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過去の人

 俺は木島の衝撃的な発言に思わず飯を吹きそうになったが、なんとか堪えると飲み込む。


「本気で言ってるのか?木島は有栖川と同じ生徒会役員だろう?」

「ええ。でもゆみ先輩にも許可も頂いたから大丈夫よ」

「え、そうなんですか?」


 俺が先輩の方を向くと、先輩は頷く。


「なら別にいいけど」


 こうして木島も893部に入ることになったのだった。その様子を一部始終見ていた高崎が羨ましそうにしていたのはまた別の話だ。



_________

____

__


 

 そして放課後。俺が教室の掃除を終えて部室へ行くと、既に全員揃っていた。


「きたか神崎裕人。喜べ、また一人部員が増えたぞ!」


 知ってると俺が言うと東雲はなんだそうなのか、と言ってつまらなさそうにした。


「それはそうと神崎裕人。お前、怪我のせいでしばらくバイトにいけないのだろう?ならその間は毎日来られるということだな」

「ちっ・・なんで知ってんだよ」


 そうか・・怪我が治るまでの間毎日来ないといけないのか。めんどくさいな。


「お前がいない間私と神崎妹と二人で大変だったんだぞ。なぜか突然ひっきりなしに相談者が来てな・・・。全員相手には出来なかったので後日来るように言ったのだ」

「はぁ・・。ほんとに突然だな」


 俺が居るときには誰も来なかったのに、どういうわけなんだろう。

 そうして俺が疑問に思っていると、部室のドアがノックされた。東雲が入っていいぞ、と言うと一人の女子生徒が入ってくる。


「えっと・・ここが893部で合ってますか?」

「ああ、そうだ。まあ入ってきていいぞ」


 すると女子生徒は中へおずおずと入ってくる。見たことのない生徒だが、恐らく1年生なのだろう。

 女子生徒は、俺を見るなりやっぱり・・と呟いたのが聞こえた。


「あ、咲良さん」

「ん・・?あれ、美佳じゃない」


 どうやら咲良の知り合いなようだった。


「それで、あなたはどのような悩みを持っているんだ?荒事から荒事までなんでも受け付けるぞ」


 荒事しか言ってないじゃん・・。俺は突っ込もうとしたがやめておいた。


「はい。荒事かどうかはわからないですけど・・」

 


 俺をちらっと見た後、美佳と呼ばれる少女は静かに語り始める。ついこの間、彼女の友達と一緒に夜にご飯を食べに行っていた時一人の男の人に声をかけられたのだという。年の頃は若く、もしかしたら同年代ぐらいの人相の悪い怖そうな人だったらしいのだが、その男がある1枚の写真を見せてきてこの人を知らないか?と言われたのだという。その写真には2人の女性と3人の男性がいて、2人の女性は3人のうちの一人の男性に抱きついている写真だったらしいのだが、その男の人を指差してきたのだという。


「私は知らないと言ったんですが、その女性の一人は咲良さんにすごいそっくりで、その男の人もあなたにそっくりだったんです」


 ほ、ほう。それはすごい偶然だな。

 ん、いや待てよ・・?2人の女性が抱きついていてそのうちの一人が咲良に似ている・・・。

 いや、まさかな・・。

 だが疑念が晴れなかった俺はある質問をする。


「なあ、その男というのは頬に切り傷のようなものがなかったか?」

「あ、はい!ありました。私それがかなり怖くて・・」

「な、ま、まじか」


 まだ確証はないが、俺はほぼ確信していた。多分そいつは玄三だ・・。まさか今でも俺のことを探し回ってい


るとは・・。てっきりもう俺のことなど忘れて好き勝手に生きていると思っていたのだが・・。



「兄さん、その人ってもしかして」

「ああ」


 咲良も悟ったようで、お互いに頷いた。女子生徒は続ける。


「知らないと言ったらまた別の人にききに行ったんです。私と友達は少し怖くなってすぐ帰ったんですがあま


りにもお二人に似ていたので・・」

「ふむ・・・ということらしいのだがどうなんだ二人共」

「ああ。俺たちで間違いないだろうな」


 すると女子生徒は安堵の息をついた。


「よかった。これで私の頭の中のもやもやも晴れます」


 そうして女子生徒は去っていってしまった。

 

「え、ちょ、それで終わりかよ!」

「まあまあ。依頼主が満足しているならそれでいいじゃないか。ほら、次の人が来たぞ」


 本当に大丈夫かなこの部活・・。傍で見ていた木島もこれには驚きを隠せないようだった。

 しかし、玄三の奴こんなところにまで探しに来るとは・・。そのうちばったり再開することもあるかもしれないな。そうなったらなんて言ってくるのだろうか。まあ一発殴られることぐらいは覚悟している。

 そして次にやってきたのもまたしても女子生徒だった。内容は、最近自分の好きな先輩の態度が冷たいということ。何かしたわけでもないのにやたらと避けられるという。


「もしかして私のことを嫌いになったんでしょうか・・」

「そうなんじゃない?男なんてどうせ__」


 木島が続けようとしたのを俺は口を塞ぐ。


「んぐっ!んぅ!」

「ちょっと木島は黙ってような」


 そのまま話を続ける。俺は木島の口を抑えながら女子生徒にアドバイスをする。


「前までは普通だったのか?」

「はい。なのに最近は・・・」

「ああ、泣くな泣くな。多分そいつも君のことが嫌いなことはないはずだ。聞いた限りだと君を嫌いになる要素はどこにもないからな。だから何か理由があるのかもしれない。それこそもしかしたら君のことが好きで、それでどう接していいかわからなくてつれない態度をとっているのかもしれない」


 東雲がそういうと、女子生徒はえっ!?と言って顔を上げる。


「女子と違って男はいつまで経っても子供だからな。そんな小学生みたいなことをする奴も世の中にはいるんだ。だからここは逆に、君も彼につれない態度で接してみたらいいだろう。もし君のことが好きなのならば、おそらく何らかのアクションをしてくるはず。それでも変わらなければ・・・そうだな。そこの神崎裕人に慰めてもらうといい」

「はぁ?なんで俺_」

「わかりました。少し怖いけれどやってみます!」


 そう言って女子生徒は去っていってしまった。俺は木島を開放すると、立ち上がる。


「いらんこと言ってどうするんだよ・・。俺慰められる自信ないぞ」

「心配するな。そいつは彼女のことが絶対好きなはずだ」


 何を根拠にそう言っているのか全然理解できない。しかし、そんなことを考える間もなく次の人が入ってくる。

 俺達はその後相談者たちを一人一人相手にしていき、気がつくと日が暮れかけようとしていた。相談者の中には風紀委員までもがいて、暇なら街のごろつきを締めに行くぞと言って東雲がすっ飛んでいったりして、時間が過ぎていったのだ。俺達は東雲がいない間、恋愛相談から家族関係の相談まで丁重に相手をしてあげた。

これに関して、木島と咲良がいたのには本当に助かったものだ。


「よーしじゃあ、そろそろ帰るぞ」


 そうしてお開きとなった俺たちは帰途へと着くのだった。




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