晩にお米かしぐこと」
「お手伝いとか、偉いですね」
「ううん? あれは、おばあちゃんの口がうまかった気がする。なんか口車に乗せられて、お米かしぐのが遊びかなんかみたいに思ってやってたもの」
「・・・・・・なるほど」
かわいいですねえ、とはなさんが笑っている。
「いや、それはともかく、ゴミは捨てちゃダメって話」
「ゴミにしなければいいんですよ、って話ですね」
「ああ、うん、それそれ」
そんな取り留めもない話をしながら、ゴミを拾っていく。
「・・・・・・しかし、ほんとにいろいろ落ちてるね」
「今回は、特にひどい場所ですからね」
「そうなの?」
「橋の近くとかは多いですね。橋の下の見えない場所とかに捨てるんですよ。・・・・・・で、この前の台風で川が増水したせいで、それが流された、と」
「あー。それで・・・・・・」
結構広い範囲にゴミが散らばっているのは、それが理由か、と納得する。
「それに、上流の方の山から流れてくるものもありますから」
「・・・・・・これ、ボランティアでどうにかするものなの?」
「誰もどうにもしてくれないですから」
「ふーん」
ひょいひょいと拾っていく。
「この流木とかは山由来か」
結構鋭い枝とか、ゴミ袋に入れると破れてしまいそうだ。
「流木はゴミ捨て場の方に持って行ってください。のこぎりで小さくしてくれますから、それからゴミ袋に入れます」
「なるほど・・・・・・」
はなさんは、なんとも慣れた手つきでごみを分別して処理していく。
「・・・・・・結構な重労働だよね、これ」
「そうですね。・・・・・・でも、お弁当用意してありますから。あとを楽しみにして頑張ってください」
「はーい」
家電とかはどうしようもないので、最初の集合場所の集積地に持って行く。
そこから、トラックに載せてセンターに運ぶらしい。
結構重たさがある。
こういうの、こんなところに捨てるのも結構苦労しそうなものだけれど。
どうして捨てるのか、と考える。
「・・・・・・ぼくは結構ものを買うけど、こういう風には捨てないなあ」
「それはそうでしょう。良識があったら捨てませんよ。・・・・・・ネットでちょっと調べれば、捨て方なんてすぐにわかりますし」
「調べないのかな?」
「調べるっていう発想がないんでしょう。良識のない人達ですから、頭の出来もそれなりなんですよ」
にこやかにはなさんが吐き捨てる。
「・・・・・・はなさん、ちょっとイラついてる?」
「そりゃ、他の人がちゃんとしてればいらない手間ですよ? やらなくてすむなら、その方がいいです。手間を増やしてくれる人には文句しかありませんよ」
珍しくストレートに毒を吐くはなさんだ。
「ふふ、まあ、がんばろうね」
「・・・・・・はい。がんばりましょうね」
ぼくが笑いかけると、はなさんも笑って答えてくれた。
「でも、謎だよね?」
「何がです?」
「これだけゴミが落ちているのに、どうしてお金や財布は落ちていないのか」
「・・・・・・ネコババは、だめですよ?」




