身代わり
「ああ?なんだお前は」
「え・・・神崎?」
男たちは俺の姿を捉えると、露骨に警戒し始める。・・・が、俺が学生だとわかったのを知るや否や、なんだよガキかよと舌打ちをする。
「お前みたいな学生に用はねえんだよ。あっち行け!!」
そうやってやからを飛ばすようにして怒鳴り散らせば俺がしっぽを巻いて逃げると思ったのか男たちは声を張り上げる。
「あーはいはい。そういうのはいいから。まぁ俺としてもお前らみたいな奴とは正直関わりたくないんだけどさ、そいつが取り押さえているその女の子。俺の知り合いなんだよ」
「へえそうなのか。じゃあ残念だったな。もうこの子と会うこともないんだから」
「なんで?」
「俺達はこいつの関係者なんだよ。連れ戻すように言われてる。だから部外者は黙ったほうが身のためだぞ」
「は?でも見た感じだと俺はそいつが嫌がっているようにも見えるんだけど。
なあ、こいつらと知り合いなのか?」
俺が木島にそう質問すると、木島は首をぶんぶんと横に振る。
「ちっ・・こいつ!」
「どうやら違うみたいだな。じゃあつまりお前たちは女子高生誘拐犯というわけだ」
俺はポケットから携帯を出すと、画面を開く。
「とりあえず警察呼__」
その時物陰からもう一人の男が出てきて俺の携帯を奪っていった。俺は物陰に隠れていたことを知っていたが、敢えて相手の罠にかかることにする。
「油断したみたいだな。ったく流石に俺たちでもポリ呼ばれたらきついんだよ」
「これでお前は警察も呼べないわけだ」
「まじか・・・それはちょっと困ったな(棒)」
屈強そうな男が、腕をポキポキと鳴らす。
「な?痛い目に会いたくなかったらそこをどけ」
少しづつ距離を詰めてくる男たち。そこで木島が口を抑えている男の指を思い切り噛んだ。
「いっ!?ぃてててて!!!」
「この女!!!やりやがったな」
そこで男は木島の頬をはたいた。
「きゃぁ!!」
「大人しくしていないと腕をへし折るぞ」
「ひっ・・・」
俺はそれを見て、初めて怒りをあらわにする。
「おい、何女に手あげてんだクズ野郎」
そして俺は男たちに殺気を込めて睨んだ。
男たちは突然雰囲気を変えた俺に警戒を強めたが、すぐに余裕を取り戻す。
「ひゅ~かっこいいねぇ!女の子の前だからって頑張っちゃって。
じゃあその希望にお応えして、ちょっと痛い目にあってもらおうか」
そういうと屈強な男が大振りなパンチを繰り出してくる。はぁ・・・やっぱチンピラは弱すぎて話にならないな。
俺は男の腕をつかみあげるとそのまま腹部に蹴りを入れる。すると男は後方へ吹っ飛んでいった。そのままゴミ溜めまで突っ込んでいく。
「・・・あ、ちょっと力加減間違えた」
「脇ががら空きなんだよ馬鹿が!」
そこへ、いつの間にか横にいた男がナイフで俺を刺そうとしてくるのを、俺は軽々と避けると、男のナイフを持っている手を掴んでそのまま握り締める。
「いててて!!」
男はナイフを地面に落とし、俺はそれを蹴って遠くへと飛ばした。
「人に刃を向けるということは自分も向けられるということを覚悟してもらおう・・・か!!!」
俺は男の横腹に渾身の力を込めて殴る。鈍い音を立てて男の意識は沈んでいった。
「あと三人・・」
残りは木島を取り押さえている男と、タトゥーの目立つ屈強な男、その横にもう一人だ。
「ちっ・・よくもやりやがったな」
男たちは小型ナイフを取り出すと、こちらに突進してきた。ナイフがちょっと面倒だが、どうということはない。
俺は二人共締め上げると峰打ちをして意識を暗転させる。
俺は自分の携帯を拾い上げると、警察に通報する。
「はい。あと一人」
男は焦りを隠せないようで、こちらから少しずつ距離を取っていた。だがその先は行き止まりなので意味をなさない。
「く、くるな!!こいつがどうなってもいいのか!」
男はナイフを取り出すと木島の首元にあてる。
ちっ・・つまらんことばっかしやがって。このあとバイトなのに。
仕方ない、木島に当たりそうで怖いがそうも言っていられないか。
俺は男に気づかれないようにしてポケットからビー玉を取り出すと指で弾き飛ばした。
ビー玉は男の腕に当たり、男の気が緩んだところに男に猛スピードで突っこんでいく。
完全にビー玉に気を取られていた男は何もすることができないまま、俺に接近を許してしまう。
俺はまずナイフを持っている方の手をつかみあげると男の手からナイフが落ちた。そのまま木島をこちらに引き寄せ男の腹部を蹴る。男はそのまま後方に吹っ飛ばされていった。
「ふぅ・・・大したことなかったな」
俺はそこで木島と向き合う。
「怪我はないか?」
「ええ」
素っ気なくそう言う木島。その体は少し震えていた。
「全く・・俺が気づいたからよかったが、もうこんなところ通ろうとするなよ」
「うるさいわね。あんたがいなくても大丈夫だったわ!」
いや、普通に連れ去られそうになってたじゃん。
「というかいつまで手を掴んでいる気?」
木島に睨まれて俺は慌てて手を離す。
「わ、わりぃ」
「ふん!というかそもそもあんたこそなんでこんな所にいるのよ。まさかあんたもこの辺で何か悪さをしてるんじゃないでしょうね?」
「そんなことするわけないだろ・・・」
「どうだか。男なんて皆嘘ばっかつくし」
木島は俺に疑わしい視線を投げかけたあと、俺に背を向ける。
「お、おい勝手に動いたら危ないぞ」
全員倒したとはいえ、まだ潜んでいるかもしれない。だからここは警察が来るまで周囲の警戒をしていたほうがいいのにもかかわらず、木島はこの場から去ろうとする。
「そう言って私をここに残したいだけなんでしょ?そんな手には乗らないわ!」
「ち、ちが!俺は単純に木島の安全を思って__」
そう言って俺が制止しようとするが、木島は聞く耳を持ってはくれずそのまま行こうとする。
そうして木島が前を向いた瞬間、さっきまで意識を失っていたはずの男が目の前に立っていた。その表情は怒りに歪んでいる。
「あっ___」
「逃がすかよ。このままお前も道連れだ」
やばいと、俺の中の心が告げていた。木島が危ない!!!男の右手にはナイフを持っている。間違いなく彼女を殺す気だ・・。
木島はとっさの出来事に全く反応できないでいた。
そうして男は手に持っていたナイフを彼女の首に突き立てようとして___
「そう、はさせるか!!」
ナイフが突き刺さろうとしたその瞬間、俺は自分の腕を身代わりにして間一髪木島を守った。深々と俺の腕に突き刺さった腕から鮮血が流れ出る。今まで感じたことのない痛みが俺の体を突き抜け、思わず意識を失いそうになる。
放心していた木島が、俺の血を浴びて意識を取り戻した。
「あ、ああ・・・」
「木、島・・・大丈夫か?」
そう言うと俺は力を振り絞って男をもう一度蹴りで吹き飛ばす。壁に叩きつけられて男は動かなくなった。
すいません。ミスがあったので訂正しました。




