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意外と抜けてる裕人

 放課後になると、俺は早速東雲に連れられて部室へとやって来る。部屋の中はある程度は整頓されているが、少し小汚かった。東雲が咳き込む。


「ゲホッ・・。少し掃除したほうが良さそうだなこれは・・」


 俺達は軽く掃除をすることにした。そうして掃除をしている最中、鞄の中の携帯が震えていることに気づく。画面を開くと咲良から一通のメール。


『部室はどこ?』


 俺は場所を打つと返信し、再び掃除へと戻る。暫くして、咲良がやってきた。


「ん?君は・・?」


 咲良に気づいた東雲が興味深そうに見ていた。

 ・・・あ、そういえば東雲に言うの忘れてた。

 俺は東雲に、入部志望者で俺の妹だということを説明する。


「おお、君は入部希望か!全然構わない、むしろ歓迎するよ。

 というか神崎裕人!お前に妹がいるなんて私は聞いていないぞ!」


 ジト目で睨んでくる東雲をさらりと受け流す。


「当たり前だ。だってお前、聞かなかったじゃないか」

「ぬぅ・・確かにそうだが」


 正論を言われてぐうのねも出ない東雲をよそに、俺は咲良に現在の状況を説明した。


「掃除なら私も手伝います」

「ありがとう。助かるよ」


 そうして暫く掃除をしたあと、一通り終わったところで俺達はパイプ椅子に座った。


「ふぅ・・なんとか終わったな」


 改めて周囲を見渡す。東雲は何か考え事をしているのかずっと俯いたままで、咲良も同様だった。


「それで東雲。これからどうするんだ」


 すると東雲は俯いていた顔を上げ、立ち上がった。


「そうだ。昨日徹夜して作った部室の看板があるんだ。ちょっととってくる」


 そう言うと東雲は足早々に部屋から出ていった。


「兄さん、あの人が部長なの?」


 部長か。まだ決まっていないが恐らくそうだろう。

 俺は頷くと、咲良はなるほどねと相槌をうった。


「随分と可愛い人だったけど、もしかしてそれが目的で入ったの?」


 訝しげな視線を送られて俺は慌てて反論する。


「は?違う違う俺は脅さ_」

「おどさ?」


 慌てて口をつぐむ。危ない危ない。脅されてなんて言ったら東雲に突っかかっていくかもしれない。そうなったら面倒なことになるのが見え見えだ。


「まあ正確に言うとまだ様子見段階だ。ただちょっと興味があるっていう程度だな。

 あいつの理念も何もわかっていないし」

「ふーん・・」


 半信半疑だがなんとか納得してくれたようだった。


「でも私あの人どこかで見たことあるかもしれない」

「そうなのか?」


 まあ、引っ越す前ならありえないこともない。ただ東雲が赤い死神(ペルセフォネ)ということは絶対わからないだろう。

 そのあと、咲良とたわいもない話をしていると東雲が看板を持ってやって来た。

 もっとどぎつい感じのを持ってくるかと思っていたが、案外普通の看板で俺は内心ほっとした。まあ恐らく有栖川先輩が何か言ったんだろうけど。


「神崎裕人。手伝ってくれ」

「あーはいはい」


 どうしていちいちフルネームで呼ぶんだ?まあ別に構わないんだけど。

 俺と東雲で看板をドアの上に設置する。少し大変だったが、なんとかやり終えるとやっと893部が完成した。


「これでやっと部活が始められるな」


 しみじみとそう言う東雲に、傍で見ていた咲良が初めて東雲に話しかけた。


「あの、東雲先輩」

「ん、どうした神崎咲良。何か疑問点でもあった?」

「いえ、今から何をするのかと思って」

「ふむ、それはだな・・・」


 あ、咲良のこともフルネームなのね・・。

 東雲は自分の鞄から紙の束をとりだすと、テーブルの上に広げる。


『困ったことがあればなんでもご相談を。小さいことから荒事まで何でも受け付けます』

「申請書に書いたことと全く同じじゃん!」

「失礼な。これでも紙を刷るの大変だったんだぞ?ほら、今日はこの紙に色をつけて華やかにしていく作業だ。明日の朝、校門の前でこのビラを配るぞ」


 ほら見ろ、あの咲良がなにこれ???というような感じで固まっていた。が、やがて咲良の時は動き出す。



「ようはボランティア部ということですか?」

「ボランティアではない、893部だ!」


 東雲がそう言うが、咲良の中ではボランティア部で確定したようだった。

 咲良が俺にそっと耳打ちをしてこういった。


「兄さん、もしかして東雲先輩は少し変わった人なの?」

「変わっている・・というかなんだろう、俺もよくわからない」


 深いため息をつく咲良。


「ますます兄さんのことが心配です。これは私がしっかり管理しないと・・・」


 しかし、咲良はなぜか闘志に火がついたようだった。そして東雲とともに色塗りの作業にうつっていく。


「何をしている神崎裕人。お前も手伝え」

「ん、ああ悪い」


 さてと、俺もひと踏ん張りしますか・・・。

 俺はバイトの時間を気にしながら、色塗りの作業をしたのだった・・・。


 ・・・・・。

 ・・・。

 ・・。










「お、終わった~・・・」


 ひたすら色を塗り続けて約3時間。俺達はようやくすべての紙に色を塗り終える。東雲も咲良もぐったりしていた。


「もう色ペンなど見たくない・・・」

「私もです・・」


 そこで俺は初めて携帯にメールが届いていることがわかった。有栖川先輩からだ。

 なになに・・『もう30分遅刻していますが、何かあったのですか?』


「ああ!バイト忘れてた!!」

「ぬああぁ!いきなり大声を出すんじゃない。とっさに構えてしまったじゃないか」


 そんな言葉を無視して、俺は帰る準備をする。


「そういえば兄さんバイトって・・」

「ああ。30分遅刻した!悪い東雲。俺先に失礼するよ!!」

「なんだ、バイトしていたのか。それなら仕方ないな・・・。

 ん、いや待てよ・・?神崎裕人。お前、バイト先は何処なんだ?」

「ここから歩いて20分ぐらい先にあるファミレス店だ」

「そうか。じゃあもういっていいぞ」


 東雲が言い切らないうちに、俺は部室からダッシュしてバイト先へと向かった_。



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