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胸くそですね。胸くそしかないです。


BL的な?無理強いのような表現あり。

 身体が重くて怠い。頭が痛くて、身体も痛い。

 顔は熱いのに、背中が寒い。

 これは、熱出たかな?

 てことはまだ生きてるか。くそったれ。


 私の家は普通の家だ。お父さんは万年平社員で、お母さんはスーパーのパートをしてる。ただ、二人とも高齢だったくらい。私はお母さんが45歳で生んだ子供だ。お父さんは50歳だった。

 幼い頃からからかわれ、口さがない周りの物言いにいつも苛々してた。段々家に帰らなくなり、順調に道を踏み外していった私をお父さんとお母さんは諦めることも見捨てる事もなく、ずっと待っててくれた。ずっと受け入れてくれた。それが分かってからは、真面目に学校行って卒業して働いた。何て事はない、私はやっぱり二人が好きだった。


 幼い頃は旅行好きな二人に、色んな所に連れてってもらった。あの滝は、一番初めの旅行で行った滝に似ている。社会人になって色々プレゼントしたけど、お父さんとお母さんを旅行に連れていきたくてお金を貯めてた。今度の結婚記念日には二人で行って欲しくて。帰ってきたら、付き合ってる人を紹介しようとした。優しくてお父さんよりは、お母さんに似ていた恋人。……花嫁姿も孫も見せたくて、ちょっと結婚焦って引かれて別れちゃったけど。


 あの二人だ、きっととても心配してる。家に帰らなかった時の様に、そこら中走り回って私を探してる。もう若くないのに。薄い頭を更に禿げ散らかして、私の名前を呼んで、二人は泣いてる。

 もう、心配かけないって、誓ったのに。

 会いたい。泣かないでって、いきなりいなくなってごめんねって言いたい。

 会いたい。お父さんとお母さんに。私、ここにいるよって。


「ご……め、ん。心配しな……いで」


 だから、あいつらの笑う顔が赦せない。

 何故? お父さんとお母さんは娘を心配して泣いて探してる。何故? 私が守りたい大切な人は泣いてるのに、奪ったお前らが笑ってるの?

 お前らのせいなのに。

 何故、奪った奴等のために私が我慢しなくちゃいけない? お父さんとお母さんから私を奪ったのに。

 お前らは。


「……ゆるさない」

 

 自分のとは思えない嗄れた声が耳につく。

 まるで、呪い吐く怨嗟の声。

 目を開けると、また岩壁。

 マジかよ。やっぱ生きてんのか。

 熱出てんな~。ぐったりしてる間に城に連れていかれて、良くて幽閉? 悪くて処刑? 拷問の末に便利道具扱いかな?

 あー、あいつらの思う通りに進ませたくない。

 

「巫女?」


 ユキちゃんだ。また助けやがって、ふざけんな。


「熱高い、動かないで」

「見捨ててよ」

「っ! や、で、出来ない。巫女は俺を救ってくれた。そんな事出来ない」

「あんたなんか救った覚えはない。じゃあ、私は誰が救ってくれるの? 一人娘を奪われた私のお父さんお母さんは、誰が救ってくれるの?」

「……っ」

「はあ」

「俺、は……」

「もういい」


 口をつぐんだユキちゃんは、暗い顔でそーっと水と切り分けられた果物を置いて視界の入らない所に出ていった。

 こんなんじゃない。熱を出せば、サクレレモンのアイスと生姜蜂蜜湯を出してくれた。冷たいのと熱いの同時に出すから笑った。熱が出るとあのアイスのレモンかじるのが好きで、氷はお母さんと食べた。

 こんなんじゃない。


 ―――――私の世界を返して。


「あい、たいよぅ……」


 身体が水分を欲しているのに飲む気になれない。

 まぁ、指1本動かないけど。

 このままなら、この……ま……ま……。


 頭痛がするのに、揺さぶられる。痛い。

 怠くて目眩がするのに、耳元で叫ぶ声がする。

 あぁぁあっ! うるせぇ!

