後悔
◇◆◇◆
木島side
「わ、わりぃ」
「ふん!というかそもそもあんたこそなんでこんな所にいるのよ。まさかあんたもこの辺で何か悪さをしてるんじゃないでしょうね?」
「そんなことするわけないだろ・・・」
「どうだか。男なんて皆嘘ばっかつくし」
そう。男なんてろくな奴しかいない。現に、今さっき私に絡んできたこいつらもそうだ。なんで神様は男という害悪な生き物を作ってしまったのだろう。
私は元はそこまで男のことが嫌いというわけではなかった。嫌いになったきっかけは今でも覚えている。小学生の頃、私のことを好きだった男の子がよく私にちょっかいをかけてくるようになった。それならまだいい。だけどその男の子はあろうことか私の引き出しのなかに虫を入れたりした。当然私は悲鳴を上げたが、事情を知らないクラスの男たちは私の引き出しから虫が出てきたと思ったようで、虫女と言われるようになった。その後、男の子に告白されたが、激怒していた私は返事をすることもせず無視し続けた。
また中学生の頃、他の子よりも発育がよかった私は男子からのいやらしい視線をよく見るようになった。それが気持ち悪くてさらしを巻いたりもした。苦しくてすぐにやめたけれど。その上父親は他に女を作って出て行ったりもした。その時も男子のことは嫌いだったけれど、害悪とまでは思わなかった。極めつけとなったのは、ある日の午後買い出しに行っていた時のことだ。私はクラスで大人しくて無害の男子がカツアゲされている現場を目撃し、助けに入った。しかしその男子は私を囮にして逃げた。良い人だと思っていた男子にも裏切られて私はもう限界だった。
だから私は男子という生き物が嫌いだ。
最近はそう、ゆみ先輩に気に入られている神崎が気に食わない。初めの頃の神崎はもっと口調が荒かったけどゆみ先輩のお陰で治ったのだという。それも気に入らなかった。どうせ神崎も他の男たちと同じように下心でゆみ先輩に近づいているんだ。だから私がゆみ先輩を守らないと。
私は神崎を少し睨んだあと、神埼から背を向ける。
「お、おい勝手に動いたら危ないぞ」
神崎がそう注意を呼びかけるが、私は全く聞いていなかった。
それが大変なことになるなんて・・
「そう言って私をここに残したいだけなんでしょ?そんな手には乗らないわ!」
神崎はどうせ警察がきた後の処理を私に押し付けるためにここに置いていきたいんだわ!
「ち、ちが!俺は単純に木島の安全を思って__」
私は神崎の制止の声を無視してそのままその場を去ろうと前を向いた瞬間
さっきまで意識を失っていたはずの男が目の前に立っていた。その表情は怒りに歪んでいる。
「あっ___」
とっさのことに私は何をどうすることも出来ずに動けなかった。
「逃がすかよ。このままお前も道連れだ」
男の右手にはナイフが握られており、明らかに私に対する殺意が見えていた。
う、嘘・・・でしょ?私こんなところで死ぬの?
今更になって神崎の言葉を聞いておけばと後悔していた。神崎は正しかったのだ。だけども後悔したところで後の祭りだ。私はこのまま殺されるんだ・・。
そして男がナイフを持っている手を振り上げ、私に刺そうとする。体が硬直したように動かず、私はどうすることもできなかった。
_____嫌!!!まだ死にたくない__!
その時、神崎の鋭い声が飛んできた。
「そう、はさせるか!!」
私は目をつむり、覚悟をする。・・・が、いつまで経っても私の首元にナイフは刺さらなかった。
恐る恐る目を開けてみると、さっきまで私を襲っていた犯人が遠くに飛ばされて気を失っている。
一体何が・・・ん?
そこで私は服に血が付いているのを確認する。
血、血!?
