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突然の対決

「ちーっす神崎。こんなところで何してんだ?」


 高崎も練習中だったのか、部活着だった。

 高崎は俺と理子達を見比べたあと、何かを納得したかのように頷いた。


「はっは~ん、わかった。でもいくら理子ちゃんが可愛いからって口説くのはダメだぞ」

「は?んなわけないだろ」


 なんで俺が妹を口説かなきゃならないんだ。


「でも傍から見たら、神崎が理子ちゃんを口説いているようにしか見えないぜ?」

「それはお前だけじゃないのか?」


 話しているだけで口説くと思われるなんてそんなのあるわけない。その上妹だし。

 

「まあそれは冗談として。こんなとこで何やってたんだ?」


 俺は理子に言ったことをそのまま高崎に言った。高崎はなんだそりゃ!と言って驚いた。


「そんなに暇ならたまには陸上部に来いよ!」

「なんでそうなるんだよ。それにまだ初日だぞ」

「え~。だって神崎が入ったら絶対リレーで県大会突破できるって!理子ちゃんもそう思うよな!?」


 そう言って理子の肩を叩こうとしたのを理子はひょいっと避けると、こくりと頷いた。


「お兄ちゃんが入ったら確かに県大会どころか全国までいけるかもしれないよ」

「いや、理子まで何言ってんだよ・・・。それについては断ったじゃないか」


 アルバイトと勉強があるからといって断ったはずだ。理子には何回も入ろうよーって言われていたけど。


「でもそんな暇そうな部活に入るぐらいなら絶対こっちに入ったほうがいいよ!部員の人たちは皆いい人だし!一人馴れ馴れしいのがいるけど・・・」

「え、そんな奴いるの?誰誰?俺が言いに行ってあげるよ」


 たぶんお前のことだと思うぞ高崎・・・。というかさっきさりげなく高崎から距離とってたし。理子に避けられるなんて何やったんだよ。

 そんなこととは知らずに、高崎は次にこんな提案を言いだす。


「じゃあさ、もし部長と100m走して高崎が負けたら入るっていうのはどうだ?」

 

 高崎が指差す方向を見ると、ちょうど部長が100mを走っている最中だった。スタートもほぼ完璧で、かなり前傾姿勢をとっているのも関わらず、こけることもなくフォームも無駄がない。まさに風を切って走っているという感じだった。


「おい、あんなのに勝てるわけないだろ」


 俺がそう言うが、理子までその提案にのりだしたようで、強引に話を進めてしまう。


「じゃあもし負けたらお兄ちゃんは陸上部に移籍ね。もう決まったから!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい理子。そんなの認められるわけ無いでしょ」


 そこで今までずっと俺達のやり取りを見ていた咲良が口を挟む。


「えーなんでよお姉ちゃん。お兄ちゃんが入れば数年ぶりに全国大会にいけかもしれないんだよ?」

「でもそんな無理やり入ったところで続くとも・・」


 反対する咲良に、理子が何かを耳打ちする。咲良はええ!?と驚いていたが、仕方ないわね・・・というと了承した。

 おいおい、あの融通のきかない咲良を黙らせるなんて何を言ったんだ理子・・・。

 こうして俺は何故か部長と戦うことになるのだった・・・。








 「じゃあ準備はいい?」 


 そうして始まった俺と陸上部の部長の100m走の対決。顧問の先生にも許可をもらい、特別にスタブロを使うことになった。

 周囲を見ると、どこからか話を聞きつけたやじうまや、陸上部の部員たちでいっぱいだった。


「おお?なんだこの集まりは?」

「おい、何か陸上部の部長と2年が100m走で対決するんだってよ」

「マジか!部長って確か短距離の県大会を3位で通過した実力の持ち主だったよな?そんな奴に挑むなんて無謀すぎるぞ」


 いつの間にか俺が挑戦者みたいな扱いになっていた。まあ確かに何も知らない奴から見たらそう見えるかもしれない。

 俺は部長と握手をすると、スタブロの位置を合わせる。俺は一応ハンデとして、部長は普通の運動靴、俺は高崎にスパイクを貸してもらって対決することになった。

 試しに流しで走ってみると、とても走りやすい。


「おお、すげえなこれ」


 俺がそう言うと、高崎はそうだろそうだろと言ってスパイクの自慢をし始める。


「それめっちゃ高かったんだからな。大事に扱ってくれよ」

「ああ。まあどうせ1回しか使わないし」


 そうして俺は再びスタート位置へと戻る。部長も体の慣らしが終わったのか、準備万端といったところだった。


「そろそろ準備はいい?お兄ちゃん」

「ああ」

「じゃあ位置について__」


 たくさんのギャラリーに見られながら俺はスタブロに足をあわせる。

理子がピストルを上にあげ、


「よーい・・」


 ギャラリーが一瞬にして静まり返る。

 パンッ!!

 俺と部長は一斉に走り出す。流石は部長といったところで、スタートは完璧で、俺は少し出遅れてのスタートとなった。

 俺はすぐに前傾姿勢を戻すと、拇指球に全体重をかけるようにして前へ前へと進んで部長に追いつく。残り30m付近で俺は部長を抜かすと、そのまま少し差をつけてゴールした。

 同時にタイムをはかっていた部員がストップウォッチを止めて驚愕する。

 ギャラリーも、まさか俺が勝つとは思っていなかったのか、ざわつきはじめた。


「何秒だった?」


 部長がそう言うと、部員は信じられないと言った表情でこういった。


「部長は・・11秒フラットです。その、神崎先輩は・・10秒3・・」

「10秒3か・・去年より少し落ちたな」


 そこへ、高崎たちがやってくる。


「お前、やっぱ絶対陸上部入ったほうがいいって!お前余裕で全国行けるから!」

「はいらないって言ってるだろ。それに部長に勝ったんだから」


 そこへ、部長もやってきた。


「いや、僕からも頼むよ。正直僕も驚いた・・・ハンデがあるとはいえ、まさか差をつけられてゴールされるとは・・。僕のスタートは完璧だったのに」

「すいません。でもそういう約束なので」


 そう言って断ると、部長はそっか・・・それはすごく残念だなぁ。と言ってあっさり引き下がっていった。

 その後顧問にすら頼み込まれ俺は少し悩んだが、それも断った。正直俺はそういう走るということにあまり興味はない。そんな奴が陸上部に入ったところで空気を悪くするだけだろう・・・。それに、俺にはアルバイトという非常に大事なものがある。今は親の遺産とアルバイトでまかなえているが、正直厳しい状況だ。一時期理子や咲良も俺を助けるためにアルバイトをすると言ってくれたこともあったが、俺は断固拒否した。妹達にはそんな苦労はさせられない。一生に数年しかない学園生活をアルバイト、それも生活費のためにするなんてことを妹たちにさせるわけにはいかない。そう言う苦労を背負うのは俺だけでいい。二人にはそういう余計な負担はかけさせない。それが俺の今の生きる目的だ。さすがに家事に関しては世話になっている部分もあるが。

 俺はスパイクを高崎に返したあと、咲良とともに部室へと戻る。そろそろバイトの時間なので、でなければならない。

 部室に戻ると、東雲はいなかった。


「あれ?あいつ帰ったのかな」

「鞄もないからそうかもしれないわ」 


 帰るなら何か言ってくれればよかったのに。

 そうして俺は咲良と別れてバイト先へと向かった・・・。

 

















 


次回から木島沙羅編です。

 

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