 怒鳴ろうとしたら、むせた。


「げほっ! げほっ!」

「っ巫女! 良かった、巫女……」


 げ。

 マジかよ。また3人揃ってやがる。

 あぁぁあっ! もう最悪。


「てめぇ……このくそ巫女! 自分から川に落ちるって何してやがんだ!」

「巫女、無事で良かった。もうあんな事はお止めください」

「巫女、これを飲んで」


 各々言いたいことを言いユキちゃんが水を私に差し出す。冗談じゃない。何か入ってそうで嫌だ。

 顔を背けると、針ネズミがコップを奪いそれを煽る。

 まさか……? とりあえず、ナイフを出して寝たまま縦に持って切っ先を針ネズミに向けた。目を見開く針ネズミは、苦々しく顔を歪め、口に含んだものを吐き出す。

 いや飲めよ。本気で何か入れたのかよ。


「ックソ巫女」

「飲んで?」

「このままでは駄目です。兎に角城へ戻りましょう」


 おー、おー、お得意の強制執行ですか。

 私は自分の魔力で水を出して飲む。


「……何故? 城に連れられるの?」

「巫女? 王の失脚を止めるためですよ。貴女の身体もこのままでは危ない」

「どうして? かの王は私を拐い、全てを奪った。更に帰さないと希望を打ち砕いた。……なぜ? わたしはわたしをくるしめたやつのために、またはたらかなければならないの? 誰か教えて? 私は奴隷?」

「っ違います!」

「何が不満だ! いい服着てたらふく飯も食って宝石に金に王すらお前に傅くってのに、何が不満だ!」

「いつ傅いた?」

「王妃にと請われたろう!」

「何故一欠片の情もない憎む相手と寝なければいけない? 強姦されて? それをどう喜ぶんだ? 難しい。お前らなら出来るか? 王にケツ穴掘られて光栄ですと言えるか? あぁ違った。お前らが忌むべきという魔族に服も飯も光り物も与えてやるから、大人しく喜んでケツ穴掘らせろって言われたら嬉しいか? そうか……凄いな、お前らは。まるで聖母だなぁ」


 顔を歪める3人。その顔が苦痛に歪むだけで、嬉しい。自分の顔も歪むように嗤うのが分かる。一人一人に目線を合わせ称賛してあげよう。


「なんてすばらしいこころのもちぬし」

「止めろ」

「なんておやさしくじひぶかきおかた」

「……」

「なんてふかいいつくしみのこころ」

「……ぁ」

「さあ、魔族に犯されて全て蹂躙されても罪を赦して手を差し伸べてこい。私はお手本が無いと、どうやったらいいか分からないんだ。先ずヤれと言うお前らが、……そうだな、王自身がお手本を見せてくれよ。私に強要する前に。それをやられて赦すんでしょう? 自分が出来ない事は人に強いてはいけないものねぇ?」


 先ず針ネズミが出ていく。次いで神ちゃん、ユキちゃん。私の視界から一人もいなくなった。


 まぁ、でも思うよ。異世界人の怨み辛みを聞いて罪悪感らしきものに苛まれる辺り、人がいいと。

 本当に物扱いなら、縛り付けて拷問して言うことを聞かせ、何を喚いても風の音くらいにしか感じないような輩だっているだろうに。

 魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する政治の世界で揉まれている筈なのに、高待遇でお出迎えして心理的にもっと上手く騙して操れば良かった。浅はかで人がいい。

 人が良いからこそ、目の前で苦しむ人を助けるために、面識の無い異世界人の事情など二の次なんだろうけど。

 連れてきちゃった! 待遇良くすりゃとりあえずオッケーだろ、こんなに尽くしてるのに何で反抗するんだ! ……うん。やっぱ滅びればいいと思う。


 あーあ! 帰りたい!

 穢れ全部戻せば帰れるとかだったら、即喜んで帰るのに。穢れって消えたのどこ行ったんだろ?

 また湧いて来ないかな。

 今度こそ、浄化なんて行かないのに。

 召喚術自体またやられたら、おじゃんか。

 さて、どうしようかな?

 一回目のタイムリミットはもう過ぎた。

 あとは死ぬしか無いのに。


 この3年、必死こいて製造と帰還の勉強してきた。でも、見付からなかった。色んな所に行ったけど、そもそもこの世界の魔法と私に備わってるおかしな力は根本から違かった。後は、おうの言葉だけだったんたけど……結果あれ。さっさと滅びろ。

 人類の敵にでもなろうかな?




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