「あ、ああ・・・」
「木、島・・・大丈夫か?」
その声に振り向くと、腕にナイフが突き刺さったまま必死に痛みを堪えている神崎の姿があった。刺さったナイフは深々と刺さっており地面が血で真っ赤に濡れている。
そこでようやく私は事態を把握した。神崎がかばってくれたんだ。忠告を無視して去ろうとした私を。あのままやられてもおかしくなかった私を。
◆◇◆◇
「ぐう・・・・いてぇ・・・」
あんの野郎・・・深々と刺しやがって。これはもしかして神経まで逝ってしまったか?
とりあえず止血しないとやばい。木島に手伝ってもらおうとして、彼女の顔を見ると、その瞳から大粒の涙がぽろぽろと溢れる。
「ご、ごめ・・・ん・・なさい・・神崎・・・。私があなたの忠告を聞かなかったばかりに・・本当にごめんなさい・・」
ひたすら謝り続ける木島を俺は大丈夫だ、と慰める。
「いや、木島が無事ならそれでいいんだ。父さんの教えで絶対女性には怪我をさせないよう叩き込まれていたのが生きていたみたいだ」
そう言うと俺はその場に座り込む。フラフラして立てなかったのだ。
「ふう・・ふう・・」
勝手に息が荒くなってくる。俺は止血をするために自分の制服を片手で引きちぎると、木島に渡す。
「すまない・・・ちょっと腕をきつく縛ってくれないか?ちょっと片手じゃ無理みたいなんだ。それに、あまり力が出なくてさ・・」
「わ、わかったわ!!」
木島は血まみれになるのを厭うことなく、俺の腕をきつく縛る。
「神崎、腕をなるべく心臓より高い位置にあげるの。そうすれば多少出血が収まるから」
「すまん。そうしたいのは山々なんだが、どうにも力が入らなくてさ・・・」
「神崎・・・?」
動脈の方の手を深く切ってしまったせいか思った以上に出血がひどく、俺は貧血状態になっていた。ナイフはまだ深々と突き刺さっている。多分顔色も悪いはずだ。
ちっ・・まさかこんなことになるとは・・。咲良と理子に迷惑かけたくないのに。
「神崎、気をしっかり持つのよ!絶対寝たりしたらダメだからね!?」
「わぁーってるって。そんな心配せずともこんなの、昔なら日常茶飯事・・」
まあ嘘だけど。あーやばい。痛みで頭がどうにかなりそうだ。
そこへ、やっとのことで警察が到着した。すると、木島が警察を睨みつける。
「遅いわよ!!一体何をしていたの!」
すると警察は申し訳なさそうに頭を下げた。どうやら途中で渋滞が発生してなかなか抜けられなかったという。
「彼がひどい怪我をしているの!!早く病院まで連れて行って!」
そこで警察が俺の方を見た。深々とナイフが突き刺さっている様子を見て目をまん丸にして驚く。
「あわわ・・こりゃ大変だ!!おい、お前ら、とりあえずそこで伸びてるやつらを全員署まで連行していけ!俺は彼をすぐに病院まで連れて行く」
「神崎、立てる?」
「ああ・・なんとかな・・・」
木島に肩を貸してもらいながら、俺はパトカーへと乗り込む。すぐに出発すると、猛スピードで近くの病院まで向かう。トランシーバーで受け入れられそうな病院を聞いたあと、そこへとむかう。
「ここから病院まで後4分です。それまで頑張ってください」
「神崎、後もう少しだから・・」
木島が心配そうにこちらを見ているのを俺は微笑み返すと、再び下を向く。車のちょっとした振動でも腕に伝わって痛い・・。
止血されているとはいえそれでも血は止まらず、座席が血で濡れる。
さっきから脂汗が止まらない・・・。木島には決して悟られないようにしていたが、意識が朦朧としていた。
「(くらくらする・・・もう、限界だ)」
「神崎・・・・?」
木島に話しかけられても、俺はもう返すことができなくなっていた。
「ちょ、ちょっと神崎・・嘘よね?、神崎、神崎!!」
「・・・・」
バタン___。俺はそのまま木島の方に倒れるようにして意識を失った・・・・。




